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第7章

第95話  論外な提示

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「──────私の目的をお話しします」



 接触してきた探索者ギルドのティハネは、覚悟を決めた目でオリヴィアを見つめた。何の覚悟だろうか。それは当然、自身の知られたくない過去を他者に話す覚悟だ。

 オリヴィアは相手が誰であろうが純黒のローブに付いたフードを取らない。あまりに美しい容姿から、周囲の者達から浴びせられるだろう視線や、それに伴う厄介事を避けるためだ。故にティハネは彼女の目があるだろう場所に当たりをつけて見つめるしかない。

 膝の上に置いた手が強く握られる。意識せずとも、勝手に力が入ってしまう。本当は知られたくない。知っている者は居ない。だから初めて他者に話す。会ったばかりで信頼も何も無い相手に。けど仕方ない。もうこれしか方法が無いのだから。



「端的に言ってしまえば、私が欲しいのは『最深未踏』を攻略したという実績でも、名声でもない。どうしても欲しいのは、攻略した際に国から支払われる攻略報酬だ」

「金だけか」

「……そうだ。私には多くの金がいる。それこそ金だ」

「身内でも売られたか」

「……母が……私の母が奴隷になっている。幸いまだ買い手はついていない。女といえどそれなりに歳を重ねているからな。だがいつ買い手が決まるか分からない。だからその前に私が買い取りたいんだ。その金さえ用意すれば母を自由にすることができる」

「ほう……。因みに、私は攻略報酬というのがどのくらいなのかは知らないが、お前が必要としている金はどれ程のものなんだ?」

「……歳は重ねてもまだ美しさが損なわれていないという事から……1500万G。『最深未踏』を攻略した際に出される報酬は2500万Gだ」



 更に言わせてもらうならば、1階層攻略してマッピングした報酬は1万Gである。なのであとどのくらいの階層が残っているかは定かではないが、報酬を分けて全てを合わせても、その母親を買うための金はまだ少し集まらない。

 貯金がある程度あるならば分かるが、そこら辺に関しては話されていないので判断できない。だが今のところ分かっているのは、ティハネには奴隷に堕ちてしまった母親が居て、どうしてもその母親を救い出すために大金が必要であるということだ。

 何故、人権すらも発生しない奴隷の身分に身を堕としたのか。そう興味本位で聞けば、父親が原因なのだそうだ。ティハネの父親はロクでなしで酒に溺れたクズ……という話だ。何でも母親を働かせておきながら自身は仕事をせず、酒に溺れる毎日。稼いだ金も勝手に持っていって酒に使うか賭け事に使う。

 果てには利息が高いその道の者達からも金を借りて、かなりの借金もあるのだという。しかもその借金は未だに少ししか払い終わっておらず、残りは2000万。つまり総合的に見て必要な金は3500万Gであるということだ。父親は既に、家にあったなけなしの金を全て持ち出して消えたという。

 首が回らなくなってしまったティハネとその母親は、膨大な借金の返済時期を延ばす代わりに奴隷という道を突き付けられた。売れればその金を返済に当てればいい。そんな考えだ。人道に反していようと、借りた金を返せない借りた奴が悪い。完全なとばっちりだとしても、借りた奴の身内ならば連帯責任が発生する。

 ティハネの母親は、自ら奴隷に堕ちることを決めた。まだ若く、将来もこれからであろう愛する娘を、奴隷なんかにさせたくなかったからだ。そうして奴隷にされてからはいつ買い取られるか戦々恐々としている毎日で、どうにか奴隷商に金は近い内に用意するから売らないでくれと頭を下げているのが現状。

 話の分かる奴隷商だったので、今のところは客に紹介せず待ってくれているが、それも今月までということ。残り日数は13日で、既に2週間を切っていた。もう形振り構っていられないということだろう。



「だから、頼む。攻略に協力して欲しいっ!!」

「……思ったのだが、3500万Gが結局必要になるのだろう。優先順位で言えば、期限がまだあるとはいえ、誰かに買われる可能性がある母親の方が高い。だが仮に1500万Gで買い取り、自由にしたとしても残る借金の所為で、また奴隷に堕とされるのがオチではないのか?」

「借金の返済も今月末にある。前の返済時からどうにか貯められたのは500万Gだ」

「攻略報酬を分けたとして約1200万G。足りないのは2000万G弱か」

「あぁ。……そして、頼みがある」

「既に頼みを話しているのに重ねてか?神経が図太い奴だな」

「……っ……『最深未踏』の攻略報酬を全額私に譲ってくれないか。それからダンジョン内で回収できるだろう物品を売却した金。そしてそれでも足りない分の金を貸して欲しい」

「……??」



 少し理解力が足りなかったのだろうかと、オリヴィアは思った。ダンジョン攻略をした際に国から下賜される報酬を全額無償で渡し、そこに手に入れた物品を売却した金も足し、更にはそれでも足りない場合の金を出さなくてはならない。

 何だこれは。口先だけで愚弄されているのか?少し混乱した頭を冷ますために、愛しの黒龍に目を向ければ、目を細めながら鋭い指先でテーブルに傷をガリガリとつけている姿が映った。それを見て、どうやら理解力はしっかりと備わっていたということが判明した。備わっているから、理解できて、何を言っているんだこの人間は?となったのだ。

 最初はどういう事なのかと首を傾げていたが、噛み砕いて内容を把握し終えると、ステーキ肉を食べ終えているリュウデリアを腕に抱いて立ち上がった。やはりというか、自身でも何を言っているのか理解しているティハネは立ち上がってその場を去ろうとしたオリヴィアの前に急いで回り込み、中腰になって手を前に出して制止を謀りながら焦った様子を見せた。



「じ、自分でも言っていることのバカさ加減は分かっている!何のメリットも無いどころか、寧ろデメリットしか無いことも!でもっ……そうしないともう……後が無いんだっ!」

「お前の母親が奴隷として買われてどんな目に遭わされようが、お前がどうなろうが私には一切なんの影響もないというのに、私はお前の我が儘に付き合った挙げ句、金まで渡さなくてはならないのに、この話に乗って欲しいと?お前、ダンジョンに潜る前に診療所で頭でも診てもらったらどうだ?恐らく中身が腐っているぞ」

「それでも、最早私には頼み込む事しかできない!私の体だって好きにしてくれていい!荷物持ちでも何でもやってみせる!憂さ晴らしに殴ってくれても一向に構わない!だからお願いだ!私を……助けてくれ……っ」



 本気なのだろう、顔中に焦りからくる汗を掻きながら、腰を直角に折って頭を下げる。提示できるのは大した事ではない。相手が男で女に目が無いならば体を好きにさせることで協力してもらえた。お人好しならば、母親を救うためだという理由で協力してくれた。だが相手は生憎の人外だ。普通の人間と同じ価値観を持っていない。憐憫の感情すらも抱いていない。

 同じ生物学上の女であるオリヴィアは、美しい肉体を持っていようとティハネの体に興味が無い。荷物はかなりの量があるが、残念なことにリュウデリアが全て異空間に跳ばしているので持つ人を必要としていない。憂さ晴らしも何も、リュウデリア以外の奴に触れたいとは思わない。

 可哀想だとは一切思わず、そうなのかで済ませられるだけの気持ち。知り合って30分も経っていない浅い関係。引き受けたところで、こちらには一切のメリットが存在しない条件。明らかにローブを使っているだけのオリヴィアよりも弱い戦闘力。傍に居られれば2人っきりのダンジョン内デートができないという致命的な理由。

 オリヴィアがティハネの話に乗ってやる理由が、何一つとして存在していないのは確実だった。



「──────精々身を粉にして足りない金を稼ぐが良い。2週間を切った期限以内にな」

「ぁ……まって、待ってくれ!わ、私にはもう……っあなたしか頼る人が……っ」



 まだ来ていない料理があるのだが、これ以上聞いても仕方ないので店を出た。背中にティハネの悲痛に塗れた懇願した叫びがぶつけられるが、オリヴィアが背後を振り返ることはなかった。それも当然だろう。興味も無い相手からデメリットだらけの話を持ち掛けられて、よし乗った!という奴は居ない。居たとしたら、お人好しを極めた相手だけだろう。

 ティハネは去っていき、大通りを歩く人混みの中に紛れて見えなくなったオリヴィアを、最後の瞬間まで見ていた。姿が見えなくなると、膝からその場で崩れ落ちる。道行く人が突然膝を付いたティハネに好奇な視線を向けるが、そんなことは気にもならなかった。

 無茶な願いなのは百も承知だ。仮に自身が言われても何を言っているのだと訝しみ、憤慨する事だろう。探索者にとって、ダンジョン内で手に入れた物品は己の生活の要だ。大きなダンジョンの攻略なんて夢として語れる。それだけ大きな事を、全て無償で譲って欲しいと言っているのだ。

 バカも休み休み言え。普通ならばそう言って無下にする。だからこれは仕方のない事なのだ。それだけのことを口にした。相手には自身に対して信用も信頼も無いのだから。



『ティハネ』

「母さん……」

『あなたは立派に生きてね。私のことは気にしないで。あなたが元気に生きてくれれば、私は幸せよ。愛してるわ。私の可愛い娘、ティハネ』

「母さん……っ」



 笑顔で話し掛けてくれる、大切で大好きな母親を幻視する。手を伸ばしても、あるのは虚空だけ。向けられているのは愛しい娘に対する慈しみの視線ではなく、座り込んで手を伸ばす自身に訝しむ好奇な視線だ。

 自身はこの上なく惨めなのだろう。父親の裏切りで生活費も無い状態からスタートし、探索者としてどうにか食いつなぎ、金を稼ぎ、奴隷の身分に堕とされた母親を救うためと大義名分を出しながらデメリットだらけの条件を提示し、断られて泣き崩れている。



「だがそれでも──────私は母さんを救うためならば何でもしてみせる。例え『骸剥ぎ』と呼ばれようとも」



 もう汚いことに手を染めている自身にこれ以上堕ちるところはない。後は目に見えて到達しなくてはならない目標まで、形振り構わず走るだけだ。

 大切な母親を取り戻すためならば、呆れられようが、軽蔑されようがどうだって良い。後に引く事ができないのだから。




















「まったく、とんでもない事をのたまう人間だったな」

「あれでは了承する者は居らんだろう。実に下らん。良かったことはステーキが食えたことだけだな」

「はぁ……気分を害した。そんな気はしていたが、やはりつまらん話だったか。どうする、図書館に行くか?」

「いや、今日はもう良いだろう。宿に戻ろう。下らん話をさせた詫びに労うぞ。

「……っ!?そ、それは……ごくっ」

「何故喉を鳴らした??」



 ちょっと言葉では表せないピンク色のことを頭の中で思い浮かべ、フードで顔が見えないことを良いことに蕩けた表情をするオリヴィア。残念ながら両腕で抱えられているリュウデリアには見えているので、何をさせるつもりなのかとジト目になった。

 他者との話し合いはオリヴィアに任せているので、リュウデリアはアドバイス等をするだけだ。しかし今回は何も言わなくても話が終わった。論外。話にならない。下らない。故の断り。こちらを愚弄しているとしか思えない条件に、リュウデリアは魔法を撃ち込みそうになった。

 まあ、断ったのだからもう関係がないので気にする必要もない。リュウデリアは泊まっている宿に到着して、オリヴィアと一緒に風呂に入り、ベッドの上に丁寧に置かれながら、身に纏ったバスローブをはだけさせるオリヴィアの手を、体のサイズを人間大にしながら引いて押し倒しながら覆い被さった。



「ぁ……あの……だな……少し激しめで攻めて欲しい。それで、こう……ちょっとだけイジワルを……」

「まさかそんなことを考えて此処まで帰ってきたのか?ははッ……随分と肉欲に塗れた頭の中だな?俺の女神様は」

「はぅっ……」

「少し激しめ……か。だがイジワルもしろと言われている以上、その言葉に従ってやる必要は無いだろう?お前は俺から与えられる刺激に身を悶えさせていれば良い」

「あっ……」



 まだ何もしていないのに蕩けてトロンとした表情をしたオリヴィアは、このあと気が済んでも情事が終わることはなく、頭がどうにかなりそうな快楽で攻められて思う存分に啼かされた。






 翌朝、全身色々な体液でぐちゃぐちゃにされたオリヴィアは、気絶しながら、それはもう幸せそうな表情をしていたとかなんとか。因みにその日はダンジョンにも行けず、起きたらまた存分に抱かれて快楽に溺れた。






 ──────────────────


 ティハネ

 どう考えてもティハネしか得しない条件を提示し、当然のように断られた。しかし諦めてはいない。諦めたら大切な家族が奴隷として誰かに買われてしまうから。

 必要な金の総額は3500万G。今持っているのは500万G程度。残り3000万Gを工面しないといけない。




 オリヴィア

 少し話を聞いたが、これ以上は聞いても仕方ないなと判断して店から出て行った。利用しようとしている……というか、寄生しようとしているだけなので首を縦に振る訳がない。

 前回はリュウデリアに優しくじっくりと、時々激しく抱かれたので、今回は全体的に激しめで抱いてもらおうとして、もうリュウデリアの事しか考えられないくらい徹底的に抱かれた。無理と言っても口の中に舌を突っ込まれて却下され、休憩したいと言ったらもっと激しくされた。

 次の日は気絶して泥のように眠ったが、起きたらまた抱かれた。右も左も分からないくらいやられたが、本人はめちゃくちゃ幸せそうだったとだけ言っておく。




 リュウデリア

 ティハネとオリヴィアが話している最中、あまりにも自分達をバカにしていると思い、魔法で消し飛ばしてやろうかと密かに考えていた。良いことがあったとすれば、ステーキ肉が食べられたことくらい。

 オリヴィアに少し激しめに抱いてほしいと言われたので、激しめに抱いた。自身にできるテクニックは全て使って犯し……じゃなくて抱いた。結果、途中から言葉を忘れていたオリヴィアに少し焦った。

 次の日も、どうせ今日はもう昼過ぎたし、あまりオリヴィアも動けないだろうからという理由で起きたところをまた抱いた。本来ならば龍の子作りは最低でも1週間掛かるので、めっちゃ手加減してる方。

 オリヴィアの体のことで知らないことはない。全てを知り尽くしている唯一の存在。



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