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獅子退治
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合流した一行は、その後一ヶ月間獅子退治の為の稽古を積みました。演奏、舞、トドメ……全ての手順を皆頭と体に覚え込ませます。道具の準備も整いました。大小二つの魂太皷は横向きに荷車に乗せ、移動し易くこのまま叩く事が出来ます。破魔の槍には、二つずつ鎮守の鈴を柄の先端に括り付け、鈴を鳴らしながら舞う事になります。それに最初は文句を言っていた阿多醐も、段々眞是守と息が合って来ました。食事も充分に摂りもう万全の状態で、後はその時を待つばかりです。
そんなある日、突然一報が入りました。一行が駐留している辻ヶ浦本堂からそう遠くない村に、獅子が出没したと言うのです。それを聞いた一行はすぐ様旅支度を整え、出没現場へと出発したのでした。
件の村に到着すると、村中酷く荒らされ家は一軒残らず全壊し犠牲者も大勢出た様です。聞くと獅子は村で暴れた後、南に向かって去ったそうです。村の人達が気掛かりですが、獅子の寝込みを襲う絶好の機会だと眞是守に諭され、獅子を追って南に向かう事になりました。
獅子の通った跡は、濃い瘴気の為に草木が朽ち土が黒く汚れており、追跡には苦労しませんでした。平地から林を通り、やがて空が茜に染まる頃に岩山に差し掛かりました。
「ちょっと待て」
突然眞是守が皆の足を止めます。そしてじっと山の上の方を眺めた後、気付いた事を話し始めます。
「山の中腹に瘴気が充満しとる。恐らく、今あそこに獅子がおるのじゃろう。もうじき陽が暮れる、奴もそのまま眠りに就くじゃろう。ここで最後の準備を整え、慎重に近付くのが良かろう」
皆その言葉に頷き、準備を始めます。眞是守と阿多醐は元の姿に戻り赤い装束に着替え、皆で軽食を摂った後岩山を登り始めました。物音を立てない様に慎重に進み、時間を掛けて登った事で獅子の寝ぐらに辿り着いた頃にはすっかり夜が更けておりました。
拓けた平らな岩場に、一頭の獣が横たわっております。赤い体毛……六本の脚……黒い鬣と伝えられていましたが、実際は人の頭髪の様に頭から漆黒の髪が垂れ、まるで幽霊や亡者の様な不気味さを醸し出しています。
獅子は天敵が居ない為か、警戒心の欠片も無く熟睡している様子。一行は口を開かず、慎重に近寄りそれぞれの持ち場に着きます。箕輪と島助は最低限に距離を取り、眞是守と阿多醐は槍を持ち獅子の前に並びます。しかし、有太だけはその場に居ません、少し離れた岩の上から現場の様子を眺めています。眞是守を始め皆に説得されたのです――有太の使命は獅子を倒した後の事、危険な戦いの場からは離れておくように――と。それで有太は渋々離れた所で皆を見守っているのです。
『それでは始めるかの』
眞是守の一言で皆が頷き、鎮めの儀式が始まります。
ピュイィ~~♪~~♪
シャン♩ シャン♩
ドンドンドン♫ ドンドンドン♫
箕輪が霊笛を吹き、眞是守と阿多醐が槍に付けた鈴を鳴らしながら舞い始めます。そして島助が魂太皷を叩き出すと、獅子が目を覚まし起き上がりました。
『ガオオオン!!』 ガチンガチン!!
獅子は咆哮を上げ、強く歯を打ち鳴らします。しかし笛と鈴の音と舞の効果で惑わされ、威嚇はしますが襲って来る気配は有りません。ですがその迫力は凄まじく、離れた場所に居る有太でさえ恐怖に震えます。空を噛み、黒い髪を振り乱し激しく暴れましたが……暫くすると勢いが衰え始め、遂にはその場に伏せてしまいました。丁度その時、魂太皷の力で大気と地より霊気が呼び寄せられ辺りに満ちその場一帯が淡く光り始めました。ここから儀式と舞が第二段階に移行します。
遠巻きで跳ねる様に舞っていた眞是守と阿多醐は、距離を詰め獅子の周囲を回りながら舞い始めます。すると獅子はウトウトし始め、完全に動きを止めました。眞是守と阿多醐の二人は、何度か獅子に背を向け立ち止まり槍を背中に回します。ゆっくりと体を捻り獅子を確認し、互いに目を合わせて機を伺います。
何度か繰り返し、漸く機が定まると阿多醐が尻の前に立ちました。そして体を捻り最後の確認をすると、眞是守は獅子の側を離れます。阿多醐は手首、肘、肩……腕の関節を全て活かし、腕を大きく∞の字に振り、破魔の槍を派手に振り回します。すると、場に充満した霊気が槍に集まり始め刃に溜まりました。そしてその霊気を宿した槍を両手に握りゆっくり振り返った阿多醐は、急所とされる尻尾の付け根によ~く狙いを定め……渾身の力を込め突き刺しました。
ドスッ 『ギャアアオオオ!!』
槍から大量の霊気を流し込まれ、その激痛に獅子は狂った様に暴れ始めます。しかし、これに一行は困惑します。大陸から伝わった巻物によれば、急所を一突きして退治したとあったからです。
『おい、どういう事だ!? 話が違うぞ!?』阿多醐が慌てて声を上げます。
『むう……無理も無かろう。伝承では、多くの術師で獅子を縛り、強い霊力を持つ者が槍を使ったと言う。儂らだけでは何もかもが足りぬのじゃ』
『じゃあどうすんだよ!?』
『……もう一度じゃ、ここで諦める訳にはいかぬ! 彼奴も生き物である以上、深く傷付けば必ず倒れる』
『よぉし、じゃオレがもう一回――』『駄目じゃ! 集めた霊気の影響で主の身体は弱っておる。トドメは主にと譲ったが、次は儂に任せよ。さあ皆の者、もう一度じゃ!』
皆もう一度演奏と舞を始め、儀式をやり直します。一度気が立った獅子を鎮めるにはかなり時間を要しましたが、なんとかもう一度大人しくさせる事に成功しました。しかしもう空が白み始め、箕輪と島助の体力は消耗し瘴気に蝕まれてもう限界です。これが最後の一合となるでしょう。
眞是守が今度は獅子の顔の前に立ち、槍を振り限界まで霊気を集めます。そしてゆっくりと振り返り……獅子の左目に深く槍を突き刺しました。
ドズッ 『ギャアウアアア!!』 ガチンガチン!!
生物としては致命傷になり得る傷を受け、獅子は先程より更に激しく暴れ狂います。その余りの痛みに完全に我を忘れ、ただただ悲痛な叫びを上げながら動き回るばかり。やがて獅子は天に昇ろうかとする様に、後脚二本だけで立ち上がり頭を高く天に向かって伸ばし出しました。槍を構える二人はその隙を見逃しません。
『今じゃ!』
『おうっ!』
ズドシュッ
眞是守と阿多醐は同時に槍を突き立て、獅子の喉を貫きました。その瞬間、獅子の身体から湧き出していた瘴気がピタリと止み、力無く地面に倒れ伏しました。日の本全土を苦しめ続けた獅子が、今正に倒されたのです。
昇った太陽の暖かい光が、全霊を尽くして戦い疲れ果てた彼ら四人を優しく包みます。戦いの終わりを見届けた有太は急いで皆の元に駆け寄り、共に勝利の喜びを分かち合うのでした。
そんなある日、突然一報が入りました。一行が駐留している辻ヶ浦本堂からそう遠くない村に、獅子が出没したと言うのです。それを聞いた一行はすぐ様旅支度を整え、出没現場へと出発したのでした。
件の村に到着すると、村中酷く荒らされ家は一軒残らず全壊し犠牲者も大勢出た様です。聞くと獅子は村で暴れた後、南に向かって去ったそうです。村の人達が気掛かりですが、獅子の寝込みを襲う絶好の機会だと眞是守に諭され、獅子を追って南に向かう事になりました。
獅子の通った跡は、濃い瘴気の為に草木が朽ち土が黒く汚れており、追跡には苦労しませんでした。平地から林を通り、やがて空が茜に染まる頃に岩山に差し掛かりました。
「ちょっと待て」
突然眞是守が皆の足を止めます。そしてじっと山の上の方を眺めた後、気付いた事を話し始めます。
「山の中腹に瘴気が充満しとる。恐らく、今あそこに獅子がおるのじゃろう。もうじき陽が暮れる、奴もそのまま眠りに就くじゃろう。ここで最後の準備を整え、慎重に近付くのが良かろう」
皆その言葉に頷き、準備を始めます。眞是守と阿多醐は元の姿に戻り赤い装束に着替え、皆で軽食を摂った後岩山を登り始めました。物音を立てない様に慎重に進み、時間を掛けて登った事で獅子の寝ぐらに辿り着いた頃にはすっかり夜が更けておりました。
拓けた平らな岩場に、一頭の獣が横たわっております。赤い体毛……六本の脚……黒い鬣と伝えられていましたが、実際は人の頭髪の様に頭から漆黒の髪が垂れ、まるで幽霊や亡者の様な不気味さを醸し出しています。
獅子は天敵が居ない為か、警戒心の欠片も無く熟睡している様子。一行は口を開かず、慎重に近寄りそれぞれの持ち場に着きます。箕輪と島助は最低限に距離を取り、眞是守と阿多醐は槍を持ち獅子の前に並びます。しかし、有太だけはその場に居ません、少し離れた岩の上から現場の様子を眺めています。眞是守を始め皆に説得されたのです――有太の使命は獅子を倒した後の事、危険な戦いの場からは離れておくように――と。それで有太は渋々離れた所で皆を見守っているのです。
『それでは始めるかの』
眞是守の一言で皆が頷き、鎮めの儀式が始まります。
ピュイィ~~♪~~♪
シャン♩ シャン♩
ドンドンドン♫ ドンドンドン♫
箕輪が霊笛を吹き、眞是守と阿多醐が槍に付けた鈴を鳴らしながら舞い始めます。そして島助が魂太皷を叩き出すと、獅子が目を覚まし起き上がりました。
『ガオオオン!!』 ガチンガチン!!
獅子は咆哮を上げ、強く歯を打ち鳴らします。しかし笛と鈴の音と舞の効果で惑わされ、威嚇はしますが襲って来る気配は有りません。ですがその迫力は凄まじく、離れた場所に居る有太でさえ恐怖に震えます。空を噛み、黒い髪を振り乱し激しく暴れましたが……暫くすると勢いが衰え始め、遂にはその場に伏せてしまいました。丁度その時、魂太皷の力で大気と地より霊気が呼び寄せられ辺りに満ちその場一帯が淡く光り始めました。ここから儀式と舞が第二段階に移行します。
遠巻きで跳ねる様に舞っていた眞是守と阿多醐は、距離を詰め獅子の周囲を回りながら舞い始めます。すると獅子はウトウトし始め、完全に動きを止めました。眞是守と阿多醐の二人は、何度か獅子に背を向け立ち止まり槍を背中に回します。ゆっくりと体を捻り獅子を確認し、互いに目を合わせて機を伺います。
何度か繰り返し、漸く機が定まると阿多醐が尻の前に立ちました。そして体を捻り最後の確認をすると、眞是守は獅子の側を離れます。阿多醐は手首、肘、肩……腕の関節を全て活かし、腕を大きく∞の字に振り、破魔の槍を派手に振り回します。すると、場に充満した霊気が槍に集まり始め刃に溜まりました。そしてその霊気を宿した槍を両手に握りゆっくり振り返った阿多醐は、急所とされる尻尾の付け根によ~く狙いを定め……渾身の力を込め突き刺しました。
ドスッ 『ギャアアオオオ!!』
槍から大量の霊気を流し込まれ、その激痛に獅子は狂った様に暴れ始めます。しかし、これに一行は困惑します。大陸から伝わった巻物によれば、急所を一突きして退治したとあったからです。
『おい、どういう事だ!? 話が違うぞ!?』阿多醐が慌てて声を上げます。
『むう……無理も無かろう。伝承では、多くの術師で獅子を縛り、強い霊力を持つ者が槍を使ったと言う。儂らだけでは何もかもが足りぬのじゃ』
『じゃあどうすんだよ!?』
『……もう一度じゃ、ここで諦める訳にはいかぬ! 彼奴も生き物である以上、深く傷付けば必ず倒れる』
『よぉし、じゃオレがもう一回――』『駄目じゃ! 集めた霊気の影響で主の身体は弱っておる。トドメは主にと譲ったが、次は儂に任せよ。さあ皆の者、もう一度じゃ!』
皆もう一度演奏と舞を始め、儀式をやり直します。一度気が立った獅子を鎮めるにはかなり時間を要しましたが、なんとかもう一度大人しくさせる事に成功しました。しかしもう空が白み始め、箕輪と島助の体力は消耗し瘴気に蝕まれてもう限界です。これが最後の一合となるでしょう。
眞是守が今度は獅子の顔の前に立ち、槍を振り限界まで霊気を集めます。そしてゆっくりと振り返り……獅子の左目に深く槍を突き刺しました。
ドズッ 『ギャアウアアア!!』 ガチンガチン!!
生物としては致命傷になり得る傷を受け、獅子は先程より更に激しく暴れ狂います。その余りの痛みに完全に我を忘れ、ただただ悲痛な叫びを上げながら動き回るばかり。やがて獅子は天に昇ろうかとする様に、後脚二本だけで立ち上がり頭を高く天に向かって伸ばし出しました。槍を構える二人はその隙を見逃しません。
『今じゃ!』
『おうっ!』
ズドシュッ
眞是守と阿多醐は同時に槍を突き立て、獅子の喉を貫きました。その瞬間、獅子の身体から湧き出していた瘴気がピタリと止み、力無く地面に倒れ伏しました。日の本全土を苦しめ続けた獅子が、今正に倒されたのです。
昇った太陽の暖かい光が、全霊を尽くして戦い疲れ果てた彼ら四人を優しく包みます。戦いの終わりを見届けた有太は急いで皆の元に駆け寄り、共に勝利の喜びを分かち合うのでした。
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