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とある人物達が歩んできた道 ~ 予定は…② ~
しおりを挟む姫ちゃんの用事は明日みたいなので、事前に考えていた今日の予定として、ゆっくりと王都を観光するのもいいかもしれない、なんて思っていたけれど…
姫ちゃんは姫ちゃんで財務の人との引継ぎで王都には結構な頻度で来ている、私は私で王都で育ったものだから、特に見たい物が無い…
姫ちゃんにどこか行きたい場所とか、見たい場所とか、食べてみたい食事処とかある?って聞いてみると
「お母さんの行きたい場所に行こう!」なんて、言われて、この先は任せた!みたいな感じにされても困るわね…
取り合えず、適当に歩いていると、ある場所の近くまで来たのだから、まぁ、行けたら行くつもりだったし、色々とお世話になったものね、司祭様に会いに行くのも、正解よね、あの教会は王都でも観光の名所になるくらい、素晴らしい教会だもの、始祖様が描かれている肖像画!そう、絵画、実は!おいてあるのよ~、ある特別な日だけ、公開されるし、聖女様も始祖様も同じように奉っている素晴らしい建物よ。
姫ちゃんと一緒に教会に向かって行くと何処に向かっているのか察したのか「ぇ?教会?なんで!?」姫ちゃんがピタっと、歩みを止める…?どうして?教会は危険な場所でもないし、観光の名所よ?
「ねぇ、お母さんって、敬虔な信徒だっけ?祈ってるの見たことないよ?」
物凄く嫌そうな顔で立ち止まるけれど、そうよね、私と教会に繋がりがあるなんて思わないでしょうね。
でも、う~ん、観光の場所だからっでは、通用し無さそうな雰囲気よね?折角、近くまで来たのに挨拶にすらお伺いしないのは、ちょっと、ねぇ?
どうやって説得したらよいのだろうかと悩んでいると、教会の開かれた門から誰かが出てきたと思ったら、こっちに向かって真っすぐと、走ってくるじゃない…っげ。
「聖女様!お久しぶりです!!」
末席の…居たの、っていうか、これあれね、気が付かなった、迂闊だったわね。居ないと思っていたのに、真っすぐにこっちに向かってくるってことは、隠者が近くに潜んでいたってことね、私がどの方角からくるのか報告されたから真っすぐ走ってきやがった、はぁ、意識しないように気を付けないとね。
なら、近づかなければよかったんじゃないかって?だって、こんな真昼間から教会で管を巻いているなんて思っていなかったのよ、王族として王城で仕事でもしていると思っていたのよ…
視線を姫ちゃんに一瞬だけ向けると、聞こえてきた言葉に絶句している顔でこちらを見つめ続けてくるのは止めてもらってもいいかしら?姫ちゃん…わかってるわよ。言いたいことはわかるわよ?
そりゃ、ねぇ?私が聖女なんて大層な二つ名で、呼ばれるなんてね、あ!やだもう!性女でもないわよ?…姫ちゃんがそっちで勘違いするとは思えないけどね。
視線を先ほど声を掛けてきた人に切り替えると、近寄ってくる人が誰なのか理解したのか、驚いた表情と共に一瞬、体が跳ねて私の後ろに隠れようとする。
そうよね~。姫ちゃんも貴族の出だものね、末席とはいえ王子だもの、何処かで見たことがある可能性が高いか…
でも、慌てて後ろに隠れるのはどうしたかしら?王子だから?会いたくない?どうしてなのかしら?
末席が近くに、走って向かって…本当に目の前に近くに!!来たと思ったらすぐに、人の手を勝手に握ってブンブンと振りながら挨拶してくれるのはいいけれど、近いのよ!眼前!目の前!王族がそんな風に女性の近くに来て!誰かに見られたら要らぬ誤解を生むわよ?…
はっぁ!?それが目的?外堀から逃げれないようにするためか!?っく、油断ならねぇなぁ!!
刹那的に意図を理解すると同時に王族が油断ならねぇ存在だという事を再認識したわ
ゆっくりと手を離させるように、手首を捻ったりして、離せという意図を込めながら手首を動かしながら挨拶をする。本音は、思いっきり手を力強く振って振りほどきたいわよ!
なんとか握られた手を振りほどいた後、どうしてこの場に居るのか説明する。
特に用事がないけれど、通りがかったのでお世話になった司祭様に挨拶に来たことを告げると、残念そうな顔で教会へと案内される。
案内してくれるのはいいのだけれど、私の後ろにいる存在に目を合わさないようにしているけれど、気が付いてる?姫ちゃんの事、見えてる?恋は盲目?
姫ちゃんは挨拶をしたくなさそうだったので、気配を殺しながら後ろをついてくるけど、何?どうしたの?お互い空気を読んだってことかしら?
何時もいる部屋に入ると、司祭様は厳かな雰囲気で本を読んでいた、一人の大切な時間を過ごされているのに、突然のアポイントメント無しで訪問した不躾な客を、笑顔で出迎えてくれたのは凄く嬉しかった。軽く挨拶と何気ない雑談をした後、教会を離れる。
うん、突然、訪問しといて本当に何様だって思うかもしれないけれど、出来る限り早く離れたいのよね!長くいれば確実に何かに巻き込まれる予感しかしないのよ!
司祭様も笑顔で見送ってくれた、突然の訪問客に嫌な顔せずに応対してくれて感謝します。
司祭様や、教会のシスター達から見送られながら、教会からゆっくりと離れていくと、固く閉ざされた心と口が解かれたのか姫ちゃんが話しかけてくる
「いやー、驚いた、どうして、彼が教会に居るの?」
彼…末席の事かしら?そうよね、普通は王族が教会にいるなんて思わないわよね。私の知る限りあいつは、あの教会に保護されているのよ
「…そう、なんだ、王族なのに王城に居ないのは、たぶん、そういうことかな?…ふぅ、私も近寄らないようにしよう、良い事、知ったから、良し!」
…何かしら、姫ちゃんもあいつと何かしらの因縁があるみたいな雰囲気じゃない?何処かで繋がりでもあるのかしら?まぁ、ご実家が名家である姫ちゃんなら何処かしらで繋がりがあるのかもしれないし、財務の人に王族との関わりあい方を教えてもらったのかもしれないわね。
この後はどうするか二人で相談した後、適当に街をぶらついてお昼ご飯を食べたり、お店を見て回る方針で決まる。
姫ちゃんの好みに合う服屋さんがあれば、中に入って、気に入った服があれば購入する、荷物は全部、配送してもらうので持ち歩く必要はない、配送費として多めにお金を支払う豪気な買い物の仕方がもう貴族そのものなのよね…これで、自分は貴族じゃない平民だって胸を張って主張すると、いうのは無理があるわよ?
いろんなお店を見て、歩き回った影響もあり、徐々に足が痛くなってきたわね、幸いにも、近くにあるのよ、学生の頃、お世話になっていたマッサージのお店がね。
通りがかりに確認すると、健在だったので寄っていきましょうと姫ちゃんを誘ってみると、めちゃくちゃ嫌がられてしまう…
どうやら、姫ちゃんは見知らぬ人に体を触れられるのに、抵抗があるタイプ…
うーん、お母さんだけでもいいかしら?って言いたいけれど、1時間も何もせずに待たせるわけにはいかないし、姫ちゃん一人で、街に放り出すなんてね?護衛もいないし、危険よね…
心惜しいけれど、諦めましょう。マッサージは帰って自分ですればいいわね。
それなら、少し休憩も兼ねて、何処かで座ってお茶でもしましょう、姫ちゃんも歩くのが辛くなってきているみたいなので、ゆっくりと歩いて、学生時代に帰り道とかに、よく立ち寄っていた紅茶の美味しいお店に向かう。
久しぶりに到着したお店は昔と変わらない佇まいで懐かしさもあり、当時と変わらないマスターの雰囲気に昔のほろ苦い思い出が蘇ってくる。
マスターに挨拶をしてから、空いている椅子に座って、お勧めの紅茶を頼み、当時の雰囲気を思い出しながら、紅茶の薫りを楽しみながら足を休ませていると
「あら?貴女…帰ってきていたの?」
身目麗しい奥方が声を掛けてくださるけれど、どちらさま…っはぁ!?
脳裏に蘇る非日常での邂逅!!あの黒歴史タイム中にお会いした、騎士様の!!
「お、お義母様!おぉ久しぶり、です」
慌てて立ち上がってお辞儀をすると「あら、いいのよ、座って座って」
言葉通りに受け取り、元居た椅子に座るとお義母様も、さらっと空いている席に座られるのですけど…?何用でしょうか?
姫ちゃんは疲れているのか様子を見ているのか、紅茶を飲みながらちらちらと視線を向けている、完全に(この人誰だろう?)どうして話しかけてきたのだろうか?という、不思議そうな顔で様子を伺っているわね。
徐々にちらちらと私の方に視線を向けてくる辺り、状況説明を求めているわね。
状況説明をしてあげたいけれど、私も状況がつかめきれないわよ、まさか、こんな場所でお会いするなんて予想していなかったもの…
お義母様の家から、近い、とは言えない場所よね?それに、ここって、お義母様がいらっしゃるような、格式高いお店ではなく平民の方も気軽に訪れるお店じゃ、なかったかしら?
状況を飲み込めず、混乱していると
「偶然ってあるのね~、ちょっとした用事の帰り道よ私は、それに、ここはね、私もね、あのこが小さなころから、それくらい昔から利用していたのよ、意外にも常連客なのよ」
ぇ?そ、そうだったんですか!?…学生の頃にすれ違っていてもおかしくないわね、三日に一度は確実に寄っていた記憶があるもの。
「貴女は…」
ちらりと、姫ちゃんに視線を向けると、姫ちゃんも視線を感じたのかペコリと頭を下げる。
「…子供が出来たの?それともいたの?…子供がいて、ん?…んぅ?ぇ、あれ…説明していただけるかしら?」
一瞬にしてにこやかな笑顔から、プレッシャーがヒシヒシと伝わってくる鋭い笑顔に切り変わる。
待って、待ってください!お義母様は、いけない方向に勘違いをなさっていますわ!…でも、何をどう言えばいいのかしら!?
「はじめまして?で、いいよね?ぇっと、自己紹介したほうがいいよね?」
冷や汗を流しながらどう説明したらいいのか必死に頭を回転させて、悩んでいたら、姫ちゃんから進んで自己紹介してくれる、情けなくも娘に助けられるなんてね。
「あら!貴女が噂の人だったのね!お初にお目にかかります」
姫ちゃんも相手が私を困らせる存在だと様子を見て悟ったみたいで外行のにっこりと作った笑顔で挨拶をする。
状況判断能力が高い自慢の娘で助かります、即座に取引先との会話するための姿勢に切り替えてくれてありがとう、本当に、頭の回転が速い子で助かる…
その後は、ずっとお義母様と、姫ちゃんが仲睦まじく会話をしていき、一瞬にして相手の心を掴んだのか、流れのままにじっとしていたら、気が付けば、ご自宅へと御呼ばれされてしまっていた…ぇ?どうして、こうなった?何も、何も手土産なんて用意してないわよ!?
いや、挨拶に行こうかと思っていたけれど、せめて、せめて!手土産くらい用意させてよ!!格式高いお家なのよ!?
門を通るまで、どうやって逃げ出そうか考えたり、どうやって手土産を用意すればいいのか、半分パニックになっていた。
門を通って、中に案内される、先ほどまで落ち着くことなくざわつき、パニックになっていた心が、少し穏やかになるのを感じる。
若いころから、騎士様と共にこの場所に来ることを夢見ていた、その夢の場所、ご実家に足を踏み入れることが出来た。
夢の場所、人生の到達点とも思えた場所なのに、心が騒めくのかと思った、けれど、不思議と心が落ち着いている。
いいえ、違うわね、これは…心が落ち着いているのではない。私の夢は永遠に叶わない、私の夢は、ここに共に訪れる事。
騎士様と手を繋いで…共に歩むことを報告するために、訪れる事…永遠に叶わない夢ね。
自分の心境を正確に把握した瞬間、パニックになっていた思考は完全に平常心を取り戻すと、見える景色が、特に何かを意識する必要もなく、何かを感じることも無く、ありのままを受け入れられている様な、感覚に到達する。
騎士様を失ったことを、この家、この空間、その全てから咎められるのだと想像していた。でも、そんな雰囲気とは、大きく違っていた。
咎められ、拒絶され、断絶されるような攻撃的な雰囲気によるプレッシャーによって、ストレスで心が、脈が、跳ね上がったりしなかった。
お前は、この家にとって悪の存在であり、最愛の息子を守れなかったやつだ、この家に、相応しくないって、拒まれるんじゃないかと思っていた。
けれど、そのどれでもなかった…
私が思っているよりも、世界は、私を拒んでいないのかもしれないわね…騎士様がご存命のうちに、門を潜り、皆さまにご挨拶をしたかったわね。
こんな私を、騎士様を守れなかった咎人を、お義母様達、お義父様、使える使用人の方達、全員が暖かく迎え入れてくれた。
姫ちゃんと共に、応接室に案内され、お義父様とお義母様達と共に、談笑しながら過ごしていると。
いつの間にか姫ちゃんの話題となり、姫ちゃんが時の人と分かるとお義母様達は姫ちゃんに夢中になる。
お義母様達も姫ちゃんが作り出した魔道具のファンであり、制作者である姫ちゃんのファンみたいで、みんなで姫ちゃんを囲んで、質問合戦が始まる。
内容は、殆どが要望に近かった、こういった用途の魔道具は無いのかって感じね…内容の殆どが美容関連な辺り、美意識が高いわね。流石は上流階級の貴族ね。
最先端の美に関することならすぐに飛びつくのでしょうね。
お義母様連合は姫ちゃんとの会話を楽しんでいるので、私はお義父様との会話を楽しもうとするのだけれど、以前お会いした時のような生気に満ち溢れている様な感じではなく、落ち着いた雰囲気でもない…お疲れ?心なしかげんなりとしている、活力が低下してそうね…
どうして、疲れているのか医者としても気になるので、話を聞かせてもらうと、何でも、王城で大きな動きがあるみたいで、誰にも言わないようにと釘をさされたのだけど?これ、私…巻き込まれるのかしら?
どんな内容か身構えていると、そこまで深刻な内容では、なかった。
王権交代の義が待ち構えていて、今回の王権交代、世代交代としての現王から、次代の王へと、王権を譲る儀式が始まる。
それらの取り仕切りが大変だとおっしゃっていた。
因みに儀式の内容に関しては、あと一週間もすれば民衆に発表するみたいなので、その間、誰にも世代交代があるのだと、話さないようにして欲しい、特に何か問題があるわけではない、民衆もそろそろだと勘づいているので問題は無いのだが、規約として守ってほしいってことなのね。
お義父様としては、今の王様に、誓いの槍を捧げている、つまり、現王が、引退されたら共に引退する予定。
なので、お義父様からすると、王城での最後の大仕事、最後のひと踏ん張りになるのね。
最後まで頑張らんとなっという呟いた表情は、何処となく寂しそうな笑顔だった。
その表情や感情に私は何を言えばいいのかわからないし、踏み込む勇気も無かった、だって、私は、家族じゃないから…あなた達の家族では無いもの。私は…愛する息子様を守れなかった愚かな女なのだから。どの面下げて、寄り添えばいいのかわからないのよね、今この場居る事すら場違いなのよ。こんな愚かな女にどうして、お義母様は声を掛けてくれたのでしょうか?
一人、心が暗雲に飲み込まれている最中も、姫ちゃんは楽しそう…ではないわね、あれは営業スマイルね、お義母様連合の質問に和気藹々と応えているわね。
遠目で見ると、孫と楽しそうに会話しているようにしかみえない。その光景を、お義父様も優しいまなざしで見つめていて、ぽつりと漏れた言葉が…残念な私の心に深く突き刺さる
「…本当の孫みたいだ」
嗚呼、そうですわね、私も本当の孫として連れてきたかった…騎士様の子供と、愛する騎士様と共に…ともに…
知らず知らずに、本能のままに、そっと、首に下げているネックレスを握りしめていた…
心配だけはさせないように笑顔を凍らせて張り付かせて…咎人は心の中で懺悔する。
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