カメリアの王〜悪女と呼ばれた私がゲームの悪女に憑依してしまった!?〜

アリス

文字の大きさ
1 / 19

悪役令嬢に憑依した!?

しおりを挟む
ああ、なんでこんなことに……

いや、原因はわかってる。

でも、いくらなんでもここからスタートするのはどうかと思う。

もう少しやりやすいところからスタートさせてくれてもよかったのではないか?


私は目の前にいる小説のヒロインを見つめながら、自分自身に憑依させるためにこの世界に連れてきた悪女に心の中で文句を言う。

私が何故小説の中の人物に憑依する羽目になったかというと、その原因は数時間前に遡る。





仕事を終え、家でビールを飲みながらテレビを見ていると、いま女性達の間で大人気乙女ゲームのCMが流れた。

そのCMは何回か見たことがあった。

そのときは興味もなく「へぇー、こういうのが流行ってるのか」くらいにしか思っていなかった。

だが何故か今日は気になり、気づけばそのゲームをダウンロードしていた。

「運命の相手はあなた!ドキドキ、ラブタイム……これがタイトル。めちゃくちゃダサいわね」

イラストはとても綺麗で人気になるのも納得できるが、タイトルは子供っぽく引いてしまう。

タイトルが違えば更に人気になっていたと思う。

「まぁ、とりあえずやってみよう」

タイトルのせいでプレイするのをやめようかと思ったが、ビールを一気飲みしてお酒の力を借りてゲームを始める。

ゲームの攻略キャラは5人いて、途中までは同じ内容だが選んだ相手によって話が変わってくる。

だが、全ての攻略キャラの好感度を100にすると全員と付き合えるという隠しエンディングもあった。

一人のイケメンに好かれるだけでも嬉しいことなのに、全員と付き合えるなんて現実では絶対に有り得ない。

だからこそ、それが叶うこのゲームが女性達の間で大人気になったのだとゲームをして気づいた。

「内容は面白いけど、私は好きになれないわね」

全ての攻略キャラを4時間かけてクリアした。

実際にやってみるとなぜ人気なのかはわかったが、ヒロインだけが簡単に愛されるという設定がムカつきどうしても好きになれなかった。

そういう設定だから仕方ないことだとわかっていても、悪役に設定された子が不憫で可哀想だった。

いや、それだけじゃない。

悪役の子が自分と似ていると思ったからだ。

周りに勝手に「悪女」だと言われ、嫌われる姿が重なった。

ただ一つ違うとすれば、私は悪女として生きることを決めてそういう人生を選んだこと。

だけど、本当はそんな人生など送りたくなかった。

周りの人達のせいでそういう人生を送るしかなかったから仕方なくそうしただけ。

イラストを見る限りヒロインより悪役の子は美人。

それに、何より攻略キャラ達よりも強い魔力を持っている。

もしその力を正しく使っていれば、歴代最強の大魔法使いにもなれた。

まぁ、設定のせいでラスボスとしてヒロインと攻略キャラ達の手によって殺されるという運命になるのだが。

「もっと上手く生きればよかったのに。そうすれば、あなたはヒロインよりも……いや、誰よりも好かれる人になれたのに……」

悪女の設定を思い出し、私は気づけばそう呟いていた。

悪女はヒロインや攻略キャラ達以上のチート設定があったが、育った環境のせいで性格が歪み、それを活かすことが出来ずに死んだ。

そう思うと残念で仕方ない。

ゲームのキャラに同情するなんて馬鹿げている。

わかっているのにそう思わずにはいられなかった。

「もし、私がその世界にいたら貴方を守れたのに……」

その言葉を最後に私は意識を手放した。

次に目を開けるとそこは真っ暗な世界だった。

すぐにこれは夢だとわかった。

目を覚まそうと頬をつねったり、叩いたりするが無駄だった。

諦めて夢から覚めるのをまとうと床に座って待つ。

すると、少し遠いところから光が見えた。

急に光るので何なんだと不審に思いながら近づいた。

夢だから傷つくことも死ぬこともないので大丈夫だろうと思い。

「……やっぱり夢ね」

光に近づき、そこにいる人物を見て確信する。

「レイシー・カメリア」

さっきまでゲームしていたキャラの悪女がいた。

寝る直前までゲームをしていたからレイシーが夢に現れたのだと思った。

暫くレイシーを見ていると彼女は私に気づき話しかけてきた。

「あなた、さっき言ったことは本当?」

今にも泣き出しそうな顔でレイシーは私に尋ねる。

'さっき言ったこと?何も言ってないけど……?'

私はレイシーの言っていることがわからず返事に困る。

「……えっと、私は今ここにきたばかりなのよ……誰かと勘違いしていない?」

「それはないわ!」

レイシーはきっぱりと言い放つ。

「……どうしてそう言いきれるの?」

「だってここは私が作った魔法の世界なの。ここは私を心配してくれる人以外来れないよになっているの。だから、さっきの言葉はあなたが言ったはずよ」

そうでしょう、と縋るような目でレイシーは私を見る。

'そう言われても記憶にないんだけど……'

どうしたものかと困り果てていると、寝る前に言ったことのことを思い出し、そのことを言っているのではないかと気づく。

もしそうなら、レイシーの最初の質問に答えは私ということになる。

「ねぇ、質問に答える前に一つ聞かせて欲しい」

「なに?」

「あなたが聞いた言葉は何だったの?」

私の問いにレイシーはゆっくりと口を開きこう言った。

「あなたはヒロインよりも誰よりも好かれることができたって、私を守ってくれるって……そう言ってたわ」

その言葉を聞いて「確かにそれは私が言ったわね」と認める。

例え夢でも本人に面と向かって聞かれると恥ずかしくて何と言えばいいかわからず困っていると、何も言わない私に焦ったのかレイシーは「嘘ではないわよね!?本当にそう思っているのよね!?」と叫ぶ。

「勿論よ。嘘じゃないわ。本当にそう思ってる」

「そう。その言葉が聞きたかったの」

私の言葉を聞くとレイシーは安心したような、今にも泣き出しそうな何とも言えない顔で笑う。

「なら、もしあなたが私だったら……レイシーだったら彼らに勝てる?私のような結末にはならない自信はある?」

レイシーが何でこんなことを尋ねるのかと疑問に思うも、すぐに夢だから大した意味はないだろうと決めつけ私は考えるのをやめる。

「あるわ。それとこれまでしてきたことを償わせ、生まれてきたことを後悔させてやるくらいできるわ」

本当に自分がレイシーだったらそうしている。

そう思ったからそう言った。

夢だとしても少しでもレイシーの心が軽くなればいいと思って。

「もしそれが本当にできるのなら、私の代わりにあいつらに復讐して。私は生まれてきてもよかったんだって証明して……お願い」

レイシーは目から大量の涙を流しながら目の前の名前も知らない女性に頼む。

私はそんなレイシーを優しく抱きしめ、彼女の苦しみを少しでも和らげようとこう言った。

「わかったわ。あなたの代わりに私が復讐してあげる。大丈夫。あなたの無念は私が必ず晴らすわ」

実際にそんなことできるわけないとわかっている。

わかってはいるが、レイシーの気持ちが痛いほどわかり気づけばそう言っていた。

無責任だと、そう言われても仕方ない。

それでも彼女のために、いや自分のためにそう言わずにはいられなかった。

「ありがとう。あとはあなたに任せるわ。もし復讐できなければ貴方は死ぬことになる。忘れないでね。今から貴方は……」

私は彼女の言葉を最後まで聞くことができずに、意識が遠くなっていくのを感じた。

目が覚めるのだと何となく思った。

目覚める前にもう一度レイシーの方に視線を向けると、彼女はどこか吹っ切れたように笑い、光に包まれながら消えていった。

彼女が消えたのを確認すると、今度は自分の周りが輝き出す。

眩しくて目を瞑る。

暫くそのまま目を瞑っていたが、急に光が消え目を開けると、そこには寝る前にしていたゲームのキャラ、ヒロインのロベリア・ミューアがいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

処理中です...