×××の正しい使い方

わこ

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1.初心者的なアレ

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仕事場である、ストリート系のダンススクール。俺はそこで奇妙なモノを見た。


「……何コレ」
「ポールダンス用のポール」
「……ここはストリップ劇場か何かか?」
「やだなあユキちゃん、早々にボケた? 健全なダンス教室だよ、ココは」

そう言うのは、ここの経営者でインストラクターの陸だ。俺と陸は共同でこの教室を運営している。
指導対象はアマチュアから上級レベル程度まで。ちょっと興味を持ったのでという人もいれば、大分真剣に通っている人など様々だ。
個人経営のごくごく小規模なこのスクールで、教える側に立つ人間は俺とこいつだけ。食っていける程度に成り立ってはいるものの、労働条件としては割と酷かもしれない。これは他でもなく、好きだから出来る仕事というもの。
 
水曜日の休みを終えて、迎えようとしていた一週間。しかしそんな折に俺が見たのは、室内の床から天井に向かって取り付けられた銀色のポールだった。
仕事上のパートナーに明るい笑顔を向けられ、俺の中からは一気にヤル気が削がれていく。

「……ウチはこの手のレッスンできねえだろ。誰が教えんだよポールダンスなんか。こいのは女がやってなんぼのもんだぞ」
「ジェンダーはんたーい」
「マジメに言ってんだよ。教室潰す気か」

ふざけた態度でへらへら返され、思いつきで行動する節のある男を睨みつけた。すると陸はにっこりと笑って一言。

「ユキがやればいいじゃん」
「……あ?」
「ダーイジョーブだって。ユキならきっと上手くやれるよ。豪快なアクロバット風もいいけど俺はセクシーな方が好みかな。てことでガンバレ!」

他人事みたいな励ましを受け、眉間が寄って頬が引き攣る。こいつの好みなんか訊いていない。

「……てめえ本気で言ってんなら殺すぞ」
「きゃー。こわーい、ユキちゃん」
「…………」

冗談抜きにヤッてしまってもいいだろうか。この男は碌な事を言わない。どこまでもフザケている。
沸々と湧き上がる怒りで拳を握りしめていると、陸はクスクス笑って俺の肩をぽんぽんと叩いた。

「まーまーウソウソ、落ち着いて。そんなに怒んなよ、教えんのは別の人だから。この前面接来てた女いたろ? あれ」

俺を宥め、当たり前のように言いだす。俺は溜息しか出ない。
生徒数も増えてきたことだし、誰か一人くらい雇おうかと話していたのは確かだ。俺と陸とで交替に何人かを面接してきて、良さそうな人がいたと陸が言っていたのも覚えている。
だが、なぜポール。

「話聞いてみたらさ、こういうのやってたらしいんだよね」
「元ストリッパー?」
「ちげーっての。ちゃんとしたインストラクターだよ。前いたスタジオで教えてたんだって。そこが潰れたらしい」

世知辛い世の中だ。その辺りについては俺達だって明日は我が身だろう。
一昨日までは物置と化していたはずのこの部屋。それが見事に片づけられ、今は三本のポールが一定間隔で設置してある。

ストリップのイメージが強いポールダンスだけど、最近ではこの業界でも珍しくはない。ダイエット目的なり何なり、知名度が上がってきているのは事実だ。
時代の追い風に乗り、新たな生徒層の集客でも図る気か。どの道ここまで準備してしまっては、やっぱりヤメルなんて事にはしにくいだろうが。

「……まあちゃんと考えてんならいいけど。それにしたって一言相談くらいしろよ。いくらかかったんだコレ」

ポールを胡散臭く眺めながら、頭の中では今月の収支を考え始めた。返答によってはぶん殴ってやる心づもりでいたのに、経営にとことん向いていない陸はここでものほほんとしている。

「んー、そんな高くないよ? 四万弱くらい」

三体で十二万しない程度か。微妙なところだ。
ジムとかフィットネスクラブとか、初期コストが安くはない業態は個人で始めるのも楽じゃない。その点ダンススクールというのは、極端な話身一つで始められる。
詰まるところ、俺達には金がない。たった十万だろうと痛いものは痛い。生徒が集まらなかったら大怪我だ。
そしてこの男は多分、その重みを全く分かっていない。

盛大な溜息が出てきそうなのを堪えて、俺はポールの傍に投げ出してあった黒い袋を眺め落とした。組み立て前のポールが入っていたキャリーバッグだろう。
その中には三枚つづりの用紙が入っていて、何とはなしに手に取ると、一枚目にセット内容やなんかの表記がしてある。
ダンスポールなんてものは実物を見たのも初めてだけど、説明書を見る限り組み立て方は極めてシンプル。しかし取り付け場所の注意書きの後、「設置時には必ず二人で行ってください」という一文を目にして眉を顰めた。

「おい、これ一人で取り付けんのムリなんじゃねえの?」

用紙を手にしたまま陸に顔を向けた。まさか、さっき話しに出てきた女だろうか。
雇うとも正式に決めていないのに早速手伝わせたのかと思ったが、どうやらそうではなかった。

「あー、うん。純くんに手伝ってもらった」
「ジュンに……?」
「ちゃんとバイト代も出したよ?」

そこじゃない。

純はこの教室の生徒だ。陸に憧れているらしくて熱心に通ってくれている。
だけどあいつはまだ高校生。高校生が平日に休めるはずなんてないから、陸に頼まれてあっさりサボったに違いない。

「お前な……」

いい大人が。非常識だ。
とは思っても、そこはさすが、バカ男。悪びれもしないし、そもそも悪いとも思っていない。

「ポール取り付けんのはさー、別にたいした事なかったんだよ。でもこの部屋片付けんのに苦労して丸一日かかっちゃった。純くん来てくれてて助かったー。で、粗大ゴミ回収?来てもらったんだけど、あれって完全ボッてるよな。トラック一台山にしただけですげえ金取られた」
「あ゛?」

金を取られた。聞き捨てならない事後申告に、即座に反応した。
この建物は居抜き物件として売られていた。元はボクシングジムだったとかで、買い取った当初はフロアのど真ん中にリングが置かれていた所だ。
それでも駅からは近いし、駆け出し経営の俺達には不相応になりすぎない質素な様相。明らかに邪魔でしかないリングとか、その他のスペースを取る物だけは早々に処分して、残りの器具用具類は適当に使わない部屋にぶち込んでおいた。

それを今になって片づけた。確かリングを処分した時も、なかなかいい値段で業者にボラれた記憶がある。

「……いくら取られた」
「えーっと、……ん? あれ? いくらだっけ。うん、なんか高かった。純くんが覚えてるかな? あとどっかに明細あるはず」
「…………」

駄目だこいつ。

「何してんだお前は……」
「え、なんで。将来への投資は大事だろ? 部屋一つ物置にしとく方が勿体ない」
「そりゃそうだけど……」
「そんな深く考えるなよ。なるようになるって」

このご時世にあって、ここまで楽観的な男も珍しい。何の根拠もなく大丈夫だと断言する陸を見て、俺は肩を落としてポールに寄り掛かった。
慣れない金属の質感。これが金のなる木になるとは到底思えないけど、こいつがやりたいというなら仕方ない。今はとにかく自分ができることを、地道に積み重ねていくしかないだろう。

となればまずは掃除。清掃員を雇う余裕のない俺達は、朝ここに来て最初にする仕事が掃除だ。
いつまで経っても新入部員みたいな作業が付きまとう。

「って、おい。何してんだよ」

重い腰を上げてさっさと掃除に取り掛かろうとしている俺に、何を思ったか陸が抱きついてきた。
背にポールを押し付けられ、後ろには下がれない。陸の肩を押し返すと腕を取られた。

「……なんだっての。放せ」
「冷たいなあ。いいじゃんたまには。新しいイントラ入ったら、ここは俺達二人の愛の巣じゃなくなっちゃうんだよ?」
「そんな気味わりい巣にした覚えねえよ。つーかお前が雇いたくてポールまで買ったんだろ」
「そーだけどー。固いこと言うなよー」

背面で手を繋がれ、金属が当たって冷たさが伝わってくる。陸は身を屈めて俺の肩に顔を乗せてくるけど、自分よりもデカい男に甘えられたって嬉しくない。
珍しく何も言わずに、ただピッタリとくっついてくる陸。俺の体に回した腕は一向に解かれる雰囲気になくて、時折ゴソゴソ動いてはやたらと手を繋ぎたがった。
ポールに腕を押し付けられ、無理な角度が少し痛い。朝からなんだと思う反面、俺の頭の中には人間の足に顔を擦り付けてくる猫が浮かんでいた。そこまで可愛げのある男ではないものの、気まぐれな部分なんかはそっくりだと思う。

「ユキ……」
「……もういいだろ、退け」

急に落ち着いた声で名前を呼ばれ、遠くを見て聞かなかったことにした。
陸は背後に回した手で、俺をポールごとギュっと抱きしめてくる。嫌な予感しかしない行動に、防衛本能で咄嗟に腕を振り切ろうと。

したのだが。その瞬間、手首をガシッと掴まれた。

「ぇ……」

耳に届いたのは何かが擦れるような音。次いで訪れた、手首一周に及ぶ奇妙な質感。

「こうやって二人でいられるのも少なくなっちゃうかもね。人雇ったら。悲しいと思わない?」
「なん……は……?」

いくら腕を動かそうとしても動かない。そして俺はようやく気付く。
陸がゴソゴソ動いていたのはこれだ。手を繋ぎたがった理由も今ここではっきりした。

ありえない。縛られた。
両手が緊縛されていて、さらに背中との間にはポールが。
 
愕然として声の出ない俺に、陸はなんでもないことのように言い放った。

「ついでに買っちゃった。縄手錠。いいねコレ、ホントに簡単。ワンタッチお手軽」
「……は?」

何言ってんだこいつ。普通そんな物隠し持ってるヤツなんかいねえよ。

「二人の愛の巣じゃなくなっちゃう前に遊んどきたいなー、なんて」
「何言って……外せよ、コレ!」
「折角縛ったのに外す訳ないじゃん。ユキちゃんの鈍いトコってすげえ好き。扱いやすくて」

馬鹿にされていても、怒りより危機感の方が遥かに上回っている。陸は俺と顔を突き合わせ、楽しそうにニッコリと笑った。

「一回プレイに使っとこ?」
「……っ!!」

鳥肌が立った。

後ろ手に縛られ、ポールから離れられない状態にされ、プレイなんて恐ろしい単語が出てきたら真っ青だ。

「ッてめえふざけんな、ポールの使用方法ハキ違えてんじゃねえ! 外せコラ馬鹿ヤロウ!!」
「あー、ハイハイハイハイ」
「てめっ……オイ!」

どれだけ怒鳴ってみたところで、こうあっては全くの無意味。陸は適当に聞き流し、蹴りつけようとする俺の脚を抑えつけながらストンとその場にしゃがんだ。
早速ズボンに手をかけられて、いよいよ危ないことになってきた。

「大人しくしてろよ。最近忙しいから全然外で会えてないし。たまにはユキにも構ってやんないと」
「アホが! 誰も頼んでねえよクソバカ!! はなせ!!」
「イ・ヤ!」

明るく答えて、片手で骨盤をがっちり掴まれた。同時にジャッと、ズボンのファスナーを下ろされる。
すぐ後に、陸の目の前に晒されたソレ。

「こんにちはー」
「ッんのヘンタイ!!」

喚いたところで虚しい。微塵も迷いを見せず、陸の口はパクリと俺のモノを咥えた。

「っっ……ッ!」

死にたい。こんな所でこんな事を。勝手に取り出され、勝手に咥えられ、爽やかな筈の朝がとんでもない悪夢と化している。
両腕の拘束物は解けそうもないし、陸は俺の脚に密着してしゃぶり付いてくるから、蹴り飛ばしてやりたくても足が前へ出せない。
まさに手も足も出ない状態。咥えたままねっとりと舌を這わせられて、歯をくいしばって漏れそうになる声を押し込んだ。

「んーん? んんーんーん? んー……」
「喋ん、なっ……!」

こいつ、本気で殺してやりたい。すっとぼけた顔で故意に咥えたまま喋るから、変に擦れて震動が伝わる。
俺が苦しむ様子を、陸は心から楽しんでいる。そんなバカ野郎を睨み落とすと、男にしゃぶられている光景をモロに見てしまって眩暈がした。

「ッ……っん……っぅ……」
「誰もいないんだから声出せよ。いつもみたいに」
「……っる、せ……ッ」

片方の手を茎に添えて、裏筋を指先で撫でながら先端には舌が辿る。そうやって見せつけるように舌を出しながら、ゆっくりと舐め上げられていった。
括れを詰り、先端に緩く歯を立て、溝には舌先をねじ込み。どこで覚えてくるのかは知りたくもないけど、陸はとにかく俺で遊ぶことに抜かりない。

陸に初めて喰われたあの日まで、お互い男との経験なんてなかったのに。こいつはよっぽど順応能力が高いようで、フェラの技術はもはや神業だ。これは決して、言い過ぎではなくて。

「ユキちゃん、もうキツめ? ちゃんと自分で抜いてた? ダメだよ放ったらかしは」
「ぁっ……ッく……」
「我慢してる時のユキちゃんエロい」

しかも相当性格が歪んでいる。毎度毎度、いちいちうるさい。
下から俺を見上げ、意地悪く笑うこいつ。人が懸命に耐える様子を確認すると満足したらしく、またもやソレを口内に押し込めた。

「んんっ……やめ……ッ」

縛られた腕に力が入る。口唇を動かす度にいやらしく音を立ててくるのはわざとでしかなくて、聞きたくない水音が耳に届いてひどく羞恥心を煽られた。
耐えれば耐えるだけ攻められるから、逃げられもしないのに体は引けていく。仰け反りそうになる頭をポールに押し付け、極力陸から顔を背けて紛らわした。

根元から先端にかけて、必要以上に緩い速度で這い上がる舌と唇。時々口の中から解放されては、側面からチュッと吸いつかれ、震える足は陸の支えがなかったら立たせていることも難しい。

「……りく……ッ」

堪らず。結局最後は呼んでしまう。
陸は何も言わずにただ薄く笑って、限界寸前の昂りを指先でくすぐり、同時に先端にかぶりついた。ジュプッとしゃぶられ、瞬間、体に緊張が走る。

「ッン……っぁあ……」

荒い呼吸と共に、我慢も何も利かずに陸の口の中ではじけた。
熱を放つその僅かな間にも、ずっと吸いつかれたまま。最後の一滴まで搾り取られそうな感覚に、全身の力が抜けそうになった。

「ん……は……」

チュッと小さく口付けてから、陸は離れていった。急激な熱の解放に動悸はなかなか治まらない。口元を拭いながら足を立たせた陸に顔を覗きこまれ、いたたまれなさから視線を落とした。
するとこいつは何を思ったか、ぐいっと顔を近づけて無理矢理目を合わせてくる。

「どっちだと思う?」
「あ……?」
「俺がウマいのか、ユキが早いのか」
「…………」

手さえ自由なら。この両腕の拘束さえなければ、この憎たらしい顔をぶちのめしているところなのに。
頬をピクピク引き攣らせて睨みつけると、陸は一層楽しそうな顔になった。

「もしかしてユキちゃん、縛られるの興奮しちゃう人? なんか今日やたら早か…」
「黙れ。ふざけてないでさっさと解け」
「照れちゃってー」

いい子いい子と頭を撫でられる。今度こそ膝で蹴り飛ばしてやろうとすると、ぴったりと密着してきてまたもや阻止された。
しかし体がくっついている訳だから、相手の状態というのは良く分かる。

下半身に当たる硬いもの。俺は多分、顔が青くなったと思う。

「っ……!」
「縛られて簡単にイケるユキのこと見て俺は興奮したよ? ちょっとクセになりそう」

……怖い。

危険な発言で思わず逃げ腰になる俺を、陸は問答無用で抱きしめた。自分を主張するように下半身を押し付けられ、とにかく逃げたい一心でもがく。不発に終わるが。

「ほらほら、無駄な抵抗しない。どうせ逃げらんないよ」
「なんなんだお前は! 外せ!!」
「だーめ」

何がそこまで楽しいんだ。ニコニコ言われて目を剥いた。
出しっぱなしの下半身には陸の熱をぐいぐいと押し付けられる。しかし、逃げたくても逃げられない。
手首の忌々しい物は、皮膚にキツく食い込んでくることも無いのに、それでいて拘束用具としては一流だった。

こんな物を作った奴を恨む。その前に、このバカ男を始末したい。

「なあユキちゃん、そのまましゃがんで?」
「っ……何させる気だよ!」
「分かってるクセにー。でもまあ、言ってほしいんなら。そりゃ当然…」
「言うな!!」
「ワガママだなー」

ぶち殺す。

湧き上がる怒りも半端ない。それでも陸はお構いなしだ。俺の肩に手を乗せ、屈ませようと押さえつけてくる。

「いいから座れって。ユキのせいじゃん、俺のがこうなっちゃったの」
「お前が勝手にやり始めたんだろ! ゼッテーしねえからな!!」

断固拒否。だが両腕を縛られている中、押さえつけてくる力に反発するのも楽ではない。
少しでも膝が曲がると一気に辛くなる。不安定な体勢にガクッと崩れそうになると、陸は相変わらず加重を続ける一方、俺の体を支えた。

ギリギリと。地味な戦い。

「っココ……どこだと思ってんだよ! 朝っぱらから、ふざけんな!!」

足の力のみでようやく陸に抗っている。そんな息も絶え絶えな俺に、陸はあっけらかんと頷くだけ。

「あー、そっかあ。別の場所で夜に誘ってほしかったんだ? 気づいてあげられなくてごめんねー?」
「ッバカじゃねえの!?」

わざとらしい返事に怒鳴った瞬間、太腿の筋肉が悲鳴を上げた。ズルッと体が下降しそうになり、ポールとの摩擦によって接触している手首に熱を感じた。
だがそれもほんの一、二秒。痛みに顔を顰めた時には陸の腕が俺を抱き込んでいて、そのままズルズルと床にしゃがみ込まされた。

膝を床につき、沸々とした心地で陸を睨み上げた。なんだか泣きたい。

「平気? ごめん、痛かった? 手」
「謝るくらいならやるなっ」
「ユキが大人しく座んないから」

俺と目線を合わせ、いけしゃあしゃあと言ってのけるこいつ。怒りのまま睨みつけている俺に笑みを投げつけ、スクッと自分だけ立ち上がった。
上からじっと、見下ろされる。

「……ユキちゃん、どうしよう。この眺め最高」
「クソバカ!!」

どこのヘンタイだこいつは。人が動けないのをいいことに。

完全に陸はその気。嬉々として自分のズボンのファスナーを下ろし、見たくもないブツを俺の目の前にひけらかしてくる。
ここで。この体勢で。陸の求めに応じたら俺まで変態の仲間入りだ。

「はーいユキちゃん、口開けてー」

……これの仲間にはなりたくない。

「断る。てめえでヌけ」
「ひでえ。俺には飲ませといてユキはシてくんないの? 何が減るってもんでもないのに、そんなんじゃ愛が足んないよ。俺はちゃんと愛されてる? 愛さえあれば何でもできるはずだもんな?」

あー、もう。ツッコミどころが多すぎて、反論する気にもなれない。
心境を顔に出し思いっきりうんざりした目を向けると、陸はそれでも尚にこやかな笑顔を浮かべた。
すごく嫌な予感。腰を屈めて俺に顔を近づけ、サラリと告げたその言葉。

「今シてくんなきゃ皆の前で犯すよ?」
「っ……は!?」
「いつもはクールなユキト先生がねー? とんでもない事になっちゃうもんねー? みんなきっとビックリだよねー」
「お前……ッ!」

言葉も出なくなる。そんな事をされたらビックリどころじゃ済まされない。それこそスクール存続の危機だ。
ダンスポールとか縄手錠とか、さっきから変な物ばっかり出してくると思ったら。挙句の果てには、此処を発展場にでもするつもりか。
ところがタチの悪いことに、この男の場合。やりかねない。

「どうする?」

どうする、じゃねえよアホが。

「好きなほう選んでいいよ? 公開羞恥プレイか、ここでたった一回のフェラか」
「………後で覚えてろぶっ殺す」
「ユキの手で死ねるんなら本望かなあ」
「…………」

所詮負け惜しみには、ふざけた軽口しか返ってこない。嫌気がさすのも通り越し、ほとほと呆れ果てた。
ここまで来れば諦めもつき、というよりもどうでも良くなって、陸の手に促されるまま顔を上げる。

「……俺は飲まねえぞ」

寸前で、一言お断り。だけど陸はやたらと楽しそう。

「飲み切るまで口ん中突っ込んどくから安心して?」

人の話聞いてんのか。できねえよ、安心。

「じゃなきゃ、顔射」
「…………」
 
場末の風俗か。

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