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とある人物達が歩んできた道 ~ 寵愛の加護 ~
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姫ちゃんが目を覚ましたのか、ゆっくりと上半身を起こし、両手で目をこすった後、ぽけっとした表情で、周りを見ている。
自分が何処にいるのか理解できていないのか、寝ぼけているのか、状況が読み込めていないので、「大丈夫?」と言いながら頭を撫でると、此方を見た瞬間にぽろぽろと大粒の涙を流して
「お母様!会いたかったあいたかったぁ!!」抱き着きながら大きな声で鳴かれるものだから、つい、優しく頭を撫でて上がる。
昨日の言動から推察して考える、きっと、この子のお母さんは若くにして亡くしてしまったではないかと考えられる。
幸いにして恐らくだけれど、私に母親の面影を重ねているのだと思う…歪な感情ではあるけれど、こんなにも激しく求められてしまうのは悪い気はしない、むしろ、胸が苦しくなって、この子を何があろうと守らないといけない気分になる、永遠に感じることが出来ないと思っていた母性を、私はこの子に与えられている、出会って経ったの一日だっていうのに、私の心はこの子に惹かれていく、大切な存在だと、守ってあげないといけないと、心の底から湧き上がってきて、湧き上がらる感情を噛み締めるように…感じてしまう…
長い間、涙を流して落ち着くのを待っていると、すっと腕を伸ばして距離を取られてしまう、ちょっと寂しい…ううん、凄く、寂しく感じてしまう、小さく拒絶するような行為に、寂しさという感情が心を埋め尽くそうとしてくる。
「ご、ごめんなさい、落ち着きました、その、短い付き合いの人に、その」
恥ずかしい処を見せてしまったことに羞恥心を抱いているみたいなので、腕を伸ばして離れようとするけれど、もう一度、胸元へと力強く抱きよせる、その程度の感情、捨てなさい、甘えていいのよ。むしろ、甘えて欲しい。
「いいのよ、貴女さえ良かったら、私の事をお母さんと想ってくれていいのよ、こんなにも母親を求めるってことは、色々と、あったのでしょう?貴女の寄る辺に成れるのなら、私は構わないわよ」
ぽんぽんっと背中を叩いてあげると小さな声で「…ぃぃの?」確認を取るような声が聞こえてきた、優しく背中を叩き頭を撫でながら「甘えていいのよ」本当の我が子の様にあやしてあげると鼻を鳴らしながら「ありがとう」ぐっと力強く抱きしめ返されてしまった…たったこれだけの意志疎通なのに、私とこの子は深く繋がった様な気がした、満たされたような気がした…
出会ってから本の数時間しか、過ごしていないのに、どうしてかわからないけれど、お互いの間に確かな絆が生まれているのを感じていた。
私はこの子を守るために、生き抜いてきたんじゃないかと錯覚を覚えそうなほど、愛おしくて仕方が無かった…
それから数日間は、姫ちゃんは私と共に動き、仕事中も行動を共にした。
私が研究をしている魔道具の内容にも凄く興味があるみたいで、目を輝かせていた、まさに興味津々と言った感じだった。
試しに現在研究している魔道具を触れさせてみたら、驚きの速さで構造を、内包されている術式を理解していく、更に、私達にもわかるようにと驚きの速さで解析して、驚きの速さでメンテナンスを終え、起動までしてしまった、その姿を見て
ぁ、これ、ガチもんの天才じゃね?うちの子、神の子じゃね?っと、驚きの日々だった…
私だけじゃなく、その様子を見ていた、奥様や研究塔のメンバーに、術式研究所の皆も、これは神童では?目の当たりにした驚くべき光景を、包み隠さず色んな人に話をすると、瞬く間に噂が広がり、多くの街の人達が姫ちゃんが魔道具に触れている姿を見て驚いていた。
試しに、手に持っている魔道具って、どんな効果があるのか姫ちゃんに確認してみると驚きの返答が返ってくる。
会話の内容が非常に複雑で難しかった、要約すると、解析している魔道具が、魔力を込めると物質を動かすことが出来る特殊な魔道具だと判明。
ぇ?念動力?何それ?新しい概念?ある地点にある物質を魔力を込めることによって押し出したり、引き寄せたりすることが出来る魔道具で、これは一定の方向に向かって魔力を込めると力強く押し出して、射出するようにできている…ほえ?ど、ぇ?姫ちゃんて何歳?12歳?ほ、ぇ?・・・・ぇ?
私達が何年も研究し研鑽を重ねてきた研究結果を一瞬で飛び越えていくこの姿を目の当たりにした全員が確信した。
この子は術式に愛されし神童だと…神の子だと…
そこからはもう、この街に新しい心臓が産まれたのかの如く物事が物凄い速さで進んでいく。
一日、ううん、一時間、ううん、1分、ううん、1秒、そう、1秒ごとに物凄い速さで物事が動いていく。
私達が何年も何年もかけて進めてきた研究が一足飛びで完成していく、私達が勘違いしていた内容も秒速で正され正しい物へと切り替わっていく。
その姿を見て疑問を抱く、誰しもが不思議と思ってしまう当たり前の疑問
この子は、何処からこの無尽蔵な知識を得たのだろうか?
この子には何か、大きな謎を感じる、時間がある時にでも確認したほうがいいと本能が告げている、この子は、普通じゃない、特殊すぎる、全てにおいて規格外すぎる…
普通の12歳じゃない、確認した後に、もし、災いの種だったら、私は…脳裏をよぎる、災いの種を摘むために街中の人がこの子を責め立てようとする恐怖の映像が・・・
頭を振ってその光景を否定する、絶対にそんな状況にさせない!!!
その為にも、この子が災いをもたらす存在じゃないように育て上げる、うん、守りながら道徳を教え、導けるようにする、この子の本当のお母さんが出来なかったことを私がする、してみせる!!!
ただ、問題がある、それは、出会って間もない私に姫ちゃんは、自身の秘密を、隠している謎を打ち明けてくれるのかどうか…
私は勝手に絆を感じているけれど、姫ちゃんからすると、どうだろうか?お母さんの様に慕ってくれていると思う、あの表情や甘える仕草は嘘ではない幻ではないと感じている、姫ちゃんの懐に入れるのはきっと、私だけだと思う…
踏み込んでいいのだろうか?
脳裏に過る、拒絶される姿を、吐きそうになり胸が張り詰める、泣きそうになる、耐えられない…
ほんの数日、一緒に過ごしただけで、私はこの子に依存しつつある、この子に嫌われることを心の底から恐怖している、拒絶されてしまったら、心の拠り所を失ってしまいそうで怖い、地に足がつかなくなる、なんて魔力なの?なんて魅力なの?
嗚呼、そうか、私の壊れそうな程脆い心をこの子が満たしてくれたからこそ、この子に嫌われたくないと心の底から感じてしまっている…
この子に嫌われることを恐怖しながら姫ちゃんを見ていると、唐突に姫ちゃんがふらっと倒れそうになるので慌てて抱きしめると体が冷たい?心臓が止まりそうになる、白髪の儚げな少女、最初に抱いたイメージは正しかった、この子は、命が…
慌てて、自室に姫ちゃんを連れていき、彼女の周りに漂う魔力を全身で感じようとすると、心が体が、心臓が、脳が凍り付きそうだった…
慌てて、魔力の流れが見える魔道具を取り出して姫ちゃんを見る、吐きそうになる、心が砕けそうになる
なんで、どうして、おかしい、ありえない!!!
姫ちゃんの体から途方もない量の魔力が溢れ出て流出している、こ、こんな、こんなのありえない!!!これ程の量を霧散していれば、魔力を失ってしまって、直ぐにでも死んでしまう!!!!
慌てて姫ちゃんの服を脱がし自身も服を脱ぎ、全力で私の魔力を姫ちゃんに注いでいく、お願い、死なないで、こんな、出会ってすぐにお別れなんて考えたくない!!守らなきゃ、守らなきゃ、まもらなきゃ、いやよ、守るって決めた、そんな直ぐに、旅立たないで!!!
あの頃の感覚が私に宿る、竜が導いてくれた魔力を操作する感覚、姫ちゃんから溢れる魔力も干渉することが出来る、空中に魔力が霧散する前に捕まえて、私の中に戻し、姫ちゃんの体に私を通して戻していく、戻す過程で魔力の質を変えて抜けにくくするように願いを込めて、全力で魔力を注いでいく!!
長い時間、姫ちゃんに魔力を注ぎ続けていると、姫ちゃんの体から魔力が流出する量が多少は減っていくが、それでも、尋常ならざる量が溢れ出ている…
先ほどまで真っ青だった姫ちゃんの顔も真っ青から白い色に戻っていくが、それでも顔色が悪い…
最近、少しだけ色が戻ってきた私の髪もこれによって、真っ白に戻っていく…
よくよく見ると、この子の髪の色は白色だけれど、金色に見えるようにしている?嗚呼そうか、色がわかりにくい私だと、白色に見えるだけで、この子は髪の色を金色に偽装している?だとすると、本当の色は白色?それとも、私と同じように元は金色で、魔力が枯渇しているから白色になっているってことかしら?
どうして、どうして、この子はこんな、こんな状況になっているの?わけが、わけがわからない、特殊すぎる特別過ぎる、こんな症例見たことも聞いたことも無い…
魔力を注ぎ続けて、私の蓄えていた魔力、全てを注ぎ終えると、姫ちゃんの顔色が赤くなり、健康体の色になると、薄っすらと目を開けて
「…お母様?」ぼんやりと私を眺めている、その切なくて、儚げで、今にも消えてしまいそうな、命を抱きしめて
「ぇぇ、そうよ、貴女のお母さんよ、お願いだから、私を置いて死なないでお願いだから」
大粒の涙を流して懇願してしまう、失いたくない、純粋にその気持ちだけが溢れ出てくる…
長い時間、お互いの体温を確かめ合う様に抱きしめあっていた…
「お母様、ありがとう、もう大丈夫、心配をおかけしました」
離れるきっかけはいつも、姫ちゃんから、ね、姫ちゃんがゆっくりと私の腕の中から、抜け出て脱がした洋服を着るので、私も同じように服を着ていく
「…こんな、こんな方法があるのね、知らなかった」
姫ちゃんは何処か遠い目をしながら呟きながら、姫ちゃんの実家から後日、送られてきた荷物が入った木箱からあるものを取り出す
「命を救ってもらった人に、事情を説明しないのはおかしいよね、あのね、これ、読んで欲しい」
分厚い本を何冊も取り出して渡される、表紙に書かれている文字を読むと、恐らくだけれど、日記だと思う、日記のタイトルが寵愛の巫女、その一族が、紡ぐ日々だから、たぶん、日記じゃないかな?寵愛の巫女?・・・・何処かで聞いたことがあるフレーズ、何処だろう?思い出せそうで思い出せない…
「そこにね、書かれている内容は真実であり、絶対に他者に漏らしてはいけない内容だからね?お母様だから、見せるんだよ?」
表紙をじっくりと見ていると、相当、重要な文献であるのだと姫ちゃんの表情からも理解できた。
数ページを捲り、読んでいく度に湯水のように溢れ出てくる驚愕の事実を、受け止め続けていく…
私が読んでいる姿を緊張してみているのか、姫ちゃんから薄っすらと汗が滲んでいるので、すっと立ち上がって、姫ちゃんの汗をタオルで拭い、お茶を沸かして紅茶を入れてあげる、紅茶の入ったカップを渡すと嬉しそうにちびちびと飲んでいく、仕草が本当に可愛い、見ていて癒されるわぁ…
姫ちゃんの容態も落ち着いてるのを見て、心の底から安堵しながら本を読んでいく、読んでいる間、姫ちゃんは足をプラプラとして暇そうに座っているので、何か楽しい物でもあるかな?今外に出すのはちょっと危険な気配を感じるから出来れば、見える範囲で遊んでいて欲しいけれど、うーん、どうしたものかな?
チラチラと私の研究資料が入っている棚を見ているので、姫ちゃんなら理解できるだろう、そして、その中から、私が研究している真の目的も紐解いてしまうだろう…
本来であれば絶対に見せるわけにはいかない恥部だけれど、姫ちゃんもこうやって秘密を明かしてくれているのだから、私も秘密を打ち明けるのが一番、じゃないかな?
立ち上がって、鍵付きの資料棚を開いて、姫ちゃんに渡すと目を輝かせて「読んでいいの!!??」嬉しそうな顔をするものだから笑顔で
「いいわよ、でもね、それは私が生涯の研究テーマとして秘密裏に研究しているの、だから、誰にも理解されないものだから、他言しちゃだめよ?」ウィンクしながら伝えると輝かせた目のまま頷いて、一心不乱に私が長年研究してきたレポートに目を通してく。
この子は根っからの研究者で、自分の中にある知的好奇心が何処までも真っすぐなのね、きっと、こういう人が、世界を変えていくのだろう…
この子の将来が凄く楽しみな分、衝撃の事実が胸を締め付け、泣きそうになる・・・・
この子は、いや、この一族は・・・長く生きれない運命・・・・だという事実が・・・・書かれていたから・・・・
天才と呼べる才能、この世界を引っ張って行けるだけの能力、どうして、この世界に必要とされる人たちは皆、みんな…短命なの?どうして、どうして!!私の様に何もない人が意地汚く生きて、この世界に、人類に、希望となる、才能あふれる人達ばかり先に旅立とうとするの?
涙がにじんできて文字が見えない、でも、読まないといけない、この本には知らない内容が山ほど書かれている…
それと同時に、歴代の、短命の、れきだいの、ひめちゃんのかぞ、かぞくたち、いち、一族、全員の生きたいという…願い、孫を抱きたいという…願い、夢を叶えたいという…願い
この中には数多くの願いが溢れている、数多くの涙が溢れている、数多くの…恋と愛が溢れていた…
その中に、一枚だけ、何か紙が挟まっていて、見てみると絵が描かれていた、身長が高いのかな?座っているのでわからない、長い髪で、色は、白髪…美人だけど、細く…今にも折れてしまいそうな程、儚げな雰囲気の人の膝の上に小さな女の子が描かれている、わかる、うん、私には痛い程伝わってくる、お母様、お母様なのね…このお方が姫ちゃんのお母様なのね、その表情から伝わってくる、お互いを想いあっているのを、お互いを愛し合っているのを深い深い、愛情がこの一枚の絵から凄く伝わってくる・・・・
嗚呼、駄目、涙を抑えることが出来ない…
姫ちゃんの前だというのに私は涙を抑えることが出来なくなり感情が溢れ、声を押し殺しながら涙を流し続けていると、姫ちゃんがいつの間に横にいて私の太ももの上によじ登ってくる「…辛い?」その一言にうんっと小さく声を出しながら頷き、膝の上に来た姫ちゃんを抱きしめながら涙を流し続けた…
本から伝わってくる感情を受け止め、心が震えている状況でも、何とか本を読み進めていく、気が付くと姫ちゃんは私の太ももの上で寝ている・・・
本にはとても重要なことばかり書かれていた、始祖様との繋がり、始祖様から頂いたこの世界の常識を覆すような様々な知識、寵愛の巫女や、加護についても詳しく書かれていた…
寵愛の巫女、始祖様から特別な愛と加護を頂いた一族
本来であれば10年も生きれば長生きとされる一族で、始祖様から加護を頂いた後は、子を生すまでは健やかに育ち、12を境に徐々に弱っていき、14で、なくなることが多い…
その為、一族は徐々に数を減らしていき、姫ちゃんが最後の寵愛の巫女の一族、つまり、末裔ってことになるのだろう…
寵愛の巫女は原因不明の衰弱死を遂げることが多く、子を生すと始祖様から頂いた加護が子に移り、母親はゆっくりと衰弱して死ぬ…
衰弱する原因を、数多くの医者が挑むが何年かかってもわからずじまいで現時点でも不明と書かれている、けれど…
私からすると先ほどの異常なほどの魔力の放出が全てだと、それが原因だと直ぐにわかった、わかったけれど、どうやって対処すればいいのかわからない、見たことも聞いたことも無い原因…情報が少なすぎる…稀有なパターン過ぎて、前例がない、今から、それらを治す術を探しても、姫ちゃんの命を助けるまでに間に合うのだろうか?
当面の間は、私が霧散した魔力を搔き集めては私を通して姫ちゃんに注ぎ続ければ問題は無いのかもしれないけれど、私の体が持たない気がする…
根本的な原因をどうにかしないことには…考えよう、必死に考えよう、私の持てる知識全てを用いれば何かしらのきっかけは生まれるはず。先輩にも相談しよう…
始祖様から頂いた知識は戦闘に関する内容ばかり、魔力譲渡法っというのが、始祖様の術の中に書かれているのは驚いた、魔力をコントロールする肉体コントロールも書かれていた、恐らく、これは、騎士様の家に伝わっている内容と類似しているので、同じものだろう、だけど、それ以外の殆どが戦闘に関するものばかりだった…
縋る思いで始祖様の秘術を見ていくが、手がかかりがない、それもそうだろう、始祖様の秘術でどうにかなるのであれば、恐らく、とっくの昔に始祖様が救っているはずだ…それが無いって時点で…
姫ちゃんのお母様が描かれた紙を手に取り見つめる…姫ちゃんが私の事をお母様って呼んだのも頷ける、お母様と同じように私も白い髪に長い髪、胸は私の方が大きいかな?身長も今の姫ちゃんと対比すると、本当に同じくらいに感じてしまうのだろう、幼い頃に見た、お母様の幻影が私と重なったのだろう…
ぅぅんっと目をこすりながら姫ちゃんが目を覚ます
「もう少し寝ててもいいのよ?辛くない?大丈夫?」頭を撫でながら優しく問いかけると
「…うん、私ね、たまにね、いきなり意識が無くなるときがあるの」先ほどよりもより一層幼い感じがする、不思議な子…今の感じの方が年相応な気がする。
秘術に関しては流し読みで、姫ちゃんの現状を打破する手段を何一つ見つけることが出来なかった…
その事を伝えるのが凄く怖かった、守ってあげたい存在を不安にさせてしまう一言が喉から言えない、腹の底に力を入れても喉が閉まって絶対に声が出ない…
医者としてどんな状況でも素直に患者に伝えるのが一番だと思っていた、おもっていた、けれど、母親としての感情がそれを許さない、守りたい人を不安になんてさせたくない…当面の間は私が魔力を送り続ければ命を繋ぐことは出来ると思う、おもうけれど…私では、私だけでは、魔力が持たない気がする…
「ねぇ、姫ちゃん」優しく頭を撫でながら声を変えるとキョトンとした顔で「なぁに?」とても可愛らしく愛らしい姿に胸がときめいてしまう
これが、寵愛の巫女が持つ加護であると知った今でも、この感情は否定できるわけがない
そう
寵愛の加護とは、始祖様が授けた加護の力によって、誰しもが自然とその加護に包まれている対象を少なからず愛してしまうという加護だ…
始祖様から愛された者という意味合いだけじゃなく、寵愛を自然と周りから授かる加護だ…
私が初めて姫ちゃんを見た時に感じたのはこれのせいなのかと、加護の影響に負けてしまったのかと悩んでしまったが、私は自身が感じた感情を信じる、加護の力じゃない、純粋に女性として、根底に宿る母性が反応したのだと私は信じる、始祖様の魔力に当てられたんじゃないと想いたい、思わせてほしい、私が前に進むための原動力に…なってほしいっていう思いが相互作用を起こして発生させたのでは?っていう、疑問を払拭したい…
「姫ちゃんのお母様って、私に似てる?」つい、比べるなんてしてはいけないのに、比べてしまいたくなってしまう、これは嫉妬?それとも、今の感情を確かめる為?
「…最初はね、一目見た時お母様にね、凄く似てると思ったの、雰囲気も、心も、姿も、瓜二つだって思っちゃった…」
私も、正直、絵を見てどことなく似ていると思ってしまった…
「そう、私はお母様の代用品?」聞いてはいけない残酷な言葉が喉から零れ出てしまった、その言葉を聞いた姫ちゃんは首を大きく横に振り
「違う!ちがうよ、そういうのじゃない、確かにね、私の願いはもう一度お母様に会う事だけど、お母様に似てる人だったら誰でもいいわけじゃないの!いいわけじゃないの…」
辛い言葉に涙をぽろぽろとこぼし始めてしまい、自分の失言に自分の頬を全力ではたきたくなってしまう、大人なのに、こんな意地悪な質問はしてはいけないのに、どうしてかわからないがネガティブな意見が溢れ出てきてしまう…
気持ちを切り替えよう、鼻から息を吸い、魔力を練る様にお腹に力を入れて、全身に魔力を循環させていく、自然と心も落ち着いてくる
「ごめんね、辛い言葉を溢してしまって、いいの、私は姫ちゃんのお母様の代わりでもいいのよ」
そう、あの時感じた感情に、嘘偽りはない、私はこの子に選ばれたのだという事実、それがとても喜ばしいことを否定してはいけない
姫ちゃんをぎゅっと抱きしめると胸に顔を埋め乍ら涙を流し続ける、その姿を見て、心の底から感じる感情は加護の力じゃない、私の意志よ。
もう、迷わない、私はこの子の第二の母として導く、加護がそうさせるんじゃない、始祖様の魔力に魅了されているわけじゃない、これは、私が母親として母性が目覚めたからこそ、抱いた感情、何物にも作用されていないし影響されていない!私が騎士様を愛した、それと同じじゃない、人を愛するのに理由なんて無いわ。
守りたい、その一心こそ、母性!!
もう、迷わない…誓うわ、騎士様と同じように、心強く、この子の母親として余生を過ごして見せる。次こそは失わない、手から溢させない、抱きしめ続けて見せる!!!
姫ちゃんが泣き止むまで抱きしめているとお互い、涙を流してばっかりだねっと笑いあった後、姫ちゃんに魔力が自身から溢れ出ている現状を知っているのか話を聞いてみると、知らないみたいで、魔力を可視化することが出来る魔道具に魔力を通して私を見せてみると
「…ぇ?これが魔力?…それじゃ、お母様の周りに見えていた…」
驚き方のベクトルが違う?彼女はもしかしなくても見ようと思えば魔力が見えている?
試しに魔力を手のひらに集中させて小さく丸める、その状態でレンズを通さずに見てというと、手のひらの上に丸い靄みたいなのが見えると…
「姫ちゃんは常に魔力が見えているの?」確認すると、調子のいい時は靄が見える時があって、今までそれが魔力だとは思ってもいなかった、姫ちゃんの記憶の中にあるお母様は、その魔力が日に日に小さくなっていくのが見えていた、それがどうしても気になってどうにか出来ないかと術式の本を頼りにして探し続けてきたけれど、答えを見つけることが出来なかった…
嫌な推測は当たるものね、やっぱり、魔力が欠乏する、いいえ、これはもう欠乏を超えて枯渇症と呼ぶべきね。
何かしらの原因で体内で生成された魔力が空中に放出される病っと見ていいでしょうね…
姫ちゃんは生まれつき、髪の色は白色なのか確認すると、お父様と一緒で濃い目の金髪だったと思う、金髪にしておかないとお父様が不安そうにするし、お母様も悲しい顔をするので術を使って金髪にしていた…
髪の色素と魔力は関係性がある、それは間違いようがない、そして、姫ちゃんの髪の色は真っ白、手記に残された平均寿命…
14には、多くの一族が亡くなった…姫ちゃんは今12歳、あと、2…年?…な、なにも、対策しなければ2年で…死ぬ?
受け入れがたい現実に動機が速くなり心臓が物凄い速さで鼓動する…
この世界に神様が居るのだとすれば、私はきっと、嫌われている気がする、だって、私の人生試練ばっかりじゃないの…
好きになる人、守りたい人、ずっと傍にいて欲しい人…その悉くが乗り越えないといけない試練が大きすぎるじゃないの…
やってやるわ、何が聖女よ、試練が多すぎるわ、聖女なんて存在がいるとすれば、救ってみせなさいよ!!!
救ってみせるわよ!!絶対に!この子を幸せにして見せる!!!
自分が何処にいるのか理解できていないのか、寝ぼけているのか、状況が読み込めていないので、「大丈夫?」と言いながら頭を撫でると、此方を見た瞬間にぽろぽろと大粒の涙を流して
「お母様!会いたかったあいたかったぁ!!」抱き着きながら大きな声で鳴かれるものだから、つい、優しく頭を撫でて上がる。
昨日の言動から推察して考える、きっと、この子のお母さんは若くにして亡くしてしまったではないかと考えられる。
幸いにして恐らくだけれど、私に母親の面影を重ねているのだと思う…歪な感情ではあるけれど、こんなにも激しく求められてしまうのは悪い気はしない、むしろ、胸が苦しくなって、この子を何があろうと守らないといけない気分になる、永遠に感じることが出来ないと思っていた母性を、私はこの子に与えられている、出会って経ったの一日だっていうのに、私の心はこの子に惹かれていく、大切な存在だと、守ってあげないといけないと、心の底から湧き上がってきて、湧き上がらる感情を噛み締めるように…感じてしまう…
長い間、涙を流して落ち着くのを待っていると、すっと腕を伸ばして距離を取られてしまう、ちょっと寂しい…ううん、凄く、寂しく感じてしまう、小さく拒絶するような行為に、寂しさという感情が心を埋め尽くそうとしてくる。
「ご、ごめんなさい、落ち着きました、その、短い付き合いの人に、その」
恥ずかしい処を見せてしまったことに羞恥心を抱いているみたいなので、腕を伸ばして離れようとするけれど、もう一度、胸元へと力強く抱きよせる、その程度の感情、捨てなさい、甘えていいのよ。むしろ、甘えて欲しい。
「いいのよ、貴女さえ良かったら、私の事をお母さんと想ってくれていいのよ、こんなにも母親を求めるってことは、色々と、あったのでしょう?貴女の寄る辺に成れるのなら、私は構わないわよ」
ぽんぽんっと背中を叩いてあげると小さな声で「…ぃぃの?」確認を取るような声が聞こえてきた、優しく背中を叩き頭を撫でながら「甘えていいのよ」本当の我が子の様にあやしてあげると鼻を鳴らしながら「ありがとう」ぐっと力強く抱きしめ返されてしまった…たったこれだけの意志疎通なのに、私とこの子は深く繋がった様な気がした、満たされたような気がした…
出会ってから本の数時間しか、過ごしていないのに、どうしてかわからないけれど、お互いの間に確かな絆が生まれているのを感じていた。
私はこの子を守るために、生き抜いてきたんじゃないかと錯覚を覚えそうなほど、愛おしくて仕方が無かった…
それから数日間は、姫ちゃんは私と共に動き、仕事中も行動を共にした。
私が研究をしている魔道具の内容にも凄く興味があるみたいで、目を輝かせていた、まさに興味津々と言った感じだった。
試しに現在研究している魔道具を触れさせてみたら、驚きの速さで構造を、内包されている術式を理解していく、更に、私達にもわかるようにと驚きの速さで解析して、驚きの速さでメンテナンスを終え、起動までしてしまった、その姿を見て
ぁ、これ、ガチもんの天才じゃね?うちの子、神の子じゃね?っと、驚きの日々だった…
私だけじゃなく、その様子を見ていた、奥様や研究塔のメンバーに、術式研究所の皆も、これは神童では?目の当たりにした驚くべき光景を、包み隠さず色んな人に話をすると、瞬く間に噂が広がり、多くの街の人達が姫ちゃんが魔道具に触れている姿を見て驚いていた。
試しに、手に持っている魔道具って、どんな効果があるのか姫ちゃんに確認してみると驚きの返答が返ってくる。
会話の内容が非常に複雑で難しかった、要約すると、解析している魔道具が、魔力を込めると物質を動かすことが出来る特殊な魔道具だと判明。
ぇ?念動力?何それ?新しい概念?ある地点にある物質を魔力を込めることによって押し出したり、引き寄せたりすることが出来る魔道具で、これは一定の方向に向かって魔力を込めると力強く押し出して、射出するようにできている…ほえ?ど、ぇ?姫ちゃんて何歳?12歳?ほ、ぇ?・・・・ぇ?
私達が何年も研究し研鑽を重ねてきた研究結果を一瞬で飛び越えていくこの姿を目の当たりにした全員が確信した。
この子は術式に愛されし神童だと…神の子だと…
そこからはもう、この街に新しい心臓が産まれたのかの如く物事が物凄い速さで進んでいく。
一日、ううん、一時間、ううん、1分、ううん、1秒、そう、1秒ごとに物凄い速さで物事が動いていく。
私達が何年も何年もかけて進めてきた研究が一足飛びで完成していく、私達が勘違いしていた内容も秒速で正され正しい物へと切り替わっていく。
その姿を見て疑問を抱く、誰しもが不思議と思ってしまう当たり前の疑問
この子は、何処からこの無尽蔵な知識を得たのだろうか?
この子には何か、大きな謎を感じる、時間がある時にでも確認したほうがいいと本能が告げている、この子は、普通じゃない、特殊すぎる、全てにおいて規格外すぎる…
普通の12歳じゃない、確認した後に、もし、災いの種だったら、私は…脳裏をよぎる、災いの種を摘むために街中の人がこの子を責め立てようとする恐怖の映像が・・・
頭を振ってその光景を否定する、絶対にそんな状況にさせない!!!
その為にも、この子が災いをもたらす存在じゃないように育て上げる、うん、守りながら道徳を教え、導けるようにする、この子の本当のお母さんが出来なかったことを私がする、してみせる!!!
ただ、問題がある、それは、出会って間もない私に姫ちゃんは、自身の秘密を、隠している謎を打ち明けてくれるのかどうか…
私は勝手に絆を感じているけれど、姫ちゃんからすると、どうだろうか?お母さんの様に慕ってくれていると思う、あの表情や甘える仕草は嘘ではない幻ではないと感じている、姫ちゃんの懐に入れるのはきっと、私だけだと思う…
踏み込んでいいのだろうか?
脳裏に過る、拒絶される姿を、吐きそうになり胸が張り詰める、泣きそうになる、耐えられない…
ほんの数日、一緒に過ごしただけで、私はこの子に依存しつつある、この子に嫌われることを心の底から恐怖している、拒絶されてしまったら、心の拠り所を失ってしまいそうで怖い、地に足がつかなくなる、なんて魔力なの?なんて魅力なの?
嗚呼、そうか、私の壊れそうな程脆い心をこの子が満たしてくれたからこそ、この子に嫌われたくないと心の底から感じてしまっている…
この子に嫌われることを恐怖しながら姫ちゃんを見ていると、唐突に姫ちゃんがふらっと倒れそうになるので慌てて抱きしめると体が冷たい?心臓が止まりそうになる、白髪の儚げな少女、最初に抱いたイメージは正しかった、この子は、命が…
慌てて、自室に姫ちゃんを連れていき、彼女の周りに漂う魔力を全身で感じようとすると、心が体が、心臓が、脳が凍り付きそうだった…
慌てて、魔力の流れが見える魔道具を取り出して姫ちゃんを見る、吐きそうになる、心が砕けそうになる
なんで、どうして、おかしい、ありえない!!!
姫ちゃんの体から途方もない量の魔力が溢れ出て流出している、こ、こんな、こんなのありえない!!!これ程の量を霧散していれば、魔力を失ってしまって、直ぐにでも死んでしまう!!!!
慌てて姫ちゃんの服を脱がし自身も服を脱ぎ、全力で私の魔力を姫ちゃんに注いでいく、お願い、死なないで、こんな、出会ってすぐにお別れなんて考えたくない!!守らなきゃ、守らなきゃ、まもらなきゃ、いやよ、守るって決めた、そんな直ぐに、旅立たないで!!!
あの頃の感覚が私に宿る、竜が導いてくれた魔力を操作する感覚、姫ちゃんから溢れる魔力も干渉することが出来る、空中に魔力が霧散する前に捕まえて、私の中に戻し、姫ちゃんの体に私を通して戻していく、戻す過程で魔力の質を変えて抜けにくくするように願いを込めて、全力で魔力を注いでいく!!
長い時間、姫ちゃんに魔力を注ぎ続けていると、姫ちゃんの体から魔力が流出する量が多少は減っていくが、それでも、尋常ならざる量が溢れ出ている…
先ほどまで真っ青だった姫ちゃんの顔も真っ青から白い色に戻っていくが、それでも顔色が悪い…
最近、少しだけ色が戻ってきた私の髪もこれによって、真っ白に戻っていく…
よくよく見ると、この子の髪の色は白色だけれど、金色に見えるようにしている?嗚呼そうか、色がわかりにくい私だと、白色に見えるだけで、この子は髪の色を金色に偽装している?だとすると、本当の色は白色?それとも、私と同じように元は金色で、魔力が枯渇しているから白色になっているってことかしら?
どうして、どうして、この子はこんな、こんな状況になっているの?わけが、わけがわからない、特殊すぎる特別過ぎる、こんな症例見たことも聞いたことも無い…
魔力を注ぎ続けて、私の蓄えていた魔力、全てを注ぎ終えると、姫ちゃんの顔色が赤くなり、健康体の色になると、薄っすらと目を開けて
「…お母様?」ぼんやりと私を眺めている、その切なくて、儚げで、今にも消えてしまいそうな、命を抱きしめて
「ぇぇ、そうよ、貴女のお母さんよ、お願いだから、私を置いて死なないでお願いだから」
大粒の涙を流して懇願してしまう、失いたくない、純粋にその気持ちだけが溢れ出てくる…
長い時間、お互いの体温を確かめ合う様に抱きしめあっていた…
「お母様、ありがとう、もう大丈夫、心配をおかけしました」
離れるきっかけはいつも、姫ちゃんから、ね、姫ちゃんがゆっくりと私の腕の中から、抜け出て脱がした洋服を着るので、私も同じように服を着ていく
「…こんな、こんな方法があるのね、知らなかった」
姫ちゃんは何処か遠い目をしながら呟きながら、姫ちゃんの実家から後日、送られてきた荷物が入った木箱からあるものを取り出す
「命を救ってもらった人に、事情を説明しないのはおかしいよね、あのね、これ、読んで欲しい」
分厚い本を何冊も取り出して渡される、表紙に書かれている文字を読むと、恐らくだけれど、日記だと思う、日記のタイトルが寵愛の巫女、その一族が、紡ぐ日々だから、たぶん、日記じゃないかな?寵愛の巫女?・・・・何処かで聞いたことがあるフレーズ、何処だろう?思い出せそうで思い出せない…
「そこにね、書かれている内容は真実であり、絶対に他者に漏らしてはいけない内容だからね?お母様だから、見せるんだよ?」
表紙をじっくりと見ていると、相当、重要な文献であるのだと姫ちゃんの表情からも理解できた。
数ページを捲り、読んでいく度に湯水のように溢れ出てくる驚愕の事実を、受け止め続けていく…
私が読んでいる姿を緊張してみているのか、姫ちゃんから薄っすらと汗が滲んでいるので、すっと立ち上がって、姫ちゃんの汗をタオルで拭い、お茶を沸かして紅茶を入れてあげる、紅茶の入ったカップを渡すと嬉しそうにちびちびと飲んでいく、仕草が本当に可愛い、見ていて癒されるわぁ…
姫ちゃんの容態も落ち着いてるのを見て、心の底から安堵しながら本を読んでいく、読んでいる間、姫ちゃんは足をプラプラとして暇そうに座っているので、何か楽しい物でもあるかな?今外に出すのはちょっと危険な気配を感じるから出来れば、見える範囲で遊んでいて欲しいけれど、うーん、どうしたものかな?
チラチラと私の研究資料が入っている棚を見ているので、姫ちゃんなら理解できるだろう、そして、その中から、私が研究している真の目的も紐解いてしまうだろう…
本来であれば絶対に見せるわけにはいかない恥部だけれど、姫ちゃんもこうやって秘密を明かしてくれているのだから、私も秘密を打ち明けるのが一番、じゃないかな?
立ち上がって、鍵付きの資料棚を開いて、姫ちゃんに渡すと目を輝かせて「読んでいいの!!??」嬉しそうな顔をするものだから笑顔で
「いいわよ、でもね、それは私が生涯の研究テーマとして秘密裏に研究しているの、だから、誰にも理解されないものだから、他言しちゃだめよ?」ウィンクしながら伝えると輝かせた目のまま頷いて、一心不乱に私が長年研究してきたレポートに目を通してく。
この子は根っからの研究者で、自分の中にある知的好奇心が何処までも真っすぐなのね、きっと、こういう人が、世界を変えていくのだろう…
この子の将来が凄く楽しみな分、衝撃の事実が胸を締め付け、泣きそうになる・・・・
この子は、いや、この一族は・・・長く生きれない運命・・・・だという事実が・・・・書かれていたから・・・・
天才と呼べる才能、この世界を引っ張って行けるだけの能力、どうして、この世界に必要とされる人たちは皆、みんな…短命なの?どうして、どうして!!私の様に何もない人が意地汚く生きて、この世界に、人類に、希望となる、才能あふれる人達ばかり先に旅立とうとするの?
涙がにじんできて文字が見えない、でも、読まないといけない、この本には知らない内容が山ほど書かれている…
それと同時に、歴代の、短命の、れきだいの、ひめちゃんのかぞ、かぞくたち、いち、一族、全員の生きたいという…願い、孫を抱きたいという…願い、夢を叶えたいという…願い
この中には数多くの願いが溢れている、数多くの涙が溢れている、数多くの…恋と愛が溢れていた…
その中に、一枚だけ、何か紙が挟まっていて、見てみると絵が描かれていた、身長が高いのかな?座っているのでわからない、長い髪で、色は、白髪…美人だけど、細く…今にも折れてしまいそうな程、儚げな雰囲気の人の膝の上に小さな女の子が描かれている、わかる、うん、私には痛い程伝わってくる、お母様、お母様なのね…このお方が姫ちゃんのお母様なのね、その表情から伝わってくる、お互いを想いあっているのを、お互いを愛し合っているのを深い深い、愛情がこの一枚の絵から凄く伝わってくる・・・・
嗚呼、駄目、涙を抑えることが出来ない…
姫ちゃんの前だというのに私は涙を抑えることが出来なくなり感情が溢れ、声を押し殺しながら涙を流し続けていると、姫ちゃんがいつの間に横にいて私の太ももの上によじ登ってくる「…辛い?」その一言にうんっと小さく声を出しながら頷き、膝の上に来た姫ちゃんを抱きしめながら涙を流し続けた…
本から伝わってくる感情を受け止め、心が震えている状況でも、何とか本を読み進めていく、気が付くと姫ちゃんは私の太ももの上で寝ている・・・
本にはとても重要なことばかり書かれていた、始祖様との繋がり、始祖様から頂いたこの世界の常識を覆すような様々な知識、寵愛の巫女や、加護についても詳しく書かれていた…
寵愛の巫女、始祖様から特別な愛と加護を頂いた一族
本来であれば10年も生きれば長生きとされる一族で、始祖様から加護を頂いた後は、子を生すまでは健やかに育ち、12を境に徐々に弱っていき、14で、なくなることが多い…
その為、一族は徐々に数を減らしていき、姫ちゃんが最後の寵愛の巫女の一族、つまり、末裔ってことになるのだろう…
寵愛の巫女は原因不明の衰弱死を遂げることが多く、子を生すと始祖様から頂いた加護が子に移り、母親はゆっくりと衰弱して死ぬ…
衰弱する原因を、数多くの医者が挑むが何年かかってもわからずじまいで現時点でも不明と書かれている、けれど…
私からすると先ほどの異常なほどの魔力の放出が全てだと、それが原因だと直ぐにわかった、わかったけれど、どうやって対処すればいいのかわからない、見たことも聞いたことも無い原因…情報が少なすぎる…稀有なパターン過ぎて、前例がない、今から、それらを治す術を探しても、姫ちゃんの命を助けるまでに間に合うのだろうか?
当面の間は、私が霧散した魔力を搔き集めては私を通して姫ちゃんに注ぎ続ければ問題は無いのかもしれないけれど、私の体が持たない気がする…
根本的な原因をどうにかしないことには…考えよう、必死に考えよう、私の持てる知識全てを用いれば何かしらのきっかけは生まれるはず。先輩にも相談しよう…
始祖様から頂いた知識は戦闘に関する内容ばかり、魔力譲渡法っというのが、始祖様の術の中に書かれているのは驚いた、魔力をコントロールする肉体コントロールも書かれていた、恐らく、これは、騎士様の家に伝わっている内容と類似しているので、同じものだろう、だけど、それ以外の殆どが戦闘に関するものばかりだった…
縋る思いで始祖様の秘術を見ていくが、手がかかりがない、それもそうだろう、始祖様の秘術でどうにかなるのであれば、恐らく、とっくの昔に始祖様が救っているはずだ…それが無いって時点で…
姫ちゃんのお母様が描かれた紙を手に取り見つめる…姫ちゃんが私の事をお母様って呼んだのも頷ける、お母様と同じように私も白い髪に長い髪、胸は私の方が大きいかな?身長も今の姫ちゃんと対比すると、本当に同じくらいに感じてしまうのだろう、幼い頃に見た、お母様の幻影が私と重なったのだろう…
ぅぅんっと目をこすりながら姫ちゃんが目を覚ます
「もう少し寝ててもいいのよ?辛くない?大丈夫?」頭を撫でながら優しく問いかけると
「…うん、私ね、たまにね、いきなり意識が無くなるときがあるの」先ほどよりもより一層幼い感じがする、不思議な子…今の感じの方が年相応な気がする。
秘術に関しては流し読みで、姫ちゃんの現状を打破する手段を何一つ見つけることが出来なかった…
その事を伝えるのが凄く怖かった、守ってあげたい存在を不安にさせてしまう一言が喉から言えない、腹の底に力を入れても喉が閉まって絶対に声が出ない…
医者としてどんな状況でも素直に患者に伝えるのが一番だと思っていた、おもっていた、けれど、母親としての感情がそれを許さない、守りたい人を不安になんてさせたくない…当面の間は私が魔力を送り続ければ命を繋ぐことは出来ると思う、おもうけれど…私では、私だけでは、魔力が持たない気がする…
「ねぇ、姫ちゃん」優しく頭を撫でながら声を変えるとキョトンとした顔で「なぁに?」とても可愛らしく愛らしい姿に胸がときめいてしまう
これが、寵愛の巫女が持つ加護であると知った今でも、この感情は否定できるわけがない
そう
寵愛の加護とは、始祖様が授けた加護の力によって、誰しもが自然とその加護に包まれている対象を少なからず愛してしまうという加護だ…
始祖様から愛された者という意味合いだけじゃなく、寵愛を自然と周りから授かる加護だ…
私が初めて姫ちゃんを見た時に感じたのはこれのせいなのかと、加護の影響に負けてしまったのかと悩んでしまったが、私は自身が感じた感情を信じる、加護の力じゃない、純粋に女性として、根底に宿る母性が反応したのだと私は信じる、始祖様の魔力に当てられたんじゃないと想いたい、思わせてほしい、私が前に進むための原動力に…なってほしいっていう思いが相互作用を起こして発生させたのでは?っていう、疑問を払拭したい…
「姫ちゃんのお母様って、私に似てる?」つい、比べるなんてしてはいけないのに、比べてしまいたくなってしまう、これは嫉妬?それとも、今の感情を確かめる為?
「…最初はね、一目見た時お母様にね、凄く似てると思ったの、雰囲気も、心も、姿も、瓜二つだって思っちゃった…」
私も、正直、絵を見てどことなく似ていると思ってしまった…
「そう、私はお母様の代用品?」聞いてはいけない残酷な言葉が喉から零れ出てしまった、その言葉を聞いた姫ちゃんは首を大きく横に振り
「違う!ちがうよ、そういうのじゃない、確かにね、私の願いはもう一度お母様に会う事だけど、お母様に似てる人だったら誰でもいいわけじゃないの!いいわけじゃないの…」
辛い言葉に涙をぽろぽろとこぼし始めてしまい、自分の失言に自分の頬を全力ではたきたくなってしまう、大人なのに、こんな意地悪な質問はしてはいけないのに、どうしてかわからないがネガティブな意見が溢れ出てきてしまう…
気持ちを切り替えよう、鼻から息を吸い、魔力を練る様にお腹に力を入れて、全身に魔力を循環させていく、自然と心も落ち着いてくる
「ごめんね、辛い言葉を溢してしまって、いいの、私は姫ちゃんのお母様の代わりでもいいのよ」
そう、あの時感じた感情に、嘘偽りはない、私はこの子に選ばれたのだという事実、それがとても喜ばしいことを否定してはいけない
姫ちゃんをぎゅっと抱きしめると胸に顔を埋め乍ら涙を流し続ける、その姿を見て、心の底から感じる感情は加護の力じゃない、私の意志よ。
もう、迷わない、私はこの子の第二の母として導く、加護がそうさせるんじゃない、始祖様の魔力に魅了されているわけじゃない、これは、私が母親として母性が目覚めたからこそ、抱いた感情、何物にも作用されていないし影響されていない!私が騎士様を愛した、それと同じじゃない、人を愛するのに理由なんて無いわ。
守りたい、その一心こそ、母性!!
もう、迷わない…誓うわ、騎士様と同じように、心強く、この子の母親として余生を過ごして見せる。次こそは失わない、手から溢させない、抱きしめ続けて見せる!!!
姫ちゃんが泣き止むまで抱きしめているとお互い、涙を流してばっかりだねっと笑いあった後、姫ちゃんに魔力が自身から溢れ出ている現状を知っているのか話を聞いてみると、知らないみたいで、魔力を可視化することが出来る魔道具に魔力を通して私を見せてみると
「…ぇ?これが魔力?…それじゃ、お母様の周りに見えていた…」
驚き方のベクトルが違う?彼女はもしかしなくても見ようと思えば魔力が見えている?
試しに魔力を手のひらに集中させて小さく丸める、その状態でレンズを通さずに見てというと、手のひらの上に丸い靄みたいなのが見えると…
「姫ちゃんは常に魔力が見えているの?」確認すると、調子のいい時は靄が見える時があって、今までそれが魔力だとは思ってもいなかった、姫ちゃんの記憶の中にあるお母様は、その魔力が日に日に小さくなっていくのが見えていた、それがどうしても気になってどうにか出来ないかと術式の本を頼りにして探し続けてきたけれど、答えを見つけることが出来なかった…
嫌な推測は当たるものね、やっぱり、魔力が欠乏する、いいえ、これはもう欠乏を超えて枯渇症と呼ぶべきね。
何かしらの原因で体内で生成された魔力が空中に放出される病っと見ていいでしょうね…
姫ちゃんは生まれつき、髪の色は白色なのか確認すると、お父様と一緒で濃い目の金髪だったと思う、金髪にしておかないとお父様が不安そうにするし、お母様も悲しい顔をするので術を使って金髪にしていた…
髪の色素と魔力は関係性がある、それは間違いようがない、そして、姫ちゃんの髪の色は真っ白、手記に残された平均寿命…
14には、多くの一族が亡くなった…姫ちゃんは今12歳、あと、2…年?…な、なにも、対策しなければ2年で…死ぬ?
受け入れがたい現実に動機が速くなり心臓が物凄い速さで鼓動する…
この世界に神様が居るのだとすれば、私はきっと、嫌われている気がする、だって、私の人生試練ばっかりじゃないの…
好きになる人、守りたい人、ずっと傍にいて欲しい人…その悉くが乗り越えないといけない試練が大きすぎるじゃないの…
やってやるわ、何が聖女よ、試練が多すぎるわ、聖女なんて存在がいるとすれば、救ってみせなさいよ!!!
救ってみせるわよ!!絶対に!この子を幸せにして見せる!!!
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