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おまけ 姦しい奥様達 ⑤

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「「誰!?」」
二人同時に上半身を起こし女将を覗き込むと両手で頭を押さえて、大きな指の隙間から見えた表情は眉間に大きな皺を作っていた。
もしかしなくても、悩んでいる?
「でも、あれは、夢、なんだよ、なぁ?」
夢?…夢だったら、違うでしょうに、まったく、ひとさわが…

一笑してやろうかと思ったが、その行いは間違いであると恋の伝道師が囁く。
そうよ、私は、女将から相談されていた、不可思議な夢について。

まさか、夢、内容的に、そうよ、そうじゃない!!
女将のやつ、姫ちゃんの悲惨な記憶が夢となって出てきてるって相談してきていたじゃない!!
だとしたら!姫ちゃんが取り乱すほどに好きだった人物を見ている可能性があるじゃないの!!
どうして気が付かなかったのかしら!?

「だ、としてもよぉ…その人は、そいつは…いねぇよ、あたいの記憶の中でその人と今この、街にいる人は違い、すぎる。完全に別人、なんだよ、あれは、いったい、だれ、なんだい?」
別人?どういうことかしら?その口ぶりだとすれば同一人物がこの街にいるってことになるわよ?
この街に別人のような、内なる人格を秘めたものがいるってこと?
「なぁ、わたしが知らないだけで戦士長のところに子供が二人いるってことはない、かい?」
乙女ちゃんの方に視線を向けると首を横にふる。っとなれば、隠し子の類はいない、わよね?
あの騎士様が奥様の誓いを破って子を生すなんてこと、あるとすれば王からの命令って筋が考えられたけれど、乙女ちゃんが首を振るということは、そういった王命を課せられていない
だとしたら、騎士様は誓いを守り通していることになる。
「いいえ、私も知る限りでは一人だけ、団長…ユキ、だけよ?」
「ユキ、そうさ、そうなんだよ、名前が似てるんだよ。なぁ?ユウキって名前の、女性じゃなく男性…しら、ないかい?誰でもいいさ、珍しい名前だからユウキって名前に心当たりは無いかい?」
ユウキ?この国では珍しい名前ね、残念ながら聞き覚えがないわ。
乙女ちゃんの方へ視線を向けると彼女も知らないのだと小さく首を横に振って伝えてくれる。
「いいえ、知らないわね。誰かと間違えていなくて?」
「間違えるわけがねぇんだ…ねぇんだよ、だって、黒髪にあの雰囲気、あたいらが、戦士長の背中を追いかけていた弟子である、あたいらがずっと求めていた、憧れていた…あの雰囲気を間違うわけがねぇんだ、あの姿こそ、あたいらが夢をみ理想とした戦士長なんだよ、あれこそ、あれこそが戦士長の息子、だって…」
女将がそういうのであれば、ユウキという名の騎士様の血筋がこの街に来ていたことになる。
考えられるのは…普通に考えれば騎士様の一族の誰かが王都での名を捨てユウキと名乗ってこの街に来ていた可能性が一番高い、でも…その可能性は無い、そうはっきりと言えてしまう程に、私は、彼ら一族が特別であると知っている。
「ユキ、とは、違うの?今の団長とは?」
「違うさぁね、全くの別人だってわかる、纏っている雰囲気も違う、佇まいが違い過ぎるさぁね。それに、団長には独特の甘い香りがするさぁね、子供のような、純粋な、香りがする、傍に居ると守ってやらねぇなっていう母親としての心が、動くんだよ」
女将が何を言いたいのか私にはわかる、彼女と共に過ごした時間が長い私も同じ感覚を何度も感じていた。何故か知らないけれどあの子には母性本能が擽られてしまう。
時折見せる子供のような無邪気な部分がそうさせているのだと思っていたけれど、何か魔眼以外にも、あるのかもしれないわね。
「でもよ、あたいが夢の中で見た、ユキはまったくもって違う香りがするんさぁね。彼には…ユウキには戦士長のような安心感が、女性として心惹かれてしまいそうな、そんな香りがするんだよ」
女将の心を揺れ動かすほどの強者、騎士様の血筋以外に有り得ない。
騎士様の血筋は…王家が管理している、王都から出るのは不可能なのよ、騎士様は例外中の例外、お義父様が無理を言って彼を自由にしてあげたのよ、本来であればお義父様の後任として最も相応しいと言われていた騎士様が、王家から離れ自由になるなんて出来るわけがなかった。

お義父様が昔話の流れで語ってくれたのよ、騎士様を自由にする為に、色々と押し付けられたと…

内容は、意にそぐわぬ暗殺をさせられたり、引退した後もこきつかわれたりと望まぬ仕事を押し付けられていた。
本来であれば王が変われば筆頭騎士っという立場も退き引退する、だけど、引退してからも次の王が求めるのであれば命令に従わないといけない、など、騎士様の為に様々な条件を飲んでくれていた、本当は誰にも語ってはいけないことを、語ってくれたのよね。

そんな例外を何度も許す王家ではない。

だとしたら、騎士様の隠し子がしっくりくるのかもしれない、でも、彼が、私の愛に応えるのですら葛藤し続けてきた彼が、奥様との約束を本家から離れているのに破るとは思えれない。

それか、年齢が近しい子供が、いた?

いいえ、それはあり得ないわ、だって何度も何度も相談されたじゃない…
愛する騎士様が悩んでいたじゃない、次の子供が出来ないという相談を受けていたじゃないの。
だから、彼と奥様の間に子供はただ一人、ユキ…医療班団長ただ一人よ。

仮に、姫ちゃんなら…スピカのように?いいえ、それは出来ないじゃない。
姫ちゃんがこの街に来たのは騎士様が亡くなってからよ?
来て直ぐに行動を起こしたとしても年齢が…だとすれば、まずは確認ね。

「ユウキっという人は何歳くらいなの?出来れば詳細を教えて欲しいのだけど?」
「あたいの、夢だっていうのに、聞いてくれるのかい?」
この部分だけを切り取ってしまえば、ありえない与太話って思うでしょうね。
この街に、いいえ、普通の人であれば全員がそう思うでしょう。
でも、私は違う、他の人とは違う、あり得ない経験を山ほど積んできている。
内なる私が奥底で頷いている様な気がする、貴女も気になるのね。
「そんなの気にしなくていいのよ。話して、誰がなんと言おうと…私は信じるわよ、貴女が見てきた世界が夢幻じゃないって」
その一言に顔を覆いつくす大きな両腕が指先が震え始めていく。
「すま、ねぇ、手を握ってくれないかい?」
頭から離された大きな手を掴み両手で支えると、怯える様に小さく震えている。
粉砕姫と言われた貴女でも死の経験なんておいそれと思い出せるものじゃないのだと震えが物語っている。

思い出すのが苦痛なのはわかるわよ、誰が好き好んで自分が死んだ世界を思い出したいわけないじゃない。
出来る事ならね、実体験としか、現実味が強い悪夢なんて忘れたいわよ…

悪夢を呼び起こす為に何度も何度も深呼吸を繰り返している女将の腕を握り続けていると、かすれた声が聞こえてくる。
「身長は、170?180近くあるさぁね、細身だけど、見た目と違ってよ、あの鍛え抜かれているカジカよりも力が強くてよ、驚いたことにさ、持ち上げた時、重く感じたさぁね、年齢は、すまねぇがわからねぇ…若いっとしか、でも、雰囲気がよぉ、卓越した…壮大な人生を歩んできた、親父みてぇな感じが漂っていたさぁ…」
教えてくれる、でも。
身長は…団長とわずかに違うわね、あの子は確か…
こういった些細な記憶を思い出すのって眉間に皺を寄せてしまう。
確か、数年前の身体検査で165センチだったのを見た記憶があるわね。
眉間に皺を作った甲斐があるってものね、体重も思い出せたわ。
重さ…彼女は自身の体重が1キロでも増えたら盛大に溜息を吐き捨てて泣きそうな顔をしていたじゃないの、重さに対して敏感であると覚えているわ。
前々から身体検査で体重測定だけ憂鬱そうだったのも、彼女が女性の心だからって理由を裏付けているのよね。
私は姫ちゃんが気がつかせてくれたから直ぐに、そういう人なのだと知ることが出来たけれど、そういう細かな部分によって、この街に住む多くの人が彼女が男性ではなく女性なのだと見解を深めて行った結果…
自身がいる大浴場で思い出してしまう、悲しい男の性としての相談を大変一杯、寄せられていたことを。
団長が男性の大浴場に来ないで欲しいっという相談を大量に頂いたわね~、後ろ姿が魅力あふれる女性すぎて意識を逸らすのが大変だってという相談をね。
彼女がカミングアウトする迄は皆で見守りましょうっと姫ちゃんと共に決めたから、彼女がカミングアウトするまでの間、多くの人達が眠れない夜を過ごしたでしょうね。

そう、彼女は信念をもってこの街にきた、多くの希望と野望と、復讐心を持って。
その彼女がもしかしたら、完全に男として生きると決心したのではなかろうか?
「ねぇ、貴女が見た夢の中に…あの子は、団長は…ユキは、いるの?」
「・・・ぇ?・・・あれ?いた、ような、いなかった、ような…いや、最後、首のなげぇ、鼻のなげぇ、牙のなげぇやつもいた、そんな獣達と引くに引けねぇ状況で闘い、死んぢまった、そこでは、あたいは、ユキのやつに…あってないさぁね、そのとき、団長ってのは、そうさ、あんた、が、団長だったさぁね」

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