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Dead End ■■■■■儀式 Day 1~2

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朝になるころには全ての人達の治療を終えることが出来た。
激動の中、最後まで付いて来てくれたシスターはたったの二人、良い根性してるじゃない、医療班に欲しい逸材ね。
治療を終えても、栄養面的にも助からない人達は非常に多い、せめて点滴でもあれば、よいのだけれど、そのような設備も無い、貧困層の人達が普段からまともな食事をとれているとは思えない、ここからもまた命がけずれていく劣悪で苛烈を極める環境に身を投じるのだろう、命を救う旅は、まだ終わりを告げていない。

この惨状から早くに意識を落としたシスター達が回復したのか、起きてきてヨレヨレの姿で何をすればいいのか指示を求めてくれる。

今、必要なのは点滴するための道具。

どうにか、その道具を寄贈してくれる病院が無いか打診して欲しいと伝えるが誰もそのような伝手が無いみたいで動こうとしない。
そうよね、王都とはいえ、病院の数は少ないし、点滴するための道具って地味に高価なのよ、貧困層を救う為に使いたいなんて未来への投資にすらならない、医者からすれば子の行為なんて、ただのエゴよね。
誰も首を縦にふってくれるわけがない、そうなると、栄養を直接入れ続ける方法、静脈に刺して連続していれるのと、静脈すら厳しい状況であれば骨髄路を経由して輸液注射でいれ続けるしかないっか…

幸いにも、注射器と太い針は持ってきている、高価だからなるべく使いたくないけれど、仕方が無いわね。
点滴用の液体くらいなら町医者に頼めばくれるだろうし、材料があれば作れないことも無いけれど、時間がないわね。

その事を伝えると、シスター達が動こうとしない、どうやらそれすらも絶望的なの?王都には人の命を救いたいという願いすら意味をなさないの?
命とお金を天秤にかけるとお金の方が重いってことね…
「何をしているのですか?断られるのは当然として頼みに行くことは出来るでしょう」

シスターの後ろから声が聞こえてくると、明らかに偉そうな服飾の人が居るわね…
見覚えがある、嗚呼、司祭様?そういえば、今の今までお見掛けしませんでしたけれど、どこにいらっしゃったのかしら?こんな非常時に…
シスター達が司祭様の声によって目に光が灯り、町医者がいるであろう場所に向かって駆けだしていく
「…教会の威光が弱い昨今、誰も手を差し伸べてくれないのは皆も重々承知しております、此度は」
司祭様がお辞儀をして頭を上げた瞬間、目と目があった。
その直後に司祭様の動きが止まったけれど、どうしたのかしら?

あ、そうよね、私って今は、シスターの礼服を着ているからシスターだと思うわよね、っで、顔を見たら見知らぬ女性だったら困惑するわよね、誰だっけこいつ状態ね、挨拶をしっかりとしないとね。

シスターの帽子?なんていうのかしらね?名称がわからないわね、髪の毛が邪魔だからちょうどよかったけれど、挨拶をするのに不適切よね。それを脱いで、強引に帽子の中にねじ込んでいたから髪がボサボサだろうから、最近は髪を切る時間も無かったので伸びてしまった髪の毛を首を振って流れる様にし、さらっと手櫛で整え
「お初にお目にかかります、私の名前はターア家の娘、ジラと申します」
貴族として間違いの無い様に挨拶をすると、司祭様が小さく震えている?どうしたのかしら?
「せ、せいじょさま…」
小さな声でせいじょって聞こえたような?私が聖女様って?っふ、面白い冗談ね、私のような愚者が清らかなりし神聖なる乙女の名前で呼ばれるなんてね、誰も思わないわよ?一部を除いて。

震えているけれど、大丈夫?持病とか持ってる人かしら?
失礼かも不敬かもしれないけれど、医療従事者として見過ごせないものね

一歩、歩み寄ると、その場に膝をつき祈りを捧げる姿勢をとるけれど?ぇ?何?その姿を見た色んな人が騒めいてるけど?ちょ、なに?

その姿を見た寝起きのシスター達が私達を囲むように同じように祈りを捧げる姿勢をとるけれど、なに?どういう状況なの?

「ここに白き月が降臨されました、神からの使い、心からの感謝を…」「感謝を」

周りにいるシスター達が全員一斉に同じ言葉を?何かの儀式?これ…後に退けないやつじゃない?嵌められた?私が傷ついた人達を見過ごせないことを予測して、引くに引けない状況に導かれた?誘導された?迂闊だった?
…迂闊だったとしても、私が命を救わない、命を見捨てる、何もしないっていう選択肢をとらないって知っているこの感じ、王族らしい嫌らしい采配の仕方よね、知略に嵌められちゃったかもしれないわね…

この状況にしてやられてなぁっと感じつつも、どうやってこの場を抜け出すのか考えるが。
周りを見渡す、多くの患者が等間隔で並べられ、私を中心として司祭様が頭を垂れ、起きてきたシスター達が私達を囲むように祈りを捧げている…
逃げようがないし、野ざらしにされている患者を見届けずに去るなんて行為、出来るわけないじゃない、この場に来た時点で私が巻き込まれるのは確定事項なのでしょうね。
腹を括りましょう、最低限、この場で苦しんでいる人達を救ってから、きゅうさいしてから、いのちをすわせてからかえりましょう、みみなりがする。

「司祭様ー!点滴の道具とか、針とか、色々ともらってきま・・・・どういう状況ですか?」

大量の物資を抱えながら走って戻ってきたシスターが不可思議な光景に困惑してるじゃないのいい加減に立ち上がったらどうなの?
「それは、僥倖ですね、私達が祈りを捧げ続けてきた徳というものです、さぁ、聖女様、我ら愚かなる守り人に指示を、困窮した魂に救済を」
司祭が立ち上がると周りのシスター達が立ち上がるので、支援してもらった物資の中身を確認してからシスター達に指示を出す。

司祭様は物資を援助してくれた病院にお礼に向かい、私達は日が昇り切るまでに出来る限りの処置をする、こんな日陰すらない場所に野ざらしにしては脱水症状で悪化する。
空を見上げると先ほどまで月が見えていたのに、徐々に雲が空を覆いつくそうとしていた…
晴れよりも雨の方が怖いわよ…曇ったままであれば、まだ、マシってだけで、野ざらしがそもそも良くないのよね…

シスターに何処でも良いので休ませれる場所が無いのか相談するが、屋根のある場所に彼ら全員を受け入れる場所はないっか、教会の祈りを捧げる月のオブジェがある場所はどうなのか確認すると、全員は入りきらない、つまり、救うべき人を選択しろってこと?
…そんなの出来るわけないじゃないって言いたいけれど、重病な患者を優先して運んでもらおうかしら、脱臼程度くらいならボチボチ起こして、ご飯でも食べさせて帰らせればいいでしょ、打撲とか擦過傷とかね、さぁ、頑張るわよ!!

炊き出しのご協力をお願いして、私は重篤な患者を選定して、野ざらしの状況では辛い人を次々と教会の中に運んでもらい、点滴が必要な方は点滴を施していく。
起こしても問題ない人達は起こして、診察する。


お昼を過ぎるころには、現場も落ち着いてきており、教会の中にあるバックヤードで少し休憩でもいただこうかと移動すると、大股を開きながら天を仰いでるように意識が飛んでいる人に、部屋の隅っこで床の上で寝ている人…他にも疲れ果てたシスター達がベンチで所狭しと座ってお互いを支えあう様に寝ている。
仲が良いわねっと横目にしながら、私も空いているスペース、丁度ソファーが空いているので座った瞬間に意識が飛びそうになる。
そういえば、寝ていなかったわね、先輩もよく、疲れ果てては椅子に座った瞬間に意識を飛ばしていたわね…

小さな耳鳴りがする中、私の意識は闇の中へと誘われていく…




肩をトントンっと叩かれている、頬をペシペシと叩かれている感じが脳を刺激する、頬は止めて欲しいわね、お化粧おとして…
「っは!?ごめんなさい寝てました」目を覚ますと名も知らぬシスターが心配そうに覗き込んでいる。
ハンカチを渡されるので涎で汚れた顔をふく、ハンカチは後で洗って返しますね。

辺りを見回してみると、夕暮れ時みたい、シスターがこれから皆でお風呂に行くので先生もご一緒しませんか?っと誘われるのでどうせならご一緒させていただけるのであれば、行きたいわね。
お風呂セットもお借りして、教会の皆が行きつけにしている銭湯に向かう。
その道すがら、教会の中をちらりと見るが、意識が飛ぶ前に居た大勢が殆どいなかった、いないってことは、良くなったことよね
腰の骨が折れていたり、内臓から出血があったり、首の骨が折れてる人たちも無事たすかったんだ、みみなりがする。

何かを引きずった痕跡があるけれど、きっと、這いずってでも動けるようになったんだね、よかったよかった。みみなりがする。

耳鳴りが酷くてちょっと頭が痛いけれど、シスター達に腕を引っ張られるので体を綺麗にしないとね、しっかりと身だしなみを整えるのが淑女として正解よね。いきましょいきましょ。

シスターの皆さんとお風呂に入りながら、昨日の負傷者たちがどうしてああなったのか原因を聞いてみると、シスター達も直接的な原因は知らないけれど、貧困層が根城にしているエリアで大火災が発生して逃げてきた人達ってこと?へぇ~…だれも火傷なんてしていなかったわよ?みみなりがする、頭痛い…

まぁ、場所が場所だし、火災が発生しちゃったら消火に時間は要するし、現場に人が居たら作業も出来ないものね、避難するためにきっと転んだりしたのよ…腹部を刺される現場ってなによ?みみなりがする、頭が割れそうにいたい…




体も心も温まり、リフレッシュして教会の広場に戻ると野ざらしになっていた人達が誰も居ない、貧困層のエリアもひと段落したので帰ったのだろう。
心配だけど、女性独りであのエリアに近づくのは危険行為過ぎるので様子を見に行くことはできないわね。無事を祈ることしか、私には出来ないわね。

教会に戻ってきて、持ってきた荷物から私服を取り出して着替える、お借りしていた礼服を返すべきだけど、汚れているのをそのまま返すのも、ちょっとどうなの?って感じよね…

シスター服を広げて、血と泥で汚れた礼服をどうしたものかと悩んでいたら、同じように着替えているシスターが、「そのままで大丈夫ですよ、汚れた服は此方の籠に入れてください、明日にでもみんなと一緒に洗いましょう」と教えてくれるので籠の中に入れる。

シスター達が服を籠の中に入れて私服へと着替えている、どうやら、特に用事が無ければ教会で寝泊まりせずに、自宅へ帰る人が多いみたい。
孤児院を併設しているような所では泊まり込みが多いけれど、王都にあるこの教会の総本山であるここでは、寝泊まりするのは滅多にない。

シスター達も常にシスターとして教会で働いているわけではなく、他にも仕事をしている人が多いのね。教会と言えど、色々あるのね。
着替えながら教会の事情とか世間話に花を咲かせてお別れをする。夜道には気を付けるのよ。

集団で帰宅するシスターを見送った後、ポツンと独り教会に取り残される…取り合えず、教会の中に戻りましょう。

はぁ、それにしても到着早々、疲れたわね、昨日というか今朝方というか、今って何日目よ?早くも時間の感覚が狂いつつあるわね。長引く様なら明日には手紙を出さないといけないわねって…長期滞在する気?おかしいわね、何かこう、思考が定まらないような、ぶれるような?久しぶりの王都に、普段立ち入らない場所だから、緊張しているのかしら?

良くないわね、このまま、ズルズルと何かの陰謀に巻き込まれないためにも早々に動くべきよね、何をやってるんだかって思う部分もあるかもしれないけれど、性分なのよ、傷ついた人を見過ごせないわよ、しかも、あんな数、あそこに居合わせたのは運命なのだと感じるくらいよ?
天からの試練みたいなね、医療の知識が無い素人集団に担ぎ込まれる大量の負傷者、そこに現れるは死の大地という第一線で活動し続け、長きに渡り外傷と向き合い続けてきた猛者!医療班団長が煌めく命を救う為に参上って口上を述べるべきかしら?

違う違う、そうじゃない、何偉そうに踏ん反り返ろうとしているのよ、お山の大将になる気はないわよ?

外はもう夜、つまり、二日目、ぇ?もう二日目!?明日には帰らないといけないじゃない!
…まだ、挨拶すらしてないじゃないの、取り合えず、司祭様なら末席の王子との繋がりがあるはずよね?
手紙にもそう書いてあったもの、王都に来られたらまずは教会を訪ねてくださいって書いてあったのであれば、司祭様とも話は…

なにかしらこれ?ろうかにぬるっとしたものがふちゃくしているわね

司祭様がいるであろう部屋を探そうと教会の廊下に出る、真っ暗な廊下、木造建築なのか、教会の通路はフローリングのように木材で出来ている、その廊下に赤い染みが見えるような気がする、困ったことに色が見えない私には目に映るぬるっとした液体が赤色なのか正確には判断が出来ないが、これは赤色のはず。

医療班として長い事、勤めていたからこそわかる、これは、血の感触よね?ちであれば 赤い みみなりがする。
こんなばしょに あかい あかい ちが こびりついている わけがない そうよ、絵具とかそういったものよね?こんな神聖な場所で血がこびりついているわけないじゃない。

なにかを ひきずった こんせきが ある そのまま 教会の祈りの間から ひきずった その道筋を 辿っていくと
とある部屋に入るためのドアに到着する、ドアの前には司祭様の部屋と表記されているのできっと、ここが司祭様の部屋なのだろう
コンコンとノックすると「この様な、夜更けに、この様な、場所まで、足を運んでもらい申し訳ありませんが、時間も時間ですので、明日の早朝でもよろしいでしょうか?」ドアの向こう側から此方側まで聞こえるくらい荒々しく息が途切れ途切れの大きな声が聞こえてくる、ドアの奥から何か音が聞こえた、大きなものが床に倒れるような音が聞こえるけれどきっと、何かの作業をされていらっしゃるのでしょう。
ドアの向こう側にわかりました、明日の早朝にお伺いしますと声を掛けてからその場を離れる。

そうか、今は深夜になるのね、道理で

教会の中が静かなのは、そういうことね。…さっきシスター達と別れたばかりでしょ?なにを、頭が痛い大きなみみなりがする…



頭痛と眩暈がするなか、なんとか、ソファーまで戻り、ソファーに座ると今まで感じたことのない睡魔に襲われ、意識を失う様に眠りにつく…



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