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儀式
「若奥様。それそろ、あれの準備を始めたいのですが、何からすればいいのか教えていただけますか?」
(あれの準備?)
花梨に指示をするよう頼まれたが、なんの準備をするのかわからず首を傾げてしまう。
「あれとは?」
「浄化の舞のことです。三日後なので、そろそろ準備した方がよろしいかと思ったのですが、早かったでしょうか」
花梨に言われてようやく三日後に浄化の舞をしないといけないことを思い出した。
(やっば。すっかり忘れてた。てか、浄化の舞って何やればいいんだっけ?)
「あー。とりあえず、衣装かな」
衣装と言ったが、実際なにを着て舞うのかよくわかっていなかった。
着物を着て舞うことだけはわかってはいたが、これで花梨にも「どんな衣装ですか?」と聞かれたらどう答えるべきか、内心焦っていた。
「衣装ですか。特に指定がなければ、こちらでご用意しましょうか?」
花梨は一瞬、自分が燃やすように頼んだせいで衣装がないのかと焦ってしまったが、すぐに違うと思いなおし冷静に尋ねた。
「本当。なら、頼むわ」
今の花梨なら大丈夫だと判断し、衣装の用意を任せることにした。
花梨が衣装を用意するために部屋から出て行くと、浄化の舞の踊りを思い出すために、確認で踊ったが半分以上忘れていた。
当主に連絡して、浄化の舞の動画を送るように頼もうとしたが、スマホは圏外だった。
(役に立たねー)
スマホを放り投げ、覚えている鍵の記憶をつなげて最後まで踊ってみた。
一日中、練習したおかげで、最後まで踊れるようになった。
楽器の演奏ほどではないが、これくらいのレベルでいいかと、雅家の態度を思い出して真面目にやるのが馬鹿らしく思えてきた。
だが、彼らに踊りを見られ馬鹿にされると思うと、完璧に仕上げたくなり、残り二日も朝から晩まで真面目に練習した。
だが、その必要はなかったと当日の朝に知った。
それは、花梨が浄化の舞の準備を手伝っているときだった。
この屋敷の中で花梨だけは唯一、私の顔を知っているので手伝うことを許していた。
「若奥様。準備が整いました。どこか気になるところはありますか」
「ないわ。お疲れ様」
「では、私はここでお帰りをお待ちしております」
(ん?花梨は来れないのかしら?)
「そう。わかったわ」
部屋から出ると、既に山に一緒に入る妖狐たちがいた。
彼らとともに屋敷を出るために正門へと向かうと、そこに雪乃以外の雅家の人たちが待っていた。
一緒にいくのか、と思っていると「どうぞ、くれぐれも気をつけて行ってきてくださいね」と誰かに言われた。
仮面をつけていたため、誰に声をかけられたのかはわからなかった。
声から男と言うことだけはわかった。
それと、こんな丁寧な話し方をした人物は、当主と彪雅だけはありえないことだけはわかった。
(長男か三男のどちらかだろう。言い方的には三男っぽいけどね)
まぁ、どっちでもいいか思い聞き流していると「一人で一日中、ずっと舞うのは大変でしょうけど頑張ってくださいね」と梨々花に言われたことが衝撃的過ぎて、一瞬、意識を飛ばしてしまった。
(え?今なんて?一日中?一人で舞う?)
そんな大変なこととは聞いていない。
今からでも逃げてしまおうか、と悪い考えが頭の中をよぎるが、花梨が用意してくれた着物が目に入り「そんなことやっちゃあ駄目だよな」と思い直した。
「ええ。それが務めですから」
そう言って、籠に乗ると雅家の者たちは見送りもせずに、この場から去っていった。
ただ一人、桔梗だけはそこにいた。
声をかけるわけでもなく、ただ立っていた。
私も桔梗に声をかけることはなかった。
どうせ明日には帰ってくるし、そもそもこれは契約結婚。
お互いを好きで結婚したわけではない。
会話をする必要もない。
だけど、何も言わずにそこにいられると気になってしまう。
結局、私たちはお互いに声をかけることなく、列は動き出し、山へと向かっていった。
私は籠に乗っているだけなので疲れないと思っていたが、さすが雅家と言ったところか。
籠は動くたびに大きく揺れ、体のいたるところが籠の中でぶつかった。
(こいつら。絶対わざとね)
あからさまに喧嘩を売ってくる妖狐たちに腹が立つが、浄化の舞を行うのは初めてで、何が起こるかわからない以上、できるだけ体力は温存しておきたい。
終わったら後悔させてやる、と彼らに対しての殺意を何とか抑えて儀式が行われる場所まで耐えた。
山道はそんなに険しいわけではないが、儀式の場に着くまで三時間ほどかかった。
そのおかげで、なんども体のいたるところをぶつけたが、私が何事もなかったかのように普通に籠から出てくると、妖狐たちは驚いて目が点になっていた。
神力が莫大なお陰で、痛みは感じるが怪我はすぐ治るため、この程度の嫌がらせでは私に怪我を負わせることはできない。
お面をつけているせいで、妖狐たちには私の顔を見ることはできなかったが、彼らの慌てふためく姿を見るのは気持ちがよくて、つい鼻で笑ってしまった。
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