最前線

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とある人物達が歩んできた道 ~ 花菱草を抱きたくて ~ ①

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新しい風がこの大地に吹き野に咲く草木が揺らされる様に私達も揺れ動くでしょうね…
揺れ動きはするが、私達はそれを望んでいる、それを待ち望んでいた。さぁ、受け止め抱きしめましょう、新しい風が迷わず目的地へとたどり着けるように…

先達者である私達が新しい風に何を出来るのか、何を伝えれるのか、新人達がどこの部署に配属されるのかある程度の話し合いをするために各部署を取りまとめる幹部達が集まる。
例年通りであれば、各部署の人達がどの程度、人数が欲しいのか希望を出して終わりとなるのだが…
全員が目を光らせているであろう、待望の希望、大型新人と噂が留まることを知らない人物がこの街にやってくる…何処から漏れたのか、既に彼がこの街にやってくるのが周知に知れ渡っている。
戦士の部署は当然、欲しがるのはわかるのだけれど、研究所や、隠蔽部署も欲しがっているのが謎なのよね。

正直に言えば、戦士長の息子である彼が最も輝くのは戦士の部署、前線で戦うのが最善であり最適解だと思っていた…
思っていたのだけれど、まさか…
新しく知ってしまった新事実を、今度の会議で話さないとといけないのが、波乱を産むのが目に見えている…

その新事実を聞いた瞬間、私もありえないと思ってしまったほどである。
あの騎士様の息子さんが志望している部署が誰しもが予想していなかった部署だったから…


予想外だったけれど、私の中である感情が沸き上がり、枯れ果てていた、もう二度と湧き上がることは無いと思っていた、明日への、未来への活力を生み出したのは運命って感じているほどよ!!


何があったのかって言うとね…思い出すだけでちょっと滾ってくるわね。っふふふ


それから数日程過ぎた、ある日、姫ちゃんが部屋に入ってきて書類を見せてくれる。
その書類とは前に持ってきてもらった新兵の名簿リストで、この書類に不備が無いかの確認をするために担当者の方へ出向き、間違いが無いのだと確認してきてくれたみたい、それをわざわざ、丁寧に足を運んで知らせに来るほど、この子はマメじゃない…基本出不精!これくらいの言伝だったら回覧板とかで済ます!『前の確認したよ!間違いなし』って感じで伝えてくる…それをしないで足を運ぶという事は…波乱の予感がするわね。

他にも書類が増えており、内容を確かめてみると…
新兵達の新しい情報が記載されている?
各々が志願書を作成するときにでも聞いていたのか、志望の部署が書かれているし、この街へ志望する際に推薦者が居ればその人の名前が書かれていることがある。
推薦者など無くても、この街は誰でも歓迎だけれど、この推薦者っていうのが昔からある習わしみたいなもので、昔は、この街を維持するために各領地から、生贄のような扱いで送られてきて、その送り出した人物が誰なのか明記しないといけなかった。
そうしないと、どこどこの領地から誰も送られてこなかったけれど、どういうことですか?っと、王族に、誰も送らなかった領地を罰する為の口実を与えてしまうからだ。
過去に理由もなく人材を数年も送らなかった場合、税金が倍になったという噂を聞いたことがあるのよね。

今となっては、この街に生贄のように人を送るって言う制度は廃止してもらったから、推薦者って枠は未記入なことが多い。
意味を殆どなしていない昔から取り合えずある推薦者名前などが書かれている追加書類、だけじゃなく、この街で働きたい志望部署と、どうしてその部署を選んだのか動機も書かれている書類がある。
渡された手前、中身を確認しないといけない、武闘大会で鮮烈なデビューをはたしてこの街にやってくる、なんてのも昨今無いのよね。
武闘大会で成りあがって仕事を得る!っていうのがもう古い考えなのよね…仕事が欲しかったら相談すればあるし、この街で働きたいのであれば、バスで直接やってきて志願する人もいる。

そもそも、何時だってこの街は人を迎え入れるつもりでいてるけれど、単独でやってくるのは殆ど、この街で一旗揚げたい何かしらの実力者だったり、学園を卒業した後ものらりくらりと何もせずに家でダラダラとな~んにも仕事をしないドラ息子にぶち切れた貴族が放り出す先だったりするのよね…

後は、側室候補だった人達が、相手が見つからずとか、側室として迎え入れてもらえたけれど、本妻姑等から、いびられて逃げ出したくても受け入れてくれる場所が無くて、それでも、そこから逃げたい一心で逃げちゃった結果、あちこちを流れに流れて…心が荒れ荒んで、悲しみと絶望の中、ふらりとやってきた乙女たちの心の拠り所みたいにもなってたりするのよね…

そういう人達とは違って、新兵達っていうのは、王都だと、学園上がりとか騎士団所属の人達が移動願いを出してっ正式な手続きを踏んで志願する人とかが多いのよ。
後は、地方だと、一定数志願者が超えた場合、新兵の一団として志願書を提出してくれたりする。

そんなわけで、新兵達には予め書類で、志望動機とかを記入してもらったり、推薦者が記入して提出してくれたりするのよね、まぁ無記入の方が殆どだけどね。
だって、学園上がりでこの街にやってくる人達って他に行き先が無くて、止む無しの人が多いのよ。

そんな、無気力の塊を見て、何を驚くのだろうか?って普段の私なら思うでしょうが!今回は違うのよ!既に知っているのよ!話題沸騰誰しもが待ちわびている人が何か驚きの内容を書いていたって事でしょ!?
何が書かれているの、姫ちゃんが相談したくなるような内容が何か!知らずにはいられないってわけね!

必死に、彼の名前を探して、志望部署や動機が書かれている項目を見つけ、そこに書かれている文字を、二度、三度、読んでも…
目から伝わってくる情報が…頭がその文字を受け止めることが出来ずに思考が止まってしまう。

…だって、彼が、あの、彼が!騎士様の息子である屈強な肉体を持っているであろう一族の彼が!!…志望した部署は予想外の部署だった。

騎士様と私の関係性を知っている幹部連中だったら、私利私欲で書類を偽造しただろって突っ込まれないかねない部署…
そう、私だって正直に言えば彼が希望する部署なんてね、騎士様と同じ戦闘部署である、騎士部隊か、戦士部隊を志願しているのだと思っていたのだが…

書類には【医療部署を希望】と書かれていた

正直、姫ちゃんも私も…どうしてそうなったのか、意味が解らなかった意図がわからなかった、理解が出来なかった。
だって、あの!偉大なる戦士長の直系よ?誉れある王国の盾、王族を守る筆頭騎士の直系よ!?戦士職が最も輝くポジションじゃないの!?
血筋だけで見れば地上最強よ?あの女将だってお義父様には敵わなかったと姫ちゃんから聞いているのよ!?年齢差、体格差をものともしない究極の血脈よ!?

戦士職以外、有り得ない程の考えられない程のポテンシャルを持っているって考えるのが普通じゃない!?

更に驚いたことに志望動機が
【戦闘に向いていない僕が前線に立つよりも、多くの人を救い続けることで、敬愛する父親の仇を数多く討てると考えております。僕一人では数多くの仇を討つことが出来ません。僕の望みを託すために、僕は、医療を志し、傷ついた戦士達を陰ながら支えて数多くの仇を討って欲しいと願いを託したい】
素直に受け止めたらなんて、ステキな考えなのだと賞賛したくなる最高の内容よ?でもね、至極真っ当な動機の中に、嘘が織り交ぜこまれているとしか思えれなかった…

あの、戦士長の息子が、戦闘に、向いていない?…この部分、この街に住んでいる人だったら、誰一人として信じないでしょうね。私だって信じることが出来ない。

真っ当な動機がしっかりと書かれているせいもあって、彼が戦闘に向いていないのだという事実が信憑性を上げようとしている…だけれど!戦士長を…騎士様と共にこの街で戦い抜いてきた幹部達からすれば、何を言っているのだと?謙遜するなって、どうせ、お前が書類を改ざんしだのだろう?って感じで疑われてしまってもおかしくない。

彼の動機が素直に受け止めてくれるとは思えれない、信憑性を上げるどころか…って感じよね。

困ったことにね、この志望動機がこれ以上も無く信憑性を爆発的に向上させてしまう頭を悩ませてしまう部分があるのよ…この書類を作成した人の名前が…お義父様だった。

つまり、志望動機も、志望部署も、しっかりと調書したうえで、正式な書類としてつくられているとなるわけよ!
だって、この書類を作った人物を疑うという事は王国そのものを疑う程になってしまう。それ程までにお義父様の名前は実績がありすぎるのよ…影響力が強すぎる。

私達の戦士長が、この街で働くきっかけは多くは知らないけれど、残された書類では、騎士様は王都からの推薦状って形を取っている、つまり、王族から依頼を受けてこの街を導くことを仕事として派遣されている一人っていう書類上ではそういう形だった、そして、息子さんも同じようにその形を取られている手前、この書類は万に一つの間違いはないってことになる。

そう、騎士様と同じ、お父さんと同じ道を歩もうとしている…王都、いいえ、王族直轄で残されている今はもう使われていない枠。
この街を監督するのに平民ではまかせられないために貴族の中でも死んでも問題ない人物が派遣させられる為に用意された特別な枠を利用している。

どうして、忘れられたというか、使われていない枠なのかっていうと、王様から直に姫ちゃんがこの街を統治する様にって通達を受けてからは王都にいる貴族を派遣する必要が無くなったから使う必要が無くなった古い制度なのよね。だからてっきり私も、この制度は撤廃されたものだと思っていたのよね…忘れられた制度を利用してくるなんて、何かわけあり?なのかしらね?…

騎士様の息子さんだったら、そんな強引な手段を使わなくても、此方は大歓迎なのに?どうして?…
志願している部署が部署だから?普通にこの街に志願してきたら志望の部署に配属されないと踏んだから?

もしくは、何かの陰謀?わかりやすい御旗を用意して、私達が欲をかくのを牙を研いで待っている?御旗を掲げ建国宣言をしたと同時に攻め込む為、罪状は、国家反逆罪という形でね。

嗚呼、だから?偽造工作ってこと?もう一人の王族に不信感を抱かせないために、平民枠として紛れ込む形をとったのだろうか?それとも、本当は王族推薦枠を使いたかったけれど、先にその枠を確保されていたから使えなかったから?王族が知らなかっただけで先に騎士様の息子さんが使ったから平民枠にさらっと紛れ込ませた?
これは、偶々なのか?偶然なのか?本当に、何かしらの陰謀が絡んでいないのか?…つい、勘ぐってしまうけれど

姫ちゃんの意見としては…
「推薦人と責任者が筆頭騎士様でしょ?なら、陰謀とかは何も関係ないと思うよ?偶々、偶然…タイミングが重なっただけか、もしくは、この時を待っていたのかもしれない、かな?だとすれば、王子はお母さんが言ったように、王族という身分を捨てたいだけなのかもしれないね」
みたいな感じで姫ちゃんは納得しているみたいだけど、私として、感情的な部分でも、右大臣としての部分でも納得できない部分があるのよね~…

右大臣としても、感情的な部分でも両方が納得できない部分…どうして、医療班を希望しているの?って部分なのよ…
そもそも、私と騎士様の奥方とは、最悪の関係値だと思っているけれど?普通に考えてあんな出会い方をした人物と同じ部署を息子が向かおうとしていたら普通の精神だったら全力で止めるわよね?

…まさか?ぇ?正気?

あんな出会い方をしておいて、貴女は、息子に私の事を何一つ伝えていない?…そんな事がありえるの?
息子を使って私に何か…探りたいこととか、命を狙ってたりしてない?ぅぅ、私だったらそんな陰湿な手を使わない事も無い!!
嗚呼だめ、もう、全てが疑心の目で見てしまう!?何を信じたらいいの!?

書類を持ってきてくれた姫ちゃんがお茶を飲みながら焼き菓子を美味しそうに食べている…
お母さんの心の中が秩序ある混沌…カオスと化しているのにいいきなものねー…その余裕が本当に羨ましく感じる、つい、もたれてしまいたくなる…
そうね、姫ちゃんも大人になったのだし、どんどん頼るべきよね?…前々から頼りっぱなしにしといて何を言ってるんだか…
「ねぇ、姫ちゃん」声を掛けるとちらりと視線を此方に向けて、うんうんと頷いている。
つい、全てを理解している英知の塊である姫ちゃんに答えを求めてしまいたくなるのは自然なのよ。
彼女であれば全ての答えを知っていると、つい甘えてしまう、例え、的外れな事を言ったとしても心の底から信じられる程に彼女の功績は計り知れない…そんな人物に私が生きる為の指針を授けて欲しくなってしまう。
焼き菓子で指先が甘くなっているのをハンカチで綺麗にした後、こっちを向いて真剣な目をしている、その真っすぐな眼は、私の奥底までを見据えるようなまなざし…
「うん、お母さんが何に悩んでいるのかわかるよ?私も同じだもん…書類に不備はない、間違いはない、ただ、一点だけのおかしな部分。もう、この際、貴族云々よりも、騎士様から繋がれし類まれなる血筋を受け継いでいる血脈、計ってはいないけれども話を聞いていればわかるよ?実物も見たことだし、あの一族は、王家の秘宝と遜色ない程の才気の塊であるって断言できちゃうもん。その彼が、どうして、医療班を志望しているのかって部分だよね~」
そう、そうなのよ…どう考えても、貴方が輝く場所はそこじゃないでしょって、そこの部分が凄くひっかかる。

私は…彼がこの街を志願していると知った瞬間にあの輝きを思い出して仕方が無かったのよ…
誰しもが心を委ね、誰しもが未来を与えてもらい、誰しもが心惹かれてやまない背中を…

永らく、いいえ、誰だあろうとも、誰も、その名を継ごうとしなかった、継げるほどの器が居なかった。だからこそ、永らく空席だった戦士長の名を継ぐのは相当な人物であると、重圧が重なっていった、そして、その重圧を受け止め切り皆を導くような存在として申し分のない血脈…彼こそがその席に座るのだと…勝手に決めつけていた…

そして、息子さんがこの街に来ると知った人達、その全てが…全員が、期待している。あの、あの!戦士長が…帰ってくるのだと…勝手に期待してしまっている。

ベテランのやつも、彼が来ることを何処かで聞いたみたいで、今まで苦しみ辛そうにし、それでも気を弛めないと張り詰めていた顔が一気に緩み切ってしまったかのように安堵していた…

その理由はすぐに理解できた、だって、あいつは…憧れの戦士長が月の裏側へ旅立ってからずっとずっと…自分では生涯、あの日見た武の頂へ辿り着けないと心の底から感じ続けているのだから。
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