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とある人物が歩んできた道 ~ デッドライン 4 ~

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ゴシャっとえげつない音が聞こえた

でも、衝撃は伝わってこない、なんで音が聞こえるの?
視界にうつったのは、私を守るために、肉壁になる今まで寝ていた人達
「…ぁり、がとう、あなたのやさしさに、すくわ」
肉壁になった人たちが私の目の前で最後の挨拶をして息を引き取った

嗚呼、ああ、ぁぁ、嗚呼、ああああああああああああ!!???
目の前が真っ赤に染まる、命が目の前で消える、あの感覚はいつになっても馴れないよぉ…

「畜生がぁ!!」
騎士様が吠える、坊やから片手剣を受け取ると猿に向けて遠い距離から片手剣を振る、激しい衝撃と共に猿が真っ二つに裂ける…

さける?なんで?あんなにかた…っは!?
急いで騎士様に駆け寄る

一撃を放った騎士様は膝から崩れ落ちる、息は!?息はある!?

すっと鼻の下に指を近づけると薄っすらと呼吸をしているまだ間に合う!!脳は焼けていない!溶けていない!!
「お願い坊や騎士様の鎧を脱がして、上半身を裸にして」
その声が坊やに届くと巨躯の女性と共に騎士様の鎧を脱がす
それと同時に私も上半身の服を脱ぎすて裸になる、裸になると同時に騎士様に抱き着き、全身から魔力を一気に放出する、私の持つすべての魔力を放出する!!
死んでもいい!!目の前でこの人を殺させたりしない!!!死なせない!!!なにがあろうと死なせるものかぁ!!!!

ぶっつけ本番!練習はしてきた、だから魔力は放出できる!!後は、私から放たれる魔力を余すことなく無駄にすることなく魔力を騎士様に注ぐ!!!!
お願い間に合って!!まにあっておねがい!まにあってきせきを!!きせきをください!!!

声が聞こえる、導かれるように声が聞こえる、今まで魔力に指向性を持たせることはある程度できた
でも、これ程の全身から魔力を解き放ったことはないし、それに指向性を持たせることなんてしたことがないのに

声の通りに術式を使うと、すっと魔力の流れが見えて、自分の指先のように動かせる

奇跡

これは、神の御業

ありがとうございます、神様、始祖様、貴方達を信じてきてよかった、貴方達の声だったのですね。嗚呼、ああ

いける、この感覚であればいける、騎士様の命を繋いで見せる!!!!


全ての魔力を注ぎ終えると私の意識はそこで途切れてしまった、でも、命を繋いだ自信はある…


声がするので、目が覚める
目を開けると、色んな人の死体を埋めてたりする戦士達の姿、そのみんなに指示を出している愛する人の声、どうやら私を抱きしめながら指示を出しているみたい
私のお腹にはあの人の太くてステキな腕がある、ずっと私を抱きしめてくれていたんですね。

待機していた補給部隊も死んだ人の装備をまとめたり、生きている人には出来る限りの手当てをしている。

よかった、生きている人もいる、よかった、少しでも人の命を救えた…

「騎士様、ありがとう」
後頭部を騎士様の胸板にこすりながら生きていてくれてありがとうと伝えると
「こちらこそ、ありがとうございます、僕の命を繋いでくれて」
ぎゅっと両腕で抱きしめてくれる、よかった、救えた、よかったぁ、医療を志して、よかった、日々努力を続けて、よかったぁ、信仰していて、よがっだぁ、あいするひとをうしなわなくて、よかったよぉ、よかったよぉ、私の人生がこのときにあったんだね…



「おい」
なによ、この幸せな時間に無粋にも声を掛けてくるゴミみたいな声の持ち主は
「そんな一撃をもっていたのなら早くに使えよ、もったいぶるな下郎が」
あ?
騎士様の手を振りほどき立ち上がり声をだした糞野郎の頬を右手で全力で叩く
パァン!!
「!?」
倒れないか、ならもう一度、左手で全力で叩く
パァァン!!
「!!??」
まだ、倒れないか叩くのも手がいたいなぁ、んじゃ蹴ろう前蹴りで目の前にいるごみを蹴飛ばす
ドンム!!
「ごぅ」
綺麗にみぞおちに当たったみたいで尻もちをつきながら倒れる。気持ち悪い声もきこえてきたわぁ死ねばいいのに
「ぎざま、われが、おれが、なにを」
気持ち悪い声を出すなよ気持ち悪い
「知ったことか!!お前が何者であろうと!!あの一撃はね!命を使った一撃なのよ!使えば死ぬ戦士として頂に到達したものだけが使える伝説の秘技、死の一撃よ!!」
王家と言えど、この技の名前くらい知ってるでしょ!
「ぁ、あれが・・?」
どうやら知っているみたいで良かったわ、そこまで無知ではないのね
「わかっているの?それを使わないと倒せない難敵だったのよ?あの一撃が無ければこの場にいる全員が死んでいたのよ?」
ゴミを睨みつけるように言い放つと信じていないのか
「な、なら、なんでげ、いや、貴方はいきているのだ?」
そう、一度、放てば死は免れない、相手も自分も、覆すことのできない絶対的で避けようのない死の現象
「そうですよ、その影響でほら、僕はいまだに立ち上がることが出来ない」
そうだ、どうして騎士様は立ち上がっていないの?こんなことを言われたら真っ先に立ち上がって暴力はいけないよって止めてくれるのに

振り返ると視界に映った騎士様の姿は変わっていた

髪の毛が真っ白になって顔も青ざめていて弱弱しくなっている、生気がない?違う、魔力が足りていないのよ、命を繋ぎ止めるギリギリの状態なのは変わらない。
そうだ、あれを飲んでもらわないと!!魔力回復促進剤を

ポシェットから瓶を取り出すと、瓶は割れていた…やだ、このままじゃ、魔力欠乏症で騎士様がしんじゃう
「大丈夫ですよ、あの液体なら捕球部隊から受け取って二本も飲まされました」
うげえぇっと味を思い出したのか舌を出しておどけて見せる、うん、舌が黒いから飲んだのは間違いない、アレを飲むと舌が暫く黒くなっちゃうのよね、液体の色がついちゃうのよね、よかった、嘘をついていないみたいで
「よかった」
ほっと撫でおろしていると
「貴女も飲んでくださいね、だって、ほら見てください」
片手剣の腹をこちらに向けて鏡のように反射させ私の姿を見せてくれる
「私の髪も真っ白…」
騎士様とお揃い、長い髪の毛が毛先まで真っ白になってしまっていた。
お揃いの髪の色になって出てきた感想が
「長年連れ添った老夫婦みたいでステキね」
っと、つい、笑顔で言葉に出してしまうと
「いいですね、お互い、こうやってステキに年を重ねたいですね」
騎士様も笑ってくれた
「ほんとだよ!師匠に先に逝かれてしまったら恩を返せないから、その髪の色が似あう年まで長生きしてくださいよ」
坊やも笑顔で近寄ってくる
「まったくだよ、今回ばかりは胆が冷えたよ、あたいらの恩師がこんな場所で死んでいいわけないからねぇ、あいつらを根絶やしにするまで死ぬんじゃないよ?」
巨躯の女性も冗談交じりに会話に参加する

よかった、この何でもない会話がまた出来て、よかった。

戦士達も仕事が終わると騎士様に駆け寄り各々声を掛けていく。
その光景を呆然と見つめ続ける糞王子

視線をふいっと自分が用意した軍団を見ると、全員が息も絶え絶えで、弱々しく寝ころんでいる、ごく一部のまだ動ける人はせっせと遺品を集め一か所に集めていく
もう一度、こちらに視線を向けるとゆっくりと涙が頬を伝っていった、声を殺しながら泣きじゃくる。

やっと自分がしてきたことが理解したのかしら?…遅いわよ、何度も何度もチャンスをあげたのに、気が付くのが遅すぎる。

その後は、死んだ人を弔って、補給部隊からたくさんの丸薬と、魔力回復促進剤を渡され二人でこれはこれで辛いねって笑いあいながら食べて飲んだ。
夜には騎士様も立ち上がることが出来た、出来たけれど顔色がまだまだ優れない。
あの一撃を放てば死ぬと言われているのに生きているだけでも奇跡なのだから無理をしないでくださいね?っと念を押して座ってもらう。

長い長い四日目が終わる…

糞王子も、もう明日には帰ると言い出すだろう。よかった、多くの人が死んでしまったけれど、戦士達も多少の怪我をしただけ、よかった大切なみんなが死ななくて。
本当に良かった

この日の夜は、騎士様の隣で寝かせてもらった、戦士のみんなも騎士様を中心に騎士様に背を向けながら座りながら眠りにつく。

五日目の朝

朝になれば騎士様も歩けるようになっている、私も問題なく歩けるし、気分も変にネガティブになっていない!
魔力が体に循環しているのだろう、けれど、騎士様の髪の色は白いままだった。

どうやら、私の髪の色も白いままだった、暫くは戻らないのかもしれない、まぁ、無事に街に戻ったら、染めてもいいしそのうち、戻るから別にいいかな。
命に別状がないみたいだし

騎士様が仕度をしていると「今まで、ひどい言葉を投げかけてすまない、名のある騎士よ」糞王子から騎士様に話しかけてくるじゃないの
やっと帰る気になったの?遅いのよ、まぁ、今ならまだ許してあげるわ

「如何がなされましたか?」騎士様も冷静に話を聞こうとする

ガバっと頭を下げて
「俺が連れてきた兵士達を救ってくれたことに感謝している、俺の最後の願いを聞き届けてくれないか?」
ん?なんか言葉がおかしくない?引き返す流れじゃないの?
「もう俺の兵士達は帰ることすら困難かもしれない、だから、力を貸してほしい、少しでも兵士達を生きて返してやりたいと、こんな愚かな俺の願いを聞いてほしい」
よーしよしよし、いいよ。一緒に帰ろう、最後まで守ってあげるわよ。
「ええ、もちろんですよ、生き残ったみんなで帰りましょう」
さぁ、帰る仕度をしましょう、ほんっと今回ばかりは疲れ果てそうよ、何年も準備する時間があって本当に良かった。これが唐突にきてたら確実に準備不足で全員が死に絶えていた未来しかなかったわー

そこから更に、両膝を突き、頭を下げ地面につける。
感謝の気持ちが籠っててえらいえらい、これからはちゃんとするのよ
「頼みがある!」
ぁ?さっき言ったじゃん、いいよって言ったよね?聞こえていないの?
「俺だけでいいから!デッドラインまで導いてくれ!ここまで甚大なる被害を出したのにおめおめと帰れない!せめて、デッドラインまで行きついて帰ったという証を立てないと死んだ者が報われない!!」
はぁ!?ふっざけんじゃねぇぞ!?もうデッドラインまで行きましたって報告すればいいじゃないの、敵の死体でも持って帰れば証拠になるでしょ?破損した血まみれの魔道具もあるじゃないの、それで証拠になるわよ。
「嘘は言えないんだ!…嘘をつくとバレてしまうんだ」
ばっと顔を上げ、首に巻かれている何かを見せてくる
「証言の魔道具を装着させられている、これには、俺の行動が記録されていて、記録された内容と俺が報告した内容が不一致しないように記録され、証言の場で、俺の証言が嘘なのか真なのか証拠として機能し、内容を審議するための証拠として、身につけさせられたんだ、…だから、今絶対に引き返すわけにはいかないんだ…引き返せば、多くの命を無駄にするし、俺自身も…先がないんだ…」
用意周到にもほどがある、絶対にこいつが死ぬように仕組まれてるじゃない、嘘をつけば虚言として処罰され王族として生きる術を失う、真にするためにデッドラインに向かえばこいつは死ぬ…

何処のどいつよ?ここまでえげつない、非道なシナリオを描いた糞野郎は?

これには、騎士様も絶句している、王族とはここまで腐り果ててしまったのかと表情から感情が伝わってくる。
「少し話し合う時間をください」
騎士様は戦士達全員を集めて話し合いを始める

全員が満場一致でこいつだけ放り投げて、私達は帰りましょうっという意見だった。
同意!私も同じ意見!帰ろう、ね?お願いだから帰ろう?
騎士様も頷いて腹をくくった様子だった

「申し訳ありませんが、貴方の望みは叶いません、満場一致でその願いは否決されました」
その言葉を聞いた糞王子は絶望した顔で呆然としている「は、はは、そ、そうか、なら俺は死ぬしか、ない、のか」

「なら、次代の王は■■■が継ぐことになるのだな」

その名前を聞いた騎士様が大きく反応した、有名な人なの?
「まさか、この筋書きを組んだのは」騎士様が恐る恐る確認するように糞王子に言葉を投げかけると
「そうだよ、全ては奴の謀略の果てだ、使えない騎士達を寄こしたのも、俺がこの地に赴くことになったのもすべて奴の謀略だ、大人しく全てを諦めて自殺でもしていれば、それが最良の選択だったのだな…」絶望した糞王子はその場から動かなくなってしまった

騎士様はこちらに戻ってきて一言だけ
「…すまない事情が変わってしまった、目的の場所に行かなければ僕たち全員が死ぬことが決まった」
っは!?ぇ?なんで!?
全員が納得できる内容じゃないので、騎士様が知る全ての情報をみんなに伝えていく。

この筋書きを組んだ人が起こした様々な事件をツラツラと語ってくれた、その残虐性、非道性、凡そ、人が行っていい内容じゃなかった。
そして、そいつの目的も恐らくはこうじゃないかと父から教えてもらっていたので、この作戦の裏が全てわかってしまった。

あいつは、この街にいる全てが不必要だと考えていて金食い虫のこの街を一旦リセットするためことを目標としている
なので、あいつが次代の王になれば、僕たちは否応なしにデッドラインを超えて大穴に特攻させられる未来がまっている

今まで投資してきたのだから、現在いる僕たちが逃げないようにしっかりと根回しをして、結果を出すまでは逃がさないだろう
この作戦が失敗したら、責任を取らすつもりでもいるだろうし、僕たちも後に引けない状況なんだ。

そして、熱意ある人達、その全てをこの街から排除しきったら、人身御供だけをこの街に送り込み、この街を最小限の費用で運営していき、結果的にこの街全てを掌握し、他の大陸から大穴から獣の侵略を防ぐために献金してもらっている運営費を、着服し懐に入れた後に、王都で武具や術式の研究費用にまわして、他の大陸を侵略することが最終目標だと父から聞かされている。

この作戦が失敗すること=僕たちの全てが失われることが決定するんだ

その言葉を聞いた全員が、驚きを隠せないでいる、王国筆頭騎士として代々、王族との繋がりがある一族が言う言葉は重みが違った、信ぴょう性が高すぎた。
心の底から絶対的に信頼を寄せている人が言う言葉に偽りがあるとは思えない。

「どうして、事前にその事を教えてくれなかったんだ?そうすれば、もっと歩みよれたんじゃないのか?いや、迂闊に名前を出せないか、何処に隠者が潜んでいるのかわからない相手だからか…この遠き地だからこそ、名を出せたのか…これを僕は不幸だとは思わない、皆が助かる最後の希望だと思っている」

真剣な表情で「みんなの未来を守るために力を貸してほしい」言葉を言うと同時に頭を下げる。
全員が腹を括る、真実を知ってしまったらもう後に退けない、自分たちの未来が懸かっているのだと知ってしまったら戦士達からすれば退くという言葉が無くなってしまう。

全員が声を合わせて
「行きましょう、デッドラインへ」
あんな話を聞かされてしまったら行くしかない、だって、あの街にいる全ての人が死ぬ未来しかなくなるってことは、先輩も、畜産の人も、みんなみんな、死ぬことが決まってしまう。

ちらりと巨躯の女性を見ると、どうやら、心惹かれているあの人を思い浮かべているのだろう、愛は鎖、恋は縛られるの。
恋して愛した人の為なら女はね命を賭けれるの。人生最後の博打にね。

騎士様がみんなの言葉に涙を浮かべながらありがとうと呟くと糞王子の元へ行き
「みんなの意志で貴方をデッドラインまで連れていくことが決まりました」そう告げると糞王子はゆっくりと頭を上げ驚いた表情をしている

「よ、よいのか?」震える声で確認をとる
「はい、事情を知ってしまったら、もう、僕たちにも選択肢は無かったんですよ」悲しそうな声が聞こえてくる、死地に赴く覚悟はあったけれど、引き返せる可能性もあった
だけど、それが幻で選択してはいけない選択肢だったのだと、嵌められてしまったのだと知ってしまった。

悲しい気持ちが抑えきれないのはしょうがない、しょうがないんだよ。
「その代わり絶対に約束してください、僕たちの未来を守ってくださいね」
騎士様が出した言葉に糞王子は
「約束しよう!どんな結果になろうとも!お前たちを守ることを約束する!!絶対にこの恩は忘れない!!」立ち上がり騎士様の手を握り目に涙を浮かべている。

私達の、きっと、人生で最初で最後になると思う、デッドラインへのアタックが本当の本気で始まる。

騎士様が糞王子を含め念入りに作戦を決めていく。
糞王子を連れてきた一団は補給部隊と共に帰還することになる。

唯一、昔から付き合いがあって連れてきたくなかったが、どうしても参加したいと付いて来てくれた騎士もいたみたいで悲しいことにもう、死んでしまったようだ。
なので、信頼のおける技量のある騎士はいない、足手まといにしかならないので、帰還してもらうことになる。

糞王子は目立つ鎧を脱いで怪我をするリスクよりも、体力温存、および、行進力向上の為に鎧を着ない、メリットのある方を選らんで、進んでもらう。
「少しでも生存する確率を上げる為なら腕の一本位無くなっても良いと、この大地の険しさを知った今なら納得できる」折れた左の前腕をさすりながら出てくる
その言葉に、糞王子が本当に性根を入れ替えたのだと伝わってくる。

それに少しでも、皆の役に立つためにも、持っても影響のない範囲で荷物を持つことを自分から提案してきた。
なので、背負うタイプの荷物入れを持ってもらい、中に丸薬を入れて運んでもらう。

捕球部隊と一緒に居る一団と別れ、戦士達は進んでいく。

かなり消耗した今では少しでも早くデッドラインに行き、素早く引き返すことを目的として進む

極力戦闘は避ける、隠密重視で歩を進めていく。

索敵班が常に全開で索敵を行い牛歩でも構わない、安全に、敵と遭遇しないように進んでいく。

時間はかかってしまったが水場に到着する、その間に敵との遭遇は無かった、水場にいるワニタイプの獣もさくっと仕留めて出来る限りの休憩をする。

幸いにも直前まで補給部隊と共に入れたので1日や2日くらい長引いても大丈夫なくらい食料もある。
焦ることは無い、慌てず、確実に歩を進めよう。

水場を後にして歩を進めていき、危険な密林に入る前に一夜を過ごす

夜に索敵班が敵を見つける、最悪なことに二足歩行タイプで、どうにかして戦闘せずに済む方法が無いか模索する
弓を射って着弾した場所で音が鳴るようにして敵を離せれないか試してみる、
問題はどうしても弓をしならせて矢を放つとビンっと音が鳴ってしまうことだ、その音に気が付かれてしまったら位置がばれてしまい戦闘になる

隠れてやり過ごすことは出来ない…
あの位置から敵が離れる可能性を運に願う方が、戦闘になる可能性が高くなるし、相手に接近を許す方が危険だ。

どうせ、戦うのであれば敵がこちらに向かってきたところを待ち構えている方が戦いやすい、
今みたいに息を潜めて過ぎ去ってくれるのを待っている状態で、運悪く見つかって戦闘になる方が後手にまわりすぎて確実に被害が出る。

弓兵二人に頼んで、着弾ポイントを二か所にしてもらう、敵がギリギリ気になる場所と、それよりも少し離れた場所
その二か所に矢が着弾するように矢を射ってもらう、矢の先端には何もつけない、鉄の矢じりも外す、矢が地面に刺さる音だけでも相手は反応するだろう

風が吹いた瞬間に矢を射ってもらった、風の音で少しでも弓の音が響かないように考慮しての判断

矢が地面に着弾する音で二足歩行が音のした方向に首を向ける、その少し後により遠い場所で音が鳴ると二足歩行はそちらに方に向かって歩き出す。
少しでも、敵との距離を離したいので、暗闇の中、各々が闇に紛れる為のマントを羽織りながら、匍匐前進で敵との距離を離していく。

夜の密林は非常に危険だけれど、入らざるを得ない状況の為、匍匐前進で少しずつ少しずつ進んでいく。

索敵班が密林の中の音を拾って一歩、ううん、ひとかき、水場で進むために手で水をかく様な感じで、少しずつ少しずつ進んでいく。
索敵班が敵を見つけると、地面をトントンと叩いて教えてくれる、地面を叩く数で、どの方向に敵が居るのか教えてくれる
トンは前、トントンは時計回りで右、トントントンは後ろ、トントントントンは左方向と曖昧な方向を知らせてくれる

トントン、つまりは右方向、耳を澄ませると、私では聞こえない音だけど索敵班からすると何かしらの音を拾ったのだろう。
誰も動かないで静寂な時が進む、動いたり、呼吸を乱すと敵に見つかってしまう緊張感、これが長く続けば続くだけ神経が擦り減って疲労が溜まっていく
これだったら、戦って敵を仕留めたらいいのでは?って素人の私も思って騎士様に聞いてみたことがある。

奥地に行けば行くほど連鎖的に敵が出てくることが多い、一度でも戦闘を始めると長丁場になる。
密林の敵は、至る所に隠れているので、奥地にある密林は可能であれば避けて通るのが鉄則。

どうしても避けて通れない場合は昼の場合であれば、四方をしっかりと固めてフォーメーションを一切崩さずに歩くのが基本
夜は動かないのが基本。夜行性の獣が多いのか、絶対的に安全地帯は無いのが夜の密林、息を殺して朝を待つのが正解。

各自、息をひそめ続ける、微かな音が木の上から聞こえてくる、何かが通って葉っぱを揺らしたり当たったり擦れたりする音
風とは違う音の鳴り方、索敵班なその細かな音の違いを聞き分けて方角まで当てる。

音が聞こえなくなったり遠くに行ったと思うけれど、全員、動こうとはしない。
索敵班がGOサインを出すまでは何があろうと絶対に動かない。

息を潜めていると少し先にある木々の間を大きな獣が飛び跳ねていくのが一瞬だけ見える。まだ、あんなに近くにいたの?
全然、わからなかった、音も気配も全然しない、密林は色んな音がするので、どれが獣の音なのか素人では判断がつかない。

下手に動かないで夜が明けるのを待ち続ける。
太陽の光が薄っすらと見えてくると少しだけ研ぎ澄まされた警戒心が緩む
それでも、警戒を怠らず、慎重に匍匐前進で進んでいく。

太陽が完全に空に上がるころには匍匐前進から徒歩に切り替え、慎重に進み、厄介な密林エリアを抜ける。
恐らくだけれど、文献通りであれば後、半日も歩き進めれば、ある大きな岩が見えてくる

その岩をもう少し進んだら完全にデッドラインを超えることになる。
人類が引き返すことが許される最後のポイントまであと少しということになる。

到達ポイントに行く前に、最後の休憩を取ることになる
この先に敵との遭遇率は跳ね上がるので休憩できるポイントは恐らくここが最後ということになる

丸薬を食べて、魔力回復促進剤を各々が飲む、うがい薬はもう残っていないので苦虫を噛み潰すように飲む。
戦士達は全員が魔力を消費しながら戦闘を行うので必然的に魔力が減っていく。
なので、飲んでおかないと何処かで魔力枯渇の症状が出てきてしまいかねないので飲んでもらっている。

全員が同じように眉間に皺を寄せている姿を見て糞王子が「どんな味なのか逆に気になりますよ」と興味深そうに見ていたので
坊やが一滴だけプレゼントするとその一滴で眉間に皺が出来てしまった。
王族と言えど、同じリアクションすることにみんなが声を出さないで静かに笑っていた。

最後の休憩ということで、一人一人、診察をしていく、大きな怪我をしていないと思うけれど、何処か捻っていたり傷口が化膿していないかのチェックを怠るわけにはいかない。
全員の体を隈なく隅々まで診察をしていく、ついでに糞王子も診察してあげると
「まさか、この様な場所に聖女様がいらっしゃるとは思っておらず、数々の失言、ご容赦いただきたく」と頭を下げてきたのが驚きだった。
聖女?私が?違う違うっと否定すると

「何か理由があるのだとお察ししております、この廻り合わせこそ、信仰の賜物」
聞く耳を持たないのでこの場合は否定しないで何処で気が付いたのかと、勘違いにのってあげて話を聞くのが一番

「それは勿論、あの神々しい出来事です、死にゆく定めを覆すために己の命を分け与えることで助けるような奇跡、聖女様しか出来ません、最初は何をしているのか判断できかねていたのですが、お二人の会話を聞いて、アレこそが神の御業だと、奇跡を目撃することが出来て恐悦至極でございます」
やっぱり、王族ともなると信仰はしっかりとしているのね~態度が180度変わりすぎて誰だこいつ感がすんごい…
折れた前腕は固定してあるから、まぁ、大丈夫でしょ、戦闘するわけでもないし

全員のチェックが終わって、最後に騎士様の容態を診察したいけれど、ミーティング中だしなぁ…

聖女伝説ねぇ?…いるのなら出てきてほしい物よね。だってさ私が知る内容って結構とんでもない話よ?
死者をも蘇らし、吹き飛んだ肉片すら触媒も無しに再生させ、自身は心臓を貫かれようとも目を開け心臓を再生させ、民を救いたもうたって、盛りすぎでしょ?

始祖様の伝説の方がまだまだ、現実味があるって言うか、肖像画もあるし、起こした奇跡の数々が現場に残されている時点で、始祖様は本当に実在していたのよね、経ったの400年?ほど前の出来事だし、聖女伝説はいつの時代かもわからないから、眉唾物なのよね~。きっと教会が創った、ね?そういうことのためのものでしょ?

本当に聖女伝説があるのだとしたら、始祖様と一緒に是非とも降臨していただきたいね。

聖女は信じきれないけれど、始祖様、或いは、始祖様をこの世界に導いたであろう神様は信じています。
奇跡を体現したものとして、あの瞬間は本当に神様がいて、私のたった一つの願いを聞き届けくれたのだと想っております。

騎士様も漸く最後のミーティングを終えたみたいで、診察に向かうとどうやら、時間がないみたいで診察をすることが出来なかった…

騎士様は怪我なんてしていないし、あれからも頗る体調がいいから心配いらないです大丈夫ですって笑顔で応えてくれるけど
本当に大丈夫ですか?やせ我慢してますよね?何年貴方を見続けてきたと思っているんですか?…
わかっていますよ、無理をしているって、歩くのすら辛いのを知っていますよ、たぶん、剣すら振れないくらい肉体が限界を迎えつつありますよね?

私の魔力を上げたいけれど…私も自分の体だからわかってしまう、限界が近いってことを、日常生活を安心安全な場所で過ごすのであれば何も問題は無い範囲だけど
魔力を使用することは一切できない、だって、魔力の気配を体内で感じ取れないの…

なのに魔力枯渇症状が出てこないのはきっと、神様が私を見守ってくれているからだと信じている。

騎士様がやせ我慢をしているのであれば、私からは何も言えない、だって、騎士様が騎士道を歩むのであれば、愛する妻としてはその背中を見守るのが王道ですものね。
心配で心配で心が張り裂けそうだけれど、信じることもまた、愛する隣人としての務めだもの…

かといって、騎士様の状況を全員に知らせる必要なんてないくらい、戦士達、全員が騎士様の容態を理解している、騎士様がみんなの未来を守ろうとするのであれば、みんなはその騎士様を全力で支え、数ある恩義を少しでも返すために尽力を尽くそうとしてくれている。

じゃなかったら、騎士様の申し出を断って、帰るという選択肢を選ぶもの。



食事に、薬、ケガの確認、フォーメーションの見直し、装備の点検、メンテナンスも終わる、もう、この場ですることはない、進むときが来てしまった。

これが最後の会話になるのだろうと全員が思っていた、街を出た時から死ぬ覚悟はしてきた、度重なる出来事から生きて帰れるのだと淡い希望を抱きながら進んできた、最後の最後に遠い遠い場所で自分たちは関係のない場所で私達の運命は決定づけられていることに気が付いてしまった。

希望か絶望か、待ち受けている。人が生きる短い人生で最大で最後の試練、人類の未来を背負った旅路に、皆が何を胸に思いを抱いたのか。

坊やはきっと、生まれてくる我が子のことや妻のこと、だろう。
巨躯の女性も、故郷を守ることや、気になる男性の事こと、だろう。
戦士達も、胸に抱くのはきっと愛する人のこと、だろう

私は、当然決まっている、騎士様が約束を守って、一緒に生きるということ

騎士様は、今何を想っていますか?自分の事ですか?息子の事ですか?奥様のことですか?人類の未来の事ですか?

その片隅に私はいますか?

人はアイなくして生きていけない、アイがなければ何もうまれないし、すすめない

そんな人類を神様はアイしてくれているはず、そうじゃなかったら、過去にわたって人類を守ってくれていないもの。
だから、私はアイを背負い生きる、きっと、今この場にいる全員が各々のアイ(想い)を背負っている。

騎士様のアイは何処にありますか?

戦士達が、最後の人生の休息を終え歩き出す。

私の脳裏には皆が交わした最後の言葉がリフレインしている。

坊やが騎士様に「子供の教育とか教えてくださいね」騎士様は困った顔で「僕はほとんどこの街にいるからなぁ自信がないなぁ」
騎士様が巨躯の女性に「君はあの人と結婚するのかい?」顔を真っ赤にして「ば、っばかいうんじゃないさぁねぇ!!」満更でもない顔をしていた
照れ隠しで「そ、そ、よりもさきに、こいつの結婚式がさきだろぉ?」坊やの首根っこを捕まえている「そ、っそっすよね!みんな参加してくださいね!」

幸せな日常の会話、絶対にこれを最後にさせない

幸せが何かを私は漸く、知ることが出来ました。

何気ない日常にこそ、幸せや愛があるのですね…どうして、神様は私に戦う力を授けてくれなかったのだろうか?きっとその意味をいつかは知る日がくると信じて、進んでいく。
全てにおいて意味がある…その人が持つ力、才能、心の在り方、全ては神の導きなのです…

幼い頃に聞いた、神官様が祈りを捧げる前に唱える祈りの言葉

嗚呼、始祖様、願い奉ります、私の幸せをお守りください。


気が付くと、あと数刻もすれば日が傾き夕暮れになるだろう
ここまで何一つとして敵と遭遇することが無かったため、想定していた時間よりも早くに到着することが出来た

そう

デッドライン

人類が渡ってはいけない最後の道しるべ遠くからでも視認できるほどの大岩に

これより先は死地、渡ってから帰ってきたものはいない。
その大岩から歩数で言うとたった10歩も無いところまで全員が辿り着く

糞王子はゆっくりと歩き、大岩に手を触れ
「これで、我は王族として初の偉業を成し遂げた、人類が到達して帰還できなかった最果てのエリア、デッドラインを渡ったのだ」
直ぐに大岩から離れこちらに振り返り、戻ろうとする。

これで、目的は達成したことになるのだろう。デッドラインに到達して生きて帰ってきたのだから。

糞王子が戦士達と合流したら全員がその場から急ぎ足で帰ろうとしていた、歩いてきた道を戻ろうと振り返る。
ここから先に用事はない、目的は達したのだ、帰り道へと一歩を踏み出したとき、一瞬だけ影が頭上を通る

なんだろうと?影の正体を目で追う

後ろにいたはずの糞王子が私達の頭上を通り越して前方に飛んでいく
「警戒態勢!!」
後ろを振り返り、大岩の方に体を向けながら、私はバックステップで吹き飛ばされた糞王子の方に駆け寄る

どこ?敵はどこ?見えない?どこにいるの?

索敵班が気が付かないはずがない、何処にも敵はいなかった!上空にも地中にも!!あれ程までに優秀な索敵班が気が付かないわけがない!!!

大岩の前にゆらりと視界がぼやけ、大きな大きな敵が忽然と現れる、二足歩行タイプなのに、今までは違う出で立ち?なにあれ?
何処から出てきたの?え?ひかり?光、だ、光を屈折させていた!?そんなことができるの?認識を阻害する術式!?そんなものがあるの?
アナタのせかいにはあるの?

敵から視線を外すことなく、糞王子の元に辿り着き、一瞬だけ視界を糞王子に向け、ケガの状況を見る、幸いにも左腕を犠牲にして命はある。
…左腕はもう無理ね、最悪、街に帰ったら切らないと、止血だけもしないと出血で死ぬ。

手早く布で左腕の付け根を縛り、痛み止めを糞王子の口の中に本来であれば一つの小瓶だけでいいのだが、3つの痛み止めの瓶をあけ口の中に流し込むように放り込み飲ませる。
これでも響く様であれば注射でダイレクトに折れてぐちゃぐちゃになってしまった左腕の神経を壊死させるしかない。
運が良ければ、街に帰っても切り落とさなくても済む、未来につながる可能性が1%でもあれば、壊死させる手段は取りたくない。

視界を前に向けると地中や、地表に耳をあてて音で索敵をする戦士の胴体に大きな穴が開き、ゆっくりと倒れる
鎧なんて紙屑もどうぜん、溶けるように、焼けた臭い?…人の胴体にあんな大きな穴が開いてしまったらどう頑張っても助からない。

ぇ?魔道具を二つも持っているの?

巨躯の女性が怒り狂った声を出しながら全身の筋肉を捻り、真横水平に斧を振る、全身から生み出される力を、その振るう斧に集約させた渾身の一撃はどんな巨木でも一刀両断されるほどの膂力、その力を敵の左わき腹めがけて、放つが

左手であっさりと受け止められてしまった、腕を伸ばして肩と肘を真っすぐにして骨と腕の筋肉で衝撃を受け止めるのではなく、
肘を曲げ、手首を曲げ、逆手で、飛んできたお皿でも掴むように手のひらで軽々と掴まれてしまっている。

それを見た全員が悟る、目の前にいる敵は理不尽で死の形をした何かだと
坊やが動きのとまった敵の目に向けて槍を投げるゼロ距離での投擲、確実に刺さると誰もが思った

吹き飛んだのは坊やの方だった

私が居る場所よりも遠い場所に吹き飛ばされた、坊やに視線を向けると、鎧の表面が溶けている。
当たった場所に大穴が開かなかったのは純粋に鎧の性能のおかげ、あの鎧じゃなかったら確実に坊やは絶命していた。

坊やの鎧を撃ち抜けなかったのが楽しくなかったのか、自分の右拳を訝しむ様に不思議そうに見ている。

坊やが作った時間を無駄にしないように、弓兵部隊が切り札にとっておいた、特製の矢じりで最大限に弓を振り絞り全力で矢を穿つあの速度、確実にあたる!
矢は確実にあたった、そう、敵が伸ばした指の先に、刺さることなく指先で矢がとまり、ゆっくりと地面に落ちる
あの熊から作った鉄をも軽く貫通する強固で鋭利な矢じりを指先で傷一つ、つかないの・・・?

もう一人の弓兵も矢を穿つが敵がデコピンでもするように指を振った瞬間に矢が吹き飛ばされ燃える。

ずっと左手で斧を掴まれ身動きが取れない巨躯の女性が敵の攻撃によって吹き飛ばされる。
斧をぽいっとその場に捨てながら巨躯の女性の体を撃ち抜けなかったのが、やっぱり納得できていなかったみたいで訝しく不思議そうな顔で右拳を見ている。
ゆっくりと視線を吹き飛んでまだ、立ち上がっていない坊やの方を見てにたぁっと笑う。

満足のいくまで殴ればいいか

誰もがその笑顔を見て何を考えているのか一瞬で理解する

死ぬ

坊やは確実に殺される

敵が坊やに向かって体の向きを変え歩こうとする、直ぐ近くにいる騎士様には一瞥すらない。
目の前にいる同じような鎧をきた大男には、眼中もなく見向きもしない、だって、騎士様は戦う力が残されていない、それを敵は一瞬で見抜いたのだろう
糞王子を殴り飛ばしたときにおもちゃとして楽しくないやつと楽しいやつを選定してしまったのだろう、直ぐに壊れるおもちゃよりも壊れにくいおもちゃの方が楽しいから

お願いです、神様、助けてください、さきのように奇跡をください

お願いします、騎士様、その手に触れている片手剣を抜かないでください

おねがいします、かみさま、ぼうやを助けてあげてください、彼は父親になったばかりなんです

おねがいだから、たちあがって!貴女の常人離れした力がいるの!!

どうして!私には戦う力をさずけてくれなかったんですか!!!!
闘う力がないから騎士様が…

見えてしまった

騎士様の全身から立ち上る力の流れを

残されていないはずなのに、湧き上がる魔力の渦

その魔力が一転に集約され、騎士様の愛刀が光り輝く、その輝きはとてもまぶしく太陽そのものだった
光は質量、光は熱、始祖様が放った伝説の秘術が一つ、目の前にある輝きは伝説の歌に残された光景そのものだった

ホーリーバースト

太陽が如く光り輝く剣を上段に構え、敵に向かって振り下ろす
剣に集約された光は振り下ろされると同時に解き放たれ、敵を押しやり、大きな大きな大岩に打ち付けられ頭から胴体に向けて真っ二つに切り裂かれる、
その衝撃は大地をも裂くほどの威力だった

振り下ろされた片手剣の切っ先は地面に当たると衝撃に耐え切れずに砕ける
騎士様は一撃を放つとゆっくりと倒れる

かけよる

服をぬぎ、また魔力を注ぐために大切な彼の命を繋ぐために、私の人生を亡くさないために

かけながら、体内にあるはずの魔力をさがす!さがす・・・さがすの!!

でも、魔力を感じないの…あの時のような感覚が無いの!!お願い、思い出して!あの感覚を!!

騎士様の元に辿り着き、体を起こす、もう意識がほとんどない、呼吸も…
「お願いします、死なないで」
魔力を放出しようにもでてこない…でてこないの…

「ぁ、こ、え?」
騎士様が静かに声をだす、まだ、意識がある!!間に合う!!お願いだから力を貸して!!私が聖女として神に見初められたのならお願いだから力を!!!奇跡をもう一度!!!

「しなないでしなないで、おねがいおねがいだから、でてきてわたしの…おねがい…」
涙があふれ出る、こぼれ出る。とめどなく出てくる
あふれ出る涙をそっと何かに拭われる、冷たい手のひら、騎士様の手のひら
「なか、ないで、やく、そ」
ほほえまないで!!!さいごまで、やさしくしないで、いきて、おねがい、いきてよぉ

「まもれな、」
めがもう、みえて、、、

「あいしてます」
わたしも、せかいでいちばん、あいしてます!!!

すっとおちる、きしさまのて…もうにどと・・・ふれてくれない・・・やさしいやさしいて・・・

いまになって感じるまりょくのはどう

それを唇に集める、集める!

おねがい、まにあって

唇をかさね魔力を騎士様の体内におくりこむ








享年 24歳 偉大なる戦士長 敵と相打ちになり、月の裏側へと誘われる







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