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容疑者は人間なんかじゃない!
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『容疑者は人間なんかじゃない! 』
取調室。
「お前がやったんだろ? 白状しやがれ」
刑事が二人。ベテラン刑事は鬼の形相で自白を迫りもう一人が取りなす。
飴と鞭の良いコンビネーションだ。
「刑事さん無理がありますよ。被害者はぐちゃぐちゃなんでしょう? 」
「それがどうした? この殺人鬼が」
「僕にはそんな力ありません。いえ人間には不可能なんですよこの犯行は」
犯人と決めつけ話をまともに聞かない。これでは事件は解決しない。
「そうですね。申し訳ありません。では念のため社会保障番号をお見せください」
選手交代。若い刑事が話を聞く。
「あなたはマスコミの方? 」
「いえ。フリーのルポライターです。本社は東京にあります」
「そうですか。ではあくまで犯人ではないと? 」
「信じてくださいよ刑事さん。僕はただ偶然居合わせただけなんです」
「しかし現場には…… 」
「他にも容疑者が居たでしょう? 」
僕は知っている。怪しいのが四体。
事件の詳細はこうだ。
ぐちゃぐちゃな遺体。顔の判別も出来ない。全身バラバラ。
凄惨な現場。そこにはお掃除ロボットのクリンクリン。
配達ロボのデリー。ホームメイカーのライク。そして番犬ロボのバウロー。
どう考えても奴らの方が怪しい。
「刑事さん。誤作動や故障に暴走など考えられないんですか? 」
「うるせい。殺人事件なんだよ。だったら犯人は人間だろ? 」
ベテラン刑事が我慢できずに割り込む。
「しかし例えば事故。お掃除ロボが暴走して家主をきれいにしたとか? 」
「馬鹿かお前? 」
刑事はもうそれしか言わなくなった。
ならばこちらも無視して黙る。
「ほお黙秘か? いい度胸じゃねえか。お掃除ロボットが家主を殺害するか? 」
「だってそうとしか」
「分かった。そうだと仮定しよう。だがいくらかかると思ってるんだ? 」
刑事は回収費用と補償費用が莫大になると迫る。
だがそんなことは関係ない。なぜこうもやる気がないのだろう?
「でしたらライク。日頃からのモラハラが凶行に走らせたとか? 」
全身が血まみれで明らかに怪しい。
「ははは…… 製造元に問い合わせてみたが日本語も英語も通じやしない。
骨が折れるんだわ。それに比べてお前は自供してもらえば即逮捕だ」
「それでは誤認逮捕。しかも分かっていながらとはより悪質」
そんな脅し通用しない。ふざけるのもいい加減にしろ。
「お前がやったんだろ? そろそろ認めたらどうだ? 」
「でしたら配達ロボのデリー」
偶然居合わせたのは不自然過ぎる。何か知ってるはず。
「デリーを尋問してください」
「いやそれは無理だ。デリーは『ヘイお待ち』と『毎度』としか答えない。
いかれちまっているのさ。だから供述を取るのは不可能。
大体奴の会社は世界的大企業。もしトラブルが発覚すれば株価は大暴落。
相手弁護団は手強い。訴えられたらとてもじゃないがクビでは済まない。
その点お前は国選弁護人だろ? なあ認めちまいな。楽になるぞ」
くそ。どこまで馬鹿にする気だ。
「だったら番犬ロボ。彼が噛みついたのでは? 飼い犬に噛まれると言うでしょう。
それに惨劇が起きたのは番犬が機能してない証拠」
「うーん。だがこの番犬ロボは人間国宝が作ったもの。
だから間違いはない。間違いはないんだ」
説得されそうになってしまう。
「しかし人間国宝にも間違いはあるでしょう? 」
「ある訳ない。いやあっては困る。もっと言うとあったとは口が裂けても言えない」
「そんな馬鹿な」
刑事が睨む。僕も負けじと見つめる。睨み合う形に。
「ふう…… なあ認めちまいなとは言わない。ただ補償はするぜ」
「犯人を野放しにする気ですか? 」
「お前。上級国民か? 」
「さあただのルポライターです」
「お大臣の息子か? 」
首を振る。
「お前の親父増税したことは? メガネか? 」
「いいえ」
「御曹司か? 」
「まさか」
「だったら大人しく認めるんだな。相手ロボットが悪かった」
「そんな。冗談でしょう? 」
ここまで腐っているとは思わなかった。もう信じられない。
トントン
トントン
もう一人刑事がやって来て耳打ちをしてる。
まさか僕の正体がばれた?
「失礼しました。あなたも人が悪い。そうならそうと最初から言えばいいのに。
いえ気を悪くなさらないで。それから今までの数々の無礼をお許しください」
ベテラン刑事の気持ち悪い程の手のひら返し。
さすがは組織の者。大人の対応を心得てる。
「まさか…… 」
「はい警視総監の弟君ではあられませんか。ではお帰りくださいもう結構ですよ」
まったく困ったな。何一つ解決してないじゃないか。
犯人はたぶんあのロボだと言うのにみすみす見逃すことになるとは。
「ではお気をつけて」
疑いは晴れた。ただ本当にこれで良かったのか?
刑事はやる気がないし前例のない事件だ。
僕だって確証がない。これ以上の捜査は無理だろう。
残念だが迷宮入りは免れそうにない。
残念だ。実に残念だ。
「あれ先輩。もう行っちゃいました? 事件解決に協力してもらおうと思ったのに」
「いや素人に動き回られちゃ迷惑だ」
「まあそうですね。それにしてもまだこのシリーズ続いてたんだ」
「うるせい。そんなことより新たな犯人候補を探すぞ」
「ええ誰にするつもりですか? 」
「そうだな。第一発見者で通報者の爺さんにでもするか」
「そうですね。ははは…… 」
こうして前例のない謎多き事件は一応の解決を見た。
<完>
取調室。
「お前がやったんだろ? 白状しやがれ」
刑事が二人。ベテラン刑事は鬼の形相で自白を迫りもう一人が取りなす。
飴と鞭の良いコンビネーションだ。
「刑事さん無理がありますよ。被害者はぐちゃぐちゃなんでしょう? 」
「それがどうした? この殺人鬼が」
「僕にはそんな力ありません。いえ人間には不可能なんですよこの犯行は」
犯人と決めつけ話をまともに聞かない。これでは事件は解決しない。
「そうですね。申し訳ありません。では念のため社会保障番号をお見せください」
選手交代。若い刑事が話を聞く。
「あなたはマスコミの方? 」
「いえ。フリーのルポライターです。本社は東京にあります」
「そうですか。ではあくまで犯人ではないと? 」
「信じてくださいよ刑事さん。僕はただ偶然居合わせただけなんです」
「しかし現場には…… 」
「他にも容疑者が居たでしょう? 」
僕は知っている。怪しいのが四体。
事件の詳細はこうだ。
ぐちゃぐちゃな遺体。顔の判別も出来ない。全身バラバラ。
凄惨な現場。そこにはお掃除ロボットのクリンクリン。
配達ロボのデリー。ホームメイカーのライク。そして番犬ロボのバウロー。
どう考えても奴らの方が怪しい。
「刑事さん。誤作動や故障に暴走など考えられないんですか? 」
「うるせい。殺人事件なんだよ。だったら犯人は人間だろ? 」
ベテラン刑事が我慢できずに割り込む。
「しかし例えば事故。お掃除ロボが暴走して家主をきれいにしたとか? 」
「馬鹿かお前? 」
刑事はもうそれしか言わなくなった。
ならばこちらも無視して黙る。
「ほお黙秘か? いい度胸じゃねえか。お掃除ロボットが家主を殺害するか? 」
「だってそうとしか」
「分かった。そうだと仮定しよう。だがいくらかかると思ってるんだ? 」
刑事は回収費用と補償費用が莫大になると迫る。
だがそんなことは関係ない。なぜこうもやる気がないのだろう?
「でしたらライク。日頃からのモラハラが凶行に走らせたとか? 」
全身が血まみれで明らかに怪しい。
「ははは…… 製造元に問い合わせてみたが日本語も英語も通じやしない。
骨が折れるんだわ。それに比べてお前は自供してもらえば即逮捕だ」
「それでは誤認逮捕。しかも分かっていながらとはより悪質」
そんな脅し通用しない。ふざけるのもいい加減にしろ。
「お前がやったんだろ? そろそろ認めたらどうだ? 」
「でしたら配達ロボのデリー」
偶然居合わせたのは不自然過ぎる。何か知ってるはず。
「デリーを尋問してください」
「いやそれは無理だ。デリーは『ヘイお待ち』と『毎度』としか答えない。
いかれちまっているのさ。だから供述を取るのは不可能。
大体奴の会社は世界的大企業。もしトラブルが発覚すれば株価は大暴落。
相手弁護団は手強い。訴えられたらとてもじゃないがクビでは済まない。
その点お前は国選弁護人だろ? なあ認めちまいな。楽になるぞ」
くそ。どこまで馬鹿にする気だ。
「だったら番犬ロボ。彼が噛みついたのでは? 飼い犬に噛まれると言うでしょう。
それに惨劇が起きたのは番犬が機能してない証拠」
「うーん。だがこの番犬ロボは人間国宝が作ったもの。
だから間違いはない。間違いはないんだ」
説得されそうになってしまう。
「しかし人間国宝にも間違いはあるでしょう? 」
「ある訳ない。いやあっては困る。もっと言うとあったとは口が裂けても言えない」
「そんな馬鹿な」
刑事が睨む。僕も負けじと見つめる。睨み合う形に。
「ふう…… なあ認めちまいなとは言わない。ただ補償はするぜ」
「犯人を野放しにする気ですか? 」
「お前。上級国民か? 」
「さあただのルポライターです」
「お大臣の息子か? 」
首を振る。
「お前の親父増税したことは? メガネか? 」
「いいえ」
「御曹司か? 」
「まさか」
「だったら大人しく認めるんだな。相手ロボットが悪かった」
「そんな。冗談でしょう? 」
ここまで腐っているとは思わなかった。もう信じられない。
トントン
トントン
もう一人刑事がやって来て耳打ちをしてる。
まさか僕の正体がばれた?
「失礼しました。あなたも人が悪い。そうならそうと最初から言えばいいのに。
いえ気を悪くなさらないで。それから今までの数々の無礼をお許しください」
ベテラン刑事の気持ち悪い程の手のひら返し。
さすがは組織の者。大人の対応を心得てる。
「まさか…… 」
「はい警視総監の弟君ではあられませんか。ではお帰りくださいもう結構ですよ」
まったく困ったな。何一つ解決してないじゃないか。
犯人はたぶんあのロボだと言うのにみすみす見逃すことになるとは。
「ではお気をつけて」
疑いは晴れた。ただ本当にこれで良かったのか?
刑事はやる気がないし前例のない事件だ。
僕だって確証がない。これ以上の捜査は無理だろう。
残念だが迷宮入りは免れそうにない。
残念だ。実に残念だ。
「あれ先輩。もう行っちゃいました? 事件解決に協力してもらおうと思ったのに」
「いや素人に動き回られちゃ迷惑だ」
「まあそうですね。それにしてもまだこのシリーズ続いてたんだ」
「うるせい。そんなことより新たな犯人候補を探すぞ」
「ええ誰にするつもりですか? 」
「そうだな。第一発見者で通報者の爺さんにでもするか」
「そうですね。ははは…… 」
こうして前例のない謎多き事件は一応の解決を見た。
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