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腹からくる太鼓
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初宮城下町から五日、箕輪に連れられるままやって来た名の無い村。周囲には広い田畑が広がっているかに視えますが、今は作物の育たない荒地と成り果てています。
トォン トォン トォン……
何処からともなく太鼓らしき音が聴こえて来ます。でも、その音には力が無くて弱々しく、俄かに太鼓とは思い難いものでした。一行はその音がする方に向かうと、村の端に太鼓を叩く長身の男を見付けました。
顔が隠れる程にボサボサの髪、大柄な鬼程有る長身な割に痩せてヒョロヒョロな身体ですが……下腹部だけが異様に膨れています。これは変な太り方や食べ過ぎではなく、栄養失調で起こる症状の一つで、この時の日の本ではそう珍しい事ではありませんでした。
トォン トッ…… 「うぅ……」
太鼓を叩いていた長身の男が突然その場に膝をついてしまいました。一行はすぐに駆け寄り、有太が声を掛けると弱々しい声で答えました。
「大丈夫か、アンタ!?」
「……あぁ、暫く何も食べてなくて……立ち眩みが……」
「待って、食べ物なら少し有るから」
有太達から食べ物を恵んで貰ったその男は、麦飯のおにぎりと干し大根一本をペロリと平らげ、水を飲んで一息吐くと涙を流して礼を言いました。
「……かたじけねえ……お陰で生き返った。あのまま死ぬかと思った……」
「困った時はお互い様だよ」と有太は優しく気遣います。
「腹が空いとるのに、力の要る事をしとればそりゃ倒れるわい、うつけ者め」
「全くだ、空きっ腹であんな気の抜けた音鳴らしやがって……何がしてえんだ。その腹太鼓叩いた方が良い音鳴るんじゃねえか?」
「二人共ちょっと厳し過ぎるよ……。良かったら、何しようとしてたか聞かせてくれない?」
眞是守と阿多醐が辛辣な言葉を掛けますが、有太が訳を尋ねると男は静かに語り始めました。
「……みんなを元気付けたかったんだ。昔はこの村でも年に一度祭りが開かれて、皆で食べ物を持ち寄って踊ったり騒いだりして楽しかった。オラの親父が村唯一の太鼓叩きでなぁ……子供の頃から親父の打つ太鼓を見て、大きくなったらオラも太鼓を打つんだってずっと憧れてた。でも……獅子が出てから村も廃れて祭りも出来なくなっちまった。皆段々生きる気力も失くしちまって……飢えや病気に堪える事も無く、すぐ諦めて簡単に死んじまう様になった。それが一番いけねえ……だからオラ、太鼓で皆に昔を思い出して元気になって貰いたかったんだ」
彼の話を聞いて有太と箕輪は痛く同情します。自分自身もとても辛いだろうに……村の皆の為を想う彼の姿勢に、有太は彼こそ太鼓の奏者に相応しいと思わざるを得ないのでした。そしてすぐ様風呂敷から太鼓撥を取り出します。
「アンタ、名前は?」有太が男に尋ねます。
「……島助」
「島助、黙ってこれを持ってみて」
島助は言われた通り、有太の差し出した撥を手に取ります。すると箕輪の時と同様、撥が淡く光り島助の手に染み込んでいきました。
「……不思議だ、身体が熱くなってきた……飯食ったからか?」
「そのまま太鼓叩いてみて」
島助は有太に促されるまま、立ち上がり太鼓に撥を振り下ろしました。
ドオン! ドンドンドンドン!!
先程とは全く違う、力強く良い音が鳴り響きます。その音は体の芯まで響き、腹の底から力が湧き上がって来る様な感覚を覚えました。
「へっ、やりゃ出来んじゃねえか」
「うむ、上出来じゃ。これなら役を任せても良いじゃろう」
阿多醐と眞是守も彼を認めます。しかし彼に同行を求める前に、先にやるべき事が有ると思い有太は話を切り出します。
「よし、じゃあやろう! 今から村の真ん中で、その太鼓を皆に聴かせてやろうよ」
「ええ、私も手伝うわ」
「……見ず知らずのオラの為に……ありがとう」
一行は村の中心に有る広場に移動し、阿多醐は肩に担いで来た太鼓を地面に下ろします。そして、島助の太鼓と箕輪の笛の演奏が始まります。
ドオン ドオン ドンドン ドオーン♫
ピィ~~♪ ~~♪
島助の太鼓は素人で、とても演奏と呼べない適当な物でしたが、箕輪がそれに合わせ即興で曲として調整します。それでも音楽とは言い難い出来ではありましたが……集まって来た村人達は、力強い太鼓と優しい笛の音に心と身体から力と温もりが沸々と湧いて来るのを感じました。
適当なところで演奏を終えると、笑顔を取り戻した皆から惜しみない拍手が送られました。その後一行は、独り暮らしとなった島助の家に招かれ今後の話をする事にしたのです。詳しく事情を聞いた島助は自信無さ気ですが、皆は彼をその気にさせるべく声を掛けます。
「……オラにそんな大事な御役目が務まるか……」
「大丈夫さ、あんな良い音を出せるんだから。ね、みんな?」
「私も自信は無いけれど……自分の手で大切な人達が救えるなら、迷わないわ」
「別に戦えって言うんじゃねえんだ、太鼓叩くだけならやれんだろ?」
「お主は選ばれたのじゃ、他に担い手はおらぬし……皆が必要としておるのじゃから、迷わずただやれば良い」
「……分かった、オラ頑張ってみるっ!」
島助から良い返事を貰い、これで全ての人材が揃いました。一行は市善と合流すべく、一路待ち合わせの寺院の在る町へと向かうのでした。
トォン トォン トォン……
何処からともなく太鼓らしき音が聴こえて来ます。でも、その音には力が無くて弱々しく、俄かに太鼓とは思い難いものでした。一行はその音がする方に向かうと、村の端に太鼓を叩く長身の男を見付けました。
顔が隠れる程にボサボサの髪、大柄な鬼程有る長身な割に痩せてヒョロヒョロな身体ですが……下腹部だけが異様に膨れています。これは変な太り方や食べ過ぎではなく、栄養失調で起こる症状の一つで、この時の日の本ではそう珍しい事ではありませんでした。
トォン トッ…… 「うぅ……」
太鼓を叩いていた長身の男が突然その場に膝をついてしまいました。一行はすぐに駆け寄り、有太が声を掛けると弱々しい声で答えました。
「大丈夫か、アンタ!?」
「……あぁ、暫く何も食べてなくて……立ち眩みが……」
「待って、食べ物なら少し有るから」
有太達から食べ物を恵んで貰ったその男は、麦飯のおにぎりと干し大根一本をペロリと平らげ、水を飲んで一息吐くと涙を流して礼を言いました。
「……かたじけねえ……お陰で生き返った。あのまま死ぬかと思った……」
「困った時はお互い様だよ」と有太は優しく気遣います。
「腹が空いとるのに、力の要る事をしとればそりゃ倒れるわい、うつけ者め」
「全くだ、空きっ腹であんな気の抜けた音鳴らしやがって……何がしてえんだ。その腹太鼓叩いた方が良い音鳴るんじゃねえか?」
「二人共ちょっと厳し過ぎるよ……。良かったら、何しようとしてたか聞かせてくれない?」
眞是守と阿多醐が辛辣な言葉を掛けますが、有太が訳を尋ねると男は静かに語り始めました。
「……みんなを元気付けたかったんだ。昔はこの村でも年に一度祭りが開かれて、皆で食べ物を持ち寄って踊ったり騒いだりして楽しかった。オラの親父が村唯一の太鼓叩きでなぁ……子供の頃から親父の打つ太鼓を見て、大きくなったらオラも太鼓を打つんだってずっと憧れてた。でも……獅子が出てから村も廃れて祭りも出来なくなっちまった。皆段々生きる気力も失くしちまって……飢えや病気に堪える事も無く、すぐ諦めて簡単に死んじまう様になった。それが一番いけねえ……だからオラ、太鼓で皆に昔を思い出して元気になって貰いたかったんだ」
彼の話を聞いて有太と箕輪は痛く同情します。自分自身もとても辛いだろうに……村の皆の為を想う彼の姿勢に、有太は彼こそ太鼓の奏者に相応しいと思わざるを得ないのでした。そしてすぐ様風呂敷から太鼓撥を取り出します。
「アンタ、名前は?」有太が男に尋ねます。
「……島助」
「島助、黙ってこれを持ってみて」
島助は言われた通り、有太の差し出した撥を手に取ります。すると箕輪の時と同様、撥が淡く光り島助の手に染み込んでいきました。
「……不思議だ、身体が熱くなってきた……飯食ったからか?」
「そのまま太鼓叩いてみて」
島助は有太に促されるまま、立ち上がり太鼓に撥を振り下ろしました。
ドオン! ドンドンドンドン!!
先程とは全く違う、力強く良い音が鳴り響きます。その音は体の芯まで響き、腹の底から力が湧き上がって来る様な感覚を覚えました。
「へっ、やりゃ出来んじゃねえか」
「うむ、上出来じゃ。これなら役を任せても良いじゃろう」
阿多醐と眞是守も彼を認めます。しかし彼に同行を求める前に、先にやるべき事が有ると思い有太は話を切り出します。
「よし、じゃあやろう! 今から村の真ん中で、その太鼓を皆に聴かせてやろうよ」
「ええ、私も手伝うわ」
「……見ず知らずのオラの為に……ありがとう」
一行は村の中心に有る広場に移動し、阿多醐は肩に担いで来た太鼓を地面に下ろします。そして、島助の太鼓と箕輪の笛の演奏が始まります。
ドオン ドオン ドンドン ドオーン♫
ピィ~~♪ ~~♪
島助の太鼓は素人で、とても演奏と呼べない適当な物でしたが、箕輪がそれに合わせ即興で曲として調整します。それでも音楽とは言い難い出来ではありましたが……集まって来た村人達は、力強い太鼓と優しい笛の音に心と身体から力と温もりが沸々と湧いて来るのを感じました。
適当なところで演奏を終えると、笑顔を取り戻した皆から惜しみない拍手が送られました。その後一行は、独り暮らしとなった島助の家に招かれ今後の話をする事にしたのです。詳しく事情を聞いた島助は自信無さ気ですが、皆は彼をその気にさせるべく声を掛けます。
「……オラにそんな大事な御役目が務まるか……」
「大丈夫さ、あんな良い音を出せるんだから。ね、みんな?」
「私も自信は無いけれど……自分の手で大切な人達が救えるなら、迷わないわ」
「別に戦えって言うんじゃねえんだ、太鼓叩くだけならやれんだろ?」
「お主は選ばれたのじゃ、他に担い手はおらぬし……皆が必要としておるのじゃから、迷わずただやれば良い」
「……分かった、オラ頑張ってみるっ!」
島助から良い返事を貰い、これで全ての人材が揃いました。一行は市善と合流すべく、一路待ち合わせの寺院の在る町へと向かうのでした。
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