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最弱魔法使い?

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「ねぇ、ずっと気になってたんだけど、それって大魔導師花冠の魔導書だよね」

カルーナが大事そうに持っている本を指差す。

「はい、といっても複製本ですけど」

カルーナはこの後言われる言葉が何かわかる。

「カルちゃんって魔導師なの?」

紫苑の言葉にやっぱりと苦笑いしてしまう。

「いえ、魔導師ではないです。僕は魔法使いです。一応」

魔法を扱う者達にはランクがあり、呼び方が異なる。

魔力はあるが使うつもりがない者を魔力持ち。

魔力があり魔法を使いたい者で一番下の位が魔法使い。

その次が、魔導士、魔導師、大魔導師と続く。

大魔導師と呼ばれた者は七名だけで、三百年前を最後にその位に至った者はいない。

「あ、そうなのね。ん?今一応って言った?魔法使いに一応とかある?」

「僕魔力が全然ないんです」

だから、それが何?と言わんばかりの顔をしてカルーナを見る。

何が言いたいことがわからず混乱する。

「僕の魔力量は魔力が全くない人と大して変わらないレベルの量しかないんです」

カルーナは言い終わると下を向いてしまう。

どうせ紫苑も自分のことを馬鹿にするんだろうと思ってしまう。

いつもそうだったから。

両親も友達も町の人達も皆、カルーナの魔力量が魔力がない人と大して変わらないと知ると馬鹿にする。

どんなに悔しくても何も言い返せない。

ただ笑って「そうですね」と言うしかない。

文句を言ったって殴られるだけ。

それなら笑って耐えた方がマシだった。

今回もそうすればいい。

そう思って「僕本当才能ないですよね」と言おうと口を開くが、紫苑が予想とは違うことを言うので驚いて一瞬固まってしまう。

「ふーん、そう。それよりその本ちょっとだけ見してくんない?」

ニコッと女がコロッと落ちそうな愛らしい笑みを浮かべてお願いする。

「あ、はい、どうぞ」

カルーナは困惑した。

今までの誰とも違う反応に。

馬鹿にされるかの心配以前に興味すらもたれなかった。

これが普通の魔力をもった魔法使い、魔導士、魔導師なら馬鹿にされていると紫苑の態度に腹を立てたかもそれないが、カルーナには有り難かった。

「……これは回復魔法の本だね」

ペラペラと本をめくり少し内容をみて言う。

「はい。でも、僕は殆ど使えないんですけどね」

「カルちゃん、君はさ、さっきからどうして自分を卑下するようなことばかり言うんだい?」

紫苑の言葉に「何も知らないくせに知ったよう口を聞くな!」とそう叫びたかったが、結局口から出たのは「すみません」だった。

「別に謝る必要はないよ」

紫苑は別にカルーナを叱るつもりも問い詰めるつもりもない。

ただ純粋に何故そこまで自分を卑下しているのか気になったから聞いただけ。

それだけのことだったが、カルーナはどうしようもなく恥ずかしくなりこの場から逃げたしたくなった。

何も言えずただ黙っていると紫苑が続きを言う。

「カルちゃんはさ、魔法嫌いなの?」

「……嫌いじゃないです」

そう、嫌いじゃない。

寧ろ好きだ。

でも、自分の魔力量では簡単な魔法すらまともにできない。

それが恥ずかしくて好きだと堂々と言えない。

「だよね。嫌いならこんなにならないよね」

紫苑はカルーナから本を受け取り本をめくる。

紙は何度もめくられたのか結構傷んでいる。

この本をどれだけ読んだのかがわかる。

「カルちゃんはさ、魔力の量が少ないと魔法を使っちゃあ駄目だと思ってる?魔法使いになる資格がないと思ってる?」

紫苑の問いにカルーナは心の中でそうだと答えるも、声に出せば自分の中の何かが失われそうで何も言えずにいる。

紫苑はそれを肯定と捉え、その考えは違うと否定する。

「それ間違いだから。少なくとも俺はそう思うし、大魔導師花冠もそう思っているよ」

「……どうしてそう思うですか?」

花冠の名がでてカルーナはようやく顔を上げる。

「どうしてって、だってそうでもなきゃ説明つかないじゃん。花冠は魔王を倒し世界を破滅させる魔法すら防ぐ膨大な魔力を持っていた。それでも、他の魔導師の為に魔法を教えた。花冠からしたら、例え同じ大魔導師の称号を持っている者達とカルちゃんは大して変わらない存在だと思うよ。それくらい圧倒的な差があるんだよ」

まるでその力を実際に知っているみたいに話す紫苑を不思議に思うも、直ぐに内容の方が気になりどうでもよくなる。

「(確かに紫苑さんの言っている通りかもしれない。僕からしたら大魔導師は手の届かない雲のような存在。でも、花冠からしたら僕も同じ称号の大魔導師達も大して変わらないかもしれない。それでもやっぱり僕には……)」

カルーナの目が一瞬希望の光が宿るも直ぐに真っ暗に変わる。

紫苑はカルーナが何を考えてるのか心を読まずともわかった。

「カルちゃん。魔法が好きなら好きなだけ挑戦すればいいと俺は思うよ。確かに魔力量は生まれ持った才能だよ。カルちゃんの魔力量は魔導師、いや魔法使いになるのにも致命的かもしれない。でもね、それって諦める理由になる?俺はそうは思わない。カルちゃんもそう思っからこんなになるまでこの本を読んだんでしょ。魔法を本当に好きじゃなきゃ、花冠の魔導書なんて読まないでしょ」

違う?そう言われカルは「違わないです」と小さな声で答える。

「でも、僕は花冠の本を読んでもちっとも魔法が使えないです。僕には才能がないから、本当は資格がないんです。親にも町の人達もそう言うです。『お前は魔力持ちの面汚しだ』って『魔法を使う資格がない』って。でも、それでも僕は花冠が世界を救った魔法が好きで知りたいって、使ってみたいって思ったんですけど全然上手くできなくて諦めなきゃいけないって何度も思ったんですけど……それでも、もしかしたら明日はできるかもしれないって、いつかは魔法を使えるようになるかもしれないって思ったんです……」

魔法が好きなのにせっかく魔力があるのに自分は魔法を使えないと知ったときは絶望した。

最初はそこまで魔法に興味はなかった。

でも、ある日薬屋のおじさん、ピリエスに会い大魔導師花冠のことを知った。

その日からピリエスのところに行き花冠のことを聞いた。

花冠のお陰でこの世界も人もそれ以外の種族は尊厳を取り戻し幸せを取り戻したのだと。

花冠の魔法はそれは高度なもので殆どのものが使えない。

千年前は空を飛べた人間は花冠だけだった。

今は何人か飛べるものはいるが花冠みたいには飛べない。

殆どの魔導師は箒や剣に魔法をかけ飛んだりする。

他にも攻撃魔法や防御魔法、千年前の魔導師が作った魔法を未だに使えないものは多く存在する。

花冠のお陰で魔導師の基準は大幅に上がったが、それでも殆どの魔法は花冠以外使えない。

カルーナは自分が花冠みたいに魔法を使えるとは思ってはいない。

ただ、世界を救った魔法がどんなものか知りたかったし使ってみたかった。

それだけの理由だが、カルーナにとっては大事で生きる意味だった。

「すみません、急にこんなこと言って。本当すみません」

ふと我に返り急に自分が言ったことが恥ずかしくなった。

あんなこと言うつもりなかったのに。

紫苑の言葉に触発され、今まで誰にも言ったことない本音を言ってしまった。

後悔して謝るも紫苑の顔を見ることはできずまた俯いてしまう。

カルーナは下を向いていたから紫苑がどんな顔をしていたか知らなかった。

もし見ていたら一緒に旅をしようとは思わなかっただろう。

「(花冠は己の命を人生を捧げてこの世界を救った。それは並大抵の覚悟ではできないこと。どうして花冠が自らの全てを捧げてその道を選んだかは誰にもわからない。でも、今の俺達がこの世界があるのは花冠のお陰だ。花冠は自分を犠牲にした。それなにのどうして人間は簡単に忘れるんだろうな。花冠はどうしてこんな者達の為に死なないといけなかったんだ)」

カルーナが悪いわけではない。

そんなことわかっている。

でもカルーナとの会話やここに来る前に会った人間達を思い出し、どうしようもない程やるせない気持ちになる。
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