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Cadenza ①

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三人揃うなんて、もう二度とないのではないかって思っていた出来事。
特別な夜にでもなるのではないかと感じながら外に出ても、普段通りと感じてしまう。
それ程までに、静寂な…静かな夜。

私達は本当に窮地へと向かっているのだろうかと疑問を感じてしまう程に静かな夜。
実は誤報で門の前には敵が迫ってきていることなんて無いのではないかと、疑ってしまうかもしれない、それ程までに穏やかな空気が街の中を漂っている。

そんなのはまやかし…
ただの逃避的考えね。

この瞬間だけ何も考えずに感じればそう感じてしまう、その短絡的な考え、戦いから逃げたいという頭皮的な考えを否定するために、立ち止まってある場所へと視線を向ける。
大きな壁がある方へと視線を向けると、数多くの人が気配を殺しながら夜とは無関係に活動している。

この目は暗闇に強い…こういう時は便利だと感じてしまう。
そんな都合の良い自分に笑ってしまいそうになる。
私ってやつは、ほんっと、現金なやつよね。

壁を見つめ、その先…死の大地へと意識を向けてしまう。

壁の向こう、今の私が…その状況を知ったところで。
暫くの間?どれ程?余裕があるのかなんてね、私では知る術も無ければ、私では未来を見通すほどの予測なんてね、出来やしないわよ。
困ったことにね、一部の人達は私だったら冷静に私情を挟むことなく適切な判断が出来ると思っている人が居るみたいだけど、無理よ、私は…私ではダメなのよ。

私情を挟みまくった判断しか、出来ないのよ。
結果的に私情を抑えて皆に尽くしているみたいな感じに捉えてくれているけれど、違うのよ。
私は…そんな聖人じゃない。教会の人達が言うような聖女とは遠い存在よ。

この街に聖女として最も相応しい人物は私じゃない、彼女よ。
その、彼女が目覚めることが無いと諦めてしまいたくなる状態だったとしても、彼女は目覚めた。
切羽詰まった状況で最も頼りにされている人物が目覚めてくれた。
これを、奇跡として神に感謝をするべきなのか、私達の努力の末と誇るべきなのか。
…定められた運命だと、人類が歩む未来はまだ明るいのだと啓示されているのか、私には判断なんてつかないわね。

そうよ、ちっぽけで何もできない私が考える事じゃない。
押し付けるつもりではないけれど、そういった判断が出来るのは姫ちゃんよ。

今は…少しだけ、言動がぶれているような感じがする姫ちゃん。
でも大丈夫、彼女は、彼女なら、自然と私達の前に立って導いてくれると信じることが出来る。

今は状況を整理している段階でしょうね。
だから…その思考が定まったら一気に物事は進む。

進む、その幾ばくかの猶予を…
悪いけれど私利私欲で使わせてもらう、私は…悔いなく過ごさせてもらう。
誰にも譲るつもりは無い、誰かに遠慮することない、私達は親子として最後の時間まで傍に居させてもらうわよ。

ちょ~っとだけ後ろめたいのは、最愛の我が子、スピカ、なのよね~…
スピカにも悪いけれど!お母さんはね、少しばかり、この瞬間だけは!お姉ちゃんを優先させてもらうわね。

この考えにてっきり怒ってくるかと、睨んでくるかと、少しだけ身構えていたら…
何もアクションが無い、それなら、遠慮なく姫ちゃんを優先するわよ?

いいのね?っと念を押しても反応が返ってこない。
空を見上げると月が私を照らしてくている、きっと、騎士様も今ばかりは許してくれていると信じる。

そのまま、月を見上げながら闇夜を歩く。
月夜の中、時折近くで感じる人達も私と同じで、気配を殺し、視線は定期的に上空へと向けられる。
それもしっかりとセオリー通りにね、月夜の光に照らされることなく影に潜み、気配を殺しながら上空を見上げ、上空からの奇襲に警戒しながら進んでいる。
非常時の闇夜は上空を警戒…昔からの知恵よ。

気配を殺しながら進み続け、普段よりも時間が掛かってしまったけれど、病棟に辿り着いた。
ゆっくりとドアを開けて病棟に入り、ふと先輩の顔がチラついてしまう。
もしかしたら先輩がまだ病棟にいるかもしれない、だとしたらお世話になっている先輩に挨拶をしないといけないわね。っとなると、真っすぐに姫ちゃんがいる病室へ向かう前に、先輩が愛用している診察室に顔を出さないとね

病棟の中に入ると安心感からか緊張が抜け、靴音を廊下に響かせながら歩き続ける、静まり返った病棟に私の靴の音だけが響くあたり、いつも以上に病棟は静まり返っていると感じてしまう。

診察室の前に立ちゆっくりとドアをノックする…
ノック音が闇に吸い込まれるだけでドアの向こう側から返事が返ってこない。
少し待っても返事が来ないのであれば、普段であれば中を確認しないんだけど、どんなことも確認は大事よね。
居るわけがないと思いながらもドアを開けてみると案の定、部屋の中は真っ暗。

流石に、先輩と言えど家に帰ってそうね。
これだけで病棟が落ちついているのだと分かる。

誰も居ない部屋の中、この部屋を愛用している人の姿を思い出してしまう。
昔はずっとこの部屋を占拠していた人も今となっては、引退した身だからよぉっと背中を丸くして寂しそうにしていた。
だけど、この状況によって先輩も、昔のように活力を取り戻し私が団長だった頃を彷彿とさせるほどに背筋を伸ばして周りに激を…活発的に活動し私達を支えてくれている。

それが良い事なのか、悪い事なのか…

っふ、っと、馬鹿な考えに笑ってしまう。
考えるまでも無いわね、悪い事よ、医者が忙しいのは良くないわね。

医者としてではなく、極普通の老人として元気に活発に平穏に、先輩には、落ち着いた老後を送って欲しいわね。

出来る事なら、医者としての活力をお孫さんの世話をする方へと向けてほしいわね。
お孫さんかぁ…あの先輩がお爺ちゃんっていうのが未だにイメージがしっくりとこない。
子育てと無縁な人生を歩んできたあの先輩も、今頃は、一家団欒しているのかもしれないわね。
一家団欒…これはこれで、少し気になるわね。

そうなると、ティーチャーこと新しい息子からベテランのやつが乙女ちゃんに相談した内容と同じ相談を受けているのかもしれないわね。
だとしたら…医療班として情報共有はしておくべきね。

次に、会ったら共有した方が良さそうね。
暗くなっている部屋にメモでも残そうかと思ったが、躊躇ってしまう。
勝手に入って勝手に物の配置を変えると怒られそうなので何もせずにドアを閉め姫ちゃんの病室へと向かう。
途中で誰かとすれ違ったら軽く言伝をしておけばよい、優先度もそこまで高くないでしょうし。
そう思いながら階段を登っていく。

しかし、予想外に道中も夜勤担当の人達とすれ違わない。
思っていた以上に病棟の中は患者がいないのかもしれないわね。
そうなると、怪我人の多くが病棟から巣立ったのかも、しれないわね。

No2として病棟の状況を把握しておくべきなのはわかっているけれど、誰がどのタイミングで退院となるのか、病室の利用状況などは先輩が指示を出してくれている。
この落ち着いた状況であれば、そうね、今しばらくは甘えさせてもらう腹積もりで居たけれど、遠慮することなく!甘えるとしましょうかしら!ええ、幾ばくかは先輩に恐れおののく人が増えたとしても!…後輩らしく先輩に甘えるとしましょう。ええそうしましょう。
流石にね?忙しすぎる状況であれば、甘える事なく私も其方を優先するわよ?

階段を登り、姫ちゃんの病室がある階に辿り着いても人の足音が無い。
そんな静かな廊下を歩き目的の場所である姫ちゃんの病室、その近くまでくると暗い廊下を照らす光が視界に入る。その光によって何となく状況を理解する。

姫ちゃんの病室から灯りは消えている、けれど、隣の病室では灯りが灯っている。

考えるまでも無いわね、灯りが消えているのであれば姫ちゃんは寝ているってわけ、そして、隣では団長が何かあったときに備えて待機しているってところかしら?…だとしたら、邪魔をするのも・・・っは!?

瞬間、脳裏に小娘の姿が思い浮かぶ。

そういえば、最近あの二人ってくっつきすぎじゃないかしら?ずっと小娘が団長の傍にいてるわよね?距離感が近すぎる気がするのだけど?
そりゃぁ、小娘のことは知ってはいてよ?小娘が、団長の事を好いているのだと…

立ち止まり腕を組んで、小娘と団長が仲睦まじく腕を組んでいる姿を思い浮かべてみる。
その姿は微笑ましいと感じる部分と、腹の奥から認めたくないという黒い炎が燃え上がろうとしている。

お義母さんとして、二人の関係をみとめ、みと…
脳裏に浮かび上がる、何処か、幼い愛する娘が、酸いも甘いも知っていそうなエロ娘の毒牙

やっぱり認めれない!!
お義母さんは!あの邪悪なむっつりさんを認めれるほど心が広くないわよ!!
あの小娘なら!状況を利用してなし崩し的に団長を!!ありえるわね!!
あの邪悪な小娘の策略によって籠絡されるなんて我慢ならない!
済し崩し的に!引くに引けない状況に!流されてほしくない!
既成事実ってやつで責任感の強い団長を雁字搦めにさせるわけにはいかない!!

団長にはちゃんと好きな人を選んで欲しいわ!
もう一度言うわ!愛する娘達にはしっかりと好きな人を見つけて欲しいのよね!!

足音を消しながら歩を進め、小娘に気が付かれないようにドアの前に気配を殺しながら立ち意識を集中する。

用いるは術式!魔力のピン!術式による索敵!少し苦手だけど、出来ない事も無いのよね!
苦手な術式を構築しようとすると、思いの外、あっさりと構築が出来、魔力のピンを放つことが出来た。理由は単純ね。

協力的じゃない
内側に向けると殺気が返ってくる…あらそう、貴女もあの小娘と最愛の娘が引っ付くのは許せないってことなのね。

愛するだーりん
愛するこども
毒牙からたすける

短いワードが頭の中で木霊する。
っふ、こんな時にお互いの意思が噛み合うなんてね…!

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