零れ落ちる心情は下唇を食んで ~本気になれない僕たちは~

透百合

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自分の性的趣向が男だと知ったとき、俺はなんとなくこの先”フツウ”の恋ってやつはできないんだろうなと思った。お父さんお母さんごめんなさい。BLでよくある男性妊娠は科学技術がかなーーーーり進まないと不可能なので、孫の顔はどうやら見せてあげられそうにありません。でもだからって俺は自分が男を好きになったことに後悔はないんです。堂々と学校のプールの時間に好きな人の上裸が見れるし、なんならトイレの中ではちんこが拝めます。これほどまで自分が男に産まれ、同性を愛したことに感激したことはないでしょう。思えば初恋の幼稚園の先生は男だった気がするので、気づいたところで今更ショックはあまり受けませんでした。
そんな俺ももう高校生になります。ここまでこんなにも元気に育ててくれてありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。






『零れ落ちる心情は下唇を食んで
~本気になれない僕たちは~』







俺が受験した男子校には、同じ中学出身のやつらが一人もいなかった。クラスが違ってもつるむことはできるだろうと校門で渡された紙には見覚えのある名前がなく、なんとなくああこれからスタートライン切って友達ってやつをまっさらな状態から作り直さなきゃいけないんだと曇天になった。
クラスは一年三組。教室に入るとすでに何人か固まってグループを作っていた。入る前にSNS上でつながったとか言うのだろうが、どうにも俺は疎かった。そもそもどうすればそんなことができるんだよ教えろ程度にはスマホは家族・友達との連絡、動画や漫画にしか使うことがなかった。たまにXも推しの絵師様の生存確認用に見るけども。基本は家にいる間は虚構の世界に浸っていたかったから。
…まあその話はこれぐらいにして、俺はさてどうするかと気まずい思いで辺りを見回した。ファーストコンタクトはこの箱庭の中では重要である。後から部活・委員会やらイベントやらで「お前、こんなに面白かったんだな」みたいに意気投合することはあるが、それまでの繋ぎがなければ二人一組でペアにとかいう冷水を浴びることになる。

(とりあえず自分の席に座って、周りのやつらを確認しておくか。)

出席番号は...二十二。左から三、後ろからも三で時に味気のない席になってしまったと腰掛ける。一息ついて顔を上げると、さっき固まっていた集団の中でも一番大きいグループの中心にいた男が俺を見下げていた。ドキリとして緊張が走る。

「ねえ君」
「...うん」
「この席なの?」
「そう、だけど...」

(なんかしたっけ俺)

「そうなんだ! あ、俺は秋宮柚季。あっきーでもゆずでもなんでも呼んで」
「...よろしく。俺は七草璃桜」
「へえ! どんな字書くの?」
「えっと...、ななくさは七草で、りおうは瑠璃に桜」
「そうなんだ。なんかカッコいいね。あ、璃桜もこっち来て一緒に話そうよ」

秋宮に少し強引に押されて大きな輪の中に入っていく。心底ホッとした。これで自分からこのグループのやつらに話しかけてれば少なくとも余ることはない。流れさえ掴んでしまえば後は身を任せるだけで十分だった。
秋宮は思ってたよりもずっと気遣いで明るい性格をしていた。話に入れていない人を見つけてはそれとなくサポートし、見ていてこの人の周りに人が集まるコアを知った。傍観側からはリーダーシップのある元気な子に感じるが、例えそれが本来の性格だとしても疲れるだろう。だから俺はせめてもの礼として彼を隣で支えることに決めた。





そんなこんなで話していると時間は過ぎるもので、先生が入ってきたため一度皆席に戻った。秋宮は三番で席は離れてしまったが。彼が近くにいない以上、一応自分の席の周りとも挨拶しようと思った。

「はいじゃあこれプリントなー。保護者の方に忘れずに渡し組んだぞー」

間延びを含んだ声と共に順に回されてきたプリントが俺の手に届いた。十字の中で今見れていないのは後ろだけだとプリントついでに振り向くと、______





この入学を機に染めたであろうダークブラウンのマッシュスタイルに、すでに首元を開け腕をまくるという着崩しを見せた端正な顔立ちの男がそこにはいた。


さざめく淡いピンクの風が吹き抜けて、春の訪れを告げる。
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