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Dead End ■■■■■儀式 Day 1 (Ⅱ)
しおりを挟む声も枯れそうな程、地獄の底から聞こえてきそうな声が…嗚咽が落ち着くまで、何も言わずにずっと支えてくれるように姫様は私の傍にいてくれた
「ありがとうございます、姫様…お気遣い痛み入ります」
小さな体なのに、心が大きいのか、包み込むように抱きしめてくれていた人に感謝の気持ちを伝えると
「気にしないで、ジラさんには感謝しきれないくらい支えてもらっているから、辛いときくらいは傍にいるよ?」更に力強く抱きしめてくれる、暖かい人。
この世界で唯一、私を抱きしめてくれる人。
私のような愚かで生きる価値が無い生き物にも分け隔てなく接してくれる人、この人の傍にいると心の傷が塞がってしまいそうなくらい安らぎを感じてしまう時がある、ついその優しさに甘えてしまいそうになり明日への希望を開こうとしてしまう、それくらい心に寄り添い月と太陽のように見上げればずっと傍に居てくれるような気がする人…
優しさの余り、率先して街の為に若いのに次々と才覚を表し、自身が出来る全てを背負うかのように、方々へ駆け出したりして街の運営費を捻り出してくれている。
私と彼女だけの秘密で、彼女だけが持つ、特殊な能力のおかげでこの街は何とか存続できている。
騎士様が居なくなってしまってから、この街は全てにおいて弱くなってしまった、財力的にも、武力的にも、知略的にも、彼女は献身的にこの街を支えてくれている。
彼女の献身的な前に向かう諦めない、心が折れない姿勢に心の傷を埋めて欲しくなったのか気が付けば、私も何か出来ることは無いかと歩み寄り、共に研究に勤しみ、何とか、本当になんとか、彼女とこの街を延命できている。
彼女は特殊な能力を授かっているせいか、体内に魔力が殆どなく、天才的な閃きに天才的な思考を持ちえたとしても、それを発現する術が無かった。
現状を打破するために二人で研究を続けている、その為には下法にも手を染めた、幸いにもその手の資料を何故か先輩が持っていたので、それを参考にさせてもらった。
入所経路は先輩も詳しくは知らない、先輩の先生?が、この街に隠し持っていた研究所の中に残された資料、放置されたその場所を何かしら再利用できないか調べたらあっただけだから「詳しくは知らねぇ、中身は読んでみたが理解できなかった」って、先輩はいうけれど…
本当だろうか?もし、彼が悪魔を信仰する人であれば、隠し続けるから…白を切る、違うわよね?先輩は何時だって潔白ですよね?
下法の中には人体に害する術式や儀式、古代から脈々と受け継がれている不可思議な論文も残されていてその中から、人の魔力を封じ束縛する術式、そこから着想を得て下法の中にヒントがあるのだと考え調べつくした、そして、下法と彼女が知る知識、それらをミックスし改良を続け、彼女の体に施した術式
【封印術式】
完成…は、していない、目標とする機能までは実現できていない、現状では、正直に言うと欠陥だらけ。魔力を封じることは出来ているがその他諸々、封じてしまっている、術式を展開するのも一苦労するような実戦には向いていない。
たぶん、これを完成させるには後何年も研鑽が必要だし、研究するための資金も必要、他にも協力者が欲しい、魔力を潤沢に持ちえるような人で医療の知識が豊富な人。
その様な王都でも欲しい人材を確保するなんて何もないこの街では出来ない、常に財政難のこの街では材料費すら思うように出せない、結果的に研究が出来ない…
どうして封印術式が必要になったのか、姫様が生きる為には魔力が必要だったのは先に述べた通りで、問題はその魔力をどのように補填するのかという部分、幸いにも私が魔力を相手に渡すことが出来る方法を身に着けていた、そのおかげで彼女は何とか命を繋ぎ止めることが出来ている。
出来ているのだが、そのせいで私の体は年がら年中、魔力が足りていない…
このままだと、私も魔力がなくなって体が持たないってことで、姫様がこの街に来てから、ひと月ぐらいから、医療班で素養のある人に魔力を相手に譲渡する術式を学んでもらった。
今では、多くの医療班が魔力を譲渡できるようになったので、医療班には私に魔力を注いでもらって、私が数人分の魔力を折りたたんで圧縮してから姫様に渡す様にしている。
手間がかかるが全員で姫様の元に訪れる方がってことでね、幸いにも私の体は魔力が馴染みやすいので、そういった手法が取れる、他の人にも試してみたら吐かれてしまったし、何か裂けるような感覚がする人もいたので危険と判断。
現状では彼女がギリギリ生きていけている、彼女の主観だけれど、日々を生きる上では問題はなさそう、医療班としては非常に歯がゆく納得はできない、可能であれば根治したい、彼女から理不尽な受け継いできた宿業から解放してあげたかった。
この根本的な問題がある限り、きっと、彼女は大きくなっても子を授かりたいとは思ってくれないだろう。
日々、命がけで生きている彼女が辛い体を引きずりながら、この街の財政難を何とかしようと、方々を回っては貴族たちが求める魔道具を作って売っている。
だけれど、材料費と開発費用が結構、いや、かなり厳しく、更に、一品しか作らないので売り上げも微々たるもの、大量生産して売りだせればいいのだが、ニッチな要望だから、売れなかった時の事を考えると量産体制に踏み切れない…
大変申し訳ないけれど、姫様の実家にも援助をお願いしてもらっている。
姫様からすると頭を下げたくない相手みたいだけれど、皆の為に人肌脱いでくれた、援助の理由としては、自分を捨てた、その大地に住まう人達を助けるのは当然でしょと話を付けてくれた。
かく言う私も、お父様に手切れ金として、幾ばくかのお金を送ってもらった。
王都からの援助は多くは期待できない、それもこれも、王族との懸け橋である翁が死んでしまったのが一番の問題だった。
昔から、王都からこの街を監督するために派遣されているおじいさん、私達は翁って呼んでる人が居たのだけれど、騎士様が亡くなってから、彼も必死に方々を駆け回り援助を申し出ている最中に、心労が祟り、この世を去ったと報を受けた…
本当に心労なのか、現場にいたわけではないから断定はできないけれど、ありえない話ではあるのだが信じ切れない。
健康そうな翁がただの移動で死ぬとは考えづらく、医療班の多くがその死を素直に受け止めれない、何処か黒い部分を疑ってしまい死そのものを信じ切れなかった。
私達にもっともっと…医療の知識があれば、彼を助けれたんじゃないのかって考えてしまう、本当に心労が祟って亡くなったのであればね。
確かにね、思い返すまでもなく彼には心配ばかりかけてしまっていて、何一つ恩を返せれなかった、影ながら私達をずっと見守り支えようとしてくれていたのに…
…ふぅ、考えが逸れたお陰もあって、心の傷が痛みを訴えかけてくることが無くなってきた。
泣きすぎたせいで心臓と、目と、喉が痛い…明日は誰にも見せれない顔になっていそうね。
軽く呼吸を整え、栄養が行き渡っていない草木を指で圧し折った音に近い、枯れた声を出す
「姫様、お恥ずかしい所をお見せしてしまって申し訳ありません」
聞き取れるどうかわからない程の小さな声で感謝の気持ちを捻り出すと、抱きしめてくれている人には届いたみたいで、すっと、ゆっくりと離れ
「いいよ、気にしないで、私達は一蓮托生でしょ?困ったときはお互い様でしょ?」
表情を見なくても伝わってくる心配そうにこちらの事を本当に心配しての嘘偽りのない純粋なる優しさ、私が欲しい言葉を投げかけてくれる、心の底から優しい人
私が座っているソファーの隣に座り気持ち寄りかかってくる、その重みが今は心地よく感じてしまう、許されるのであれば出会ったときのようにお母さんと呼んでしたって欲しい、彼女の温もりを抱きしめて感じていたい。
ソファーに座った後も何も言わずにどこかを見つめている、何を見ているのか視線の先を見ると、私が先ほどまで読んでいた手紙を見つめている…
まぁ、彼女だったら手紙の内容を教えても問題はないでしょうね。口も堅いし、王都での取引が多い彼女であれば既に知っていそうな気もする。
気になるのであれば、手に取ってもらっても構わない。秘密にする様なことではないし。
「手に取ってもらっても大丈夫ですよ」
声を掛けるが首を横に振る、王族だけが持つ特別な封蝋の印を見て、迂闊に踏み込んではいけない内容なのだと察してくれたのだろう。
察してくれて少しホッとしている部分もある、選挙戦なんて彼女が関わってはいけない、この街の代表と言える存在は、現時点、いいえ、この先もずっと彼女がこの街の代表だから。
代表である彼女が表立って何処かの派閥に属するのは良くない。巻き込んではいけない、いけないのだけれど、いっそのこと巻き込んだ方が勝率は上がるのでは?っという、自分の中にある打算的な部分が語り掛けてくる。…どうせ、赴くのであれば、ね?
失敗した時のリスクが大きすぎて、下手に派閥に属せれない、属した派閥が王に成れなかった時が怖い。
下手に関与してしまった以上、他の派閥からは当然、爪弾きされる、そんな危険な状態に陥ってしまうと、より一層この街は資金難に陥ってしまうだろう。
私だけだったら派閥に与したとしても失敗したとしても、私はその、一応、貴族の娘だから、失敗してもお父様が恨まれるだけで済む。お父様からは物凄く恨まれるでしょうけれどね、縁を切った側室の娘がしでかしたことって事で逃げれると思うし、たぶん、大丈夫かな?たぶん!きっと、たぶん!恨み言の一つくらいでたぶん!…たぶん。
迂闊な行動が意味するのは、私達の街が過去、とてもじゃないが人が生きるのは辛過ぎる死の街へと、戻ってしまう。
…資金難のこの街を救うために、一発逆転の可能性に賭ける、失うのは私とお父様の信頼だけ、悪くない賭けじゃない?失うものがないのだから。
負け確実だろうと予想されている、末席こと、ピーカ王子を王にすれば、王都からより分厚い援助をお願いできるよね?人生で最大級の恩を着せれるってことになるわよね?…
そうよ!そうよね!!死に体の私でもこの街を救う道筋は残されているじゃない!それに賭ける、かける…分が悪すぎない?それならいっそのことピーカ王子を見捨てて勝ち濃厚の派閥に与したほうが良くないかしら?勝ち筋があるのであれば、そちら方が良くないかしら?…いいえ、それはできないわ。
少なからず、ううん、この街に古くからいる人であればある程、騎士様を死地に向かわせた黒幕の事を嫌っている、恐らく現時点でアレが最も王の席に近いのでしょう?それに与して王に成った時点で破滅しかないわよ。
それに、私が与せずにアレが王に成った時点で、ありとあらゆるアレに対して抱いている怨恨を爆発させかねない人が数多くいる…
私も確実に命が燃え尽きようと魂が狂おうが、国家転覆、王族批判をして国家反逆を企てる、絶対にそうなる。
つまり、私達はアレが王に成ってしまったら必然的に反旗を翻すことになる。
今の世情で人類同士で争っている余裕なんて無いのに…私達は耐え切れない、心を、感情を抑えることなんて出来ない、出来なくなってしまう、破滅の衝動を抑えきれるわけがない、本能のままに復讐の音が音叉となって永遠と心と脳に響き渡るだろう。
姫様なら人類存続の為であれば、きっと身を粉何して己を殺してでも未来を見据えてアレを王にさせないはず、だけど、姫様はあの事件を知らない、あの陰謀を知らない、戦士長を、騎士様を知らない、彼がこの街に与えた数多くの奇跡を知らない。
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