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第二部
71.胸中いまだ人知れずⅡ
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「あー、マジやめっかなぁ学校。次停学くらったら退学届出せっつわれてんだよね。超ウゼぇしアイツ」
「小山田って誰にでもそれ言うじゃん」
「つーかどうせ退学なら辞める必要なくね?」
「確かに」
ギャハハハっと、下品かつ最低的に頭の悪い笑い声がわき起こる。
こいつらみんな死ねばいいのに。この学校の敷地内は至る所が溜まり場と化している。馬鹿か不良か廃人しかいない。底辺校という名のゴミ溜めだ。
北校舎と南校舎とを繋ぐ、この渡り廊下もまた例外ではなかった。教師の目の前であろうと構わず平気で煙草を手に取るような奴らだ。動物みたいに脳のない話を繰り広げることが何よりの楽しみ。
どこまでくだらないのだか。なんで俺がこんな所に。
高校受験に失敗しても全ては大学に懸ければいい。そう自分に言い聞かせてきたが、そろそろそれも限界だ。
合否結果発表直後はショックからしばらく立ち直れず、何もかも嫌になっていて事あるごとに投げやりだった。それをなんとかかんとか乗り越え良い方向に考えようとするも、残念ながらこの環境。プライドを傷つけられた上にライオンの群れに放たれた子羊の気分だった。
こいつらみたいに生きられたらな。ものっすごく頭悪いけど、その分悩みもなさそうでいいよな。
などと百パー見下しながら、廊下に堂々と座り込んでいる上級生たちをよけて通った。極力目は合わせない。野生の猿相手と同じ対処法だ。
しかしこっちが見ていなくても、あっちはジロジロこっちを見ていた。思っていたことは顔にも出ていたようでそそくさ通り過ぎた直後、めちゃくちゃ不機嫌そうな声を背中に投げつけられてしまった。
「待てよ」
「…………」
あーあやだやだ捕まった。因縁めいた口調に肩を落とした。
シカトすると余計に面倒な事になるからしぶしぶながらも足を止め、ゆっくりと振り返ると一斉に凄まれた。三人いるうちの三人ともが揃って立ちはだかってくる。
全員に上から睨み落とされた。すみませんが大金は持っていません。
「お前、一年? いま俺らのこと見てたよな」
「なに。なんか言いたいことでもあるわけ?」
「…………」
タイプがめちゃくちゃ古いんですけど。なんですか、ここだけ平成初期ですか。
とはさすがに言えず黙っていたがそれでやり過ごすことは不可能。三人は俺を取り囲んで壁際に押い込んできた。校内の渡り廊下で堂々とカツアゲ態勢。
「っなんとか言えよ!」
「スカしてんじゃねえぞッ、バカにしてんのか!?」
「…………イエ」
してるけど。言えないし。際立って体格がいい訳でも特別ケンカが強い訳でもないから、ここで下手に言い返して痛い目を見るなんてごめんだ。
子羊一割、廃人少々、不良がほとんどのこの校内。立場の弱い下級生が食い物にされる事なんてザラだ。こいつらも元より目的はそれで、イチャモンをつけながら迫ってくる。
「人のこと見下しやがってよ。すげえ腹立つ」
「なあ礼してけよ。年上不愉快にさせといてそのままサヨナラってのはナシだろ」
笑える。全然笑えないけど。可哀想なくらいに頭が悪い。凄み方も田舎者丸出しではあるが、背後は壁だし目の前の三人はすでに手元をグーにしている。
財布にいくら入っていたっけ。なけなしのお小遣いを差し出そうか。金は惜しいが痛いのも嫌。行き着く答えは一つだろう。
制服のズボンの後ろポケット。そこに財布を突っ込んである。躊躇うことなく手を伸ばし、ところがちょうど掴みかけたその時、廊下の角から歩いてくる一人の男子生徒が目に入った。
三人は俺を取り囲むことに夢中で後ろの様子に気づいていない。それがどうという訳でもないが。
ここに来てすぐに学んだ。日常的に繰り返されるこの手の光景。わざわざ割って入ってまで人助けをするような生徒はこの箱の中に誰一人いない。子羊が絡まれていようと気にせずその横を通過してきた俺だってそのうちの一人だった。
分かっているから望みは持たない。殴られないようにお菓子代をおとなしく差し上げるのが吉。こっちに向かってくるその人との距離がほぼなくなっていた頃にはすでに財布を手にしていた。
俺が札を取り出す僅かな時間さえも待つ気がないのはこの三人。バッと手をかけられている。
が、そいつが俺の財布に触れたのと、ドガっという鈍い音が短く立ったのは同時だった。そいつが前のめりに体勢を崩したせいで財布は弾みで床へと落下。
「っんだコラ……」
蹴られた背中に手を当てながら勢いのまま振り返ったそいつ。しかしそこでピタリと、動きを止めた。他二人も同じように振り返った瞬間にピシリと凍り付き棒立ちに。
通り過ぎていくとばかり思っていたその人は、今は不機嫌に眉間を寄せて三人を睨み付けていた。三年生だろうか。険しい顔つき。全身に纏った近寄り難い雰囲気が印象深い。
先程までとは打って変わって縮こまる不良連中よりもいくらか背が高いその人。細身でスラッとしていそうなのに着崩した制服が全てを台無しにしていた。けれどそれが欠点にならないくらい、真っ先に目に入るのは整った顔立ち。
「邪魔だ」
精巧な人形よりも綺麗な顔には迫力があり、表情が連想させる通りの不機嫌な声を聞いた。
睨み付けられている三人は一様に竦み上がった。すごすごと俺から離れて壁際にまとまって寄っていく。カニみたいな横歩きはとんでもなく間抜けだった。
「ぁ……スミマセ……」
「行こうぜ……。すいませんっした」
縮こまったまま慌ただしく逃げ出していくその三人。一人取り残された俺はその場にポカンと立ち尽くし、妙に端正なその顔を見上げ、思わず目を瞬かせた。
「あ、の……」
助けてくれたのだろうか。俺が小さく呼びかけると、その人はチラっと視線を寄越してきただけで興味なさげに目を逸らした。
それ以上のリアクションはない。何も言わず、そのまま進路を元に戻して歩いて行く。
「…………」
それが先輩との出会いだった。
「小山田って誰にでもそれ言うじゃん」
「つーかどうせ退学なら辞める必要なくね?」
「確かに」
ギャハハハっと、下品かつ最低的に頭の悪い笑い声がわき起こる。
こいつらみんな死ねばいいのに。この学校の敷地内は至る所が溜まり場と化している。馬鹿か不良か廃人しかいない。底辺校という名のゴミ溜めだ。
北校舎と南校舎とを繋ぐ、この渡り廊下もまた例外ではなかった。教師の目の前であろうと構わず平気で煙草を手に取るような奴らだ。動物みたいに脳のない話を繰り広げることが何よりの楽しみ。
どこまでくだらないのだか。なんで俺がこんな所に。
高校受験に失敗しても全ては大学に懸ければいい。そう自分に言い聞かせてきたが、そろそろそれも限界だ。
合否結果発表直後はショックからしばらく立ち直れず、何もかも嫌になっていて事あるごとに投げやりだった。それをなんとかかんとか乗り越え良い方向に考えようとするも、残念ながらこの環境。プライドを傷つけられた上にライオンの群れに放たれた子羊の気分だった。
こいつらみたいに生きられたらな。ものっすごく頭悪いけど、その分悩みもなさそうでいいよな。
などと百パー見下しながら、廊下に堂々と座り込んでいる上級生たちをよけて通った。極力目は合わせない。野生の猿相手と同じ対処法だ。
しかしこっちが見ていなくても、あっちはジロジロこっちを見ていた。思っていたことは顔にも出ていたようでそそくさ通り過ぎた直後、めちゃくちゃ不機嫌そうな声を背中に投げつけられてしまった。
「待てよ」
「…………」
あーあやだやだ捕まった。因縁めいた口調に肩を落とした。
シカトすると余計に面倒な事になるからしぶしぶながらも足を止め、ゆっくりと振り返ると一斉に凄まれた。三人いるうちの三人ともが揃って立ちはだかってくる。
全員に上から睨み落とされた。すみませんが大金は持っていません。
「お前、一年? いま俺らのこと見てたよな」
「なに。なんか言いたいことでもあるわけ?」
「…………」
タイプがめちゃくちゃ古いんですけど。なんですか、ここだけ平成初期ですか。
とはさすがに言えず黙っていたがそれでやり過ごすことは不可能。三人は俺を取り囲んで壁際に押い込んできた。校内の渡り廊下で堂々とカツアゲ態勢。
「っなんとか言えよ!」
「スカしてんじゃねえぞッ、バカにしてんのか!?」
「…………イエ」
してるけど。言えないし。際立って体格がいい訳でも特別ケンカが強い訳でもないから、ここで下手に言い返して痛い目を見るなんてごめんだ。
子羊一割、廃人少々、不良がほとんどのこの校内。立場の弱い下級生が食い物にされる事なんてザラだ。こいつらも元より目的はそれで、イチャモンをつけながら迫ってくる。
「人のこと見下しやがってよ。すげえ腹立つ」
「なあ礼してけよ。年上不愉快にさせといてそのままサヨナラってのはナシだろ」
笑える。全然笑えないけど。可哀想なくらいに頭が悪い。凄み方も田舎者丸出しではあるが、背後は壁だし目の前の三人はすでに手元をグーにしている。
財布にいくら入っていたっけ。なけなしのお小遣いを差し出そうか。金は惜しいが痛いのも嫌。行き着く答えは一つだろう。
制服のズボンの後ろポケット。そこに財布を突っ込んである。躊躇うことなく手を伸ばし、ところがちょうど掴みかけたその時、廊下の角から歩いてくる一人の男子生徒が目に入った。
三人は俺を取り囲むことに夢中で後ろの様子に気づいていない。それがどうという訳でもないが。
ここに来てすぐに学んだ。日常的に繰り返されるこの手の光景。わざわざ割って入ってまで人助けをするような生徒はこの箱の中に誰一人いない。子羊が絡まれていようと気にせずその横を通過してきた俺だってそのうちの一人だった。
分かっているから望みは持たない。殴られないようにお菓子代をおとなしく差し上げるのが吉。こっちに向かってくるその人との距離がほぼなくなっていた頃にはすでに財布を手にしていた。
俺が札を取り出す僅かな時間さえも待つ気がないのはこの三人。バッと手をかけられている。
が、そいつが俺の財布に触れたのと、ドガっという鈍い音が短く立ったのは同時だった。そいつが前のめりに体勢を崩したせいで財布は弾みで床へと落下。
「っんだコラ……」
蹴られた背中に手を当てながら勢いのまま振り返ったそいつ。しかしそこでピタリと、動きを止めた。他二人も同じように振り返った瞬間にピシリと凍り付き棒立ちに。
通り過ぎていくとばかり思っていたその人は、今は不機嫌に眉間を寄せて三人を睨み付けていた。三年生だろうか。険しい顔つき。全身に纏った近寄り難い雰囲気が印象深い。
先程までとは打って変わって縮こまる不良連中よりもいくらか背が高いその人。細身でスラッとしていそうなのに着崩した制服が全てを台無しにしていた。けれどそれが欠点にならないくらい、真っ先に目に入るのは整った顔立ち。
「邪魔だ」
精巧な人形よりも綺麗な顔には迫力があり、表情が連想させる通りの不機嫌な声を聞いた。
睨み付けられている三人は一様に竦み上がった。すごすごと俺から離れて壁際にまとまって寄っていく。カニみたいな横歩きはとんでもなく間抜けだった。
「ぁ……スミマセ……」
「行こうぜ……。すいませんっした」
縮こまったまま慌ただしく逃げ出していくその三人。一人取り残された俺はその場にポカンと立ち尽くし、妙に端正なその顔を見上げ、思わず目を瞬かせた。
「あ、の……」
助けてくれたのだろうか。俺が小さく呼びかけると、その人はチラっと視線を寄越してきただけで興味なさげに目を逸らした。
それ以上のリアクションはない。何も言わず、そのまま進路を元に戻して歩いて行く。
「…………」
それが先輩との出会いだった。
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