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過去を知る、今代の記憶を知る、次の一手を探す為に④

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「なーんてね、貴女が選んだ人だもの、長年の教育、その結果でしょ~?いいわねー、私も侍女の…いや、いらないわね、彼女達が傍に居るだけで心が持たないわ~自由に晩酌できないのなんてつまんな~い」
はぁ~やだやだっと椅子から立ち上がり、紅茶淹れなおすわね~っと、カップ片手に部屋の隅にある小さな炊事場に向かっていく。
その後ろ姿は何年経ってもお母さんっと言うよりも近所のお姉さんって感じがする、ただ、掴みどころが無さ過ぎるんだよね、隙が無い?って感じかな?
…お酒を飲むと隙だらけで本能のままに動くけどな!

そんな掴むことのできない彼女は風のよう…風のように自由。

自由だな~、この人は…そういうところ、嫌いじゃないけど、ちょっと苦手、手玉にとれそうにないんだもん。
彼女を手玉に取るには自由を奪わない限り無理、風を一か所に留める為には何か強固な理由がいるってね。酒の一本でもあれば可能なところが問題だけど~、つってね。

うん、お陰様で彼女と話をしていて記憶の蓋が盛大に開いてくれた、今代の彼女がどういう生活を過ごしてきたのか…
団長や、お母さん、それだけじゃない街中の人達と色んな話しをしてくれたのを思い出せた。恋物語を聞くのが趣味っぽかったのはきっと、私のせいだろうなぁ…

今代の私は…信じられないくらい穏やかな日々を過ごしていた。
殺意を抱く事も無く
殺気を向ける事も無く
死の大地と関わらないように過ごしてきている

全ての時代の私が望んだ平和な日々を過ごしていた。
その記憶だけで救われる様な、全ての時代の私が報われたような気がする。

嗚呼、だから、今代の私は20歳という壁を越え、長く、永く、生きることが出来たのかもしれない。

己の限界を超える思考速度を得る為に様々なモノに過度なストレスを生んでしまう思考超加速
研究の為に、復讐の為、願いの為…昼夜問わず寝る事すら惜しんでの実験
死の大地から時折来る死の気配というプレッシャーというストレス
それらと無縁の生活を送り、団長やお母さんから魔力を満たしてもらい、健康的な食事に生活、それらが私の体を生かし明日を歩めるほどに生命力を与えてくれたのだろう。

パタパタと地面を撥ねる音に視線を向けると給仕係のようにお淑やかに歩いてい来る姿が見える。
「はい、貴女の分、置いて置くわよ~…何か忘れてる気がするわね~」
カップを手に持ちながら優雅に椅子へ座り、ふーふ~っと音を出しながら口先をか細く窄め、窄められた息をカップに向けて吹きかけている。
カップに注がれた黒に近い茶の湖、その水面を幾度も揺らしてから水面に鼻を近づけ、はぁっと幸せの香りを口から漏らし、その表情は何とも言えない憂いを帯びた表情で紅茶の全てを堪能している。

この姿だけを見れば、木漏れ日の中で気品あふれる貴族の令嬢

…でも、私は、今代の私の中にある記憶では、彼女の酒乱を何度も見たり聞いたりしているので、そのギャップに笑ってしまいそうになってしまう。
笑ってしまいそうになるのを堪えていると視線が重なり小さく笑みを浮かべ
「ふふ、私だって紅茶を楽しむ素養くらい持ち合わせていましてよ?うふふ」
カップに口をつけながら視線が外れることが無い、つまるところ…睨まれてしまっている。長い付き合いだからこそ失礼なことを考えているってことが読まれてしまった。誤魔化しても無駄だけど誤魔化さないとね~。
「何も言ってないけどな~」
「目が物語っていましてよ~?うふふ」
きゅっと腕をつままれて軽く捻られてしまう。といっても上腕三頭筋付近を引っ張る程度なので痛くはない。
「あ、思い出したわ~!」
カップをテーブルの上に置いたと思ったら、そっと前腕を持ち上げられ手のひらを包むように両手が添えられ、魔力が流れ込んでくる。
彼女が行う魔力譲渡法を比べるといけないけれど、比べると、お母さんほど卓越した技術でもなければ、団長のような独特の注がれて幸せを感じる事も無い。
丁寧に慈悲深く、医療人としての心、医療の一環として私の事を助けたいという純粋な願いが体の中を巡っていく。

優しく丁寧に流し込まれていく魔力を感じ、彼女の心に幾ばくかの間、寄り添うように触れていると

「んん!これで限界!足りましたか?姫様」
額から大量の汗を流し、慌ててポケットからハンカチを取り出して額にあて汗を拭っている。
この姿を見て思うところがある、お母さんや団長が如何に特別な才能を持ち合わせているのかが、わかって、わか、そ、ぅ、そうだった。うん、彼女たちが何に秀でているのか、わたしは、私は調べてある。

時折、開く記憶の扉に翻弄されることなく…
私を満たしてくれる彼女にお礼を伝えないと。
「うん、ありがとう」
笑顔で返事を返すと彼女の口から、はぁっと小さな溜息が零れていく。
私は何か失言をしたのだろうか?少しだけ不安を感じていると
「やはり、私では足りませんか、自覚はしています、私では稀有なる才能を持ち合わせていないっとね。」
その言葉によって、直ぐに思い出すように理解する、私の体もまた稀有な才能として、魔力を保有する能力に秀でているという事を。
私の全てに魔力を満たしきるのはお母さんでも難しい、可能とすれば■■■くん、くらいだと思う。
彼らのような稀有な血筋でも無ければ、出来ることが無い、彼女に才能がない何て、思って欲しくない。
そんなことないっと繋がれた彼女の手を握ると
「感覚で伝わってきてますよ?幾度となく貴女に魔力を提供するために注がさせてもらっていますけれど…姫様からは感じたことが一度足りとてないの。他の方に魔力を譲渡したときみたいに、これ以上は注いではいけないっていう感覚が伝わってきたことが無いのです」
はぁ、っとため息をついてから、一瞬だけ力強く手を握られてからゆっくりと私の膝上に戻すように離される。
「はぁ~あっと、な~んてね、って、姫様なら言うのよね~」
口元に手を当てて、うふふっと小さな笑みを浮かべている。
その笑顔が儚く脆いイメージが伝わってきてしまう。
この人も、基本的に綺麗で淑女として磨かれた人なんだけど、お母さんと一緒で浮いた話はあまり聞かないんだよね。
壊れないように誰かが傍で支えてあげてくれると嬉しいんだけどなぁ…お酒以外で。
つい、そんな彼女の表情つられ感情を表に出してしまったのか、首を横に振られ。
「いいのよ、私だって憧れたりもしたわ、彼女の背中を見てこの街に流れ着いてきた一人だもの。私もね、No2と一緒、何も才能が無くて、何も秀でてたことが無くて、側室として生きる道も…でも、彼女が此方に、目的を持って進む道を見て、私も…彼女みたいに強い瞳を持てるのじゃないかって願って…来たのはいいんだけど、彼女みたいな身を焦がすほどの恋に出会えなかったのよね~まったく、体だけの付き合いばっかりよ~」
さらっと、突っ込みにくいワードをぶち込まれても反応に困るっての!
太ももの上に置かされた手を上げては下げを繰り返していると
「おっと、うっかり、ついついNo2と話すみたいに大人の諸事情を語ってしまったかしら~んん~?」
口元を隠すように指先を当て、空いた片方の指先を私に向け
二の腕に指が刺してから手首を捻る様にして突き刺した指を回転させてくる
ふーん?挑発してくんじゃん?
「ふっふ~ん、べっつにー?大人の諸事情なら、私だって経験あるしー?べっつにー?」
そして、普段ならその程度の挑発に反応することなく流すのに、どうしてか、思ってしまったことが喉を通り過ぎ音として顕現してしまう。
「なんだと?…そのこと、No2は?知っているの?」
やばいと感じ直ぐに視線を外すと
「っふふ、虚勢ってことね、まったく驚かせないでほしいわ~、貴女の心を射止めれる様な男性が居たら国が傾くもの」
いや、傾かないでしょ?どういう意味?私が見初めた相手は王にでも成るっていうの?
視線を彼女に向けたいが視線一つで感情を読み取られてしまいそうなので向けれない!
「ちょっと、安心しちゃったような、残念なような、いけないわねー貴女はもうとっくの昔にレディ、何時までも子供扱いしてはいけないのよね…でも」
そっと頬に手が添えられたので、視線を彼女に向けると、真っすぐに見つめられる。
その視線を私は知っている、多くの視線を受け止めてきたから、知っている。
その視線は、母の視線、慈愛に満ちた母性を感じる。
「いつか、離れていくのよね」
そっと、優しく頬を撫でられ離れていく彼女から伝わってくる感情
彼女もまた、色んな人が離れて行ったのだろう、寂しく切ない感情が指先から伝わってきて離れていく…

椅子から立ち上がり部屋から出ていく彼女に、何て声を掛けたらよいのか、私では…わからなかった。

部屋に独りでいると、自然と思い返し、不可思議な違和感にどうしたらいいのか、悩んでしまう。

この体になってから、色々と違和感が続く。
一言で言えば短絡的、貶すように言えば配慮が足りない。
相手の事を考えて動く、私らしからぬ、浅慮な言葉が漏れ出たりする。
もしかしたら…ううん、そういうのが必要ないと判断して、きっと、今代の私がそういう生き方を選んできたのだろう、きっと、それに釣られている。

だとすれば、今後も彼女の記憶が私の中で目覚めて行けば、今代の私と過去を生きた私達が一つへと結合し統合されていくのかもしれない。

それはそれで、何も恐れることは無い。
どんな道を歩もうが私は、私…道を踏み外すような外道にはならない。

ベッドで横になって無意味に時を過ごすのではなく、今できる事をする。
目を閉じ、受け取った魔力を圧縮していく…

圧縮していく過程で、何となく気が付いていたけれど、目を背けていた違和感が色濃く浮き上がっていく…

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