春夏秋冬〜神に愛された男〜

アリス

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王命 2

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「おい、お前いい加減にしろよ。王命だからなんだ。何故レオン団長がそこに行かないといけないのか。その理由を言えと言っているんだ。それを言うのがそんなに難しいのか」

はぁ、と深いため息を吐くとウィリアムに冷たい視線を向け問い詰める。

ウィリアムはユエルの殺気に体がビクッと跳ね上がり小刻みに震えだす。

「逆に何故そんなに知りたがるのですか。この件にユエル団長は関係ないでしょう」

ウィリアムは言った後後悔した。

関係ない。

この言葉を団長としてこの場にいるユエルに絶対に言ってはいけなかった。

何故ならその言葉はこの国を、民を守るため最前線で命をかけて戦うユエルに対する冒涜だからだ。

もし、ユエルを敵に回したら一瞬でこの国は終わる。

王が王でいられるのはユエルがいたからだ。

この国は何度も他国からも妖魔からも襲撃を受けてきたが、それを全部押し除けることができたのは間違いなくユエルのお陰だった。

最近はレオンもユエルほどではないがこの国の危機を何度か救っているがユエルには遠く及ばない。

この国が今もなおあり続けることができるのは間違いなくユエルがいるからだ。

そんな人物に「関係ない」という言葉は決して言ってはいけない。

そんなこと子供でもわかることなのにウィリアムは恐怖からか負けたくないというプライドからかはわからないが、つい口に出してしまった。

「ほぅ、関係ないか。それをこの俺に向かって言うのか」

「いや、今のは違うんだ。つい、といか、何というか。本当はそんなこと言うつもりはなかったんだ」

まずい。

ウィリアムの顔にそう書いてある。

自分の失言のせいでユエルを怒らせてしまったことに焦りだす。

「つい、口から出たと言うことか。つい、出てしまうくらいそう思っていたということか」

「違う!そんなことは思っていない」

何か言わなければと焦れば焦るほど何を言えばいいのかわからなくなる。

誰もウィリアムを助けない。

団長達は全員ユエルを尊敬しているので軽率な発言をしたウィリアムを助けようとは思わなかった。

ウィリアムの部下達はユエルの圧に何も言えずただ立ち尽くすことしかできない。

「まぁ、そういうことにしといてやる。話を元に戻すぞ。これが最後通告だ。何故レオン団長がカメリアの森にいかなければならない。答えろ」

ユエルがここまで理由を尋ねるには理由(わけ)があった。

レオン達十一団が守る場所は団の中で最も広い。

それにも関わらず団員は二番目に少なく。人手が足りていない。

今、レオンが消えるのはまずい。

あそこはレオンがいるからこそ何とか保てている。

王族や貴族がレオンを嫌い幼稚な嫌がらせをしているのには気付いていた。

レオンやジョンにたいする嫌がらせが表立ってされないのは、影でユエルが圧をかけ守っていたからだ。

もし、今回の王命がレオンを潰すものなら容赦なく目の前の人間を殺してやると誓う。

「カメリアの森に妖魔が確認された。その報告を受け第一、三、九の団員数名が確認したが全滅し、その等級が凶であると我々は判断したが、もしかしたら凶以上かもしれない。凶以上の妖魔を倒したことがあるのはこの国には二人しかいない。まだ、絶、魔と決まっていないのにユエル団長を行かすわけにはいかない。それで、もう一人の人物のレオン団長に行ってもらうことに決まった」

ウィリアムの言っていることは正しいが何故か引っかかる。

何か重要なことを隠している気がして、レオンはどうしようもない不安に襲われる。

「ちょっと待ってください。それならそうと最初から言えばいいではありませんか。何故頑なに言おうとしなかったのでしょうか。何か他に隠していることがあるのではないですか」

レオンと同じことを思ったジョンが問い詰める。

「貴様、無礼だぞ。貴様のような人間がウィリアム様に話しかけるな」

ウィリアムの部下が叫ぶ。

ユエルには何も言えなかったが平民上がりの団長のジョンには強気な態度をとる。

「無礼なのは貴様だ。ジョン団長は貴様より爵位は上だ。我々団長は皆同じ爵位。ジョン団長にそのような態度を取るということはここにいる全ての団長にたいする冒涜でもある。わかっているとは思うが、貴様には然るべき処罰を受けてもらうぞ」

貴族達の身分と騎士団の身分は本来なら貴族の方が上だが、団長だけは違い貴族の一番上の公爵と同じ階級が与えられている。

それほど、団長という階級はこの国にとって重要なのだ。

「ユエル団長、そこまでしなくても……」

いいじゃないか、ウィリアムは続けようとして止める。

ジロリ、と鬼のような目で睨みつけられ何も言えなくなる。

「わかった。但し、処罰を決めるのはジョン団長だ。それだけは譲らん」

ユエルが決めたことなら誰も文句は言えないがジョンなら裏から手を回しどうにかできると考えての提案だった。

「いいだろう。ジョン」

「はい。では、一週間以内に第十一、十二の二つに寄付をして下さい。そうですね、両団に十億アールお願いします」

「なっ、ふざけるな!そんな大金出せるか!」

男は侯爵なので二十億アール出せるが平民団には一アールも出したく無い。

「わかった。私が必ず払わせよう」

ユエルは男の声など聞こえていないかのように話を進める。

「全く貴様らが来てから話が一向に進まん。邪魔しに来ただけなら帰ってくれ。後で王に直接聞いた方が早い」

「待て。王は忙しい。私が答える」

今の王は無能なので宰相ができ、裏で操れている。

もし、ユエルが王に何か吹き込んだら困る。

「なら、きちんと答えろ。次話が逸れたら貴様が何と言おうと王のところに行くからな」

「ああ」

「では、先程ジョン団長が聞いた問いにまず答えろ」

「それは……」

「どうした。答えないのか。なら、仕方ないか」

王のところに向かおうとする。

「待て!言う、言うから」

「なら、早く言え」

ドカッ、と音を立て座り直す。

「信じられないかもしれないが、今から言う話は本当だ」

「御宅はいいからさっさと言え」

中々話そうとしないウィリアムに苛つきはじめる。

「ある女がどこからもともなく現れてこう言った。レオン・ハーデンベルギアを連れてこい。さもなくば、この国を四百年前に訪れたあの呪いをかけてやる、と」
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