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チャンドラー自伝

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『チャンドラーの役満予想』

これが証明されれば数学界だけでなく世界そのものがが変わると言われている。

今も飛躍的に進歩する医療界や発展目覚ましい科学技術の更なる向上が見込める。

数学界においてもあらゆる数式がひっくり返ると言われている。

ただ不幸にも目覚ましい発展による弊害を予見したある学者によって事実上の封印。

チャンドラーに関わるなとなってしまった。

その方針は近年も変わらずに継続されている。

そのせいでチャンドラーに関する論文が極端に少ない。

ただまったく終わった研究という訳でもなく忘れたころに盛り上がりを見せる。

とは言え研究するにはあまりにハードルが高すぎる。

それを今になって興味を示す者。

チャンドラー予想から遠ざけよう遠ざけようとしても匂いに釣られやって来る者。

十年周期で誕生するマッドサイエンシストだ。


チャンドラーの役満予想を完全証明できれば定理へと生まれ変わる。

忘れてはならないのは数学界だけでなく麻雀界でも大変革が起こると言うこと。

『チャンドラーの役満定理』となれば符の計算が変わるだろうと言われている。

それだけでなく新たな役満が生まれるとも期待されている。

人類には計り知れない恩恵がもたらされるのは間違いない。

それはギャンブラーにとって画期的な事態。


一般人にとってはどうでも良いこと。

だが数学者にとっては代えがたい名誉であり目標でもある。

今まで誰一人解けなかった世紀の難問。

これを解くために一生を費やし精神をおかしくする者も。

それこそ命がけ。

生涯をかけるに値する難問という訳だ。


ここまでは一般的な数学的難問。

ただチャンドラーの役満予想は少々違う。

数学者からは相手にされない。

それどころか関わった研究者を異端扱いする。

過去には学会から追放する動きも見られた。

そこに光明が差したのは言うまでもなく多くの数学者を輩出した異世界アカデミー。

世界中に根を張るある意味一番の研究機関が興味を示した。

異世界アカデミーが目をつけたのも納得が行く。

誰からも見向きもされない世紀の難問は意外とあっさり解けることがあるからだ。

チャンドラー氏の時代は遥か昔。

さほど科学も発達していない。

今の理論や定理を応用すれば不可能が可能に。


そこで教授から引き継いだのがこの私という訳だ。

私も教授も別のアカデミーで直接の繋がりがある訳ではない。

ある時異世界大学の研究部門から流れ着いたものを拾ったに過ぎない。

こうして再びチャンドラー予想に取り組む。


チャンドラー氏について逸話がある。

俺はたぶん出来ると思う。

だが再現性がないのはあり得ない。

数学的証明を求める。これは譲れない。

要するに他の学問なんかのように緩くなく完全証明を求める。

それには金もかかるだろう。

俺の死後チャンドラー基金を設立し盛り立てて欲しい。

そしてチャンドラーの役満予想を証明した者には基金から金貨百枚を贈呈。

へへへ! もう一勝負!

翌年株価の暴落により潤沢な資金が一瞬のうちに溶けチャンドラーは転落。

基金の継続も危ぶまれたが優秀な息子が立て直し今に至る。

チャンドラーは晩年人が変わったようにギャンブルにのめり込んだのだとか。

チャンドラー自伝より。


グウグウ
グウグウ

「うん? お昼寝タイムはもう終わりか? 」

爺は一つも聞いていない。

俺も一つも理解できなかったから同類だが真面目に聞いたふりはする。

サーマがかみ砕いて難解な理論を解説してくれる。

その間爺がつまみのするめをかみ砕く。

「師匠真面目にやってくださいよ」

「しかし眠くてつまらん」

「あの、この人は気にしないで続けましょう」

サーマが仕方なく考える。


「それであなたはどこまで進んだの? 」

「これを見てください」

書籍と映像を見せられる。

参考資料と言う奴だ。

「どうです何か閃きましたか? 」

「お主が閃かんでどうする」

爺が正論で茶化す。

「分かってるさ! だがもう少しって時にお前らが邪魔しに来たんだろうが」

頭に血が上り冷静な判断ができない男。

握りしめた麻雀パイを投げつける。

「うわあ! 危ない! 」

研究が上手く進まないものだから俺たちに八つ当たり。


「もういいですよ…… 」

完全にやる気を失ってしまった。

「おい物を大切にせんか! 」

爺が余計なことを言う。

「うるさい! 」

頭を抱え泣き出す始末。

これでは手に負えない。

相当追い込まれたと見える。

               続く
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