鬼天の獅子舞

黒騎士

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静かなる旋律

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 初宮城下町……三人は宴会が開催される町へと無事辿り着きました。そこで三人は、前の町よりもっと大勢の人間が道を行き交う景色を目にし、暫く呆然としておりました。しかし、その人々も皆瘴気によって窶れ、まるで亡者の国の様にも見えました。
 三人はその不気味な大通りを歩き、殿様が住むお城に向かいます。城門には列が並び、芸人と観覧希望の民衆が検閲を受けています。今回解放された城内の広い庭に皆が通され……奥には舞台が有り、観客は用意された野座敷の席に座り、殿様の施しで飲食をしながら芸を観る事が出来るのです。舞台近くの席は順番を控える芸人用で、三人もその席に案内されました。順番はかなり後の方らしく、暫くゆっくり飲み食いできそうです。

 丁度お昼時に殿様が参られ、舞台がよく見える庭の中央付近に用意された高床の物見席に座り宴会が始まりました。女中が各席を回り、お茶と笹に巻かれたお寿司が配られました。

「うっ……これ何?」

 有太はつい声が出てしまいました。その理由はこの笹寿司の、とても強烈な独特の匂いの所為です。どうやら阿多醐もこの料理を知らない様なので、眞是守が二人に解説します。

「これはこの地方の郷土料理、〈なれ寿司〉という物じゃ。元は塩漬けした魚を米で発酵させ保存する為に作られたのじゃが、米まで食べられる様にしたのがこの寿司じゃな。発酵すればする程に酸味が増すが、匂いと癖も強くなるので好みが分かれる。これはまだ様じゃが、儂はよくカビの生えてるくらいが好きじゃのぉ」

「ほお! これはこれで美味いが、そののも食ってみたいな!」

――と、阿多醐は気に入った様ですが、有太は顔が引き攣り箸を付けようとしません。

「俺はちょっと無理みたい……二人にあげるよ」

「おっ、んじゃいただき~!」

 二人は喜んで寿司を受け取り、料理とお茶をいただきながら自分達の番まで他の芸人の芸を観賞します。唄を歌う者……傘の上で物を回す者……犬に芸をさせる者……二十組もの芸人が芸を披露したのですが、その会場には小さな拍手が聴こえるだけで笑い声は一切聴こえません。客だけでなく、芸人達もまた瘴気の所為で満足な芸が出来ず誰一人笑顔にする事が出来なかったのです。折角この場を設けた殿様も、その結果にとても浮かない顔をしておられました。笛や太鼓を演奏する者もおりましたが、目を惹く奏者は未だ現れません。そしていよいよ、眞是守と阿多醐の二人が舞台に立つ順番が回って来ました。

「おっしゃ、一丁盛り上げてやるかい!」

「ふむ……寿司も貰うた事じゃし、城主に気に入られる為にも少し張り切ろうかの」

 意気込んで舞台に上がった二人は、他の参加者の分まで賑わそうとするかの様に様々な芸を披露しました。眞是守の風や火、光、水を操る奇跡の様な術の数々……阿多醐の怪力を活かし、大きな酒樽や庭石を使った重量上げや、客を参加させた綱引き等々……それらに観客達は大喜びし、殿様もとても嬉しそうに笑っておられました。
 会場中を笑顔にし、拍手喝采を受け二人は舞台を降り席に戻って来ました。二人共、芸をする内に気分を良くして予定以上の事をしてしまいましたが……二人がとても満足そうな顔をしていたので、有太は何も言いませんでした。本当は内心、殿様達に正体を怪しまれないか不安で一杯だったのです。

 会場が盛り上がったところで、次に舞台に上がったのは若い女子でした。紺色の着物に、長い黒髪を赤い紐で結ったその女子は、懐から横笛を取り出し徐ろに構えました。そして場が静まると、そっと息を吹き込み笛を吹き鳴らし始めたのです。

 ピュイィ~~♪~~♪

 その音色はとても美しく、旋律が心に染み入り安らかな気持ちにさせます。

「良い腕をしとる」

「へっ、悪くねぇな」

 眞是守と阿多醐も気に入った様子。ですが、有太は何か気になる様です。

「……でも、何だか……悲しい曲だな」

 会場を包む静かな笛の音。しかしそれは、唐突に終わりを迎えるのです。

 ピュゥ~~♪~~ピッ 「あっ……」

 笛を吹いていた彼女が突然体勢を崩し、ヨロけて演奏が止まってしまいました。やはり彼女も瘴気に蝕まれ、満足に食事も摂れてなかったのでしょう。息を整え、もう一度笛を口元に構えようとしますが……

「もうよい!」

 そう言って止めたのは、特別席の殿様でした。

「折角前の者らが場を盛り上げたと言うのに……。この宴は、民を楽しませ活気を取り戻す為に開いたもの、それが台無しじゃ。……しかし見事な演奏であった、あれに免じて許そう。疲れておるのじゃろう、もう下がるがよい」

 女子は肩を落とし、深く一礼して舞台を降りました。その後、宴は開始時と同じく沈んだ空気のまま終わりを迎えました。殿様は何も言わずに会場を去り、客は入り口近くの者から順に出されて行きます。

「ねえ、あの女の人……」

 有太が二人に目配せすると、二人も頷きます。そう、先程笛を演じた女子を霊笛の奏者として試そうと言うのです。三人共意見は同じ、外に出る前に声を掛けようと思っていたのですが……席を立った瞬間、背後から声を掛けられたのです。

「其の方ら、暫し待て」

 それは殿様からの遣いの者でした。殿様の命により、彼らを呼びに寄越されたのです。

「殿より城の方へ馳せ参ぜよとのお達しだ、付いて参れ」

「む、承知した。じゃが少しばかり待ってくれんか、ちと用が有ってのぅ」眞是守がそう応えますが。

「ならん! 殿をお待たせする訳にいかぬ、すぐに参るぞ」

「むぅ、困ったのう……」

 目当ての褒美は勿論欲しいのですが、優先すべきは奏者を探す事……しかし路銀が無ければこの先旅をするのも困難になります。迷っている間にも、客が外に流れ彼女も歩き始めてしまいます。さあ、どうすれば良いのでしょう。……と、ここで有太が口を出します。

「二人はお城へ行って来て、僕があの人追っ掛けるから」

「おいおい、一人で大丈夫か?」阿多醐が心配します。

「……それしか無かろうな。童、そちらは任せるぞい」眞是守は頷きます。

「うん。じゃ、後で!」

 こうして二手に別れた一行。眞是守と阿多醐は遣いに連れられ城へ、有太は彼女を追って駆け出しました。さて、両者共話は上手くつくのでしょうか……

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