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とある人物達が歩んできた道 ~ 封印術式4 ~

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朝日と共に起き上がる、半分寝ていたような半分起きていたような不思議な感覚、今日の予定的に寝坊するのは良くないことだから、ちょうどいいわね。
姫ちゃんを起こさないようにゆっくりとベッドから降りる為に、体にかけてあるタオルを捲ると姫ちゃんが私のズボンを握りしめているので、ゆっくりと解いて直ぐにタオルを握らせてあげる、その隙にベッドから降りる。

服を着替えて、ゆっくりと音を立てないように外に出ていく、久しぶりの早朝での活動、懐かしい物を感じるわね。

寮の外に出ると、朝日と共に頬を撫でるような優しい風…だったらいいのだけれど、髪の毛が逆立つような強風がたまに吹くのよね、そんな優しくもない風が寝起きの私を出迎えてくれる。
この土地は王都よりも高い場所にあるせいか、風が通る時がある、あんなに大きな壁があるせいで、下から上に向かって吹く風が壁にぶつかって強い風が生まれると、誰かが教えてくれたっけ?

そんなことを考えながら、街を出て畜産エリアに足を運ぶ、寮から歩いて大体、1時間から2時間ってくらい距離があるから、地味に大変なのよね…
往復して戻るころには…うん、そうね、朝ご飯にちょうどいい時間になるかもね。

畜産の旦那も食堂までは馬車を使って食材を運んでくれる、それなら、食材を運んでくれた時に一緒に受け取ればいいのでは?って、その考えは当然、一瞬思ったけれど、何に使うのか大勢の人に目撃されるのはちょっと避けたいのよね、料理をするって言うのを周りに言うのも嫌だし、本当のことをいうと絶対に興味のある人たちがいるから、見せて欲しいと言われるでしょ?

そうなるとさ、全ての情報を開示しないといけないでしょ?…
それは避けるべきよ、姫ちゃんの特異性が露見してしまう、はっきりいって、現段階では姫ちゃんの全てを受け止め切れるとは思えないの、何処かで軋轢を生むし、畏怖の対象になるわ…そうなると、姫ちゃんの命が危ぶまれるじゃない?

だってね、私は、見てしまった、読んでしまったの、寵愛の一族が見てきた歴史書であり、日誌でもある、あの本に書かれていたのよ、王族を断罪することが出来るほどの罪深き内容。王族がしでかした過去の惨劇を…死の50年の間に起こした王族の非道を私は知ってしまった。

それらを開示してごらんなさい?何処かから、何かの弾みや、何処に潜んでいるのかわからない、私達を監視している隠者に見つかってごらんなさい?そうなると、王族にこの話が耳に入ってしまう可能性が高くなるわけよ?考えてごらんなさい?王族がこの話を知ってしまったらどうなるのか…

私達の街に住む全員が、討伐&粛清対象になりえるのよ?口封じのためにね…
ただでさえ、此方は戦士の数が足りてないのに、物資も足りてないのに人類と獣、両方から攻撃されてごらんなさい?…
逃げ場のない勝ち目のない戦いなんて、死ぬという未来しか選べないのよ。

姫ちゃんと私達の未来を守るためにも、あの日誌は公にするべきじゃないわ。

姫ちゃんの命を守るためには権力が絶対的に必要になってくる、そうなると…
悔しいけれど、私達を守ってくれそうなのはアイツだけなのよね、他の王族や権力者に取り入るのは愚策もいいところだわ、死んでもあれには頭を垂れたくないわね、一目見ただけで殺したくなるもの…いつか、必ず王都では次代の王を決める何かが起こる、その時に、その時こそ、混乱に乗じて殺してやる…絶対に ころして やる ぜったいに… わたし の すべてを うばった ころす ぜったいに ころす

一瞬だけ意識が朦朧としたので頭を振って頬を叩き深呼吸をして気持ちを切り替える

そうね、王族は危険よ、危険だからこそ、注意しないといけない、具体的な策を考えないと、王族という魔の手から姫ちゃんを守り抜かないといけないわ。
もしくは…私が守るのではなく、姫ちゃんを王族も手出し出来ないような特別な存在へと誘うのも一つの手段ね…

手っ取り早いのが財力ね…

姫ちゃんの持てる技術・知識、それらを知的財産へと昇華すれば、稼げそうな気はするのよ、ね…うん、これもまた、進めるべき策ね。

やっぱり、歩くということは良いことね、血の巡りが良くなって、考えがまとまっていくし、新しい考えにも行きつくわね、先輩が悩んでいるときは足を震わせたり、その場で足踏みをしたりするのも、きっとこういう事なのだろう。

後、問題にしないといけないのが、姫ちゃんの体質をどうにかして根本的に改善できないものかしら?
今後も、魔力を練るという訓練を実行していってもいいものかしら?昨日みたいな状況が私のいない場所で発生したら、姫ちゃんは一瞬で死にそうな予感がするのよね…
あの魔力量は見たことが無かったわ、あの時、騎士様から立ち上るような目にも見えるほどの魔力の渦、程ではないけれど、あれは危険よ、命が流れ落ちるような気配を感じるもの、姫ちゃんから流れているのは未来を歩むために必要なものよ、私達で言えば血を大量に垂れ流して、未来の自分に必要な分も流しているようなもの…

姫ちゃんの魔力が抜け出るって言うのは姫ちゃんの未来を消してしまうのよ…流してしまうのよ、闇の奥へと…

あの子は常に、崖っぷちに立っていて、ちょっとした風が吹くだけで闇の奥へと突き落とされるような危うさがある。
寵愛の巫女、その一族が背負う紡がれた過去の産物という爆弾、先祖代々受け継ぐ短命の宿命、そして、実家からも見離れてしまい、最も、この大陸で危険な場所、獣達から常に狙われる死の街…

あの子が何をしたっていうのかしらね、どうして、そこまで世界中から死を喜ばれるような、待ち望むような事態になっているの?あの子は生きていてはいけないの?…
そんな運命、世界が彼女を爪弾きにしようものなら私が世界を壊してやるわよ、絶対に抗ってやる…私が彼女の風受けになる、どの様な攻撃も私が受け止めてあげないとね。

母親として支えてあげないと、ね?

ふぅふぅ、ほんっと遠いわね、畜産エリアって広いのよねぇ…周りを見渡すと畑しか見えない…
彼はよくもまぁ、独りで開拓したものよね、正確には一人ではないのだろうけれど、彼の何がここまでの執念を抱き、この辺り一帯を開拓しないといけない、そういう気持ちにさせるのだろうか?

畜産エリアは広大に広がっていく、だからこそ、従業員の数は何名居るのか聞いたことは、無いけれど、この規模だものね、10人以上はいるでしょうね・・・

今、この街にいる戦士の数って何人いたかしら?40?50?確か、その辺りよね?…はぁ、少なすぎるわね…必死に坊やが鍛えようとしているけれど、あの遠征で最も優れた戦士達は…考えるのはやめよう。いつかきっと、戦士の数も増えていくようにしないといけないわね、有事の際に人の数って言うのは重要だものね。

ふぅふぅっと汗をかきながら歩き続けていると、視界の端に動く人たちが見える、何をしているのか見てみると、収穫したり水を上げたりと何かしらの仕事に従事している感じだ。

すこし、立ち止まって深呼吸をすると

うん!臭い!!

唐突な糞尿の匂いにがつんと殴られたような痛みが鼻からきて、げほげほと、むせてしまう。
これは、動物たちの糞尿の匂いかしら?ちょうど、風下なのかしら?全力で深呼吸するタイミングじゃないわね…ぁ、よく見ると作業している従業員の皆さん、顔の前に布を巻いてるじゃないの!答えはすぐ近くにあったっていうのに、気が付かない私のミスね…っふ、こんど巨躯の女性に会ったら軽く嫌がらせでもしてうっぷんを晴らしてあげましょうかね!!

八つ当たりはどんなのがいいのか考えながら、進んでいくと遠い場所から声を掛けられたような気がして辺りを見回すと、畜産の人がこちらに向かって走ってくるじゃない。
こちらも手を振って合図をすると、その場で待っていて欲しいと言われたので、待ち続ける…良かった、この辺りは風の通り道じゃないみたいで、畜産の匂いが薄いわね、先ほどのむせかえる程の濃厚な、どぎつい匂いじゃないから、耐えらえるわね。

鼻で呼吸せずにハンカチを口元に当てながら口で呼吸をして待ち続ける、待ち続けていると、畜産の旦那さんが袋を両手に持って来たのだけれど?あれ?おかしいわね、多くない?
笑顔ではいどうぞっと渡されても、重いわね…

量が多くないですか?っと恐る恐る尋ねると
「妻が、あいつが料理に目覚めるなんて嬉しい限りじゃねぇか!いっぱい持って行ってもらってくれ!って言うものですから、ですから遠慮せずにどうぞどうぞ!」
…っふ、八つ当たりどころか先手を打たれてるじゃないのよ、っくそぉ、本気で料理をしてもてなしてやろうかしら!!!まずいと言わせてやるわ!!!

畜産の旦那さんは輝く様な幸せいっぱいの笑顔で走り去っていく…
そうね、彼からしたら新婚で子供も出来て幸せいっぱいな状況だものね、愛する妻の元同僚が新しいことにチャレンジするなんて、そりゃ、ね?妻に相談するわよね…
迂闊だったわ…はぁ、料理かぁ…多少なら、覚えてもいいかもね…食堂のおばちゃ、お姉さんに頭を下げてみましょうかね。

中身を確認するために袋を開いてみると
よくわからない包み紙に包まれた大量の肉と、血が入った瓶、あと、これ、足じゃない?…足ね、ぇ?足!?うわ、爪ががっちりあるわ、ぇ?あしぃ!?た、食べるの?
足の衝撃に驚きながら足の裏にある、皮みたいなのが見えたので取り出してみると…気を失いそうになったじゃないの!!がっつり顔じゃない!豚の顔の革!?ぅっわぁ、ぅ、ぅ、これを料理初心者に渡すものなの?料理ってこれをどう料理するの?初心者が扱う食材じゃないでしょ?はい、決定!!!余った材料はお姉さんに渡して、お終い!
簡単な調理くらい教えてもらって、これは無理!使い道もわからないし、食べるのも抵抗あるわ!!!

心臓がバクバクとしながら、もう一つ渡された袋の中身は、野菜がぎっしりと詰まっていた…お、重い…

両手合わせて、軽く1キロ?いいえ、2キロ以上はある状態で、私は、また、1時間から2時間かけて…戻るの?あの街に?…馬車通らないかしら?…早朝だし、通らないわよね…
事前に、本日の交通事情もしっかりと把握しているから通るわけが無いのよね…

はぁ…明日は腕も足も筋肉痛ね、どうして、あの街にマッサージ出来る人がいないのかしら?
マッサージが出来そうな人が一人思い浮かぶが頼んだら最後、何を言われるのかわからない上に、奥様から睨まれかねない、絶対にあの人嫉妬深いでしょ?怖くて頼めないわね。

そこからはもう、考えるのすら辛くなり、何もかもが真っ白になりながら、ただただ、足を引きずる様に、足の裏が擦り減って無くなってしまうのではないかと不安に感じるほど、すり足で、やや上り坂になっている街へと繋がる道を歩いていく…

この状況で脳裏に浮かんだのが姫ちゃんが道路とか、馬車とか言っていたのを思い出した、もしかしなくてもそれらが改良されて、歩きやすくて馬車も手軽に扱えれるようになったら、この辛い思いをしなくてもいいってこと?…めちゃくちゃ需要あるじゃないそれ!!!姫ちゃんの封印術式が何とかなったら、周りをたきつけて、全力でサポートするように先導してやるわ!!!

必死に部屋に辿り着くと、思っていたよりも時間が掛かってしまっていた、とっくに日も登り、全員が活動を開始し、食堂では賑わった声が聞こえてくる、なのに、姫ちゃんは気持ち良さそうにタオルを握りしめたまま眠っていた、可愛らしい寝姿に癒されつつおでこにキスをした後、軽くストレッチをしてから、汗を流しにお風呂に向かう。

お風呂から出てくると、姫ちゃんが起きていて既に作業を開始していた、大きな紙の上に何か描いている、陣の一種だろう、見たことも無い術式だから、きっと、今から行う疑似的な器の作成だろう、それを見て、私はベッドに座り目を閉じて魔力を練り上げていく、高めていく魔力濃度…最近、魔力を練った後、体の一部に停滞させる感覚を掴めて来ている、つまり、圧縮した魔力を生み出せるようになってきていると私は感じている。

練り込んだ魔力を血液に流し込むようにイメージして、その直後に注射器を刺して血を抜く、多くの血液はいらないので、注射器の半分くらい血を抜いて、針を抜く。
血が止まるまで抑えていると姫ちゃんが近くに来ると「この陣を起動して、腕に当てて」言われたとおりにする、一瞬にして血が止まり傷が塞がった。

なに、これ?ぇ?な、なにこれ・・・どういった原理?ぇ?うそ、なんで?どう、どうして?

「それね、始祖様の秘術にある回復の術式、それの簡易版って感じかな?」
目の前で起きた奇跡に驚きを隠せれなかった、医療に関する革命的な品物だったから、痛みもなく、何も感じずに目の前で傷が塞がり、完治する。
代償は少量の魔力、これは、人体に他に影響はあるの?副作用は?
「原理は凄く簡単で、人が持つ再生能力を魔力によって補助させて回復を促すだけ、代償は魔力だけ、その程度ならね、もっともっと深い傷だったらたぶん、栄養とかそういうのが代償になるかも、更に、深い傷だったら細胞の死が速くなるかも?ってくらいかな?」
私の中に流れる疑問以上の答えと更なる疑問を置いていく、こ、この子は医療の面においても私達よりも先を歩んでいるの?しかも、未来姫ちゃんじゃない、通常の状態で?
傷をいやすのに栄養素がいるのはわかるわ、怪我とか病気とかしたときに体が食事を求めるもの、だけど、さいぼう?さいぼうって何?

「う~ん、これ以上の疑問に答えてあげたいけれど、私も知識として知ってるだけだから詳しくないよ?」
嗚呼、そう、そうなのね、何処かで知識を得たのね…
どこで?私も先輩も知らないであろう知識よね?始祖様の本に記載されていないのだとしたら、それだと納得できる、それ以外だとしたら、何処で得た知識なの?それとも、未来姫ちゃんの知識を共有しているの?…

そこが不思議なのよね、封印術式を知らない様子だったし、未来姫ちゃんからの情報は共有されていない気がするのよね、それとも、共有している時と出来ていない時があるの?情報を選択しているのはわかるわ、送る側が必要な情報しか送らないのは当然じゃない?不必要な情報を送れるほど、余裕はないだろうし。

…疑問が多いわね、時空干渉術式は未来姫ちゃんでも完全ではないのだろうという推測は当たっていそうね、だって、完成していたのなら姫ちゃんは研究をやめて、自己犠牲の末に更に深い過去に干渉して、お母様を救っているでしょう?それをしないということは、時空干渉術式は完成していないのか、何か発動に条件が必要なのかもしれない。

それも探らないといけないわね

「ねぇ、姫ちゃん、これさ、何もなしに提供すると混乱を招くから、敵から奪った魔道具で似たような性質があるものが出てきたらそれを解析して生み出したってことにして、医療班に技術を提供してもらってもいいかしら?」
私の提案に姫ちゃんは驚いたように目を丸くして笑顔で「それもそうだよね、お母さんって結構、策略家だよね、頼りになる♪」嬉しそうに返事を返してくる。
この子は悪意というものに晒されてきていないのね、そういうものを教えてくれる人がいなかったのだろう、時間がある時に教え込まないといけないわね。人ってのは悪意だらけっていうのを。

これからも、私がしっかりと導いてあげないとね、才能あふれる存在を妬む存在なんてこの世界には山ほどいてるものよ。

姫ちゃんに私の血液を渡した後、地面にひいてある大きな陣の上に豚の血、肉、魔石をセットし、此方を見てくる、どうやら、準備は整ったみたいね、後は魔力ってことね。
四つん這いになって、陣に手を当てる場所を指示され、その場所に手を当てて、魔力を流すと何も反応が無い、練った魔力を解放してさらに、魔力を込めていくと、肉片が形を変えていく、うわ、気持ちがいいものじゃないわね、むしろ、気色が悪い、嫌悪感のある動き。

豚の肉片が勝手に変形し動いていき、瓶の中から血が溢れ出て肉片に注がれていく、肉片が液体の様に流動的に動く映像は直視するものじゃないわね、ちらりと姫ちゃんを見ると、眉一つ動かさず、じっと観察している、気持ちが悪いとか、興味深いとかそういった表情ではない、発生した事象を記憶するように記憶に刻み込むように真剣に見つめている。

研究に感情は不必要だ、そう感じさせるほどのすごみを感じる、私利私欲で感情のままに研究をしてきた私とは真逆ね、彼女はこの世にある全ての謎を欲しているのに対して、私は目的に向かって走り続けているだけ。

目的の為に研究するのか、研究がしたいから研究をするのか、ここに凡人と天才との差が生まれるってわけね。

ある程度、液状になった物質は魔石にとりつくと人体の形へと変形していく。
人の形になると、何か不思議な感覚が伝わってくる?なにこれ?視界がもう一つある?わた、ぇ?私がいる?
脳の中に鮮明ではないが映像が流れてくる、脳の中にある映像に向かって、視線を変えて見せるように意識を向けると、目の前にある肉塊で生まれた人の形を模した何かの首が動き、姫ちゃんへと視線を向けると、脳の中で開かれている映像が姫ちゃんを映し出す…

繋がっている、私とこれは繋がっている、使い魔、そう、使い魔という表現がしっくりくる、私の思ったっというか、こうしてほしいという願いに合わせて動こうとする、動こうとするけれど、動かすたびに私の魔力を持っていかれている感覚がある、魔石から、魔力を供給されているわけじゃないの?

姫ちゃんを脳内でとらえていると、大きな大きな姫ちゃんが私に近づいてきて手を伸ばし胴体を掴み上げる、目から伝わってくる情報が無ければ、私自身が巨大な姫ちゃんに捕まってしまったのではないかと誤認してしまいそうになる、更に、私が掴まれているわけじゃないのに、捕まれているような感覚も伝わってくる、不思議な感覚、疑似的な肉体、なるほど、表現にぴったりじゃないの、感覚まで共有されるなんてね、この状態で目を閉じて、向こう側に意識を集中すれば、完全に向こうに魂が移ってしまうのじゃないかって不安になりそうね。

目に見える、実際に見ている視界の方、姫ちゃんが手に持っている陣が描かれている紙を置いて、その上に私と繋がっている使い魔を置き、その横に血液を置くと、服を脱いでネグリジェも脱ぐ、駄目じゃないと注意しようとしたが注意する前に「魔力の流れを魔道具でしっかりと観測したいから、少しだけ、魔力を使うね」下着姿でそう言われてしまった。

そうね、言い分は間違っていないし、私も今の状態で他の魔道具を起動させるなんて余裕が無いわね。
「貴女の判断が正しいわ、しっかりと観測してちょうだい」
姫ちゃんが頷いた後は右手に魔力を目視することが出来る魔道具をもって起動させる、合図が送られてきたので、新しい陣に魔力を流していく、先ほど、取り出した私の血液が使い魔の体に染み込んでいくと、私とのリンクが一瞬で途絶えて、頭の中に流れる映像が途絶えたのと同時に、体の感覚が狂い、その場で倒れてしまう。
「ぁ、あーそう、そうなっちゃうかぁ、封印術式って魔術も干渉させないのかぁ、これは確かに改良の余地ありだね」
姫ちゃんが、形を保っているが、動かない使い魔を手に取り、直に触って動かしている。
私も徐々に体の感覚が戻ってくるのでゆっくりと、上半身を起こす、平衡感覚が一気に狂ったような感じ、眩暈に近いわね、突発性の眩暈?それも一過性のって感じかしら?脳内に生まれた新しい感覚に馴染みつつあるのに急に遮断されたせいで、脳が誤認したのかしら?

この術式はしっかりと訓練しないと使い物にならないわね。どこで使うのかわからないけどね、ちょっとした動作ですら相当な魔力を消費するから、これを歩かせたとしても、私の部屋のドアまで歩かせるだけで、たぶんだけど、私の魔力空っぽになりそうね…流石は始祖様の秘術ってところかしら、とんでもない燃費の悪さね…

「うん!凄いねこの封印術式、貴女とのリンクが途切れた後は自動で魔石から魔力が流れるようになっている、だけど、魔力がこの依り代から魔力が溢れ出てきていない、内部構造を魔力を通して探ってみると、しっかりと、中には魔力がめぐらされている、動きをジャックすることもできるけれど、それをすると私の魔力全部持っていかれそうだからしないけど、しっかりと、稼働している、魔力の漏れもなく、しっかりと稼働しているわ!!すごい、すごい!!!」
目を輝かせながら興奮して早口になっている姫ちゃん、貴女、今の恰好が裸同然だっていうのをわかっているのかしらね?乙女としての恥じらいが無いのかしら?…無さそうな予感がするわね。
「その凄いはどれに対する凄いなのかしらね」
ネグリジェを着せようとすると嫌そうな顔をするけれど、問答無用で着させる、貴女、夢中になると魔力が放出されるから危ないのよ?
「むぅ、もっと魔力の流れ感じたかったのに!お母さんのけちんぼ!!」
けちんぼ?よくわからない言葉ね、まったく、何処で覚えてくるのかしらこの子は…言葉を無視しながら脱いでその辺に放り投げた服を着させていく
「えっとね、さっきのね、質問だけど、両方だよ!始祖様の秘術も完成度が高いし、それを起動させたお母さんも凄いし、封印術式も完全に魔力を遮断してた!封印っていう概念で言えば完成されてる!凄いの!これね、たぶん、劣化も防げてる!時の概念すら遮断してそうなの!」

…ぇ?劣化?ときのがいねん?どういうこと?

「これね、封印術式ね、凄いのが、起動して維持するのに必要な魔力は、最初の血液からで、その後は、体内に廻る魔力から最低限の魔力を吸い出して起動し続けるの!それだけじゃなくて体内で循環しきれない古い魔力を吸い出してるし、更に、術式の中に劣化を防ぐ術式も組み込まれてあるから、細胞の変化も遅らせているのかな?それとも、変化しないようにしているのかな?ねぇ、お母さん!これがどの程度まで形を保っているのか経過観察したいから、しばらく置いていてもいい!?」


その申し出は凄く却下したいのだけれど?だって、それってさ、ベースっていうか、大元は豚肉よ?腐るでしょ?焼却処分した方がいいでしょ?部屋の中がすんごい匂いにならない?っていうか、肉片が常に見えるような、肉片と共に生活するの、私、嫌よ?



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