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召す豚

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「おい! お前たち! 」

門番に止められる。

「お前たちこの辺の者ではないな? ここに何の用だ? 」

「この格好を見て分からない? 王子に招待されたに決まってるでしょう! 」

「ステーテル! 勝手に話しかけてはなりません」

もうこんな時にまで厳しいんだから。ド・ラボーの自覚ぐらいある。

門番はいやらしい目で見回す。

「いやはやそのようなみすぼらしい格好で会いに来るわけがなかろう! 」

「あのねおじさん! そこを通しなさいよ! 」

「ステーテル! 」

「どこの者とも分からぬ者を通す訳には行かぬ! とっとと帰れ! 」

「もう! ガムお願い」

ガムに任せるしかない。

「ニ―チャットから参りました。こちらはステーテル。ド・ラボーと言えばお分かりでしょうか? 」

「何? ド・ラボー? 」

食いついた。
 
「どおりでお美しい訳ですね。王子様がお待ちです。お通り下さい」

手のひらを返した門番。ド・ラボーがいかにすごいかが分かる。

メイドに案内される。

「お急ぎください。もう間もなく晩餐会が始まります」

高さ二メートルはあるかと言う扉を抜けると大勢の客の姿が。すべて若い女性であの王子に招待されたらしい。

皆けん制し合う。

「お美しいですこと」

「あら可愛らしい」

「そちらこそ」

「華やかでございますね」

心の中では貶し合っているのだろうが決して言葉にも表情にも出さない。

「ちょっと」

集まった者たちはそれは良家のご令嬢といった様子。ドレスもアクセサリーも眩しいぐらいで大変華やか。

そこに一人のみすぼらしいドレスの女が現れたのだ。メイドに間違えられてもおかしくない。

「あらここはいいわ。下がりなさい! 」

「はあ? 」

「何ですかその態度は! 王家のメイドにあるまじき態度。いいから出て行きなさい! 」

「そうですわ。目障りだわ! 」

王子に相手にされないであろう醜い豚共が吠える。

「ほっほっほ…… あらごめんあそばせ」

ついつい感情的になり豚共を罵倒したくなってしまう。

抑えなくてはいけないかしら。でも大人しくしているとすぐにつけあがるから厄介だわ。

「お待ちください。この方も招待を受けております」

見かねたガムが仕方なく間に入る。

「嘘? 冗談でしょう? 何かの間違えじゃないの? 」

ざわざわ
ざわざわ

人が集まり始めた。

「ごきげんよう」

「そのようなみずほらしい格好でよく参加しようとしましたわね。ホホホ…… 」

良家の中でも極めて名の通った家の娘が見下した態度を示す。

「あらあら大変ですね」

「ミオ様」

「大丈夫よ。あなたがどういうつもりでここに来たのか知りませんが王子に失礼の無いようにお願いします」

そう言うと歩いて行ってしまった。

再び喚きだす。

「あんた何者よ? 」

「そうよそうよ! あなたのような貧乏人がいていい場所じゃないわ」

「早く帰りなさい! 」

「食べたらすぐに出て行ってよね。目障りよ」

「これ食べた事ある? 」

「聞くだけ無駄じゃない」

「それもそうね。ごめんなさいね。ほほほ…… 」

私を格下と決めつけ執拗に攻撃する。

醜い女の争い。豚が何を言っても豚でしかないのに。

お気の毒。

王子には見せられたものではない。

ガムに助けを求めようと視線を送るが無反応。自分の力で何とかしろと言うことらしい。

肝心な時に役に立たないんだから……

「どうかなさいまして? 」

女の私から見ても上品で非の打ち所のない美少女。

惚れ惚れしてしまう。

ああ…… いえもちろんそんな気はない。

彼女の名はサンテール。

「ねえ。知ってる? サンテール様ってば」

「うんうん。ナーチャット王子を振ったとか」

「何? 何? 」

サンテールの噂。どこまでが本当かは分からないが王子と言うだけでは物足りないらしい。

ただ一つ言えるとしたらこの国ではまだド・ラボーの資格を得た者はいない。

今のところ彼女が一番近いだろう。

「私も混ぜて」

ついつい噂話に耳を傾けてしまう。

ダメだと分かっているんだけどこればっかりは止められない。

ただ悪いことばかりではない。情報収集にもなるしすぐに仲良くもなれる。

「あなた本当にその格好で大丈夫? 」

今度は親切心から指摘してくれる。


                  続く
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