甘味、時々錆びた愛を

しろみ

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或ル導入

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「……人?何でこんなところに……、すごく白い……」







目を覚ますと、真っ白だった。布?僕は死んだのか。ここ数日何も食べてなかったがまさか空腹で死ぬなんて。腕は……動く。あれ、じゃあ死んでないのかな。
顔に触れようとする、視界を覆う白はやっぱりただの布だ。

「……目が覚めましたか?」

声のする方に顔を向けたら黒髪の美人な女性が微笑んでいた。ぼんやりとしか見えないが、明らかに美人だ。
あれ、やっぱり僕死んだんだ。

「あなたは死んでませんよ、お腹が空いてるのでしょう?買ってきたものですが……宜しければこれ、食べてください」

心を読まれた、気がしたが今はそんなことを考えられる余裕がない。僕は差し出されたお粥を必死に啜っていた。

「……ありがとうございます、」

数日ぶりに喉を通る温かい食べ物。それは本来の温かさよりもずっと身体に沁みていく。

「……何故あなたは森の中で倒れていたのですか?」
「…………」

何も覚えていない。目の前の聖母の如き美しい女性の問いに何も言えなくて、ただ呆然とするのみだった。暫くそのままでいると、カチャと扉の開く音がした。

「真理亜ー……あれ、この子死んでなかったんだ」
「……お兄様、勝手に殺さないでください」
「おぉ!目が開いている!」
「…………」
「……綺麗な目だね、やっぱり天使だな」
「…………、さっきから言っているそれは何なんです?」
「天使じゃん!真っ白で綺麗だからこの子天使だよ!思うでしょ?真理亜」
「えぇ……確かに白くて綺麗ですが、」

扉から現れたのは白衣を着崩したそこそこ身長のある男だ。緩い癖のついた黒髪、切れ長の目から見える複雑な色合いの瞳、それを覆う長く伸びた睫毛。すっと筋の通った鼻筋に程よく開く口、顎の筋も綺麗に通っている。それら全てのパーツが整った美しさを醸し出していた。格好いい、というか美しいという表現が似合いの男だった。
この男の妹らしき女性、真理亜も彼の姿見のような美しさだ。こんな美人な兄妹がいるんだな、……発言はさておき。

「……あの、」
「何?お粥嫌いだった?」
「いや……それはごちそうさまでした、本当にありがとうございます……」
「どういたしまして」
「……お兄様、私が買ってきたのですがそれ」
「……、あの……ここは何処なんですか?」
「あぁ此処ね、此処は僕の研究所!此処は研究所の空き部屋だよ」
「……そうですか、」
「反応薄い!まあ僕らの家ってことで」
「……だから白衣なんですね、」
「まあねェ、じゃあこっちから質問していい?」

男はがりがりと頭を掻いてから此方をじっと見据える。何を聞かれるのか、ある程度の回答をいろいろと思索しておく。
しかし男の質問はその回答を易々と越えていってしまった。

「天使って何処に住んでるの?」

一瞬この人が何を言ってるのか分からず、もう一回聞き返そうとしたがよく考えると聞き返すほどの内容ではなかった。

「……天国にいるんじゃないですか?」
「じゃあ君は天国から来たの?」
「いや、ごみ溜めから来ましたが……」
「ごみ溜めってアレか、ごみがいっぱいあるところか」
「ごみ溜めだからそうでしょう……」
「てか何であんなところに倒れてたの?」

突然本題をぶっこんできたなこの人。しかし覚えていない。先程真理亜さんに聞かれたとき同様口を噤む。

「……覚えていないとかいうアレ?」
「…………すみません、」
「思い出したら教えてよ、ところでさ……家は?帰るんだったら送ってったげるよ」
「……ありません、」
「え?」
「……家はないです、」
「……あらま、」
「…………帰る場所がないからとりあえずごみ漁ったりしてました」
「…………」

今までの生活を思い出したくない、それだけを言って僕はまた黙りこむ。暫く考え込む男は突然真理亜さんに耳打ちした。
それから僕にこう言ったのだ。

「じゃあちょうどいいや、君ここで働いてよ」

住み込みで、ご飯は用意できないけどお金は出すから。そう言って男は僕の頭を優しく撫でる。

「…………いいんですか、」
「ここ空いてるしね、ちょうど助手してくれる人が欲しかったんだ……帰るところがないならここを家だと思ってさ、ね?」
「……、ありがとう、ございます……っ、」
「……何で泣いちゃうの?」
「嬉しいんです……こんなに、優しくされたこと、なくて……、親を亡くしてから、ずっと……一人で……」
「…………そっか、じゃあ好きなだけ泣いていいよ」

男は僕の身体を包み込んでただ優しく頭を撫でるのみだった。僕は涙が枯れるまで泣いた。
途中、真理亜さんが飲み物をくれた。僕にはこの兄妹の二人が天使に見えた。

「……、落ち着いた?」
「はい、すみません……服ぐちゃぐちゃにして」
「いいよいいよ替えがあるから、そういえば名前言ってなかったね……僕は霧夜、仮だけど」
「えっ仮って……」
「こっちが妹の真理亜」
「ふふ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします、はいいんですけど仮って何ですか」
「ちょっといろいろあってねェ……まあ霧夜って呼んでくれたら、それよりも君の名前は?」
「……國弘って言います」
「くにひろ、ねぇ……思った以上に男の子だね」
「男なんで」
「いや綺麗だからもっと中性的?な名前かなって」

この人、霧夜さんは何を基準に綺麗って言っているのか分からない。赤い目、白い髪の人間の何処が綺麗なんだ。この見た目のせいでずっと苛められてきたんだ。
そんなことをこの美しい二人に言っても理解されないだろうな、そう思って小さく溜め息を吐いた。

「……そうだ!ちょっとこっち来て!」
「……?」

霧夜さんは僕をベッドから抱き抱えてそのまま部屋から出ていく。何故にお姫様だっこ。

「ちょっ、何で !! 」
「君をもっと理解したいんだよ」
「ッま……真理亜さん!」
「ごめんなさい國弘さん、頑張ってください」
「何ですか頑張るって!」
「こら暴れない!キスするよ」
「あんたゲイなんですか!」
「周りにゲイばっかだったからそうかもしれない君に惚れちゃったしねェ」

何かもう冗談か本気かよく分からない発言をして、彼は大型の機械の前にある椅子に僕を座らせる。

「あの、これ電気椅子とかそんなんじゃ……」
「一瞬だけ電気流れるけど」
「うわあああ僕生かされてすぐ死ぬなんて……」
「違う違う!ちょっと頭の中覗かせてもらうだけ」
「何ですかそれ!怖い!」
「あっそうそう絶対寝ちゃダメだよ!寝たら嫌な思い出が夢に出るから!」
「ええええ !? 」
「一瞬だから大丈夫だと思うけど」

さらに冗談か本気かよく分からない発言をして(冗談であってほしい)、彼は僕にたくさんの管が伸びるヘルメットを被せた。意味が分からない。何をされるのか。
彼自身もヘルメットを被ってパソコンのキーボードをカタカタと打ち始めた。

「ちょっと重いかもしれないけど我慢してね……」
「は……はい、」
「じゃあ行くよ……どっか見てて」
「はい……」

とりあえずぼんやりと天井を見つめる。暫くしてから頭に衝撃が走る。大量の電気が送られたような、一瞬だがとても重い。
しかも何故だ、突然吐き気が襲ってきた。

「……はい終わりー、……國弘くん大丈夫?」
「っう……」
「ッ、ちょっと待って……」

霧夜さんは慌ててヘルメットを取り、また僕をお姫様だっこして部屋から出た。連れてかれたのはトイレだった。

「吐きそうなんでしょ、吐いていいよ」
「ッうぇ……」

背中を擦られながら、便器に頭を突っ込んで嘔吐物を吐き出した。

「……確かに酷いね、」
「……何がですか?」
「気にしないで、他のこと考えてて……これからの僕とのラブラブ同棲生活とか」
「はぁ!?何ですかそれ!」
「とりあえず大丈夫みたいだね?落ち着いたら洗面所でうがいして真理亜から飲み物貰ってきて、ちょっと出掛けてくるから」
「……?」
「君の仇討ってくる」
「は……?」

彼はそれだけ言ってトイレから出ていってしまった。
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