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とある人物達が歩んできた道 ~ 心配はしてるわよ? ~

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早朝に起きて急いで準備をする、部屋をゆっくりと出て、駆け足だけど、足音は出来る限り殺して、急いで門に向かう、門の近くには戦士の一団も準備を終えているみたいだったのお待たせっと声を掛けると、驚いた顔で此方を見て
「いえ、貴女は街で待機ですよ?」さらっと当たり前のように私の間違いを正してくれる。
…ぇ?私も行く流れじゃ~、なかったかしら?

来なくていいですから、っと、全員から全力で反論され、流れる様に「見送りありがとうございます!」と、跳ね除けられ、渋々、戦士の一団を見送るだけとなった。

姫ちゃんを起こさないように、早起きもしたのに…

手を振って見送っていると、その横を他の戦士の一団も外に出ていくので、何処に行くのか聞いてみると、昨夜、仕留めた猿の遺体を回収することになっているので現地に向かうそうで、そちらの一団も手を振って見送った。

昨日の話だと、流れ的に私も行くのだと、ずっと思っていたから、速足で仕度しちゃったのよね、まぁ、無駄足になってしまったけどね。
戦士の一団を見送った瞬間に緊張の糸が切れたのか、全身から一気に疲労が押し寄せてくる…

っふ、年には勝てないわねっと、軽くため息をつきながら、その場を後にし、お風呂でもゆっくりと浸かろうかと大浴場に向かって歩いていく。

私達が寝泊まりをしている寮の前に到着するとネグリジェ姿の姫ちゃんが仁王立ちで立っているけれど、どうしたのかしら?っていうか、珍しく早起きじゃない…私が起こさないでそっと、外に出たのを怒っている可能性が高くないかしら?

近づいていくと
「お母さん!起こしてよ!!私も、み お く り したかった!!!」
近寄ってきてボスボスと私のお腹を叩く…
だって~お母さん勘違いしてたの~、姫ちゃんを、危険な死の大地に足を踏み入れるなんてさせたくなかったから、起こさないで、そっと、一人で向かったのよ~。
姫ちゃんは私と違って勘違いしていなかったのね、私が姫ちゃんを置いて死の大地へ向かおうとしたことに対して怒ってはいない、見送りに行ったのだと思っているのよね、その見送りを、一度も起こさないで向かったのを怒っているのね。

どうやら、戦士の一団に付いて行くのだと思っていたのは私だけってことだったのね。早とちりっしちゃって、ダメねぇ…

「ごめんねぇ、朝早かったから起こすのも」っと、お腹をポスポスと叩いてくる姫ちゃんの頭を撫でながら声を掛けると、むーむー言いながらお腹を叩き続けてくる。
それにしても、お見送りとか、そういう殊勝な心とか持ち合わせているのね~、人の心とか、寄り添うという考えが生まれてくるのは良いことよ。
「心配なのはわかるけれど、私達はここで、彼らの生還を祈りながら、待ちましょう」
叩く力も弱くなり、小さな声と共に頷くので、私はお風呂に入るけれど、貴女はどうする?っと、この後の予定を確認してみると、一緒に入るっと抱き着きながら返事をするので、ついつい、抱き上げたくなってしまったので。よいしょっと掛け声を出しながら姫ちゃんを抱き上げる

寮の中に入ろうとすると「おはよーさん、朝はえぇな?」通り過ぎる様に先輩がジョギングしながら通り過ぎて行った…お年寄りの朝は早いという話を聞いたことがある。
先輩の溢れる体力は運動から生み出されているような気がするわね、私も見習うべきなのでしょうけれど、なかなか…ね?

二人揃って朝風呂に入るけれど、やっぱり姫ちゃん…相当、疲れているのね、湯船に浸かって直ぐに舟をこぎ始める…朝早いから眠たいってわけじゃなく、純粋に疲労が抜けきっていないんじゃないかしら?クマも酷いし…もしくは、体内の魔力量が大きく低下しているって可能性も高いわね…

舟をこいでいる姫ちゃんを体の前に置いて、もたれるようにさせ、お腹に手を回して支える様に抱きしめる。

目を閉じて、自身の体内にある魔力量を探る。
うん、昨日、戦士の一団に飲ませたように私もしっかりと飲んでいるから、魔力の流れを感じることが出来る。
大量にあるって感じでもないので、少しでもいいので、姫ちゃんに渡そう…

魔力をゆっくりと無理のない範囲で譲渡していると、胸の中で半分寝ていた姫ちゃんから「あつぃ~」今にも湯の中に溶け込んでしまいそうな声が聞こえてくるので、そのまま抱きかかえるように湯船から出て、しっかりと水分を取らせてから、大浴場から出て火照った体を冷ます為に公園にある椅子に座って、私の太ももの上に姫ちゃんの頭を乗せて、横にさせる。そのままの姿勢で、何も考えずに体の火照りを冷ましていく。

考えないようにしていたけれど、やっぱり考えちゃうわね…坊やは大丈夫かしら?速ければ、お昼ごろには救助に向かった一段と合流できると思うけれど、こればっかりはね、現場にいる人達でしか判断できないでしょうね、私が出来ることは、順調であることを祈るばかりね。

考えないようにしていても、心配な物は心配でついつい、戦士の一団を心配してしまう、前だったら騎士様が居たからどんな時でも戦士達のことを心配するような事は、なかったのにね、ほんと、色々と変わっていくわね…

下を見てみると気持ちよさそうに寝ている、気持ちよさそうに寝ている子が、この街に来てから、毎日が色んな出来事が起きていて、その中心にいることが多いのよね。
頭を撫でながら過ごしていると、昨夜、仕留めた腕の長い2本足の遺体が前を通り過ぎていく、回収に出た戦士達が運んでいる辺り、何事もなく回収できたのだろうかと思っていたら、その後ろから数多くの獲物たちが運ばれていく、研究塔の人達も眠そうな顔で運ぶのを手伝っている。

やっぱりというか予想通りといいますか、昨夜の騒ぎで他の獣達も集まってきていたみたいね、戦士の一団が往復するように門の方に歩いていくときに目が合ったので手を振って見送る。

…そう、こんな感じで何事もなく、大きな試練も無く、ちょっと危険な香りが漂うだけの街…
それが、この街の日常だった、また、こんな時間を感じる時が来るなんて思ってもいなかったわね…
それにしても、気のせいであって欲しいのだけど、通り過ぎる人達、みんなチラチラとこっちを見ているけれど、どうしてだろう?

姫ちゃんは…うん、そうよね、ちゃんと着替えさせたわ。
流石に、ネグリジェのままで外に出るのは良くないから、私のシャツを一枚、ネグリジェの上から着せている、だから、そこまで気になるような恰好でもないし、シャツから下着がはみ出て…ないわね、うん、隠れているわね。

私も、外に出る為に服を二枚重ね着していたのよね、それの中に着ていたシャツを姫ちゃんに着せているのよ、だから、私もそんなにおかしな格好をしているわけじゃないわよ?…
純粋に姫ちゃんのことを心配してみているのかもしれないわね、普通に考えたら12歳の幼気な少女が死の大地に二回も!!近場とはいえ遠征に出て2足歩行を仕留める為の指揮をとって、更に、隠されていた、敵の魔道具を見つけて、三度目も発生する可能性があった、敵からの脅威を退けたのだから…普通に考えたら、大手柄だものね、そりゃ~気になるか。

姫ちゃんが目を覚ますまで、ベンチに座り続ける、こうやって、戦士の人達が外から帰ってくるのを待っているのも懐かしわね。

騎士様がいた時を、あの輝いて眩しくて色あせない日々をどうしても思い出してしまう、当たり前だけど、この街には騎士様との思い出しかない、何処を見ても騎士様との思い出が詰まっている…嗚呼、そうか、だから貴女は、壊れてしまったのね…   …そう、そうね、今は寝ていなさい、時が来れば起こしてあげるからね…

お腹を摩っていると、子守唄が自然と溢れ出てくる…この大陸で生きる人ならみんな、知っている子守唄を、口ずさんでしまう…

みんな知っている?…いいえ、私はここまで詳しくは、知らないわよ、だって、お母様が歌ってくれたことなんて、無いもの。貴女の記憶なのね…
子守唄を唄っているとお腹を摩っている私の手にそっと、誰かの手が触れられる、誰かなんて決まっているわよね
「お腹いたいの?」
心配そうに声を掛けてくれるヤサシイ子ね…ドウグ なんて 一瞬でも オモッテ しまってごめんなさいね。
「大丈夫よ、オナカ は イマ は イタク ないわよ」
一瞬ビクっとした後、そっとお腹に手を当ててくれる
「貴女、その感じ…そう、貴女も私と同じなんだね」
太ももの上で横なっている姫ちゃんが横向きに姿勢を変えて、おでこをお腹に擦り付けてきながら小さな声で聞き取りづらい声を出している、聞き取りづらいけれど、何となく伝わってくる

辛いよね

…嗚呼、本当に ヤサシイ こ ね アナタともっと向き合っていれば、ワタシ は…
ヤサシク優しく、アノコロ の 様に頭を撫でてあげる 嗚呼 ああ アア ナツカシイ 懐かしいよね 愛しの アイスル ワタシ の コドモ…あい アイ する あか ちゃん…

「ねぇ、お母さんは子供欲しくないの?」
その言葉に、頭の中が真っ白になる、そんなの、欲しいに決まっているじゃない…
「欲しいわよ、でも、今はリスクしかないわね」
背中をポンポンっと叩きながら返事を返すと
「…うん、ごめん、お母さんの研究テーマを知ってるから、どうして、私にお願いしないのかなって不思議に思ってたから、ちょっと気になったの…どうしてだろうって」
何時かその時が来たらお願いしたいけれど、出来るのかしらね…人と牛とじゃ違うもの、人工的に受精なんて出来るのかしら?
「…リスクかぁ、安全に確実に出来るようにすればいいんだよね?…新しい技術の開発かぁ…うん、私頑張ってみるね!」
それから、姫ちゃんは今後、開発したい物たちを一杯教えてくれた。
音を伝える魔道具とか、映像を記録する魔道具とか、記録した映像を出力する魔道具とか、物流を改善するための物を運ぶための魔道具とか
あれがしたい、これがしたい、っと、夢物語の様な話を一杯聞かせてくれる、それを応援するのが私の役目ね…

私の残された時間までに、全部実現してあげれるように、私もサポートしないといけないわね。

目もすっかりと覚めた姫ちゃんと一緒に自室に戻って普段着に着替えて、心配だけれど、信じてまとう、きっと、坊やなら何とか帰ってくるわよね。






だけど、二日経っても帰ってこなかった…








1日目…
夕方になると、坊やを救助に出かけた一団が帰還する、てっきり一夜を現地で過ごすのだと思っていたけれど、どうやら、敵が数多くいるみたいで、いつもなら、一定の距離まで近づいたら突進してくるような敵も、何かを必死に探す様に辺り一面を歩き回っていて不気味だった、敵がこちらを意に介していないのは此方としては好機となり、難なく後ろを取って楽に仕留めることが出来たのが、今までとは違った敵の挙動に戦士の一団全員が恐怖を感じ引き返してきた。
少しでも敵の情報を得たいので、仕留めた多くの獲物を持ち帰って研究塔に運び込み、研究することに。

その流れを何も言わないで、黙っていた姫ちゃんに確認すると姫ちゃんも同じことを考えていたみたい
「私達が奪った魔道具を探している」
どうやら同じ意見みたいで良かった、だけど、そうなるともう一つ気になることがある

失った魔道具を必死に探しているっということは…何処かで獣に指示を出す存在がいるのだと

今まで、考えたくないことだった、知恵無き愚物と下げずんでいた敵は、実は知恵者じゃないかっという、考えたくない可能性を感じてしまう。
これも、姫ちゃんの影響だろう、姫ちゃんと出会う前の私だったらそんな考え一笑して、その場に吐き捨てていたと思う。
可能性が少しでもあるのなら疑うべきであり、考慮するべきであり、考えに値するのだと、姫ちゃんからその考えを多く学ばせてもらった…

やっぱり、考えたくても考えたくなかった、始祖様が追い詰めた獣、大陸の端っこにあると言われている大穴、その奥にいる敵が400年経っても生きていて、こちらを観察し、研究し、滅ぼす策を練っていると…私はてっきり、世代交代をしていると思っていたわ、400年も生きる生物がいると思えないもの。400年も生きている可能性があるわね、もしくは大穴の中で世代交代を重ねて先代の恨みを晴らす為に虎視眈々と策を練っているっという、可能性もあるわね。

そんな人の様に恐怖という感情を知っていて、此方を明確に敵意を持って人と同じように知恵を持って活動しているなんて、怖すぎて考えたくなかった可能性

そうなると、獣たちは姫ちゃんが言う様に何者かが用意している戦略的武器、道具って可能性が高くなる。
獣の形を模した剣ってことね…意志のようなものを持たせた自分で考え自分で判断し、自動で動き続ける…

人を殺すだけの兵器ってことか…

この可能性は話してはいけないと本能が告げている、姫ちゃんも同じ考えで、この可能性については誰にも言わない方針が固まる。
敵が持つ魔道具、始祖様の秘術と似通った性質を持っている。
人を殺す為に人を研究し、人を模した2足歩行…

敵は確実に私達を研究している、ありとあらゆる手段を模索している、確実に殺せるようにその機会を伺っていると考えるべきね。

問題はどうやって、私達を観察しているのかってことよね?
鳥型の獣?死の大地から接近する敵なんて見つけ次第、どうにか殺しているもの、たま~に、接近を許してしまって、上空から強襲される…という事はあったけれど、取り逃して街から逃がしたことなんてないわよ?先輩の時代ではたまにではなく、そこそこな頻度で鳥型の獣が強襲してくるから、怪我人が続出したり、死者が出たりしたと聞いたことがあるけれど、街から逃がさず、何とか殺しているから、その可能性は無いはず。

どうやって、敵は此方を観察しているのだろうか?

時間がある時に、敵の生態を、この街で一番詳しいであろう奥様に相談してみるのがいいのかもしれない。しれないけれど、どうやって切り出せばいいのかしら?
適当に敵の情報が欲しいから研究資料を求めればいいわね、姫ちゃんなら、何かしら気が付いていそうだし、自室に戻ったときに確認してもいいわね。

他にも話し合ったのが、明日への方針として、私と姫ちゃんも共に出撃するべきかどうか話し合う、現状、特に2足歩行も現れていていないので、街の皆からすると、姫ちゃんは、切り札的存在なので、迂闊に、気軽に、死の大地に出て欲しくないという、意見が大多数なので、この街で出来ることを優先していくことになったので、昼間と同じように敵を解体して研究する方針。

姫ちゃんは何をしているのかというと、解体作業は研究塔のメンバーに任せて、新しい魔道具の開発に着手していた、私が奥様からお借りしている(完全に私物状態であるが、一応、借りものよ?)魔力を視認できる魔道具を応用した何かを作るために研究を開始している。

また、認識阻害の術式を本格的に運用するために研究塔のメンバーで術式に関して知識がある人に教授もしていて、杖の形をした魔道具を一本仕上げたので、明日以降、坊やを探索する一団に持たせて安全に移動できるかどうか現地で実験する流れにもなった。

問題が一つだけあって、坊やも、一団も、お互い認識阻害の術式を発動させていると、お互い気が付かない可能性があるっという点だった。

なので、危険地帯を通る時だけ、認識阻害の術式を発動させて移動する方針で話が決まる。

姫ちゃんは姫ちゃんで研究をしつつ、今後に必要な物は量産してもらう、そして、売れるものがあれば売る!っといういつもの流れになりそうね、おかげ様で姫ちゃんが開発する魔道具は売れ行きが好調よ~。財務を担当する人も、予算がこんだけあれば、王都で頭を下げて回らなくてもいいです~っと嬉しそうにしていたわね。

畜産の旦那に頼まれた見積もりも、お願いしているし、問題はなさそうね、坊やが帰ってくれば、ね…

自室に帰った後に姫ちゃんに、敵はどうやって情報を得ているのか相談してみたけれど、方法が山ほどありそうだから、断定できるものがないっと、姫ちゃんも可能性を絞り切れないから、どうにもならないっと、姫ちゃんでも判断がつかない状況だった。

1日目の夜も、何時もと同じように日課の訓練をして、寝ている姫ちゃんに魔力を注いで眠りにつく。



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