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Dead End ユ キ・サクラ (8)

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一つ…また、知らない記憶…私の中にあった、もう一人の人格…てっきり、私の中に残る男の部分だと思っていた…
まさか…私の中にもう一つの魂が宿っているなんて知らなかった…死の一撃の門番、自己防衛本能だと思っていた…
違った…それも、王族?やっぱり、私の血筋は本当に王族だったんだ…王城で話を聞いた時は半信半疑で、何処か別の世界なのだと…
私とは無縁の世界だと…そんな風に…捉えていたけれど…そうじゃなかったんだ…お母さんは…私に…そういう世界に踏み込んでほしくなかったから…
何も言わなかったのだと…思う…私も…そういう世界に足を踏み入れるなんて…向いていないと思う…

…ぁぁ、だめだ…たしょうは…覚悟していた…気持ちを紛らわそうと…他の事を考えてみたけれど…だめだ…紛らわせることが出来ない…

いたい…思い出したかのように…体全身…今は意識を切り離しているはずなのに…痛みが…全身を切り裂かれて…噛み砕かれて…

内臓が痛い…骨が痛い…筋肉が痛い…皮膚が痛い…ぜんしんがいたい…

どらごんは…てき…ドラゴンは…敵!!…だめ、意識を集中させないと…もっと、もっと奥へ…姫様の意識が流れ込もうと…奥へ!!
同調現象が激しくなってきているのはわかってる!でも、これを逃すと、姫様を救うことは出来ない!
肉が裂けるような痛みだろうが、皮膚が裂けるような痛みだろうが、内臓が食われる感触だろうが!超えて見せる!!

今、体と繋がっていたらきっと、痛みによって発狂していたと思う…
まだ、術式の中にいる限り、No2は止めようとしていないってことになる…
No2も、街の人全員が、私が助けると信じて待ってくれている!!夢も希望もある!!絶望する必要なんて無い!!

私は進む!何があろうと!…切り札もある

常人では耐えられない痛みを背負い、奥へと進んでいく、最初は拒まれてしまった禁断の領域へ…


『耐えるのよ!後輩!!』


せなかを さすられるような ヤサシイ かんしょくが つたわってきたような きがした






「っぇ!?な、なに!?」
突如、ぽっかりと空いてしまったような気持ちの悪い感覚によって目が覚める。
私の周囲には常にある術式を展開している始祖様から授かった加護…寵愛の加護を改良して作った索敵術式

範囲はとても狭いけれど、敵からの特殊な干渉を防ぐ作用があり敵がどの方向から干渉しているのかも探る索敵術式…
この術式の魔力源は寵愛の加護から拝借しているので、私自身には何も負担がないのは、いいけれど、本当に作用しているのか実感は無かったけれど、今回のでしっかりと作用しているのが実証できたのはいいんだけど…

その作用範囲内に突如、何も干渉できない特殊な空間が生まれているってのが問題じゃん!
まさか、こんな形で、突如、術式がしっかりと作用しているという実感を得られる日が来るなんて思ってもいなかった…

こんな夜中に、まったく、敵ってやつはお構いなしだな、もう!っと、体を起こした瞬間だった

『柳』

っという、単語だけが頭にふと湧き上がる…

やなぎ?なんだろう?たった一つの単語だけで何が分かるというのだろうか?…
普通の人であれば、こんなのただ寝ぼけていただけで、何も気にすることなく、寝ぼけていたんだと鼻で笑い、もう一度、夢の世界へダイブするのだろうが…

私にとってこの一言は意味あるモノだと幾度となく経験してきているのでわかる。

普段と違う現象…それと連動する様に突如ワードが降り注ぐ…
恐らく未来の私が思念を飛ばしてきたのだと、考えるのがベストなんだけど…内容が困ってしまう、たまにというか、唐突に送られてくる緊急性のパターンではなく、短文?ワード?どういう状況下でその単語をチョイスしたのだろうか?

可能性があるとすれば、極限の状態で、魔力が残り僅かな、ギリギリ捻る出せる魔力で必死の思いで送れたのだろう、けれど…柳って何だろう?

後、死んだ状況が予想外の出来事、つまり、突拍子もない状況下で死んだって考えるべき、だとすれば、それに備えるのは難しいのでは?柳で何に対して備えるの?ワードが届きっていない可能性もある?ジャミングされたとか?…うーん、予想しようにも情報が少なすぎる。

ワードそのものを考えるよりも、タイミング…
こんな、今から何かありますっというタイミングで、飛んできたという事が大事な気がする。
この先に待ち受けているであろう非日常の出来事、今までの日常を過ごしてきて、一度たりとも発生することが無かった現象が今この瞬間に発生している。

これが無関係だとは思えれない、ってことは…考えられることは一つ、私がその現象を調べに行って死んでしまったと考えるべきだろうね…

つまりは、敵が、人類の敵がこの街にやってきたと考えるべき
…それも、私の術式に干渉することが出来るほどの使い手が、敵だという事になる。

私の命を狙ってか、この街を壊滅させるために忍び込んだ隠者か、術式を使って尚且つこの街に忍び込めるやつなんて悪魔信仰という名の獣の先兵だろうね…悪魔信仰をしているのが獣に洗脳されたという証拠が無いから、確証は得られていないけれど、過去の出来事を繋げていくと、そうとしか思えれないんだよね。公表は絶対にできないけれどね!

まぁ、何にせよ!誰でだろうと準備無しに、迂闊に動くわけにはいかない!!
柳というワードが何か、現状で繋がる物が何かわからない!何も無いけれども!この先に命を賭けた戦いが待っているって言うのは確かかな?

はぁ、まったく!寝起きだというのに一瞬で目が覚めたよ!!やってやろうじゃん!!

深いため息と共に、ベッドからゆっくりと降りて、机に向かいながらも思考を止めることはない、状況を考える…のだが、時間が足りない、考える時間が無い。
敵が何かをしているのであれば、悠長にしている場合じゃない、思考超加速を使ったとしても、現時点での情報が少なすぎる。無駄に魔力を大量に消費するのは良くない。

敵がこの街に来ているという状況が私の心を平常心から遠ざけ焦ってしまう…
焦る気持ちを抑えようとしても抑えきれず、つい、机の周囲をウロウロと歩いてしまう。

取り合えず、外に出るのは確か!敵と闘うのは確実!だったら、戦闘用の服に着替える!
っといっても、私専用の鎧は着ない、鉄を糸のように編み込んだ鎖帷子を着てその上に少し大きめの服を着るだけ。

私専用の甲冑はあるが、単独で動く場合だと、重すぎて向いていない、私の筋肉量を舐めてはいけない、貧弱だよ私?
そんなわけで、私の得意とする戦闘スタイルから見ても、重くて動きにくい甲冑は不向き!
最も理に適っている敵と闘う戦闘スタイルが、敵との距離を取りつつ、罠を張り、術を駆使して敵の隙を潰し!逃げ道を封じ!敵の思い通りにさせないこと!

封殺こそ我が王道!!手のひらで踊らせて徹底的に思惑通りに動かして、敵の思考を雁字搦めにして選択肢を絞らせ!その先に罠を仕掛ける!後手のときはこれしか私は勝ち筋を知らない!ってくらい、必勝パターン!

そんなわけで、折角善意で用意された有名な意匠が創った鎧はちょっと…重すぎるんだよね。
それにさ、歩くたびにそこそこ音が出る甲冑は今の状況で選択できない!今の状況化にあっていない!私が歩く音で皆が起きてきてしまう…
夜中に全身甲冑を着て歩いて出向く姿を誰かに見られたら緊急事態って思われて全員を叩き起こしてしまいかねない。

対人戦であれば、私一人でどうにかなる、対人戦に置いて私以上の存在はいないからね…人殺しは私だけで充分だよ…

そんなわけで、対獣戦を想定した甲冑よりも鎖帷子の方がいい、そりゃぁ、多少、音は出るけど、甲冑ほどじゃないからね。
それにね、鎖帷子のその上に服を着ることで多少は音が軽減される。

耳が良い敵だとすれば直ぐに見つかってしまって意味はなさないが、不意打ちの一撃くらいは防いでくれるのでないよりかはマシ!

戦闘準備も終わって、外に出ようとドアノブを握るのだが、何も対策が思い浮かんでいないのにこのまま、部屋を出てもいいのか、二の足を踏む様に悩んでしまう。
この状態で外に出るのは危険だし、もう少し考えた方が良い気がして部屋の中央に戻り、腕を組みながら頭に浮かんだワード『柳』が何を意味するのか考える。
何を思ったか、机の上に置いてある紙にやなぎと書いて眺め始める、書くことによって掴めることもある気がして。

やなぎ…ヤナギ…やなぎ?…反対読みすると…ぎなや?ギナヤ!?

もしかして、言葉が逆に伝わった?ギナヤという言葉には覚えがある…ユキさんだ…
ギナヤは一応、王家の血筋、偉大なる戦士長の一人息子であるユキさんが絡んでいる?

もしかして…ギナヤというワードから連想され、想像してしまった内容に血の気が引く…今、彼が敵の先兵に殺されると街の人達の感情が昂り暴挙に出る可能性がある!?

あの空間に沸いた敵とユキさんがかち合って戦闘、はじめ、ちゃったってことじゃない!?だとすれば急いで向かわないと!新兵に…敵との戦闘経験が無い人に闘わせるなんて無謀もいいところじゃん!

この街にやってきた仲間を守るためにも、急いで、されど、慌てず、ドアを静かに開けて静かに閉めて、特異空間に向けて足音を少しでも消す為に裸足で駆け出す。

最近は運動をさぼっていたわけじゃないけれど、鎖帷子を着て走るのは辛い!でも、急がないと!!



索敵が反応しない広場の近くに迄、到着し、姿勢を低くして様子を伺っているのだが…気配がしないのは、どういうことだろうか?
広場には誰かが居るのは何となく物音がするから、誰かいるのだろうなって感じはする、未来からの情報を受け取った私の推測が正しければユキさんが広場に居るのだろうが…

その他の気配を感じない?足音は一人だけ?争っている様な激しい音はしない?敵はどこ?
…そもそも、門がある始祖様が生み出してくれた壁には見張り台がついているので常に24時間警戒を解くことはない。

どうやってこの街に入ることが出来る?出来るわけがないよね?…

いや、完全否定は良くない、可能性はゼロじゃない、出来ないわけじゃない。
過去の記録では空から鳥型タイプがくちばしを尖らせて一撃必殺で人に向かって落ちてきたことはある、今もたまにあるので空の警戒を緩めたことはない、無いけれど、今日のような新月だと黒いタイプの鳥だったら見逃してしまったことは多々ある。

そうなるとやっぱり、空?

空からなら幾度となく侵入されているってことは、考えられるのは鳥が持てるサイズ?この術式を展開しているのは誰?…
小型?鳥型が運べるタイプの小型魔道具を装備させた魔石を搭載したネズミタイプの敵でも投下させて私達の知らない技術…例えば、転移術式を使って侵入してくるとか?
その下準備として、邪魔されない様に敵に気取られない様に特殊な空間を生み出した?その影響で予想外にも、私特製の索敵術式を弾いてしまった?

思い浮かんだ可能性は否定できない、それに、今も目の前にある広場には干渉できない何かしらの術式空間が出来上がっているという事実がある。

そして、その中にはユキさんがいる…この状況下で思い浮かぶのは勇気を出して飛び込むこと…
虎穴に入らずんば虎子を得ずっという言葉を聞いたことがある。きっと、今がその時なのだろうか?

ユキさんが既に敵と接敵していて、孤軍奮闘しているのだったら迷わず突っ込むのだが…
大きな音がしない、争っている様な音がしないという現状、つまりは今は、誰とも戦っていないっということになる、可能性としてこの空間に気が付く人物。つまりは、私を誘い出す罠のような気がするのだが…

しゃがんだ状態で考え込み、どの選択肢が最も有効打となりえるのか決め切れない中、広場で地面を踏む音が耳に届いたので敵が動いたのか、ユキさんがどの様な状態になっているのか確認するために、直ぐに視線を前にむけ…ると…



目が合った…視線が交差した…



新月なのに、月の光に包まれている様な、不思議な感覚と共に、その瞳が視界に入り線で繋がった様な気がすると同時に胸がドクンっと高く跳ねたような気がした。

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