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三択地獄

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ついに発見か?

伝説のルーレット。

大はしゃぎの爺だが何か様子がおかしい。


「師匠! 」

「アモ―クスやよくやった! 」

抱き合って喜びを分かち合う。

さあ目当てのルーレットゲット?

確かにあった。

だがいつの間にか消えてしまっていた。

まるで動いたかのように。

不思議だ。動いたら痕が残りそうだしそもそも簡単には動かせない。

物凄い重いものではないが一瞬でどうこう出来るものではない。

だとすれば考えられるのは最初からなかったということ。

「おかしいの…… 確かにあったんじゃが」

爺は放心状態。


「師匠本当にあったんですか? 」

「お主だって見たじゃろ? 」

「はい。あれおかしいな…… 」

「そう。お爺さんの見間違いじゃないの? 」

「しかし婆さんや。この儂が見間違えるはずなかろう。

それは婆さんが一番よく分かっている。違うか? 」

「だから婆さんじゃないって! もう見間違いでいいでしょう」

「私は最初から信用してない! 」

リザは手厳しい。

「何じゃと! 」

見た見なかった。あったなかったの水掛け論。ただの不毛な争い。

それにしてもなぜ? 願望が形になったとでも言うのか?

狐にでも化かされたか?

とりあえずここは彼の力で乗り切るしかない。


「僕は信じますよ」

ウエスティンは何も考えてない。

ただ状況に合わせ意見を変えているに過ぎない。

それが彼の個性と言うか生き方。

さっきまでのセクハラウエスティンではない。

爺の前では大人しい従者に戻る。

そこがウエスティンの情けないところであり憎めないところでもある。

こうして元通りの五人に戻った。ただ肝心のルーレットは消えてしまったが。


「ちょっと! どっちでもいいから早くルーレット探しなさいよ! 」

ルーレットさえ手に入れればこの世界ともお別れできる。

小さかった頃と比べて不自由はないのでここでゆっくりしてもいいと思う。

しかし時間は有限。タイムリミットも迫っている。

仕方ない地味だけど情報収集と行こう。


ここで再び役に立つのがウエスティン。

何でも動物の言葉が分かるのだとか。

実際に犬やペガサスにウサギの言葉を翻訳してくれた。

従者にしておくにはもったいない逸材。

主役を喰う活躍を見せるバイリンガルなウエスティン。

意外にも心強い味方。

ウエスティンを交渉役に手がかりを探る。


爺ミーツ熊。

決して存在してはいけない危険生物。

ビックベアーが現れた。

「うわああ! お助け! 」

従者は真っ先に逃げていく。

「こら通訳せんか! 」

ビックベアーはウエスティンを無視してこちらにターゲットを絞る。

追い込み作戦を仕掛ける。

川まで追い込んで退路を塞ぐ頭脳プレー。

どうする? どうする?

考えろ。考えろ。考えるんだ!

ダメだ何も浮かばない。俺たちはやられちまうのか?


うごおお!

怒ってるのかただ威嚇してるのか分からない。

「師匠! 攻撃魔法を使いましょう」

絶体絶命のこの場面も魔法使いなら簡単に切り抜けられるはず。

「いや無理じゃな。奴は獣とは言えモンスターでもなく操られてもいない。

これでは魔法は使えない。残念じゃが違う手を考えてくれ」


うわああ!

一人逃げ切ったウエスティンが絡まれる。

何と今度は蛇だ。巨大な蛇でアナコンダサイズ。

この辺りの長老タイプと思われる。


きゃああ!

空から何かが降って来た。

怪鳥ズンズン。

まだ何一つ解明されていない新種。

鳥であることは間違いない。ただ肉食なのか雑食なのかさえ分っていない。

新種の生態が分かれば学術的には大いに助かるが何と言っても捕獲が困難。


今とんでもない三種類の化け物に狙われている。

いきなりのピンチ。これはゲームオーバー?

そう言えばゲームオーバーになったらどうなるんだっけ?

「師匠! 最悪どうなるんでしょう? 」

「うむ。初めてのことなので推測でしかないがお亡くなりになるのだろうな」

身も蓋もないことを言う。

「師匠それはないよ! 」

「儂に言うでない。これも運命。受け入れるしか無かろう」

「そこを何とか! 」

「儂に言われても…… 儂の力ではどうしてやることもできん。

だから儂をパーティーなどに加えずにお助けキャラとして活用すればいいものを。

無理矢理パーティ―に組み込むからただの魔法使いの爺じゃ」

どうも爺は余裕で緊迫感がない。


「師匠! 」

「付け加えれば儂は助かる。なぜなら元神だから。

それどころか魔法使いから元に戻る。まあ元通りじゃな。

皆の者聞くがいい! 苦しいのも痛いのも一瞬。儂が誘ってやろう」

慈悲深い元神のお言葉に感銘を受ける。



                   続く
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