あの雨のように

浅村 英字

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八限目

進級

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 またこの季節がやってきた。
 桜が舞い、心地のいい風の吹く季節。俺が生まれて季節が丁度一周したことで、タイムリミットという単語が脳裏に染みつく。

「今年からクラスは違うね」

 輝度高等学校うちは、二年生に上がるときに文理系のどちらのクラスに進級するか選ぶことが出来る。俺は理系に、響空は文系に進むことを決めた為、同じクラスになることはなくなった。

「だな。授業で分からないことがあったら、いつでも教えてやるぞ」

「成績良いからって、あんまり調子に乗るな!」

 響空に彼氏がいるという情報は、彼女自身から発信することがなかったため、広まることはなかった。そしてその結果、俺と付き合っているという可能性が生徒間でなくなることはなかった。でも、俺たちは大勢の前でこの距離感を見せることは相変わらずなかった。

「それじゃ」
「またね」

 二年生の教室に着いた時、クラスメイトのメンバーに驚いた。基本的なメンバーはほぼ一新され、同じクラスだったのは、佐藤未来、久導蒼午、松本寅丸の三人。知り合いは、三人の他に未山悠凛、齋藤弥生の二人。他二十五人は全く知らない人だらけだった。

「やっぱりお前も理系だったか、辰矢」

「まあな。先生に相談したら、俺の学力なら後から文系に行っても何も問題ないらしいからね」

 文理別れたことでの大きな違いは、それぞれの科目数でしかない。三年生になれば、就職や進路に合わせた授業を行われるが、進級時に変更できる以上、今回は気にしなくても構わないからな。

「だとしても、将来に関係することが輝度高等学校うちは多いじゃん?将来のこと決めてんの?」

 俺が今持てる将来という単語の意味は、数年後でしかない。仮に将来のことを考えるとしたら、仕事として確実な成功が約束される小説家になるだろう。だとしたら、俺が進む系統はここではなく、文系の方になるだろう。

「私は、ちょっと意外かも」

「サトミ、何で?」

「だって」「よく本読んでるからだろ?」

 未来と弥生には、俺の正体の一つを偽装して伝えている。でも、いくら偽装したのを伝えたからとは言え、彼女から俺のことを口にされるのは、どうにも気が向かない。

「あ、うん。そうそう」

「なんかあるだろ・・・」

「ねえよ、バカ!」

 新しいクラスの担任は、俺のことをちゃんと理解している岩先生だった。

「今日からこのクラスを担当します。去年俺が担当した人は分かると思うけど、俺は基本放任主義だから。問題が起きない限りは、好き勝手で楽しく行こうと思うからよろしく」

 去年の先生のクラスは、一段と自由だったイメージは確かにある。岩先生が俺の担任になったのは、おおよそ俺のことが大きくかかわっているのだろう。学年で二クラスしかない理系クラスでも、俺のいるクラスになることなんてそんなにない気がする。
 一連のホームルームが終了し、新学期最初の授業が終わった。

「そろそろじゃない?」

「何が?」

「先輩だよ」

 蒼午が何を言っているのか分からなかったが、次の瞬間納得した。

「辰矢くん!」

「華巳先輩?!どうしてここに?」

 どうして教えてもない教室に来たのだろう。

「ありがとね、蒼午」

「いえ、先輩からのお願いとあらば」

 紳士的挨拶をする蒼午が俺の居場所を彼女に教えたのかと、一発蹴りを入れる。

「イッテ!蹴んなよ。しかも割と本気だろ」

「余計なことを言った罰だと思え」

「ちょっと、そんなことしなくていいでしょ!余計なことを言われたくないなら、自分からちゃんと報告してよ」

 それを俺が好んでいないのは先輩もよく知っているだろう。そしてなんなら、先輩に俺の教室に来て欲しくないとすら思っていた。

「ほら!行こ!」

 俺は先輩に手を取られ、向かったのは意外にも図書館だった。

「何で図書館なんですか?」

 先輩が行きそうなところと言えば、お洒落なカフェみたいな人のいる空間だと思っていた。

「だって、ここじゃないと話せないこともあるでしょ?」

 彼女の一言で、これから話される話題が何なのか急に絞れた。俺の一番嫌がる話題をここで話すのは、ある意味逆効果なような気もするが、彼女は何を考えているのだろう。
 俺たちは、図書室の奥にある本棚の前に用意されているスペースに腰を下ろす。

「ねぇ、私真剣に考えたんだけど。やっぱり私と付き合わない?」

「だからそれは・・・」

「分かってる」

 分かっていないから彼女は、俺にこの話を何度もさせるんじゃないのか?と俺は疑問に思った。

「でも、私ならあなたのことを他の人より多く知ってるし、一緒にいれるためなら私は・・・」

 続きは獣を喰らう櫻で書いたような気がする。

「確かに、俺も似たようなことを考えたことはあります。でも、駅の裏で話しましたよね。一緒にいる時間が苦ってわけじゃないですけど、俺の好みとも違うし、先輩の目指すに俺が付いていける気がしないんです」

 先輩の言う通り、俺と一緒にいるために先輩の将来みちを制限するのは、俺自身好まない。それに制限しないとしても彼女の大きく速い足取りは、俺は決してついていけない。

「それは・・・」

「聞きましたよ。先輩は卒業後芸能界入り確定だった。スカウトも何社からも来ているって噂されてますよ」

「それは、そうだけど」

 どうして、終わりの分かる結末を彼女は繰り返すのだろう。

「一年だけでもいいの」

 『押してダメなら引いてみる』とか彼女の頭の中にはないのだろうか。三度目の正直でもダメだったのなら引いてみるのも一つの手だろうと、俺は考えてしまうのだけれど。

「先輩はどうしてそこまで好きなんですか?」

「最初は、私の知らない種類の人間だった。私の話してる時の相槌とか、あなたの聞く体制が私にとってとても心地よくて」

 俺が小説家でよかったと思えた。俯瞰することで他社の考えをすることが多い小説家の能力のおかげで、今の状況を俯瞰して見ることが出来る。でもその視界から見えるのは、あくまでも俺の勝手な物なのは理解している。

「人間は手にいれたと思うものを失うのが一番惜しくなるらしいですよ。もしかして、先輩は俺のことをそう思ったんじゃないですか?」

「それは違う!」

 自分勝手すぎて、先輩に申し訳ない。時々聞く、フる方も辛いというのは、こういう事なのかもしれない。

「八方美人状態で苦しむのは、よく分かります。病気を持っている俺には、似たような状況を経験したことありますから」

 先輩は俺の言葉を聞きながらも、感情があふれ出ていた。

「林間学校の帰り、先輩とのことも考えました。似たような環境を経験している先輩には、俺との秘密を共有しても問題は、ないだろうって思いました。でも」

 俺はあと何回先輩を苦しめたらいいのだろう。

「俺には、先輩といるよりも一緒に居たい。例え、秘密を今後隠して行かなきゃいけなくても、病気のことも忘れられるそういう存在がいたんです」

 先輩の情報収集力ならきっと分かってるだろう。俺が響空に振られたこと。

「それが、あの子なの?」

「はい」

 季節も一周したんだから進級したのは、歳だけじゃいけない気がする。

「俺は、一緒にいて楽な人がいいんです。先輩といると楽よりも楽しいとか、恵まれてるとか。そっちが多いんです」

「・・・楽じゃ、ないんです」

 俺には、残りの時間で先輩のために費やす時間がないように思えた。いや、先輩が残りの学生生活で俺に尽くしてもらうのは、俺自身申し訳ないと思ってしまったという方が確実なのだろうか。
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