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第参章 魔導剣舞祭典

魔導剣舞前夜祭

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 久しぶりに着た式典用の制服。長いスカートが鬱陶しいし、それより長い式典用のブレザーはかなり重い。それも私が不機嫌になっている理由の一つだ。

「そんなにカリカリすんなよ。せっかく、一年生じゃ二人しかなれない選抜生になれたんだから」

「そうだけど。でもありえなくない?私たちに何一言言わずに休学なんて」

「まぁな。それに家族にも言わないように頼んでるしな」

 私と幸平が永和のお見舞いに行った翌日、先生から告げられた急な休学。私たちが会いに行った時には何も言わなかったくせに、私たちに言った最後の言葉だって『またね』だったのに。

「ほんと、腹が立つ」

 他の学生がいるなか、私は大きなテーブルに手をつく。

「まぁ、そうため息つかずにさ?せっかくの前夜祭なんだから楽しもうぜ。ほら、周りを見ればいい男はたくさんいるぞ」

 いつの間にか広まった私が持つ永和への恋心は噂となって、幸平の耳にも届くと、ことあるごとくいじられる。

「いいの。それにいい人がいても、その人が永和よりもいいなと思える人がいるとは思えなんだよね」

「そうか?俺とかいいと思うけど?」

「少なくともあんたはないね」

 こんな感じのやり取りを何度繰り返してきただろう。この冗談も彼の本音なのかもしれないと、思うことは初めの方に辞めた。

「酷えな。ステータスとかみても十分だと思うけどな」

「そんなことしか言えないからあんたはないのよ」

 永和はそんなこと決して言わないもん。
 そんな話をしていると、後ろから何かしら気配を感じて、緊張感が湧いてきた。仲のいい人にはガツガツと行けるし、自分から誰かに行くのは簡単なんだけど、知らない人に話しかけられるのは得意じゃないんだよな。

「すいません、よかったらお話しませんか?」

「えっ?!」「ん?」

 そこにいたのは、『晴天第二魔法学校』の二年生の制服を着ている男子。でも、見覚えがある気がするんだよな・・・、誰だっけ。

「俺は『向坂 雄平』っていいます」

「知ってます!」

 驚いた。彼の名前を聞いたとたんに隣の幸平が興奮を抑えきれなかった。

「それは良かった。『井魔 陽太郎』さんのに知ってもらえてるなんてです」

 私も聞いたことのある名前、やっぱり幸平の親族なんだ。魔賊だから、ではなく有名人の親族。珍しい彼の独特な印象、これに彼自身どう思っているのか少し気になった。
 どんな顔してんの?!

「あ、俺お邪魔ですよね」

 不思議な顔のまま彼は、私との距離を取った。

「いや、いきなりですいませんね」

 気になっていた彼の訛り、関西風でも少し優しい気がする。

「いえ、全然大丈夫ですよ。でも、どうして私なんかに?」

「いやぁ、可愛いお姉さんを見つけたらちょっと気になってん」

 彼が話す新鮮な訛りがいつも通りの私を出させてくれない。距離の詰め方がスマートで、いつの間にか彼の手は私の手のすぐ隣に置いてあった。

「そうですか、どの人ですか?その可愛いお姉さんって」

「そんなん、あなたやなかったら声かけへんよ」

 彼は、私に対してどんな感情を抱いてそんなことを言ったのだろう。しかし、どんな風に思われてても私には永和がいるから、おのずと答える言葉は決まってくる。それでも学校を通しての関係性なら、彼が申し訳ないと思うことはなるべく避けないと。

「あら、嬉しい。だとしたらごめんなさいね、先約はいますよ?」

「そりゃ残念。なら、その予約キャンセルでぇへんの?」

「私ぃ、物事をはっきり言う男性が好きなんですよねぇ」

 どうしてだろう、彼と話していると体が温かくなってのどが渇く。
 手元にあるオレンジジュースを口に運ぶと、時間がかなり遅く感じた。戦闘の中、私の実力以上を引き出すことができて覚醒していると自覚できるあの感覚。そっくりだ。

「ほな、はっきり言わせてもらうわ。ちょっと少しだけ、二人で抜け出さへん?」

 そんな言葉をよそに見えたのは、式典用の上着を着た永和だった。どんな状況であっても二ヵ月くらい会ってない好きな人を見れば、当然それ以外のことは頭に入ってこない。

「ごめんなさい。ちょっと用ができたので」

 そう言って、彼の誘いを振り切って永和が見えた出口に向かう。

「どうかした、日向?」

「あ、幸平。いや今一瞬、永和が見えたから・・・」

 永和を探しているうちに私の覚醒は解けてしまった。いつも通りの速度で回りが動き、感じる体温もあの人と話す時よりもかなり下がった。

「永和が?」

 休学中の彼がここにいるなんてあり得るのだろうか、それも式典用の上着なんて着ちゃって。似合ってな・・・、永和だったらだけど。

「ってか、向坂さんはどうした?」

「え?いや、だってどんな人かも知らない人と話すより、久しぶりに会った人と話す方が楽しいじゃん?」

「それが好きな人なら、なおさらってか?」

 幸平から返ってきた言葉に俺は何も返すことができなかった。ただ顔に少し力が入って、少し気が緩んだ気がする。

「そこの二人、もう少ししたら魔法帝のお話があるから中に入りなさい」

 どこの学校の制服か覚えていないけど、そういうことを言うってことは、先生なのかもしれない。そう思いながらも私たちは元いた大広間に戻る。
 私たちが元々居たところに戻って辺りを見渡しても向坂さんの姿は見当たらなかった。
 会場が暗闇に包まれていき、ステージ側から一定のリズムをとった音が聞こえる、床を叩くヒールの音。視界が奪われているからこそ、その音が余計に大きく耳に届く。それに私も違和感を感じた。

「日向」

「うん、なんか変」

 互いの顔は見えなかったけど、険しい感じは伝わってきた。
 そして、何本かの光の円柱がステージに立った女性を目立たせた。

「日向、俺から離れるな」

 女性に視線が集まる中、幸平はどうしてか扉の向こうを見ていた。その幸平の言葉に一瞬気が抜けた、その直後、女性が魔法帝に変わった。

「やぁ、今を生きる学生諸君。いや申し訳ないね、こんな茶番に付き合わせて。でも、今回のことに反応できたのはか、まだまだだね」

 、それはきっと彼を見ていない十人くらいの生徒なのかもしれない。つまり、私はまだそこまで行けていない。下や横を見て、私は強くなったと誤解していた。きっと永和はその十人の中に入る、幸平はもうそこにいる。私もまだまだ上に行かなきゃ、他を見ている場合じゃない。

「でもまあ、今回は私のちょっとしたが為した結果に過ぎない。前置きはこの辺にしといて」

 あたりの空気が一瞬で変わり、姿勢が勝手に正される。

「夏も終わり、魔道士が動きやすい季節になってきました。明日から行われる魔導剣舞祭典は多くのギルドがあなたたちを期待の目で見ることでしょう。プレッシャーはこれからもかかっていくもの。時には命に関わることもあるでしょう。そんな中でも、実力を発揮できる人こそ真の魔導師と言えるんだと私は思います、みなさんもがんばってくださいね」

 魔法帝が足を一歩下がったところで、拍手が始まり鳴りやむのに時間がかかった。ちょっとしたで感じた違和感、それだけで多くはない生徒が意識を取られ、戦闘態勢を整えるなんて流石は魔法帝というべきなのか、今の私じゃ前に立つことすら許されない。

「日向?」

 私を心配してくれる隣の人も、いずれ超えなきゃ行けないんだ、永和の為に。

「ごめん、大丈夫」

「そ?なら良かった。悪いけど、知り合いに挨拶しに行ってくる。なんなら一緒に行くか?」

 私はその誘いに頷かず、彼を見送る。
 知り合いのいない中でもパーティは、とても寂しく思えた。周りにはたくさんの人がいるのに私のことを認識してる人なんて存在しない。魔法を使えば別なのかもしれない、でもそれで認識されるのは不届き者や敵などの犯罪者としてだけ。私ではない。
 そう言えば、初めて永和に声をかけてもらった時は今と似ているように思えた。知り合い同士で集まるクラスメイト、一人で進学した私はその中に紛れることができなかった。恋愛対象から友人になったのに、今では片思いの相手なんて、私も大変だな。

「あのぉ、もしかして、おひとりですか?」

「えっ!?あ、はい。あまりこういう場所は得意じゃないので」

 私と似た雰囲気を纏っていた少女。見た目だけだとまだ中学生にも見える、可愛いな。

「私は、昊天第一の『楠原 真鈴』です」

「私は、曇天第四の『小川 日向』です」

 初対面の相手に話しかけるのにかなりの勇気が必要な私と同じ分類の人だと、この二言で感じ取った。それに、各学校の制服の肩に学年を示す線があってよかった。彼女同じ一年生だ。

「曇天第四って、最近かなり強いところじゃないですか」

「いやいや、強いのは先輩とかなので。私はお零れをもらってここにいるような感じです」

 恐らく、選抜試験の結果からすれば私は補欠だった。永和が休学したから今ここにいるんだと思う。

「だとしてもお零れを貰える立場に行くのは大変ですよ」

 それを昨年の優勝校に言われても困る。

「それより昊天第一に入るだけでもすごいのに、選抜メンバーに入る方が凄いですよ」

 私自身、こういった女子の会話は得意じゃない。見据えた言葉を言って互いに褒め合い、自己肯定感を満たすだけ。いつまで経っても苦手意識は取れない。

「まあ、魔法しか取り柄ないので」

 同類だと思っていた自分が恥ずかしい。全く違う、私の嫌うタイプの子だった。
 前夜祭のパーティが終わるまで真鈴さんと共に居て、迎えに来た幸平と私たちの泊まるホテルに向かう。

「なんか、疲れてる顔してんな。大丈夫か?」

「うん、もうヘトヘト。明日もあるから今日はもう寝るよ。先輩は別の部屋で少し話してくるって言ってたし」

 同室の先輩は、私が部屋に戻る頃には別の部屋に移動していた。重たい荷物を脱ぎ、疲れを流してベッドに身を投げると、すぐに夢が始まった。
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