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Cadenza 花車 ⑭

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「俺が…幼き頃、何度も夢を見た、正直に言おう憧れていたのだ、彼の軍団に所属する事を」
あー…これってさーこの街では良くある話だ。
幼き頃の貴族達が遠目で見ることができた王都騎士団、成長したら自分も騎士団の一員になるんだってね。
「その夢がついぞ叶わなかった。憧れていた王都騎士団、その中でもとびっきりの精鋭達、我らが戦士長が本来所属したであろう高み、その騎士団の高み達が出張ってきたのだ。っであれば、俺らのような騎士にすら慣れなかった、屑…崩れの出る幕は無いのではないか、とな…情けないと思うては居る、我らが尊敬してやまぬ師匠には申し訳ないが、俺の牙を…刃を地に置いて腑抜けへと落ちようとしていた」
普段の言動から完全に忘れてたけどさ、彼も貴族からの出自なんだよね。
ベテランさんと仲が良すぎて忘れてしまいそうだったんだよね。
刃を手放してしまいかけた彼でも、未来を捨ててでも力が欲しいのだろうか?
「あと一週間の命だとしても、力が欲しい?」
「それは、申し訳ないが望まぬ。そもそも、俺では、ダメであろう?資格があるのであれば誘っているはず…ですよね?」
心が落ち着いたのか思考が感情を追い越したのか、何時ものように冷静に敬語で返してくれる。
「うん、出来るのなら全員、施してあげたいけれど、数に限りがあるんだよね」
正直に打ち明けられたのが心の底から驚いたのか少しだけ後ずさりして
「何か、悪いモノでも食べたか?いや、食べられたのですか?」
内容ではなく私の態度に驚いたってのー?心外だなぁ!
「しっつれいなー、そりゃ、秘密主義なとこあるけど、聞かれたら答えるよ?」
聞かれた部分だけ答えるけどね!にしし。
頬を膨らませて細やかな抵抗をしてみると
「はは、そうでしたな、貴女は聞けば答えてくれはしましたな。ただ、何時も言葉が足らない」
「にしし」
だって秘密にしたい事ってあるじゃん?
全部が全部、真っ正直に答えれるかってーの!
後、私が答えづらいあっち方面の質問してきたの忘れてねぇからな?
「まったくである、姫様はもう少し我らのような愚者にもわかるように説明して欲しいモノである」
失礼な質問を定期的に悪ノリでぶつけてくる人物の後ろから彼にとってずっと肩を並べて遊びに出かけていた友の声が聞こえてくる。
「えー?結構、噛み砕いて説明してるよー?専門用語をなるべく使わないようにしてるよ?」
目の前にいる戦士から少し視線を外すと…
晴れやかな顔で此方に向かってくる決意に満ちた一人の戦士がやってくる。
覗き込むように見ていると悪友の隣に立ち
「おお!ベテラン!やはり、お前も来たのだな」
「ああ、我、新たな領域に足を踏み込んだ!のである!」
悪友の隣に立ち胸を張って鼻を広げている。
「お主こそ、どうしてここに居るのである?持ち場を離れるのは良くないのであるが?」
直ぐに戦士の場を取りまとめるものとしてサボりは良くないと注意する。
こう言う部分は意外と真面目なんだよねベテランさんって。
「何、俺のような木端、暫しの間、暇を取っても問題ない、暇を取らざるを得ない程にどうしても気になる出来事が起きたのだよ、ベテランよ」
気になることってのは、あれかな?さっきの質問ってこと、かな?
「ほぅ?お主ほどの人物が?どのような出来事が起きたのであるか?」
何を勘違いしたのか鼻の下が伸びてるよ?ったくー、神聖な修練場でそういった話題は良くないんじゃないのー?っていうか、目の前にレディが居るの忘れてないー?
「この状況でその様な…いやまて!それに関しては後に伝えたいことがある!…して奥方は?」
会話の方向が完全に悪友の会話になっちゃったじゃん!!止めてよ!?目の前にレディが居るの忘れてないかなぁ!?

どうせ止めたって無駄なのはわかっている。
乙女としてそういった話題に触れないように意識を外へ向け、彼らの会話を聞かないようにする。

されど、音は私の耳を通り過ぎようとする!っく!もっと遠くで話せよなぁ!!

あーもー、猥談なら席を外してほしいかもー?
神聖なる訓練場でそういうのって良くないとおもうなぁ?
偉大なりし戦士長が呆れちゃうよ?
『彼らにとっては何時もの事だよ、僕は気にしないよ』
んーそうい、う…ぇ?
そら、みみ、かな?
周囲を見渡してみても誰も居ない、聞いたことのない声のはずなのに…何故か聞き覚えのあるような声が…聞こえてきたような気がした。
「なるほどである、その件に関しては後日改めてむほほ。先の出来事も驚きであるな。して、姫様は何を?周りには何もないわけでは…ないのであるな、何かお探しであるか?その足では拾うのも難しいのであるな、心優しき吾輩が拾ってやるのである」
きょろきょろと周囲を見回しているのを見られちゃったか、まぁいいや、ものはついで、優しさに甘えよう。
「あ、そうそう。ベテランさんに魔道具の使い方を教えるからさ、魔道具が入っている木箱を近くに持ってきて欲しい」
甘えるように木箱を指さすと、疑問が投げかけられる。
「む?先ほど、こやつが教えてくれた女将が遥か彼方へと飛んだ技を教えてくれるのではないのであるか?魔力による更なる身体能力を引き上げる方法かと思ったのであるが?」
私が視線を彷徨わせている間に、そんな会話をしていたのか。
お探しかって言っておきながら我を通すのはベテランさんらしいや
木箱を指さしていた腕を下ろし、説明しようと
「驚きを隠すことが出来なかったな、あの重い、誰よりも重たい先輩がこの建物よりも高く飛び上がっておられたのだ、この目で見たからな真実だぞ?」
したら、その前に口を挟まれてしまう。
今思い返してみると迂闊にもほどがあったかも?確かめるのなら違う方法でも良かったのでは?っという反省すべき浅慮な部分が浮き上がってくる。

そー、だよねぇ…テンション上がってさ、うっかりしちゃってたよね。
いや、でも、んー、想像を超えてきたってのもあるよね?
あの女将があんなにも高く飛べるなんて思わなかったんだよなー、それでも、あの巨体が飛ぶときの音に空に浮かぶ大きさ、目立つよなー目立っちゃうよなー目撃されちゃうよね~…
ただでさえ私がここにいるって多くの人が知っちゃってるっぽいから、私が何かしたんだと思うよねー…

確実に、アレにも目撃されているから、誰かしらから報告されてんだろうなぁ…
っとなると、絶対に今日の夜にでも来るぜ?アレ…勘弁してほしいなぁ!乙女の部屋に何度も夜に訪ねてくるなってーの!会話の流れでアレにもねだられそうだけど、無いモノは無いで押し通そう。

アレに対してどう対処するのか考えがまとまるころには
「ほれ、これで良いのであるか?それともここには入っていないのであるか?」
先ほど指を刺した木箱を目の前に置いてくれるので、車椅子から落ちない程度に少し前かがみになって中を覗き込む。

木箱の中を見て感心してしまう。
流石はメイドちゃん、気が利く!

ちゃんと私が見やすいように種類をしっかりと分けて中に詰め込み過ぎないで遠目でもある程度、わかるように木箱の中にスペースを空けてくれてる。
お陰様で目的の魔道具も直ぐに見つけれた。
「ここに入ってる、その筒みたいなやつ、わかる?」
「筒…である、か?」
木箱の中を覗き込み、筒らしきものがどれなのかしっかりと全てを手に取って見ている。
正確には筒ではないけどね、開く様に蝶番が取り付けられてるから
「これ、であるか?」
一通り見て最も筒の形状に近いモノを持ち上げてくれる。
そうそうそれそれ!ベテランさんが手に持ったものが私が欲しかったもの!
「そうそうそれ、それをさ、どの木刀でもいいから、グリップの部分、えっと、持ち手に装着してみて、木刀でもしっかりとフィットするような構造になってるけど、ズレる様なら大きさ的にも手の中に納まる程度の大きさだから一緒に握り込めると思うよ」
「わかったのである」
頷いてからベテランさんが木刀が置かれている場所へ向かっていると、悪友がその辺に転がっていた丸太を台座にセットしてくれている。
察しが良くて助かる。

丸太の位置を確認し、見やすい位置が何処かと車椅子を動かしていると
「つけたであるがー?」
木刀の置かれている場所で此方に向けて大きな声で知らせてくれるので車椅子の向きを調整するように動かしてベテランさんが見える位置に車椅子を固定し
「先ほど持ち手に付けた魔道具ごと木刀を握り締めてみて」
ベテランさんを視界に入れながら指示を出すと
「あい、わかったのである」
何も言うことなく木刀の切っ先を丸太がある方へ向けるように持ち上げると
「っむ?…なん、であるか?」
流石って言うべきかな?普通の木刀とは違う、何かしらの違和感に気がついたみたい
ってことは、魔道具がしっかりと作動しているってことになる。
手から自然と魔力が溢れ出ているから、それをある程度自動で吸収するようにできている、しっかりと機能してくれているみたいでよかったよかった。
「そのまま、軽く…んーそうだね。弓矢を、いや違うか、槍を投擲するみたいに対象物にぶつけるような意識を丸太に向けて、っで!木刀を投げないで、その位置から木刀を上段の構えから振り下ろして見て、あ!軽くだよ?大事なのがその位置から丸太を切るようにしっかりと頭の中でイメージしながらね?」
「ああ、注文が細かいのであるが、わかった、ので、ある」
返事が少々、浮つているというかふわっとしている。
それに集中力も高めていない、特別に意識を集中することなく、されど、言われたとおりに丸太を見つめながら木刀を持ち上げ、ゆっくりと木刀を振り下ろすと
パァンっと弾ける音とビキっと裂ける音が修練所に響き渡る…

彼の才はもしかするとこの一点にあったのではないかと思ってしまう。

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