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とある人物達が歩んできた道 ~ 駒 ~ ①

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何時だって、始まりは突然で終わりも突然…それが人を好きになるという出来事

私も、同じだったわね、憧れを通り越えたひとめぼれ、噂では聞いてはいた、凄い人なのだと、一目見たいと物陰から覗き込むように見た、その瞬間から私の世界に色が宿った…
恋なんてね、予想もしていない所で始まるものなのよね、私と同じで姫ちゃんも当然だったのね…

始まったばかりの恋は、未来からの情報で初めての恋…初恋の相手が死んでしまった…

未来では、どんな物語があったのか、知るすべはない、知っているのは姫ちゃんだけだもの…
これから先に待っているであろう、恋物語の結果が…目を瞑りたくなるような、耳を閉ざしてしまいたくなるような悲惨な結果を唐突に叩きつけられて、初めての物語が最悪の形で終わりを告げてしまった…

ここで、このタイミングで未来の情報を知ったというのであれば、未来は、失敗したのなら…
今からであれば取り返しはつくって前向きに考えるべきなのよね、辛い未来へと進まないためにも私達に出来ることを…最善を尽くすとしましょう。

腕にある重みに視線を向けると悲しみと絶望を受け止めた姫ちゃんは、泣き疲れたのか、苦悶の表情をしながら私の腕の中で眠りについている。
愛する娘の為に、愛する人の息子…二人を幸せになるために、幸福の未来へと繋げるのが…

私の心は固く固く、揺らぐことのない託された願いを胸に抱く

どんな理由で在れ、死別なんて許されないわよ、あのような悲しみは…私だけで充分よ

この世界には光が無い、希望が無い…姫ちゃんが新しい希望の光と成ろうとしていた、けれども、彼女だけでは世界を救うことはできない。
だけど、私のような矮小で何も才を持ちえてない人々を導ける様な特殊な才を持ち合わせていない存在に何が出来るのだろうか?

才能の無さに、何度も幾度となく結果が『お前では無理だと』肩を叩かれるように叩きつけられて続けてきた苦い過去が固めた願いを砕こうとしてくる

それを振り払う為に、意識を違う方向へ向ける、お前には無理だと何度でも言われようとも、足掻くことをやめてはいけない。
…考えよう、私に何が出来るのか、考えよう…仕事なんてどうでもいい、世界なんてどうでもいいのよ。


今度こそ、愛する人を守れるように

過去の苦く悲しい結果しか残せなかった苦しみから逃れるように愛し守るべき存在である永遠の女の子を見つめる
苦悶の表情のままで苦しそうに寝ている姫ちゃんの眉間を指で綺麗にならしてあげ、安心して心安らかになるようにと願いを込め頭を撫で、絶望の記憶で小さく震える体を抱きしめる、その絶望を否定するために

ゆっくりと震える小さな体が、強張り力が抜けなくなっている小さな背中から少しずつ力が抜けていくのが感じる…それと同時に湧き上がってくる感情を唇を噛んでやり過ごす。
世界はどうしてここ迄、辛い現実を体験を未来を彼女に与え続けるのだろうか?…

理不尽な想いばかりをし続けている現状に苛立ちや怒りなどの暗い感情に引っ張られそうになるのを切り替える為に唇を噛んでいたがそれだけでは物足りない!頬を叩く!
姫ちゃんが起きない程度の衝撃だけれど、その痛みによって感情が切り替わるのを感じる、この流れに身を委ねるように真っすぐ未来を見据える様に、暗い感情に引きずり込まれない様に気合を入れる。いれようとするけれど、最近、心のエネルギーが湧いてこないから、一瞬だけ、一瞬だけ気合が入るけれど、長続きしないのよね…

ふとしたことで目指そうとしていた道から外れそうになる、それくらい私の心は常に移ろいやすい、弱くもあれば強くもある、けれども、基本的に受け身で弱いのよね…

危ないことは苦手だし、人と正面切って争うのも苦手だし、出来る事なら困難なことに自ら望んで関わりたいとは思わない…
それなのに、私の人生は、常に、突如舞い込むように特定の事をしないといけない様に強要されたり、周りの人達よりも私の方が適性がある影響もあってしないといけないことが多かった。

私しか、出来る人が居なかったり、出来れば避けたいような出来事も、回避することが出来ない止む無き状況になってっていうのが殆どだった。

小さなころから側室として生きる事しか道が無いと育てられてきた、そんな私には…世界を動かせれるような才能は何一つないと思っていた、それに関しては今もそうだと思う。
始祖様のような圧倒的な力の塊、誰をも圧倒する輝かしき才、そういった誰でもない、特別な人ではないのよ、私は。

幼い頃からそういった人達が世界を動かし、私のような平凡で有り触れた何処にでもいるただの才無き人物は世界の変化に関わることは無いと思っていた…

でも、姫ちゃんと共に歩んできた道を振り返ると違っていた共に歩んできた様々な革命…
医療に新しい知識が生まれ、過去の知識や技術では救うことが出来ない人を救えるようになった
食料生産量も少なく、問題視されていたのも過去の話
仕事が無くて、生きる術も無い人達が溢れていたのも過去の話…
様々な問題を解決して来たその多くが、才能なんて欠片も無い、道場に落ちている石ころだと蹴飛ばされてしまうような人達が手を取り合って現状を打破して来た

人々が手を取り合って、輝かしい未来に向かって足並みをそろえて利己的な考えを捨て、明日を夢見て駆け出した、それによってもたらされた豊かな生活。
こんなにも数年で激的に変化するなんて幼い私に伝えても信じないと思うわね。

だからこそ、私のような才無き者でも活路を切り開く力となりえると信じて、動きましょう。

そうよね、諦めないのが一番だって姫ちゃんが言っていたじゃない。
その姫ちゃんが常に言っていた、『人は力』独りではどう足掻いても成し遂げられないようなことも、人が集まること出来ることがある。
それを具現化したかのような画期的なシステム『魔力集積回路』…教会や各町の協力の下、この街の地下には大規模な魔力を集め保存する為に開発された数多くの人口魔石が設置してあり、この魔石には、各町から常に魔力が送られ続けている。

人々の祈りによってこの街は人々からわけてもらった魔力という動力をもって様々な設備を無限に動かせることが出来ている…
だからこそ、今だからこそ、出来る研究もある、魔力が足りなくて動かせなかった敵から奪った魔道具の数々がある、失わない未来を勝ち取るための魔道具を開発しましょう。
人昔の微々たる量しか生み出せない非力な魔力では、実現不可能な大規模実験も出来るじゃない、実験結果さえあれば、賢い人が何かしらの利用方法を思いつくでしょう?

そうよ、私には姫ちゃんのような才能はない、始祖様のような強さも無い、騎士様のような人を惹きつける力もない
そんな私でも、何かしらの何かがあるはず、行動を起こす事が大事、私のような古いタイプの研究者は一つ一つ地道に実験を繰り返してデータを収集するだけしか出来ないのよ。
そのデータを元に新しい何かを生み出すのは才ある人の仕事、才無き人は彼らの助けとなるべく動くだけよね!

愛する姫ちゃんの背中を撫でながら心を研ぎ澄まし、街にある魔道具をどう使ってどの実験を優先すべきか思考を巡らせるために思考を加速させるようにフル回転させる。
私にできることはひたすらに考える事!体力だけに関しては誰にも負けない自信がある。年を重ねても、まだまだ。若い子には負けないんだから!

…さぁ、考え続けよう、欠片でもいい、何かのきっかけでもいい、先に進める為の策を考えよう、可能性を探ろう。
姫ちゃんが起きてから、直ぐにでも動けるようにしないとね…

眉間の皺が取れ心穏やかな表情で寝ている姫ちゃんをベッドに寝かしつけ、机に向かおうとするが服を掴まれてしまって離れさせてくれそうもない。
考える事なら何処だって出来る、今日はずっと傍にいてあげましょう。ベッドに座って頭を撫で続ける…

撫で続けていると、時折、苦しそうな表情をする、眉間にぐっと力が入ってしまっている、きっと寝ている今も未来からの情報が脳内を駆け巡っているのでしょうね。
独りでは抱えきれない程のストレスと今も闘っている彼女に…起きてたら再度、そのストレスを語ってくれないかと声を掛けないといけない、その問いに眉間に大きな皺を作ってしまうのはわかりきっているけれど、致し方ないのよ…
心苦しいけれど、詳細を教えてもらえるのなら教えてもらわないといけない、どういった状況でどうしてそうなったのか知らないと対処できないもの…

私だって出来る事なら耳を塞ぎたいわよ、どんな状況で、どんな風に…愛する人の子供が死んだのかなんて、知りたくない、想像すらしたくない。

色々な感情が渦巻く中、ベッドに座りながら考え続ける…自分がどの様に動けばいいのか、知りうるすべての知識の中に何かアイディアが埋もれていないか考え続ける…






「…おきて…おきって!…おきて!!」
音が聞こえる…目を開けようにも、瞼が重たい…起きないといけない理由はある、だけれども、もう少し、寝ていたいのよね…
目を閉じてじっとしていると、体が揺すられる感覚が伝わってくる…揺すられる?誰に?

少しずつ目覚めていく思考の中で誰が起こしに来たのか、考える…
私の部屋に勝手に入ってくる人といえば、姫ちゃんだけれど、姫ちゃんが私よりも早起きすることなんてあったかしら?ないわね?

他に可能性があるとすれば、小娘メイドが用事があって起こしに来たってこともありえるのよね
…小娘かしら?だとしたら、起きないとまずいわね、メイドが起こしに来るってことは急な要件でしょ?

微睡みながら、瞳をあける、滲む視界から不思議な情報が伝わってくる…目の前には水たまりがある?…みず?どうしてくうちゅうにあるの?、ぁ、はい、避けれないわね。
起きない私を目覚めさせるために水をぶっかけてくるなんて発想、姫ちゃんしかいないわね…
顔に水が当たる覚悟を決める前にパァンと激しめに水の塊をぶつけられ、その衝撃で完全に目が覚める。
衝撃から察するにそこそこ、水の量が多いわね、バケツ半分くらいかしら?

しっとりと濡れた状態で上半身を起こして顔と髪の毛についた水気を弾く様に頭を振ると
「犬みたいな事しないでよ!水しぶき飛んでくる!はい、タオル!」
容赦なく乾いた布が顔面に叩きつけられる、水をぶつけるという乱暴な相手にささやかな反撃よ
投げつけられたタオルで濡らされた顔と髪の毛をささっと拭い、ベッドの方に視線を向ける…しっとりと濡れてしまったシーツを見て溜息をつきたくなってしまう。日当たりのいい場所に置いとけば渇くでしょうけれど、面倒ね…
タオルを投げてきた相手を見ずに挨拶でもしましょう
「おはよう、手厳しい起こし方ねー」
姫ちゃんの周りにはバケツが転がっていないのを見る辺り、貴女ねー無駄遣いしないの…まったく、貴女の体には魔力が無いのだから、術式を日常的に無駄に使わないで欲しいモノよね、誰が補充してあげていると思っているの?…まったく、毎度のことだけどさ、私の事、大きな魔力源としか考えていないのかしらね?なんてね、そんなのは昔からだから、今更って感じよね。
乱暴な起こし方だけれど、貴女に起こされるなんていつ以来かしら?
「目、覚めた?」
声の感じからして、吹っ切れるというか気持ちの切り替えが早いわね、もう、日常って感じじゃないの。
何時も通りの短い短文での問いかけに対して頷く、こういう短文の時は急ぎの用事がある時が多いのよね…

私も貴女に聞きたいことがあるけれども、姫ちゃんが考えてることや予定を優先しましょう。
急いでいるってことは、何かしらの対策をするために動くのでしょうね。未来を変えるために
ベッドから降りると同時に手を掴まれ
「んじゃ!いくよ!」
力強く強引に引っ張らるけれど、お化粧くらい、させて欲しいのだけれど?
思ってしまったことが声に出てしまったみたいで、直ぐに返事が返ってくる、が…
「お化粧?しなくていいよ、しても、すぐに落とすことになるから」
言葉の内容からこの後に何か嫌なことが待っていそうな気がするのですけれど?
…お化粧しなくてもいい、その言葉が意味することは、何かしら?化粧が崩れるほどの肉体労働が待っているってことかしら?
汗だくになった思い出が蘇ってくる、この娘とは本当に長い付き合いになる、様々な無茶ぶりに女性に頼むとは思えれない重労働を経験してきているけれど、一番最初の重労働が一番堪えたわね、あの頃はちょっとダウナーぎみで体もなまっていたから、ほんっと、二日三日も尾を引いたのを未だに覚えているわよ。
…っふ、あの頃の思い出が蘇ってきて足が小さく震えているのを感じるわね、良いわよ!やってやるわよ!貴女が多少大きく…おおきく…
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