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最終回前編 受け継がれたもの 

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噴水から女神様が現れた。

「この金の斧はあなたが落とした物ですか? 」

「あああ…… 」

「いいえ。アモークスのです」

何も言えずに固まるウエスティンの代わりにリザが答える。

「あなたは正直者ですね。そんな正直なあなたの望みを叶えて差し上げましょう」

魔王との戦いの最中に呑気に女神様とお話とはまるで緊張感がない。

噴水の女神様は太っ腹のようだが本当に信用できるのか?

「魔王の弱点を教えてください! 」

直球の質問に女神様も苦笑い。

「どうしても知りたいですか? 」

「お願い! 急がなければアモークスがやられてしまう! 」

「分かりました。ではお教えしましょう」

眩しいほどに光り輝く女神様。

「残念なことに魔王には弱点が存在しません」

無い弱点は教えられないとのこと。

「弱点はなくとも秘密を一つ。魔王の心臓は背中にあります」

ついに魔王の隠された秘密が明らかになる。

「背中に心臓が? 信じられない…… 」


よし最後の勝負と行こう。

ついに最終決戦。

アモークス対魔王のデスマッチ。

魔王に弱点はないが不死身などではなく心臓が背中についている特異体質。

常識では考えられない。世界に君臨する魔王様だから有り得ること。


「では私はこれで」

女神様は役目を終える。

「ちょっと待ってくれ! この教会を直してくれ。女神様なんだろ? 」

神父は奇跡に立ち会いおかしくなってしまった。

「女神様もう一つだけ! 」

女神は噴水へ。

神父は決して手を放そうとせずに一緒に噴水の中へ。

この後神父がどうなったか誰も知らない。


「ふむ心臓は背中とな。後はどうやって魔王の背中に刺すかだが…… 

誰か思いつく者はおらんか? 」

「あなた神様なんでしょう? どうにかしたら? 」

「いや元神じゃ。そんな力はない」

「お願いアモを助けて! 」

「サーマよ。しっかりしろ! ここは考えるのじゃ」

「あのそんなことより神父さんを助けなくてもいいんですか? 」

「黙れ従者! このくそ忙しい時に。済んだことはもうよい! 」

ウエスティンが騒ぎ立てるものだから話が進まない。


「よしこうしよう。皆良いな? 」

「いや絶対! 」

「あんた一人でしなさいよ! 」

女性陣からノーを突きつけられる。

「冗談じゃ冗談。いくら儂でもそれほどのくそは用意できん」

元神によるおぞましい作戦は変更を余儀なくされた。

「従者よやってくれるな? 」

「はい。喜んで! 」

基本的にウエスティンは従順だ。

さあサポート体制は整った。


「タイム! 」

爺が休憩を申し入れる。

「勝手にしろ! 」

ではルールを決める。

「ふふふ…… どんなルールだろうとどんなハンデがあろうと構わない。

俺は不死身の魔王様なのだからな。いいんだぞ皆で一斉に掛って来てもな」

最強の勇者アモ―クスはエスケープでどうにか逃げてる状態。

体力がなくなっている。これではもう打つ手なし。

魔王は勝利目前で気が緩んでいる。これはチャンスか?


「言ったな? では儂の戦い方を受け入れよ! 」

「師匠…… もう体力が…… 」

「アモ―クスも従え! 逃げてばかりでは勝てはせん」

「馬鹿め! 何をしても無駄だ! 」

「では二人とも距離を取れ」

その場からアモ―クスが五歩下がると魔王も同様に五歩下がる。

合計十歩の距離を取る。

「武器はこれを使え! 」

ゴールドソードが手渡される。

「お前はこれじゃ! 」

魔王にはナマクラ刀を手渡す。

「ふざけるな! 俺にはそんなもの必要ない! 」

せっかく安全を考慮したのに魔王は拒否。

「まあよい。それでは二人とも後ろを向け! 」

大人しく従う二人。

「良いか。儂が十数える。そしたら振り向き戦え。

これが最後の戦いになる。デスマッチだ」

うおおお!

歓声が上がる。


「よし数えるぞ。イーチ! ニー! サ…… 待った! やり直し。

二人ともそこを動くな! 」

この間にウエスティンと入れ替える。

「では私が代わりに。イーチ! ニー! サン! シ…… 」

爺の代わりにサーマがカウントを始める。

「良いかアモ―クス? このゴールドソードを魔王の背中に突き刺すのだ」

魔王に聞こえないように細心の注意を払い指示を送る。

「でも師匠そんな汚い手を使っては勇者失格では? 」

「黙らぬか! きれいごとを抜かすな! 」

「しかしやっぱり俺には無理…… 」

「儂は一向に構わないのだぞ? この世界がどうなろうと知ったことではない。

じゃがお主らにはかけがえない世界。違うか? 」

爺が突き放す。これで説得できると思ってるのが凄い。

普通無理でしょう。まったく困った爺だ。

「分かりました。師匠の言う通りですね」

「それでこそアモ―クスじゃ! 」


ナーナ! ハーチ!

カウントを続けるサーマ。

音を立てないように魔王に接近。

これがものすごく大変。

息もできない。足音も立てられない。

殺気に気付かれてはお終い。

ゴールドソードを慎重に抜く。


キュー!

なるべくゆっくり長くカウントしてもらう。

残すは十のみ。

準備は整った。

サーマに合図を送る。

フライング気味に振り向かれてはすべてが水の泡。

ただ奴も魔王のプライドがある。

最後まで動かない。俺よりも先に動かない。

それほどの実力差がある。

実力差があるばかりに魔王は判断を誤った。

本来ならこれくらいの策略魔王が考えつくはずだ。

情けない話。運良く魔王の勘が鈍っているだけ。


ジュー

「覚悟…… 」

卑怯にも後ろからゴールドソードを突き刺す。

これが勇者のすることかと問われれば確かにと返すしかない。

だがこれはお遊びではない。ゲームでさえない。

俺たちの運命だけではない。俺たちの世界そのものが掛っている。

もし負ければ魔王にこの世界を奪われてしまう。

それは人類にとって悲劇である。

だから魔王に負けられない。

どんな手を使っても勝つ。それが本当の勇者であり救世主。

または主人公。ヒーローでもある。


「うぐぐぐ…… 何をする…… 」

ゴールドソードは魔王の背中を貫く。

「はあはあ…… 汚いぞ…… 」

「ふん。甘い奴じゃ。これが儂らの戦い方。戦いにきれいも汚いもあるか! 」

さすがは元神の爺。説得力がある。

ただこのままだとどちらが主人公か分からない。

だから一応フォローしておく。

「汚いのはお前たちだ! 手下を使い護衛隊を壊滅させたくせに。

今更何を言う! 先に仕掛けたのはお前たちの方だ! 」

こうしてどうにか取り繕い汚さをカバーする。

「最後に勝負をしろ! 」

瀕死の魔王。このまま放っておいてもそのうち朽ちるだろうがここは情け。

勝負を受ける。


ゴールドソード対魔剣。

決着の時。

「行くぞこの卑怯者! 」

「消え失せろ! 」

魔剣を振り払い魔王の額を目がけて剣を振り下ろす。

「うおおお! 」

魔王は潔く散る。

こうしてこの世界に平和が訪れた。


               最終回後編に続く
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