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もう一度、鼻から大きく酸素を取り込み心に勇気を満たす、誰かを応援するという勇気を!!
「立って!立ち上がって!負けちゃダメ!負けちゃダメ!悪い人をやっつけて!!」
満たした勇気を童心の頃のように大きな声を出すと遠き記憶が呼び起こされ頬が熱くなる。
お母様に読んでもらった英雄譚の人物を応援する気持ちってこんな感じだったかも!!
もう一度、大きな声を出す為に鼻から息を吸い込むと
「貴女は負けない!」「私達の団長は強い!」
後ろから聞こえてくる声援の雰囲気が変わる。

声を掛ける内容が一気に子供向けになる!?
二人とも直ぐにあわせてくれて嬉しいけれど…その、気持ち、恥ずかしい、かも?

肺に溜めこんだ勇気を出すのに些か気恥ずかしさを感じてしまう。

だからといって!子供達はそんなの感じない!動じない!
弟や妹がそうだったからね!あの無邪気さを魂に宿す!!
気恥ずかしくてもやるのだと腹に力を込めると
『反応があるよ!』
初めての吉報が響き渡り、気恥ずかしさが思考の果てに飛んでいく。
効果的なんだね!ならやるしかない!!

気恥ずかしさが飛んでいくのと同時に、何て声を出そうとしたのかも飛んで行ってしまう。
えっと、で、次、後は、どんな掛け声をすれば?こういうときってどんなワードがあるの、かな?
王道で考えればヒーローの名前を叫ぶのが正義なのだろうけれど…今の私は名前を認識できない。
っく、こんな時に名前を叫べないのがもどかしいなぁ!もう!
なら!エピソード記憶を呼び起こす!!
「思い出して!私達の友情を!」
「立ち上がるのよ!」「私達の愛はこんなにも脆いのですか!?」
一瞬だけ耳が動いた?尖がろうとしている耳の先が揺れたように見えた!
一度、意識が此方に向いたのであれば!音が届きやすい!!
「友情は不滅!私達で悪を倒す!そうでしょ!?」
「悪に屈しないで!」「友情は愛情!」
耳以外にも動きがある!
眼も薄っすらと開こうとしてる?これは、どっち!?どっちの反応!?妖精としての目覚め!?団長としての意識の浮上!?
『…届いてる!■■の声が聞こえる!君たち!本当に■■のことを考えるのなら、敵の声に惑わされてはいけない!』
彼の叫び声と共に、突如、視界が真っ暗に染まる!?彼を通して私を引きずり込んだか!?
魂だけ、意識だけの世界であろうと私はお前に屈したりしない!!
全力で瞬間的に臨戦態勢に入るが

・・・ねぇ、ママは僕たちが悪だっていうの?

聞こえてきた声は不安で悲しそうだった…その声に臨戦態勢をとき全てを受け止める心構えに切り替えると、真っ暗な世界で不安そうな声と共に、すすり泣く切ない音も聞こえてくる。
「違う!皆は悪くない!悪じゃない!大切な家族を守るために必死になってるだけ!それが正しいと思っているのは皆も同じ!私だって大切な家族を守る為なら悪にでもなる!」
すすり泣く声の重奏が減っていく。彼らに寄り添っているという気持ちが届いていると信じて言葉を続ける
「…でもね、押し付けてはいけないの。自分達が正しいとそれが正解だと思っていても、それは、その正義が団長にとって…君たちが守ろうとしている家族が本当に望んでいる事なの?もう一度、考えてあげて欲しい」

・・・たぶん、違う。だって、今も必死に叫んでる、その声が僕達も辛い痛い

叫んでる?
「団長を、皆の友達は、なんて叫んでるの?」

・・・嫌だって、私は、人だって、苦しいって叫んでる

団長は、必死に抗おうとしている!なら!!敵が子供達に囁いた甘言を根本から否定する!
「みんなは、友達が妖精になったとしても、心がそのままだって思ってる?」

・・・ちが、うの?だって、ママが、皆が…あれ?あれ…って、だれ?

姿を現さず巧妙に、民衆や私に化けて先導した、誘導したか、人の心をよく理解してやがる!!
「どうして、団長が妖精になるべきだって思ったの?」

・・・声が聞こえてた、ずっとずっと前から、この体は妖精になるのが正しいって

あの煩わしい耳鳴りの裏で語り子供達に向けて続けていたって考えるべきか、愛する旦那の推察は正しいってことね。
表立って術式が扱えれない彼の為に今代の私がルの力の一つ、破邪の術式を展開してくれていたけれど、常に、傍に居たわけじゃないからなぁ…
「あいつは嘘つきで狡猾で、私達の敵だよ?君たちも見てきたでしょ?」

・・・うん、王様が敵の事は語ってくれた。でも、あれってあいつ、だったの?でも

自分の過ち、騙されていたっと言うことを認め切れていない?なら…
「それなら、どうして?」

・・・あれが、言ってたんだ僕たちは死ぬって、人であれば僕たちは死ぬ運命だって、獣と成り妖となれ、争うのは違う、同胞であるって、家族を守るにはそうするしか

そういうこと…っか、子供達がその言葉に縋るのも致し方ない、私が弱かったから。
でも…それでも!弱い私の言葉を信じようとしてくれているのなら!!
「それじゃ、君たちは人の敵になると決めたの?ママを殺すの?」

・・・殺したくない、誰も、傷つけたくない、僕たちは遊びたいだけ

「でもね、その声のやつに全てを委ねると、獣の枠組みに君たちは入れられる。そうなるとね私達は殺しあうことになるんだよ?遊びじゃない、何方かが滅びるまで争うことになる」

・・・僕たちは、どうしたらいいの?

「仲良く遊びたいのなら、彼女を妖精にするのは危険なことだよ、それに、彼女は望んでいないんでしょ?無理強いするのは良くない」

・・・でも、人になっちゃったら、戦いに出る、僕たちは、友達に死んでほしくない

「妖精になったとしても彼女は死ぬよ?恐らく、体を君たちを先導したあれに乗っ取られる、同じ体にいる君たちも体を制御するうえで邪魔だから喰われる。消えてなくなる」

・・・王様がそんなこといってた、本当にそうなっちゃうの?僕達を喰べようとしてくるのがあれ、なの?

巧妙に擬態していてあの手この手で子供達を疑心暗鬼にさせやがって!
「記憶を見たでしょ?あいつは…あいつならそうする」
彼の言葉通りなら団長の体はとてつもなく強力な器となる。

・・・僕たちは間違ってたの?まだ、まにあう?

暗闇の向こうから多くの金色の翅が生えた子供達が身を寄せ合って姿を見せてくれる
『お前たち!わかってくれたのか』
声が響き渡ると子供達が声に向かって睨みつけている
「僕は、僕たちはお前を認めたわけじゃない、ママが、僕たちに教えてくれた、から。勘違いしないで欲しい!お前について行った僕たちはお前の考えを探るためについていっただけ!僕たちは友達から離れない!大人になんてならない!!」
嫌わてない?王様だよね?…子供達と彼との間には盛大な亀裂があって埋めきれないんじゃないの?
この関係を修復するにはどうしたらいいのか不安が心の隅をつついてくる。
その一歩を踏み出すために子供達に触れようと手を伸ばすと

【そうだとも、君たちの言葉、それが正しい、その考えこそ獣たる同志】

するはずのない耳鳴りが聞こえ背筋が凍り付きそうになる

【煩わしい音をいい加減止めて欲しいモノだ、新たな同志が困惑する】

薄っすらと青白い光を纏っている籠が見えると歌が止まる

【所詮は死者、残滓、この魔道具の前には従う】

黒い黒い底が見えない闇が近づいてくる!?
■■■くんは!?ダメ、感じ取れない!?

【死者は逆らえない】

あの魔道具で黙らされている!?
死者・・・まさか!?

慌てて、妖精の子供達に視線を向けると金色の翅が輝きを失い
闇に溶け込もうとしている

・・・ま、ま

助けを求める様に多くの小さな手が此方に向けられる
闇に吸い込まれるように体が崩れ溶け込んでいく
救いを求める手を掴むために子供達に手を伸ばす

だけど
掴むことは出来ず…しずんでいく

【最後の仕事だ、餌となれ】

視界が病室へと戻される

「だめぇーーーーーーーー!!!」
腕を伸ばし叫び声が病室を埋め尽くすと同時に握りたくない感触が手から伝わってくる。

槍が姿を現し握らされている。

それが

何を

意味するのか

わからないわたしじゃ

ない

足から力が抜けていくのも感じる

指揮者が、彼の動きが制限されているから…

動ける時間は

残り僅か

決断する時間なんて、ない…


すべての おとが きえる




・・・
【いま、お前の友達だと宣っている愚者が槍を此方に向けているぞ】
・・・
【さぁ、手に取れお前も槍を持っていたはずだ】
・・・
【示せ、盟約に従え、約定を違えるな】
・・・
【望みを叶えてやっただろう】
・・・
【躊躇うな、お前は死を持って完結する】
・・・
【そうだ、手に力を込めろ】
・・・
【いい子だ】

みみなりがする…みみなりがじゃまで
おとが きこえない

眼を開く、私の周りにいた友達がいない
友達は…みんな私の中にある
力を、感じる。

体を動かすことが出来る。
あの時とは違う

手には小さな槍がある
爪楊枝ほどの小さな槍が…手の中にある

これは…妖精の槍
私という妖精が造った槍
妖が、獣が、人を殺す為に造った槍

生きる為に妖精として生きる
目の前にある私を断ち貫く槍を殺すための槍

─ ちがう ─

わたしは ようせい

─ ちがう! ─

人の形をしているだけの獣

─ ちがう!! ─

大人になれない
大人になることが
許されない

永遠の子供としてある、あり続ける
成長しない、させない

─ ちがう!!! ─

手の中にある槍に力を込める
直ぐに槍は応えてくれる
大きな大きな、長く鋭い槍へと

力を示してくれる

─ だめ! ─

私は…友達は、わたしのともだちは
かれら だけ

まも る

獣に仇なすものに死を

槍の切っ先が音も無く静かに動き、未来を示す様に切っ先を示す。
切っ先の先に待ち構えている障害、獣達を憎み忌み嫌い滅ぼす事しか考えていない愚者が槍を持ち震え此方を見据えている…小さな女性を貫けと槍が示す。


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