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惨劇 乱射王子の名のもとに

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晩餐会。

今、エルス様のお相手をしている。

エルス様に言われるままただ合わせているの。

私はド・ラボー。踊りだってお手の物。ただ今は呑気に踊っている気分ではない。

「ねえエルス様」

「どうした? 」

目を瞑って踊る。全てエルス様に任せる。

これはガムに教えてもらった現実逃避法。効くんだから。

出来たら耳も塞ぎたい。でも手を離すのは不自然。


乱射王子を止めるには王子を良く理解している者が不可欠。

下手に近づき対応を誤れば悲惨な結果を招く。せっかくの晩餐会。血で汚すようなことになって欲しくない。

最悪の最悪を想定して動かなければならない。

そこでタレイとガムなんだけど……

タレイは見かけによらずお酒に弱いいのか完全に酔っぱらっていて使い物にならない。

ガムは晩餐会の準備と手伝いで大忙し。

とてもあの乱射王子の監視など出来ようもない。

私一人ではどうすることもできずに目を瞑っている。

もう現実逃避するしかない。

この後起こるであろう悲劇。惨劇と言っても差し支えない。

うまくいっても二国間の争いは避けられない。

乱射王子がその名にふさわしい行動をとればもう止められない。

できればとどまって欲しい。でも無理よね…… あの王子に限って。

だって病気みたいなものですもの。あーあ。嫌になっちゃう。


「お相手願いますか」

サンスリン様からのアプローチ。

「サンスリン様…… 」

「どうしたもう踊らぬのか? 」

何てことかしら。心臓がどきどきする。こんな時でなければどれだけ幸せなことか……

ドキドキは止まることなく速くなっていく。ああ。どうしたことでしょう?

でも違う。このドキドキはサンスリン様に対するものではない。

では誰かと言うと…… そう乱射王子にドキドキ。この後の最悪な結末が予想できるから。

仕方がない。ここはド・ラボー自ら行動するしかない。


「ねえサンスリン様。私にも国王のコレクションを見せて頂けないかしら? 」

「ははは! 女性には刺激が強すぎる」

「でも…… 」

「ド・ラボーの君が興味を示すようなものではない。そうだろ? 」

確かにそれを言われると何も反論できない。私だって本当はまったく興味ない。

『国王の命が懸かっているんです! 』

あー言えない。そんなこと言えるわけがない。

やっぱり無理。これ以上は怪しまれる。サンスリン様に嫌われてしまう。

現実逃避するしかない。


ざわざわ
ざわざわ

辺りが騒がしくなってきた。

これってやっぱり……

声が聞こえる。男の声。

「お止めください! 」

「うるさい! 」

「国王様逃げて! 」

「はっはは! 」

ついに始まってしまった。

国王の姿が見えた。ご無事で何より……

国王と代わるように男たちが走っていく。

やはり乱射王子を止められなかったのね。

ドン! ドン!

銃声。

案の定乱射王子が発射。

ドン! ダン! ドドン!

乱射が始まる。

「お戯れを! お止めください! 」

必死に説得する男たち。だが乱射王子は意に介さない。

弾を撃ち尽くしたと思ったらまた新たな銃に手をだす。もう手が付けられない。

最悪の展開。もちろん予期していたこと。

ガムが異変に気づき走ってきた。

「ステーテル大丈夫ですか? 」

「ええ、私は問題ない。でも…… 」

「ういい…… 」

タレイもくねくねとふらつきながら駆けつける。


ダダダ!
ダダダ!
ガチャ……

音が鳴りやんだ。

弾切れ?

念のため一分待って中に突入。

男たちの手によって乱射王子は取り押さえられる。

「大丈夫か? 」

異変に気付いたサンスリン様たちが駆けつける。

国王の無事は確認した。さあ後は惨状だけど。

乱射王子が連行されていく。

部屋とコレクションはメチャクチャにされたが抵抗した乱射王子を取り押さえた時に負った傷以外は無い。

奇跡的に助かった。

何とか最悪の事態は免れた。


晩餐会は即刻中止。皆部屋に戻される。

あーあ。サンスリン様との甘い一時が台無し。

これと言うのも乱射王子のせい。

まったくどうして邪魔ばかりするの?

もう最悪!


                    続く
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