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198.スローライフの幻想Ⅱ
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とっておきの美しいチョコレートを瀬名さんが棚から取り出してきた。
箱を開けただけでフワッといい匂い。三日前くらいにもらった時に勿体ないから後に取っておくと言って俺が棚に隠したのだが、瀬名さんは今のここが使い所と判断したのだろう。
「次もコーヒーはやめとこうな」
「うん」
「ルイボスティーでどうだ」
「うん。いいよ」
攻撃意欲が高まっている今の俺にはカフェインもよろしくないと瀬名さんは判断したようだ。
淹れたてのルイボスティーと一緒に、ニャンコのシルエットの小皿に乗っけて目の前に差し出されたチョコレート三粒。それぞれ形の違うのがちょこんと真ん中に並んでいる。三つだけなのはカフェインの抑制だろうか。
マグにはにゃんこ。お皿もにゃんこ。男二人が寝起きしているこの部屋に猫グッズが着々と増えていく。
ルイボスとチョコをお供に地方出身者同士で語り合うのはド田舎の行く末について。真面目に議論したい俺に、地方都市ご出身の瀬名さんも飽きずにとことん付き合ってくれた。
「俺は地元が好きなんです」
「知ってる」
「都会の人に何言われても田舎の味方したくなる」
「俺は遥希が何やらかしても味方するから安心しろ」
何かやらかすと思われてる。
チョコレートの匂いに癒されながら温かいルイボスティーを少しだけすすった。
この赤茶色のお茶すごく美味い。ミキちゃんと喧嘩したときにはルイボス飲ませてやるといいって明日浩太に言っておこう。
「でもあれって地方側のPRの仕方にも原因あるとは思うんですよね。自治体が誘致に熱入れてるとこだと特に」
「どうした急に。おやつ食って丸くなったか」
「一歩引いて語らない限り物事の本質は見えてきません」
「さっきまでお前沸騰してたけどな」
「残念ながら人間なので」
ポンコツだから一方向しか見えない。問題の全面全方向を示したケース別の解決策テンプレでもあれば考えることが減って便利なのに。
けれども対立する状況や立場ごとに分けて問題の所在とその中身を細かく分類しようものなら、億とか兆とか京とか垓通りの気の遠くなるようなパターンが必要になるだろう。争いや諍いがなくならない訳だ。
縦も横も斜めも奥行きも全て霞がかかってしまえば向き合えるのは眼前の一個だけ。沸騰が落ち着いてきた今は蒸気がちょっと薄くなったので右後ろ辺りからつついてみようと思う。
ノンカフェインの赤茶色のお茶に、ススッと軽く口をつけた。
「こっちに来てから何度か移住促進の広告を見かけました。あるでしょ、駅とかに」
「ああ」
「移住検討者向けの説明会みたいに普通の告知が多いけど、あなたが来るのを村人全員が大歓迎していますみたいな明るいポスターもたまにあるんです」
アナログな媒体に限らず、移住支援のウェブサイトなんかもそうだ。
のどかな田園風景。緑豊かな森林。澄み切った空。広大な海。笑顔溢れる活発な子供たち。そういう写真を背景にして、植え付けるように表示してある大振りのキャッチコピー。
田舎はあなたが理想とする場です。あなたの大いなる夢と挑戦を私達が全力で応援いたします。今こそあなたの力が必要なのです。
よくもまあそこまで自信たっぷりに躊躇なく言えるものだと感心する。嘘は言っていなかったとしても本当の事を言っていないなら実質的には結局ウソだ。
「人を集めるのが広告の役割だってのは分かりますよ。でもああいうのを見て勘違いする人だっていると思う」
「それでいざ来てみて思ったのと違けりゃ東京ではこうだったとか言いだす」
「本人が気に入れば上手くいくってもんでもないから余計に難しいんですよね。自分が過疎地を救ってやらなきゃみたいな謎の使命感持っちゃう人たまにいる。ありがたい事はありがたいんですけど」
「熱意も行き過ぎるとハマらねえからな」
都会が栄えているからと言って、都会で通じる方法をそっくりそのまま地方に当て嵌めれば良いという訳ではない。変わるのが時には必要であっても、踏むべき段階というものもある。
地方が良くなるようにあなた方の駄目な部分を教えてあげます。たとえ口に出してはいなくてもそんな姿勢が少しでも透けて見えれば、住民の大半は余計なお世話と感じるだろう。
「それで困惑するのはそこに住んでる地元民なのに、あの手の広告はほとんど罠です」
「言えてる。疲れてるときド田舎の田園風景なんか見せられちまったらそれだけで首都在住者の半分くらいは揺らぐと思う」
「実体験ですか」
「白状するとそうだ」
「アルパカの頃?」
「アルパカの頃が特に。田んぼのポスター見て泣いたことある」
深刻だ。
ほとんどは第三者目線の中立的なお知らせで、誤解を招かないように配慮しているのが分かる。
あとは敢えてネガティブな訴求をしてみる面白そうな地方なんかもたまに。
ウチに来ても田んぼ以外なんもねえよ。でもイノシシはいっぱいいるからぼんやりしてると突進してくるぞ。それでもいいって覚悟できてる猛者だけここに来てくれや。
そうやって堂々と開き直っているポスターをどこかで目にしたことがあった。明らかに振るい落としにかかっているけど俺はああいうのが正直で好き。そこに反感を抱くのであれば相性が合わない証拠とも言える。
誰でも大歓迎と言っておびき寄せるタイプのアピールとは方向性が真逆だろう。
「都会に疲れた移住検討者がいい面しか考えられなくなるようにしてる節があると思うんですよ。残業が鬼みたいに多いくせにその辺書いてない求人みたい」
「やっぱりな。転職と同じだ」
「それをメディアが半端に取り上げたりするから余計に理想郷っぽく見えますからね」
「支援金の大盤振る舞いだけ紹介されでもしたら終わりだろうな」
「下手に行政が介入してくると変にこじれたりしそうだし」
「金につられて母数だけが増えれば成功率はかえって下がるかもしれない」
それで悪評が立ったら最悪だ。
誰でもいいから来てなんて言ってはいけない。いくら過疎で困っているからと言って金で釣るのはもってのほかだ。過剰にへりくだって誘致してしまったら永遠に対等な関係は築けない。
そのうえ移住者に対する配慮の要請なんてものを自治体が住民側にし始めたらいよいよもう地獄だろう。地元民には移住者を受け入れてやってる感が出てくるし、移住者側には辺鄙な田舎に来てやっている感が出る。そうなった先に出来上がるのは不毛な対立構造だけだ。
という内容を中心に据えて社会学の課題レポートに書き殴って提出したのは今でもまだ覚えている。ゴミ記事を見た直後だったため課題という名のほぼ憂さ晴らしだったが獲得した評価は上々だった。
「ずっと顔馴染みだけが集まって暮らしてた所にいきなり知らない人が交じったら誰だって少しは警戒します」
「得体の知れねえもんはそりゃ怖い」
「俺もチビだったころ東京の人が近くに住み始めた時には動揺したもん」
とは言えチビだからこその好奇心が勝り、少し前まで空き家だったそのお宅をこっそり偵察しに行った。
東京から来た人が向こうの空き家に住み始めた。改修作業をすると言うから余っている資材を持って明日手伝いに行ってくる。
移住者歓迎派のじいちゃんが前の晩にそう言っていたのを聞いて、俺も秘かに後を追った。敷地の入り口のデカい木の影からビクビクしつつも覗き込んでいたところ、知らない顔の男性に見つかって声をかけられビクッとなった。ビクッとなったその横からはじいちゃんに何やってんだ坊主って言われて、そのあとは二人に交じってバタバタとお手伝いをすることになった。
「俺らもまずは分かりやすく警戒から入ってました。全然知らない人が来るとなんだあいつはどこのもんだっていう様子見期間ができるんですよ」
人間関係の狭い田舎ほどその傾向は強い。そのあと仲良くなれるかどうかもそれぞれだ。多分うちの親父も最初の頃は、遠巻きにされただろう。
それが今は先生なんて呼ばれて頼ってきてくれる人も多い。親父はじいちゃんの役割を継いだ。だから俺はあそこでのほほんと暮らせた。
俺がチビだったあの時に移住してきた東京の人もそう。今も同じ家にいる。
あれから周りも続々と集まって改修作業は順調に進んだ。手伝いのお礼だと言って俺にはいつもお菓子をくれたから、チビだった俺はそのお兄さんをいい人だと認識した。
お菓子くれたお兄さんはタケちゃんという。タケちゃんは都会ではこうだったなんて何があっても絶対に言わないし、田舎の魅力発信手伝ってやるよみたいな上から感覚は毛ほどもないし、むしろじいちゃんばあちゃん達から色んな事を教わりたがって、地域に馴染むために自分から積極的にあれやこれやと動きだすタイプだ。
ここの奴らはみんなお節介だよな。そんな冗談をかまして笑って周りと肩組んで酒飲める人だから、タケちゃんも今はすっかり完全な地元民だ。生まれた時からそこにいたみたいに。
地域の行事にも積極的で、毎年やってるガチの防災訓練に心から感動したらしく消防団に移住十日目で入った。夏の草むしり大会では物凄い成果を上げる。祭りの時は一番張り切る。何をやる時も人一倍楽しそう。
最近は役場に新しく入った松村さんといい感じらしいという浮かれた噂話も出回っている。松村さんも元は外から来た人だ。
「遥希の地元は順調に移住者増えてんだろ?」
「順調って言えるほどの増加率じゃないから平均年齢も全然下がってませんが、まあ。それなりには。警戒心は強いですけどあからさまな余所者イジメをする人はいないので」
増え方は本当に少しずつ。俺の身近なところではタケちゃんが最初で、それからは稀に話に聞く程度。
それでもあの町にやって来た人たちは今、農業やったりショップ開いたり特産物を新たにつくり出したり、熱心ながらもゆったりした雰囲気で地元民に交じって活動している。
慣習を踏みにじる人は一人もいない。けれど今までとは違うこともちょっとずつ始まっていった。
あの町の移住者の活動でこれまでに一番ビックリしたのはIT教室の開催だ。俺が大学受験の勉強に追われている頃、それはいつの間にか話題になっていた。
月に四回、一人一回三百円。ほとんどボランティアみたいなものだろうが、公民館のワークスペースを借りてスマホやらパソコンやらSNSやら色々と教えているらしい。子供から大人までどなたでもどうぞ。おじいちゃんおばあちゃんももちろん大歓迎。
誰が行くんだそんなとこ。この辺ジジイとババアしかいねえよ。受験のストレスで毎日カリカリしながら冷めた気分で俺はそう思っていたが、そんな考えこそ古臭かったようだ。
意外にも生徒は集まった。最初はポツリポツリ。今ではゾロゾロ。あの町のじいちゃんばあちゃんはIT機器に興味津々だった。
そのため俺の地元にいるご老人たちはスマホに詐欺電話がかかってきても動揺しないで通報できるし、ショートメッセージの内容の真偽も的確に判断できるし、パソコンの画面に怪しいポップアップが出てきたとしても冷静に対処できるだろう。
不安があれば周りにいる詳しい人にちゃんと聞ける。Wi-Fiとかいう輩にも恐れを抱かない。高齢者率の高い地域だがSNSやってる率もなかなかに高い。
「今じゃみんな歓迎ムードです。初期の人達がいい前例作ってくれたおかげで敵じゃねえってもう分かってるから、都会の若い人は色々知っててすげえよなって認識になってます」
おっかなびっくりの小心者だが好奇心は強くて攻撃的でもない。あそこはそういう住民性なのだろう。
あの土地を気に入って来てくれた人達が、仲間に入るためにこっちに合わせて頑張ってくれたのも大きい。
この前実家に帰った時も、年明けに餅を持ってわざわざ訪ねてきてくれたご夫婦と挨拶を交わした。その二人はショウくんちの近くに住んでいる。母さんに事務代行のバイトをすすめてくれたというあの女性だ。
持ってきてくれた餅は自家製だそうで、とんでもない巨大仕様。一般的なスーパーでは見かけないサイズだけれどあの地域では至って普通。
それを作っているのを見ればすぐに分かった。ここに馴染もうとしている証拠だった。それはほんの些細な事だが、小さい事こそが案外大事だ。
自家製のデカい餅をあげたら自家製のデカい餅をお返しにもらう謎文化も当然に受け入れていた。あのご夫婦もとっくに地元民になっている。
もうすぐお子さんも生まれるそうだ。あの一家ならまず間違いなく、周りが世話を焼きたがるだろう。
そしてあのご夫婦ならばきっと、そのお節介を嬉しいと言って笑いながら受け取るはずだ。
「最近は海外から来た人もいるみたいです。隣のそのまた隣の町なのでウチとはなんの接点もない人だけど」
お互い町などと慣習的に言っているものの正確には一つの市だ。
十年くらい前に町村合併があって今の市が新設されたが、町役場は当時のまま機能している。じいちゃんばあちゃん世代を中心に昔の町名を言う人もまあ多い。
「その一人だけなのであの辺の地域じゃ貴重な事例なんですよね。スペイン育ちのパブロさんって言って近所のばあちゃん達からモテモテらしい」
「お前んとこは穏やかそうだよな」
「来てくれる人みんな謙虚だから。押しつけがましい人なんかだったらあそこでは仲間に入れてもらえません」
ヘタすりゃ秒で村八分になる。たとえどれだけ大きく立派な夢を持って輝かしく飛び込んだとしても、そこの風土を抑圧でもしたらすぐにでも拒絶で返される。
狭い社会ではどうしても個性というものが潰されがちだ。だからこそ、その個性を発揮したいならなおさら、最初にすべきなのはその場に馴染むこと。
新参者の野良猫だって、敵意はありませんという態度を古参の猫達に示さなければならない。それと同じだ。賢明な処世術だ。仲間に入るために欠かせない敬意の態度だ。
礼儀を欠けばその人は過疎地を破滅から守る救世主どころか、地元民の暮らしを破壊するために下界から突如として襲いかかってきた恐ろしい怪物のように思われる。
「こういうのってもしかすると日本人同士の方が難しいとこあるのかな」
「そうか?」
「分かんないけど。でも海外からわざわざ日本に来るって事は、しかもなんでも揃ってる都会じゃなくてあんなド田舎に来るわけだから、少なからず日本のその土地に共感があるって事でしょ?」
「そうだろうな」
自分自身がその場所を好きになれるかどうかは大きい。自分が相手を理解しないうちに相手からの理解は得られない。
「パブロさんが引っ越してきたの、じいちゃんの弟の家のすぐ近くなんですよ」
だから俺もこの話を知っている。母さんが電話で言っていた。大叔父の近所に移住者が来たと。
隣の隣の町とはいえ家同士の距離はそこそこあるため会う事も滅多にないが、周囲は田んぼと畑ばかり。ウチの方と環境はそう変わらない。そんな辺鄙なド田舎に、異国からやって来た人がいる。
「俺がこっちに来た後のことなので母さんからチラッと聞いただけなんですけど、空き家を改装して日本風バルみたいなのを作ったとかで毎日賑わってるんだって」
「ほう」
「地元農家の規格外野菜を喜んで買い取ってるからご近所さんも良く集まってくるとか。ウチの大叔父んとこの野菜も使ってくれてるらしいです」
「移住の大成功パターンじゃねえか」
その通りだろう。あの周辺のエリアで酷いトラブルは聞いたことがない。
ネットで炎上していたような、北側の山向こうの限界集落とはそもそもの環境が異なる。
俺達が暮らしてきた地域は気候が割かし穏やかで、小川があるから水には困らず質の良い土壌に囲まれているため野菜や穀物も古くから安定して手に入っていたそうだ。それが山を少々越えただけで生きるための空気がガラリと変わる。
恵まれた土地にいるのだと、じいちゃんがよく言っていた。ここの人間はとても運がいい。それは選ばれたわけではなくて、たまたま幸運だっただけのこと。肥沃な土地があり、そこで育った。子供が大人になれる環境を初めから運よく与えられていた。
だからなのかあそこには性格のおっとりしている人達がとても多い。気候と同じく温厚で、ギスギスした空気感は生まれにくく、新しい人が少しずつ入ってきてもその雰囲気だけは変わらずにいる。
「奥さんは日本人だそうで、パブロさんも元々日本が好きすぎて文化とか作法とか熱心に勉強してたんだって。風土が気に入ってこっちに来たような人だから上辺だけじゃないリスペクトも周りにちゃんと伝わるんでしょうね。日本のあれこれに興味持ってて周りにも色々聞きたがるらしいし」
「いくつになっても可愛げは大事だ」
「ええ、本当に。ウチのその親族ちょっと性格に癖がある人なのに、パブロさんご夫婦とは珍しく気が合ったみたいです」
母さんが俺にこの話をしたのは去年くらい。こんな地方に海外の方が来てくれたという感動よりも、頑固なジジイに起きた変化に驚いている様子だった。
見たことも会ったこともなくても素敵なご夫婦なのだろうと想像できる。何せあの昭和なジジイを味方につけるような大物だ。
じいちゃんの弟とは言え、昔ながらの口やかましい大叔父が俺はガキの頃から苦手だった。あの大叔父がと言うよりも、じいちゃんだけが兄弟姉妹の中で一人だけ浮いていたように思う。
田舎では見かけないような考え方を持った人で、俺にはそれがかっこよく思えて、だからこそ他の親族達は正直なところ昔からあまり好きじゃない。今もだ。
親戚の集まりがあるときも、特にあのジジイのそばには近づかないように気を付けていた。
捕まると延々説教臭い話をされるから鬱陶しくて仕方がない。悪い人じゃないけど好きになれないのは身近な親族ではよくあることだろう。
そんなジジイが海外の人と、今ではなんと飲み友達。自分がこれと信じた価値観を捨てきれない頑固者にどういう気持ちの変化が起きたか、パブロさんからパエリアの作り方を習って最近は自分で飯担当を買って出る事まであるのだとか。
炊事場に男が立つもんじゃねえなどと本気で言ってのける化石ジジイだったのに。一体どんな魔法をかけてもらったのだろう。パブロさんがヤリ手なのか、ジジイも年取って少しは丸くなったか。
今のところ国外からの移住者はそのご夫婦だけ。しかもごく最近の話なのでこの先もずっといてくれるのかは分からない。
だがやはり日本人移住者と外国人移住者とでは、覚悟の大きさというか、質が違う。
「俺は東京出てくるだけでも勇気いったのに海外移住なんて怖くて無理です」
「生活の拠点ってのはそう簡単には決めらんねえよ」
「うん。もしも俺がどこか別の国で生まれてても、よりにもよってこんな東の小さい島国目指そうなんて決断だけはできないもん」
長らく一つの民族だけで国を築いてきたのが日本だ。ここでは外国人がいるとそれだけで目立ってしまう。俺ならばきっと耐えきれない。
瀬名さんも持っていたマグカップをコトリと置いた。いつもよりもっと静かな顔をして、そっと小さく口を開いた。
「昔テオが言ってた。自分はいつまで経っても結局、日本人にはなれねえんだろうと悩んだ時期があったって」
「え……?」
マユちゃんさんの妹さんの旦那さん。盆栽にハマっているという瀬名さんのご家族。
テオさんはかつて仕事でフランスからはるばる日本にやってきて、その縁で将来のパートナーに出会ったそうだ。そこまでの話ならば瀬名さんに聞いたことがある。
今は仕事でまたしばらく夫婦でフランスに行っているらしいが、それが終わればすぐにまたこの国に戻ってくるのだとか。そんなテオさんの、日本での悩み。
「日本人同士だったら怒られるような粗相でも自分だといつも許される。日本人なら出来て当然の事でも自分だと過剰に褒められる。周りが優しいからってのもあるが、そうなるのはきっと自分が外国人だからだ」
「それは……」
「テオがそう言ってんのを聞いたとき、俺は否定まではできなかった」
「……うん……」
日本の建前は良くも悪くも独特だ。ある意味では優しく美しい。ある意味ではとても、冷たい。
「みんな親切にしてくれる。それでもいつになったら本当の仲間になれるのかずっと不安だったと言ってた」
「……今は?」
聞けば、瀬名さんはふっと笑った。
「将来を誓いたいと思った相手の家族に紹介された時、そんな事でいちいち悩んでんのはバカらしく思えたそうだ」
その相手がマユちゃんさんの妹さんだ。その家族というのが瀬名家だ。
「俺は生まれですぐの頃だからその時の記憶すらねえけどな。じいさんもばあさんも大喜びで受け入れたって聞いてる。真っ先にしたテオへの質問は国籍でも職業でもなく娘との馴れ初めだったらしい。かなりグイグイ詰め寄られたとかって」
「瀬名家っぽい」
「ああ。テオもその時に思い知ったんだとよ。国や社会にばかりこだわって目の前にいる人のことを見ずにいたのは自分の方だったって」
集団の中には色んな人がいる。集団の中身の全部を好きになるのも好きになってもらうのもおそらくは不可能だ。けれどその中にいる誰かと、分かり合える可能性は小さくない。
テオさんはマユちゃんさんの妹さんと出会った。そしてその家族に受け入れられた。親族だけじゃない。明確な繋がりがなくても、仲間になれる人は必ずいる。
それ以上は必要ないのだろう。分かり合いたい人達と、分かり合えることこそ幸運だ。
「……なんかちょっといい話聞いた」
「これはいい話なんかじゃねえ。あの家族が前の世代からずっと狂ってるっていう残念な話だ」
こうもやたらと口は悪いがその血を引いている瀬名さんと、俺も東京に出てきて出会った。そのご家族とも仲良くなれた。
慣れ親しんだ地元を出ていなければ、俺は今こうはなっていない。
「よその地域で楽しく暮らせる人だって大勢いるんですよね」
「そういう奴は大概どこに行ってもうまくやれる」
「逆にどこに行こうと失敗する人はしますけど」
「こうなってくると場所だけの問題じゃねえな」
葉っぱの形をしたチョコレートをつまみ、葉脈の美しい模様を無視してパキッと小気味よくかじった。
俺の町ではこんな綺麗なチョコレートを売っている店など一軒もない。だけど本物の葉っぱならばそこら中に掃いて捨てるほどある。
俺はチョコも葉っぱもどっちも好きだ。チョコレートはいつだって美味いし、秋の落ち葉をたくさん集めて庭の真ん中に山盛りにしておけばガーくんが突進していくのを見られる。ガーくんと遊びながら家庭菜園用の堆肥まで作れる。
落ち葉を掃いて捨てるだけの小汚いゴミだと思うか、そうでないと思うかは人による。
梅の木と猫で楽しめる瀬名さんはおそらく後者の人だろう。ガーくんの落ち葉突撃シーンを見せたら絶対に感動するはず。
「瀬名さんの地元は移住者多い方ですか?」
「分かんねえ。どうなんだろうな」
「なんでそんな興味なさそうなの」
「実家周辺の平均年齢把握できてるお前とは違う。地元人口の増減なんかいちいち気にしてらんねえよ」
「故郷を捨てた大人はこれだから」
「捨ててはいない」
瀬名さんも地元が嫌いなわけじゃない。自分ちに自分の部屋がないだけだ。
「ただそれなりに出入りはある方かもしれない」
「そりゃそうでしょうよ、駅の方なんかあれだけ栄えてんだから。あのエリアからなら東京辺りまで通勤してる人も結構いるんじゃない?」
「多いと思う」
「ですよね。だってあそこ新幹線停まる」
「お前に言わせりゃあの辺りは田舎じゃなくて地方都市らしいからな」
「ちょっと人口密度の低い東京って言っていいと思います」
「良くねえよヤメロ恥ずかしい。教習所付近のド田舎具合ならお前も見てきただろ」
「あっちの方はまあまあ僻地感ありましたけど、瀬名さんのご実家がある辺りはお店も多いし不便そうな感じもなかったです。便利ってことはつまり都会だよ」
「本当にやめてくれ。根っからの都会人に鼻で笑われる」
「俺はあれくらいが好きだけどな。ちょうどよく暮らしやすそう」
「そうか。気に入ってくれたならよかった。夏休み一緒に行こうな」
瀬名さんが急に元気になった。ご両親には三角テントのグランピング予約をすでにプレゼント済みだ。
皿の上に残っている三つ目のチョコレートは平たい円柱みたいな形。それをパクリと口の中に入れた。
硬すぎず柔らかすぎず噛み心地のいい甘みを堪能しながら、心なしかモヤッとする。なんだか何かを、忘れているような。
「……つーか俺らなんの話してたんだっけ」
「高遠」
「ああっ! そうだ。連絡放っといていいんですか?」
「関わってもこっちはなんも面白くもねえ」
「そんな嫌ってんのに高遠くん情報は的確に入ってくるのなんなの?」
「仲間内の注意報だよ。その情報も年々少なくなってきてるが。あいつと縁切る奴が増えるから」
「逆に良く今まで付き合ってやる人がいましたね」
「お人好しを嗅ぎ分ける能力だけはすこぶる高い」
好き嫌いが分かりやすい瀬名さんはお人好しには見えないはずだ。それでもなお声をかけてきたくらいなのだから、その人はすでに切羽詰まっているのかもしれない。
「いつか何かでデカいこと成し遂げられるといいですね」
「もしもあいつが大成功したら心からの拍手を贈れる」
嫌味が陰湿。
「でも俺はちょっと安心しましたよ。わざわざ危険を知らせてくれるような友達が瀬名さんにもいたなんて」
「どんだけ人をボッチだと思ってんだ」
「だってあなた俺より根暗だし」
「あんまりだろ」
可哀想だが事実だ。
「そもそも高遠くんはどうしてご実家の番号なんて知ってたんですか?」
「分からねえ。考えられるとしたら高遠に耐え切れなくなった誰かがうちの番号教えたか……」
「瀬名さんちならご両親強いし託しても大丈夫って思ったのかな」
「その可能性もなくはない」
瀬名さんもそこで納得したようにうなずいた。勝手に番号を教えた誰かがいたのかは定かでないが、なんて事してくれやがったと瀬名さんが怒るような気配もない。
二条さんのことですら初見では呆然とさせたご両親だ。息子の居所を知りたがっているらしきかつての同級生を相手に、元気にしてると笑顔ではぐらかすマユちゃんさんの様子がフワッと浮かんだ。
ほんわかしてるけど頼れるお母さん。その人が頂点にいてくれるわけだし、可愛らしい警備隊も二匹常駐しているし、キレると氷点下で怖いお父さんの存在もデカいし、ハイスペックな妹さんも休暇中はたまに帰ってくるし、瀬名家の結束力はとびきり強いし。
あれ以上に安全なおうちが、果たしてこの世にあるだろうか。
箱を開けただけでフワッといい匂い。三日前くらいにもらった時に勿体ないから後に取っておくと言って俺が棚に隠したのだが、瀬名さんは今のここが使い所と判断したのだろう。
「次もコーヒーはやめとこうな」
「うん」
「ルイボスティーでどうだ」
「うん。いいよ」
攻撃意欲が高まっている今の俺にはカフェインもよろしくないと瀬名さんは判断したようだ。
淹れたてのルイボスティーと一緒に、ニャンコのシルエットの小皿に乗っけて目の前に差し出されたチョコレート三粒。それぞれ形の違うのがちょこんと真ん中に並んでいる。三つだけなのはカフェインの抑制だろうか。
マグにはにゃんこ。お皿もにゃんこ。男二人が寝起きしているこの部屋に猫グッズが着々と増えていく。
ルイボスとチョコをお供に地方出身者同士で語り合うのはド田舎の行く末について。真面目に議論したい俺に、地方都市ご出身の瀬名さんも飽きずにとことん付き合ってくれた。
「俺は地元が好きなんです」
「知ってる」
「都会の人に何言われても田舎の味方したくなる」
「俺は遥希が何やらかしても味方するから安心しろ」
何かやらかすと思われてる。
チョコレートの匂いに癒されながら温かいルイボスティーを少しだけすすった。
この赤茶色のお茶すごく美味い。ミキちゃんと喧嘩したときにはルイボス飲ませてやるといいって明日浩太に言っておこう。
「でもあれって地方側のPRの仕方にも原因あるとは思うんですよね。自治体が誘致に熱入れてるとこだと特に」
「どうした急に。おやつ食って丸くなったか」
「一歩引いて語らない限り物事の本質は見えてきません」
「さっきまでお前沸騰してたけどな」
「残念ながら人間なので」
ポンコツだから一方向しか見えない。問題の全面全方向を示したケース別の解決策テンプレでもあれば考えることが減って便利なのに。
けれども対立する状況や立場ごとに分けて問題の所在とその中身を細かく分類しようものなら、億とか兆とか京とか垓通りの気の遠くなるようなパターンが必要になるだろう。争いや諍いがなくならない訳だ。
縦も横も斜めも奥行きも全て霞がかかってしまえば向き合えるのは眼前の一個だけ。沸騰が落ち着いてきた今は蒸気がちょっと薄くなったので右後ろ辺りからつついてみようと思う。
ノンカフェインの赤茶色のお茶に、ススッと軽く口をつけた。
「こっちに来てから何度か移住促進の広告を見かけました。あるでしょ、駅とかに」
「ああ」
「移住検討者向けの説明会みたいに普通の告知が多いけど、あなたが来るのを村人全員が大歓迎していますみたいな明るいポスターもたまにあるんです」
アナログな媒体に限らず、移住支援のウェブサイトなんかもそうだ。
のどかな田園風景。緑豊かな森林。澄み切った空。広大な海。笑顔溢れる活発な子供たち。そういう写真を背景にして、植え付けるように表示してある大振りのキャッチコピー。
田舎はあなたが理想とする場です。あなたの大いなる夢と挑戦を私達が全力で応援いたします。今こそあなたの力が必要なのです。
よくもまあそこまで自信たっぷりに躊躇なく言えるものだと感心する。嘘は言っていなかったとしても本当の事を言っていないなら実質的には結局ウソだ。
「人を集めるのが広告の役割だってのは分かりますよ。でもああいうのを見て勘違いする人だっていると思う」
「それでいざ来てみて思ったのと違けりゃ東京ではこうだったとか言いだす」
「本人が気に入れば上手くいくってもんでもないから余計に難しいんですよね。自分が過疎地を救ってやらなきゃみたいな謎の使命感持っちゃう人たまにいる。ありがたい事はありがたいんですけど」
「熱意も行き過ぎるとハマらねえからな」
都会が栄えているからと言って、都会で通じる方法をそっくりそのまま地方に当て嵌めれば良いという訳ではない。変わるのが時には必要であっても、踏むべき段階というものもある。
地方が良くなるようにあなた方の駄目な部分を教えてあげます。たとえ口に出してはいなくてもそんな姿勢が少しでも透けて見えれば、住民の大半は余計なお世話と感じるだろう。
「それで困惑するのはそこに住んでる地元民なのに、あの手の広告はほとんど罠です」
「言えてる。疲れてるときド田舎の田園風景なんか見せられちまったらそれだけで首都在住者の半分くらいは揺らぐと思う」
「実体験ですか」
「白状するとそうだ」
「アルパカの頃?」
「アルパカの頃が特に。田んぼのポスター見て泣いたことある」
深刻だ。
ほとんどは第三者目線の中立的なお知らせで、誤解を招かないように配慮しているのが分かる。
あとは敢えてネガティブな訴求をしてみる面白そうな地方なんかもたまに。
ウチに来ても田んぼ以外なんもねえよ。でもイノシシはいっぱいいるからぼんやりしてると突進してくるぞ。それでもいいって覚悟できてる猛者だけここに来てくれや。
そうやって堂々と開き直っているポスターをどこかで目にしたことがあった。明らかに振るい落としにかかっているけど俺はああいうのが正直で好き。そこに反感を抱くのであれば相性が合わない証拠とも言える。
誰でも大歓迎と言っておびき寄せるタイプのアピールとは方向性が真逆だろう。
「都会に疲れた移住検討者がいい面しか考えられなくなるようにしてる節があると思うんですよ。残業が鬼みたいに多いくせにその辺書いてない求人みたい」
「やっぱりな。転職と同じだ」
「それをメディアが半端に取り上げたりするから余計に理想郷っぽく見えますからね」
「支援金の大盤振る舞いだけ紹介されでもしたら終わりだろうな」
「下手に行政が介入してくると変にこじれたりしそうだし」
「金につられて母数だけが増えれば成功率はかえって下がるかもしれない」
それで悪評が立ったら最悪だ。
誰でもいいから来てなんて言ってはいけない。いくら過疎で困っているからと言って金で釣るのはもってのほかだ。過剰にへりくだって誘致してしまったら永遠に対等な関係は築けない。
そのうえ移住者に対する配慮の要請なんてものを自治体が住民側にし始めたらいよいよもう地獄だろう。地元民には移住者を受け入れてやってる感が出てくるし、移住者側には辺鄙な田舎に来てやっている感が出る。そうなった先に出来上がるのは不毛な対立構造だけだ。
という内容を中心に据えて社会学の課題レポートに書き殴って提出したのは今でもまだ覚えている。ゴミ記事を見た直後だったため課題という名のほぼ憂さ晴らしだったが獲得した評価は上々だった。
「ずっと顔馴染みだけが集まって暮らしてた所にいきなり知らない人が交じったら誰だって少しは警戒します」
「得体の知れねえもんはそりゃ怖い」
「俺もチビだったころ東京の人が近くに住み始めた時には動揺したもん」
とは言えチビだからこその好奇心が勝り、少し前まで空き家だったそのお宅をこっそり偵察しに行った。
東京から来た人が向こうの空き家に住み始めた。改修作業をすると言うから余っている資材を持って明日手伝いに行ってくる。
移住者歓迎派のじいちゃんが前の晩にそう言っていたのを聞いて、俺も秘かに後を追った。敷地の入り口のデカい木の影からビクビクしつつも覗き込んでいたところ、知らない顔の男性に見つかって声をかけられビクッとなった。ビクッとなったその横からはじいちゃんに何やってんだ坊主って言われて、そのあとは二人に交じってバタバタとお手伝いをすることになった。
「俺らもまずは分かりやすく警戒から入ってました。全然知らない人が来るとなんだあいつはどこのもんだっていう様子見期間ができるんですよ」
人間関係の狭い田舎ほどその傾向は強い。そのあと仲良くなれるかどうかもそれぞれだ。多分うちの親父も最初の頃は、遠巻きにされただろう。
それが今は先生なんて呼ばれて頼ってきてくれる人も多い。親父はじいちゃんの役割を継いだ。だから俺はあそこでのほほんと暮らせた。
俺がチビだったあの時に移住してきた東京の人もそう。今も同じ家にいる。
あれから周りも続々と集まって改修作業は順調に進んだ。手伝いのお礼だと言って俺にはいつもお菓子をくれたから、チビだった俺はそのお兄さんをいい人だと認識した。
お菓子くれたお兄さんはタケちゃんという。タケちゃんは都会ではこうだったなんて何があっても絶対に言わないし、田舎の魅力発信手伝ってやるよみたいな上から感覚は毛ほどもないし、むしろじいちゃんばあちゃん達から色んな事を教わりたがって、地域に馴染むために自分から積極的にあれやこれやと動きだすタイプだ。
ここの奴らはみんなお節介だよな。そんな冗談をかまして笑って周りと肩組んで酒飲める人だから、タケちゃんも今はすっかり完全な地元民だ。生まれた時からそこにいたみたいに。
地域の行事にも積極的で、毎年やってるガチの防災訓練に心から感動したらしく消防団に移住十日目で入った。夏の草むしり大会では物凄い成果を上げる。祭りの時は一番張り切る。何をやる時も人一倍楽しそう。
最近は役場に新しく入った松村さんといい感じらしいという浮かれた噂話も出回っている。松村さんも元は外から来た人だ。
「遥希の地元は順調に移住者増えてんだろ?」
「順調って言えるほどの増加率じゃないから平均年齢も全然下がってませんが、まあ。それなりには。警戒心は強いですけどあからさまな余所者イジメをする人はいないので」
増え方は本当に少しずつ。俺の身近なところではタケちゃんが最初で、それからは稀に話に聞く程度。
それでもあの町にやって来た人たちは今、農業やったりショップ開いたり特産物を新たにつくり出したり、熱心ながらもゆったりした雰囲気で地元民に交じって活動している。
慣習を踏みにじる人は一人もいない。けれど今までとは違うこともちょっとずつ始まっていった。
あの町の移住者の活動でこれまでに一番ビックリしたのはIT教室の開催だ。俺が大学受験の勉強に追われている頃、それはいつの間にか話題になっていた。
月に四回、一人一回三百円。ほとんどボランティアみたいなものだろうが、公民館のワークスペースを借りてスマホやらパソコンやらSNSやら色々と教えているらしい。子供から大人までどなたでもどうぞ。おじいちゃんおばあちゃんももちろん大歓迎。
誰が行くんだそんなとこ。この辺ジジイとババアしかいねえよ。受験のストレスで毎日カリカリしながら冷めた気分で俺はそう思っていたが、そんな考えこそ古臭かったようだ。
意外にも生徒は集まった。最初はポツリポツリ。今ではゾロゾロ。あの町のじいちゃんばあちゃんはIT機器に興味津々だった。
そのため俺の地元にいるご老人たちはスマホに詐欺電話がかかってきても動揺しないで通報できるし、ショートメッセージの内容の真偽も的確に判断できるし、パソコンの画面に怪しいポップアップが出てきたとしても冷静に対処できるだろう。
不安があれば周りにいる詳しい人にちゃんと聞ける。Wi-Fiとかいう輩にも恐れを抱かない。高齢者率の高い地域だがSNSやってる率もなかなかに高い。
「今じゃみんな歓迎ムードです。初期の人達がいい前例作ってくれたおかげで敵じゃねえってもう分かってるから、都会の若い人は色々知っててすげえよなって認識になってます」
おっかなびっくりの小心者だが好奇心は強くて攻撃的でもない。あそこはそういう住民性なのだろう。
あの土地を気に入って来てくれた人達が、仲間に入るためにこっちに合わせて頑張ってくれたのも大きい。
この前実家に帰った時も、年明けに餅を持ってわざわざ訪ねてきてくれたご夫婦と挨拶を交わした。その二人はショウくんちの近くに住んでいる。母さんに事務代行のバイトをすすめてくれたというあの女性だ。
持ってきてくれた餅は自家製だそうで、とんでもない巨大仕様。一般的なスーパーでは見かけないサイズだけれどあの地域では至って普通。
それを作っているのを見ればすぐに分かった。ここに馴染もうとしている証拠だった。それはほんの些細な事だが、小さい事こそが案外大事だ。
自家製のデカい餅をあげたら自家製のデカい餅をお返しにもらう謎文化も当然に受け入れていた。あのご夫婦もとっくに地元民になっている。
もうすぐお子さんも生まれるそうだ。あの一家ならまず間違いなく、周りが世話を焼きたがるだろう。
そしてあのご夫婦ならばきっと、そのお節介を嬉しいと言って笑いながら受け取るはずだ。
「最近は海外から来た人もいるみたいです。隣のそのまた隣の町なのでウチとはなんの接点もない人だけど」
お互い町などと慣習的に言っているものの正確には一つの市だ。
十年くらい前に町村合併があって今の市が新設されたが、町役場は当時のまま機能している。じいちゃんばあちゃん世代を中心に昔の町名を言う人もまあ多い。
「その一人だけなのであの辺の地域じゃ貴重な事例なんですよね。スペイン育ちのパブロさんって言って近所のばあちゃん達からモテモテらしい」
「お前んとこは穏やかそうだよな」
「来てくれる人みんな謙虚だから。押しつけがましい人なんかだったらあそこでは仲間に入れてもらえません」
ヘタすりゃ秒で村八分になる。たとえどれだけ大きく立派な夢を持って輝かしく飛び込んだとしても、そこの風土を抑圧でもしたらすぐにでも拒絶で返される。
狭い社会ではどうしても個性というものが潰されがちだ。だからこそ、その個性を発揮したいならなおさら、最初にすべきなのはその場に馴染むこと。
新参者の野良猫だって、敵意はありませんという態度を古参の猫達に示さなければならない。それと同じだ。賢明な処世術だ。仲間に入るために欠かせない敬意の態度だ。
礼儀を欠けばその人は過疎地を破滅から守る救世主どころか、地元民の暮らしを破壊するために下界から突如として襲いかかってきた恐ろしい怪物のように思われる。
「こういうのってもしかすると日本人同士の方が難しいとこあるのかな」
「そうか?」
「分かんないけど。でも海外からわざわざ日本に来るって事は、しかもなんでも揃ってる都会じゃなくてあんなド田舎に来るわけだから、少なからず日本のその土地に共感があるって事でしょ?」
「そうだろうな」
自分自身がその場所を好きになれるかどうかは大きい。自分が相手を理解しないうちに相手からの理解は得られない。
「パブロさんが引っ越してきたの、じいちゃんの弟の家のすぐ近くなんですよ」
だから俺もこの話を知っている。母さんが電話で言っていた。大叔父の近所に移住者が来たと。
隣の隣の町とはいえ家同士の距離はそこそこあるため会う事も滅多にないが、周囲は田んぼと畑ばかり。ウチの方と環境はそう変わらない。そんな辺鄙なド田舎に、異国からやって来た人がいる。
「俺がこっちに来た後のことなので母さんからチラッと聞いただけなんですけど、空き家を改装して日本風バルみたいなのを作ったとかで毎日賑わってるんだって」
「ほう」
「地元農家の規格外野菜を喜んで買い取ってるからご近所さんも良く集まってくるとか。ウチの大叔父んとこの野菜も使ってくれてるらしいです」
「移住の大成功パターンじゃねえか」
その通りだろう。あの周辺のエリアで酷いトラブルは聞いたことがない。
ネットで炎上していたような、北側の山向こうの限界集落とはそもそもの環境が異なる。
俺達が暮らしてきた地域は気候が割かし穏やかで、小川があるから水には困らず質の良い土壌に囲まれているため野菜や穀物も古くから安定して手に入っていたそうだ。それが山を少々越えただけで生きるための空気がガラリと変わる。
恵まれた土地にいるのだと、じいちゃんがよく言っていた。ここの人間はとても運がいい。それは選ばれたわけではなくて、たまたま幸運だっただけのこと。肥沃な土地があり、そこで育った。子供が大人になれる環境を初めから運よく与えられていた。
だからなのかあそこには性格のおっとりしている人達がとても多い。気候と同じく温厚で、ギスギスした空気感は生まれにくく、新しい人が少しずつ入ってきてもその雰囲気だけは変わらずにいる。
「奥さんは日本人だそうで、パブロさんも元々日本が好きすぎて文化とか作法とか熱心に勉強してたんだって。風土が気に入ってこっちに来たような人だから上辺だけじゃないリスペクトも周りにちゃんと伝わるんでしょうね。日本のあれこれに興味持ってて周りにも色々聞きたがるらしいし」
「いくつになっても可愛げは大事だ」
「ええ、本当に。ウチのその親族ちょっと性格に癖がある人なのに、パブロさんご夫婦とは珍しく気が合ったみたいです」
母さんが俺にこの話をしたのは去年くらい。こんな地方に海外の方が来てくれたという感動よりも、頑固なジジイに起きた変化に驚いている様子だった。
見たことも会ったこともなくても素敵なご夫婦なのだろうと想像できる。何せあの昭和なジジイを味方につけるような大物だ。
じいちゃんの弟とは言え、昔ながらの口やかましい大叔父が俺はガキの頃から苦手だった。あの大叔父がと言うよりも、じいちゃんだけが兄弟姉妹の中で一人だけ浮いていたように思う。
田舎では見かけないような考え方を持った人で、俺にはそれがかっこよく思えて、だからこそ他の親族達は正直なところ昔からあまり好きじゃない。今もだ。
親戚の集まりがあるときも、特にあのジジイのそばには近づかないように気を付けていた。
捕まると延々説教臭い話をされるから鬱陶しくて仕方がない。悪い人じゃないけど好きになれないのは身近な親族ではよくあることだろう。
そんなジジイが海外の人と、今ではなんと飲み友達。自分がこれと信じた価値観を捨てきれない頑固者にどういう気持ちの変化が起きたか、パブロさんからパエリアの作り方を習って最近は自分で飯担当を買って出る事まであるのだとか。
炊事場に男が立つもんじゃねえなどと本気で言ってのける化石ジジイだったのに。一体どんな魔法をかけてもらったのだろう。パブロさんがヤリ手なのか、ジジイも年取って少しは丸くなったか。
今のところ国外からの移住者はそのご夫婦だけ。しかもごく最近の話なのでこの先もずっといてくれるのかは分からない。
だがやはり日本人移住者と外国人移住者とでは、覚悟の大きさというか、質が違う。
「俺は東京出てくるだけでも勇気いったのに海外移住なんて怖くて無理です」
「生活の拠点ってのはそう簡単には決めらんねえよ」
「うん。もしも俺がどこか別の国で生まれてても、よりにもよってこんな東の小さい島国目指そうなんて決断だけはできないもん」
長らく一つの民族だけで国を築いてきたのが日本だ。ここでは外国人がいるとそれだけで目立ってしまう。俺ならばきっと耐えきれない。
瀬名さんも持っていたマグカップをコトリと置いた。いつもよりもっと静かな顔をして、そっと小さく口を開いた。
「昔テオが言ってた。自分はいつまで経っても結局、日本人にはなれねえんだろうと悩んだ時期があったって」
「え……?」
マユちゃんさんの妹さんの旦那さん。盆栽にハマっているという瀬名さんのご家族。
テオさんはかつて仕事でフランスからはるばる日本にやってきて、その縁で将来のパートナーに出会ったそうだ。そこまでの話ならば瀬名さんに聞いたことがある。
今は仕事でまたしばらく夫婦でフランスに行っているらしいが、それが終わればすぐにまたこの国に戻ってくるのだとか。そんなテオさんの、日本での悩み。
「日本人同士だったら怒られるような粗相でも自分だといつも許される。日本人なら出来て当然の事でも自分だと過剰に褒められる。周りが優しいからってのもあるが、そうなるのはきっと自分が外国人だからだ」
「それは……」
「テオがそう言ってんのを聞いたとき、俺は否定まではできなかった」
「……うん……」
日本の建前は良くも悪くも独特だ。ある意味では優しく美しい。ある意味ではとても、冷たい。
「みんな親切にしてくれる。それでもいつになったら本当の仲間になれるのかずっと不安だったと言ってた」
「……今は?」
聞けば、瀬名さんはふっと笑った。
「将来を誓いたいと思った相手の家族に紹介された時、そんな事でいちいち悩んでんのはバカらしく思えたそうだ」
その相手がマユちゃんさんの妹さんだ。その家族というのが瀬名家だ。
「俺は生まれですぐの頃だからその時の記憶すらねえけどな。じいさんもばあさんも大喜びで受け入れたって聞いてる。真っ先にしたテオへの質問は国籍でも職業でもなく娘との馴れ初めだったらしい。かなりグイグイ詰め寄られたとかって」
「瀬名家っぽい」
「ああ。テオもその時に思い知ったんだとよ。国や社会にばかりこだわって目の前にいる人のことを見ずにいたのは自分の方だったって」
集団の中には色んな人がいる。集団の中身の全部を好きになるのも好きになってもらうのもおそらくは不可能だ。けれどその中にいる誰かと、分かり合える可能性は小さくない。
テオさんはマユちゃんさんの妹さんと出会った。そしてその家族に受け入れられた。親族だけじゃない。明確な繋がりがなくても、仲間になれる人は必ずいる。
それ以上は必要ないのだろう。分かり合いたい人達と、分かり合えることこそ幸運だ。
「……なんかちょっといい話聞いた」
「これはいい話なんかじゃねえ。あの家族が前の世代からずっと狂ってるっていう残念な話だ」
こうもやたらと口は悪いがその血を引いている瀬名さんと、俺も東京に出てきて出会った。そのご家族とも仲良くなれた。
慣れ親しんだ地元を出ていなければ、俺は今こうはなっていない。
「よその地域で楽しく暮らせる人だって大勢いるんですよね」
「そういう奴は大概どこに行ってもうまくやれる」
「逆にどこに行こうと失敗する人はしますけど」
「こうなってくると場所だけの問題じゃねえな」
葉っぱの形をしたチョコレートをつまみ、葉脈の美しい模様を無視してパキッと小気味よくかじった。
俺の町ではこんな綺麗なチョコレートを売っている店など一軒もない。だけど本物の葉っぱならばそこら中に掃いて捨てるほどある。
俺はチョコも葉っぱもどっちも好きだ。チョコレートはいつだって美味いし、秋の落ち葉をたくさん集めて庭の真ん中に山盛りにしておけばガーくんが突進していくのを見られる。ガーくんと遊びながら家庭菜園用の堆肥まで作れる。
落ち葉を掃いて捨てるだけの小汚いゴミだと思うか、そうでないと思うかは人による。
梅の木と猫で楽しめる瀬名さんはおそらく後者の人だろう。ガーくんの落ち葉突撃シーンを見せたら絶対に感動するはず。
「瀬名さんの地元は移住者多い方ですか?」
「分かんねえ。どうなんだろうな」
「なんでそんな興味なさそうなの」
「実家周辺の平均年齢把握できてるお前とは違う。地元人口の増減なんかいちいち気にしてらんねえよ」
「故郷を捨てた大人はこれだから」
「捨ててはいない」
瀬名さんも地元が嫌いなわけじゃない。自分ちに自分の部屋がないだけだ。
「ただそれなりに出入りはある方かもしれない」
「そりゃそうでしょうよ、駅の方なんかあれだけ栄えてんだから。あのエリアからなら東京辺りまで通勤してる人も結構いるんじゃない?」
「多いと思う」
「ですよね。だってあそこ新幹線停まる」
「お前に言わせりゃあの辺りは田舎じゃなくて地方都市らしいからな」
「ちょっと人口密度の低い東京って言っていいと思います」
「良くねえよヤメロ恥ずかしい。教習所付近のド田舎具合ならお前も見てきただろ」
「あっちの方はまあまあ僻地感ありましたけど、瀬名さんのご実家がある辺りはお店も多いし不便そうな感じもなかったです。便利ってことはつまり都会だよ」
「本当にやめてくれ。根っからの都会人に鼻で笑われる」
「俺はあれくらいが好きだけどな。ちょうどよく暮らしやすそう」
「そうか。気に入ってくれたならよかった。夏休み一緒に行こうな」
瀬名さんが急に元気になった。ご両親には三角テントのグランピング予約をすでにプレゼント済みだ。
皿の上に残っている三つ目のチョコレートは平たい円柱みたいな形。それをパクリと口の中に入れた。
硬すぎず柔らかすぎず噛み心地のいい甘みを堪能しながら、心なしかモヤッとする。なんだか何かを、忘れているような。
「……つーか俺らなんの話してたんだっけ」
「高遠」
「ああっ! そうだ。連絡放っといていいんですか?」
「関わってもこっちはなんも面白くもねえ」
「そんな嫌ってんのに高遠くん情報は的確に入ってくるのなんなの?」
「仲間内の注意報だよ。その情報も年々少なくなってきてるが。あいつと縁切る奴が増えるから」
「逆に良く今まで付き合ってやる人がいましたね」
「お人好しを嗅ぎ分ける能力だけはすこぶる高い」
好き嫌いが分かりやすい瀬名さんはお人好しには見えないはずだ。それでもなお声をかけてきたくらいなのだから、その人はすでに切羽詰まっているのかもしれない。
「いつか何かでデカいこと成し遂げられるといいですね」
「もしもあいつが大成功したら心からの拍手を贈れる」
嫌味が陰湿。
「でも俺はちょっと安心しましたよ。わざわざ危険を知らせてくれるような友達が瀬名さんにもいたなんて」
「どんだけ人をボッチだと思ってんだ」
「だってあなた俺より根暗だし」
「あんまりだろ」
可哀想だが事実だ。
「そもそも高遠くんはどうしてご実家の番号なんて知ってたんですか?」
「分からねえ。考えられるとしたら高遠に耐え切れなくなった誰かがうちの番号教えたか……」
「瀬名さんちならご両親強いし託しても大丈夫って思ったのかな」
「その可能性もなくはない」
瀬名さんもそこで納得したようにうなずいた。勝手に番号を教えた誰かがいたのかは定かでないが、なんて事してくれやがったと瀬名さんが怒るような気配もない。
二条さんのことですら初見では呆然とさせたご両親だ。息子の居所を知りたがっているらしきかつての同級生を相手に、元気にしてると笑顔ではぐらかすマユちゃんさんの様子がフワッと浮かんだ。
ほんわかしてるけど頼れるお母さん。その人が頂点にいてくれるわけだし、可愛らしい警備隊も二匹常駐しているし、キレると氷点下で怖いお父さんの存在もデカいし、ハイスペックな妹さんも休暇中はたまに帰ってくるし、瀬名家の結束力はとびきり強いし。
あれ以上に安全なおうちが、果たしてこの世にあるだろうか。
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