上 下
63 / 115

恐怖の夜 

しおりを挟む
親切なおばさんの家で一泊。

コソコソ
コソコソ

「おいアモ―クスや一緒にトイレに行かんか? 」

「またトイレですか? 一人で行ってくださいよもう。何度目? 」

「つれない奴め。ではサーマはどうじゃ? 」

「私は良いから早く行きなさい。もう眠れないでしょう! 」

爺は怖がって一人でトイレに行こうとしない。

「よし従者よ付いて参れ! 」

ウエスティンを誘うがもはや寝てしまっている。

あれだけ歩き回れば当然で起きる気配がない。

「うーん困ったの」

「師匠。一人で行ってください」

「フン! 薄情な奴らじゃ」

どうやら夜が怖いらしい。

これもペガサス症候群の影響が少なからずある。


「おい婆さん。一緒に行かぬか? 」

ついに禁断の手を使う。

泊めてもらい風呂も食事も寝床も用意してくれた親切な女性。

そんなおばさんに一緒にトイレとはどう言う神経をしているのか?

「いいよ。いいよ。好きにしな」

これしか言わなくなった。

まさか言葉が通じないのか?


爺はお言葉に甘えてトイレ同伴を頼む。

同伴は本来えらく高くつくものだが相手が承諾すれば大丈夫。

ただ人によってランクがあり大枚を叩くこともある。

こればかりは出たとこ勝負。一か八かの世界。

実に奥が深い。

爺さんは本当に運がいい。

観光客歓迎の旗を出している手前要求できないのだ。

「済まんのう」

「いいよ。いいよ。好きにしな」


ブリブリ、ハマチ……

豪勢な海の幸を頂いたせいか小ではなく大を豪快に。

「うむ。いい気持ちじゃ。どうじゃ婆さんも付き合わんか? 」

「いいよ。いいよ。好きにしな」

調子に乗って過剰な要求をする困った爺さん。

「済まんがついでに流しといてくれるか。どうも使い方が分からんでな」

大変失礼な爺さん。まさかくそを流さずに放置。

その処理をおばさんに任せるなんて正気の沙汰ではない。

「いやあ本当に助かったわ」

「いいよ。いいよ。好きにしな」

「他に喋れんのかい! 」

失礼極まりない爺は調子に乗る。

「きれいにできたね。これで少しは良いんじゃないか」

何と要望にしっかり答えてくれる。

今までは面倒臭くて繰り返していたのだろう。

ただの口癖とも取れるが。


結局くその始末まで任す爺。

「出るものは仕方ないがその処理ぐらいできないと。いいよ。いいよ。好きにしな」

同伴に続いてアフタ―までフォローする心優しき世話好きのおばさん。

よく見れば随分お年を召している。これはもうお婆さんでも構わないだろう。

一宿一飯の恩義もありどう返すべきか……

もちろん爺はそんなこと一ミリも考えていない。


モーモーモー

皆が眠りについた丑三つ時。

ロウソクを頭に巻き鋭く光るものを手に近づく者が。

悪夢の時間。汗はじっとり。もはや体が冷たい。異常を知らせている?

「おい起きろ! 婆さんがやばいぞ! 」

「もう師匠。若者ぶってまったく。眠いんですから起こさないで」

「そうじゃな。儂としたことがははは…… 寝るかの」

布団をかぶって震えながら寝ることにする。

「ちょっと二人とも気は確か? 」

サーマも異変に気付いたようだ。


ドンドン
ドンドン

風が強まる。

ドンドン
ドンドン

あれおかしいな。おばさんが外へ向かう。

これで一時的に助かった。

だがまだ危機は脱してない。この状況が続けば最悪の展開が……

「師匠。こんな時こそ魔法を」

「それは無理だ。人間には効かない。お主とて分かってることではないか! 」

果たして人間? 物の怪の類では?

「ではどうしろと? 」

「喚くでない! 今策を練っておる。うーん。やはり現実逃避するのが良かろう」

「諦めないで師匠! 」


お婆さんが戻って来た。

あれ一人じゃない?

三、四…… 七人。

白装束の七人組が目の前に迫る。

これはピンチ。

まさかただのおばさんにやられるとは冒険者失格。

「御祓い給え! 鎮まり給え! 」

だがおばさんは動きを止めない。

地獄と化したおばさんの家。


そう言えばここの爺さんはどうしたのだろう?

こんな時に素朴な疑問が生まれる。

一種の現実逃避。もはや目の前の現実を直視できないでいる。

白装束の者たちはついに歌い出した。

これはまさしく危機的状況。

俺たちを肴に踊り明かすつもりだろう。

その隙に逃げたいが窓が開かない上に非常口も見当たらない。

裏口は完全に塞がれている。

さあどうしたらいい?

やはり現実逃避するしかないのか?


「師匠! 人間ではありません。老女は間違いなく化け物。

俺たち食われちまいますよ! 」

「何…… 物の怪の類とな? ならば攻撃魔法が使えるぞ」

「そう言えばそうか。ラッキー! でもトラウマになりそう」

「こういう時の為にお主に授ける。これを咥えて叫べ! 」

「はあ…… いつの間に」

「いいから早くせい! 」

「仕方なく巻き物を咥える」

神から与えられしチート。その威力や如何に?

               続く
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

Fault Loop

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

建築家

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

今回くらいは信じていたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...