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Dead End ユUキ・サクラ (10)

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地下の研究所に降りて、直ぐにソファーに座る。
あの程度の距離歩くだけで、疲れてしまう。

ううん、違う。心が疲弊したんだ。人と話すのは楽しい、でも、疲れる。
楽しいは消費、消費は楽しい、消費するという事は何かをすり減らしている。
全ての原則に従っている。人は消費することでしか生きていけない、何かを産み出す過程で何かを消費している。
この原則を越えた理が奇跡と私は呼んでいる。

いま研究している内容なんて正に奇跡そのもの。

何も消費していないわけじゃない、構成する成分を他から取り出して、変質させて法則性を持たせて組み上げている。
ただ…変化させる過程で消費している部分が少なすぎるのが納得できない。AからBへと物質を変化させた際に必ずと言っていい程、何かしらの要素が必要となってくる。
その要素が少なすぎる…もっとわかりやすくいうと、Aというコップに満タンの水を入れてBというコップに移し替える時に、絶対に零れてしまう。
この要素は絶対的とする。なのに…これは、培養液で培養するとき、その絶対的な要素の法則性が狂っている。

規則性が無い、常に10%ロスするのであれば、後に10%を補填すればよい。
だが、どうしてかわからないが、毎回ロスする部分が変動する。

つまるところ、毎回同じものが生み出せている様で完全に別物だったりするってこと、培養した物質の成分を一定水準にする為に必要な時間が毎回違う、つまり、ムラがでる。
その水準の幅を一定の範囲にしないといけない、一定の範囲にすれば、わざわざ出来上がってからチェックをするっと言う手間が省ける。
そうすれば、培養してからの実用段階へ移行する際の時間を節約することが出来る…っが、それが出来ていないんだよなぁ・・・

逸話の聖女は、失われた臓器を、四肢を、触媒なく再生させたと言われている。
つまり、何も情報が無い状態で最も正しい状態を知り四肢や臓器を精製したことになる。

ありえるの、それって?できるの?…奇跡を体現する技術によってっか…っへ、大それた名文句だ、こーと!!っはぁ、まだまだ先が…ゴールが遠い。
その遠い果てしなき道の為に…私は…私の人生は、牢獄へと封じ込まれてしまった。冷たい冷たい…大地の中にね。

地下室にある、おびただしい数の肉片が液体の中…人ひとりくらいすっぽりとはいる試験管に浮かんでいる。
そして、その先には…私をここから出させないために用意した鎖がある…

明日…私はもう二度と地上へ出ることが出来なくなる。
もう、地上に出なくてもいいのか?やり残したことは無いのか?

そんな声が聞こえてくる、っは、っと冷たく突き放す様に鼻で笑ってしまう。
やり残したことなんて山ほど、数えきれないほどある、それを経ったの一日でどうこうできるものじゃない。
聞くだけ無駄、寧ろ聞くんじゃない、腹が立つ…叶わない願いを目の前にぶらさげんじゃねぇ、届かない願い程、苦しいモノはない。

目の前にある魔道具共をほーりーばーすとで消し炭にしてやりたいと何度願った事か…

だけど、するわけにはいかない、それをしたところで、次の私が、次の次の私が牢獄へと繋がれるだけだ。
そんな無駄なこと、二度もすることない、一度でいい、効率的に生きろ。犠牲は一人でいい。

ぺたぺたと鎖が置かれている場所へ向かう。
大きな陣の中央に置かれている水槽、そのすぐ隣に鎖が無造作に置かれている、ううん、片付けるのが面倒だからそのままにしてある。
床に落ちているのを手に取って、持ち上げてみる…重たい、はぁ、この重みがこれから一生背中に突き刺さるのかぁ…背筋伸ばせなくなっちゃうよね。
まぁ、いいか、どうせ、私の命なんて…たぶん、あと1年持ったらいい方だと思っていたし…あと一年…あと経ったの一年の苦しみ、別にいいよ。

別に…

みみのおくで ザザーンっと なみのおとが きこえた ようなきがした。

生きたかったな、最後くらい、お母さんと一緒に、遊びに行きたかったな。
あの海でしかとれないって噂の珍味も食べてみたかったなぁ。
ユキさんとさ、勇気くんとさ、マリンさんとさ、カジカさんもついでに連れて行ってさ、ぁ、メイドちゃんもいないと、ね。後で滅茶苦茶文句いいそうだもんね。

皆と一緒に、海で…最後を迎えたかったなぁ…

地面に小さな染みを作り乍ら、天を見上げる、天は無機質だ、私を閉じ込める籠だ、地を見つめる、冷たくて無機質だ…私の全てを吸い取って蒸発させこの世界から私を消し去る竈だ…

…さみしいなぁ…







「ってな感じ!…どう?手順は飲み込めた?」
「…ぁぁ、だが…」
物凄く険しい顔、きっと技術的にできない云々じゃない、その後の事で心が揺らいでいるのだろう。
忘れていた、勇気くんには具体的にどうなるのか説明していなかった。てっきり、魂の同調で全てを把握していて理解してくれていると思っていた。
「わからないこと、ある?不安なこととか」
だが、私はそのことについて触れるつもりはない、聞くつもりもない。
「だが…」
勇気くんもそれに踏み込んでは、口に出してはいけないのだと感じているのだろう、表情が物語っている、何を言っても無駄なのだろうかと。
説得する事なんて出来ないよ、私の覚悟は決まっている、私は孤独に死ぬ。

犠牲になる覚悟はできている、ある意味、生贄だよね、奇跡を産み出す代償としてのね。

「もう一度、聞くよ?できるの?できないの?できるよね?当然。」
問い詰めるように、圧を込める。
悲しそうな表情、眉の八の字にして口角は震える様に下がっている、目の奥は真っ黒…
勇気くんは優しいよね、残酷なものが何かよくわかっている。

私の為に、憂いてくれているそれだけで十分だよ。

「最後に聞くよ?できる?できない?」
できないのなら…私一人でやる、成功確率は10%もないけどね。
「ああ!やるさ!やってみせるさ!だが!君を絶対に独りなんてさせない!絶対にだ!!!」
涙目、だけど、決意は漲っているのが伝わってくる。うん、それでこそ、残滓共が認めたパートナーだ。

「いこう、全ては…私の未来の為に」「ああ、俺たちの未来の為に」
踏み込んだ一歩目が力強く、全ての不条理を踏みしめるような音のように聞こえた。


水槽の中に液体を満たしていく。
私の体がしっかりと浸かる程に液体を満たす、手の甲に点滴用の針を刺す。前腕に輸血用の針を刺す。針とチューブを繋ぐ。
チューブから逆流していないのを確認し、液体が体内に入ってくる独特の感覚がくる。
上半身の服を脱いで、指定する箇所に麻酔液が入っている注射を打ち込んでもらう。
喉の奥に麻酔液を流し込む、飲まないように気を付け、一定の時間が経過したら吐き出す。
もしもに備えての呼吸器を取り付け、固定する。

こうなると、声を出すことはできないのだが、問題はない。
『聞こえるな?』
うん、聞こえてるよ、ちゃんとノック出来ていて偉いね、お父さん
『茶化すな、まったく、緊張をほぐす為か?…それについては俺の方は問題ない、命を賭けた戦いは一度や二度じゃない』
うん、私もだよ、失ってばっかりだけど、負けてばっかりだけど…これくらいの修羅場、幾度となく乗り越えているから、緊張なんてしていない。
『こちらは何時でも構わない』
うん、それじゃ、配線を陣に繋いで、急ぎ足だけれど、昨日までに全ての調整は終わらせてある、補助魔力源もある。
配線を繋げが自動で陣が起動する。後は…
『俺の集中力が全てってとこだな』
うん、麻酔の影響で私の意識が途絶えたとしても、浸透水式を中断しないで、失敗したかもしれないって思っていても最後までやり遂げて。
心臓が停止していたら念動力で心臓を優しく動かして、トラブルについての対処方法は
『ああ、ぶっつけ本番だが頭には叩き込まれているし、ユキも覚えてくれている、俺がミスをしたかどうか常にユキがチェックをしてくれている』
…一人だと思っていたら、二人体制だった、喜ばしい事だよね…ああ、そっか、成程、いまになってわかった。
勇気くんの適性が高いのは、二人の魂があるから、浸透水式の中に意識を溶け込まされないようにもう片方が命綱の役割をしていたり、補助してくれているからなんだね。

そっか、疑問が解けてちょっと嬉しい、そっかそっか、二人がかりだからか、そりゃぁ、独りで制御している私よりも上手だよねーはっはー。

『自尊心は満たされたか?』
ああ、はいはい!満たされましたー…うん、この辺りでいいかな、麻酔が完全に効いてきている。
やっぱり、色々と薬の効き方にムラが出来る、凡その箇所っていうのが、曖昧過ぎたかな?この辺りはお母さんじゃないから仕方がない。
『すまない、気が付かなかった、己の事ばかり考えていたよ、そうか、麻酔の効きが完全では無かったのだな』
痛みを感じることは無いと思うんだけど、念のためにね、痛いの嫌いだもん
全ての服を脱ぎ、水槽の中に体をつけ後頭部を水槽にもたれるように乗せる。
冷たいと感じる間も無く、体の感覚がどんどん希薄になっていく、冷たいのも感じない、肌が水にぬれているっと言う感覚もなくなる。

全ての感覚が鈍磨していく…やっべ、意識があいまいになってきている。
麻酔の量を間違えたのかもしれない…残滓共に声を掛ける、いざという時はたのんだと。

『繋がった、意識は水の中、会話はユキを通す、ユキ!頼んだぞ!』
『う、うん!が、頑張る!!』



ぼんやりと・・・する・・・

『肝臓、うん、肝臓到着したよ!』




いしきが・・・あいまいだ・・・

『えっと、うん!血管と神経の座標と、侵入経路を考えて、ぇ?けいさん?ぇ、したことないよ!?ぇ、しんにゅうかくど?なにそれ?』






あ、だめだ・・・しんとうみずしきに・・・

『ま、まって!?わかんない、そんなの急に言われてもわかんないって!ぇ?どこの神経を何処に寄せればいいのって?わ、わかんな』







いしきが・・・すわれる・・・そっか・・・わたしも・・・とけこんでいくんだ・・・しっぱいした・・・いじったかしょを・・・
まちがえた・・・ほご、じゅつしきを・・・

『まって、経路、経路計算、えっと、数式ってどれ?それってなに?何をどう計算するの?掛け算しかわかんない!!』









きど・・・う・・・だめ・・・じがが・・・たもてな・・・






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