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ステーテルの過去 太郎との出会い

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ヤ―チャット編。

ナナチャットを離れヤ―チャットに向かう。


ヤ―チャットは治安が悪いなんてものじゃない。ハッシャの巣窟だ。

だからなるべく陽が暮れないうちにヤ―チャットに入った方がいい。

馬車の旅は快適だが目立つのが欠点。目をつけられては面倒と言うもの。


「快適快適! 」

そう言っていると急に揺れ始めた。

「ちょっと! おじさん! 」

「済まないね。そろそろ山道に入るよ」

「ガム! 」

ガムに助けを求めるが反応が無い。どうしたのだろう?

サンスリン様とは決別。

ガムとの関係も元に戻った。ガムはもうただの付き人でしかない。頼れるお姉さまはいなくなった。

私が求めてもガムは応じはしないだろう。ガムを思うことはもうできない。ガムに救いを求めることもできない。

ただのド・ラボーと付き人の関係でしかないのが残念でなりません。

心なしかガムの口数が減っている気がする。ガムもどうしていいのか分からない様子。

「ねえガム…… 」

呼びかけても上の空。何を考えているのか分からない。

ああ! ガム……

なぜか苦しい。どうしてしまったの? 重苦しい雰囲気。

そうだ今はそんなことよりも太郎だ。

太郎との出会いは確か……

記憶を辿る。


「おい! 新入り! 」

「ええっ? 」

「お前だよ! お前! 」

「自分…… 」 

「名前は何て言うんだ? 」

「自分は…… 」

「何だよそれくらい言えるだろ? 」

「でも…… 誰にも名前を言うなって言われてるんだ」

「ははは! きっと変な名前なんだろ? 」

「自分は…… 」

「ほら困ってんだろ! 優しくしてやれよ」

「じゃあステーが相手してやれよ」

「何だと! 」

「ええっ…… でも…… ステーが…… 」

「誰がステーだ? ステーテル様って立派な名前があるんだ」

「女のくせに生意気な奴だな! 」

「うるさい! やる気か? 」

「いや…… そんなつもりは…… 悪かったよ」

心配そうにこちらを見る色白の男の子。ちょうど年も同じぐらい。このステーテル様の子分にはちょうどいい。

「かわいそうに。お前名前が無いんだろ? 」

「いや違う! 教えるなって…… あの…… その…… 」

「けっ! ガキが! よしお前はそうだな。太郎だ。太郎にしよう」

「太郎? ははは…… それは無いよ」

「うるさい! このステーテル様が言ったことは絶対だ。分かったか? 」

「ひえええ…… そんな…… 」

「よしお前は太郎でいいな? 」

「ええ…… うん」

「よし太郎。着いて来い! 」

「はい! 」

「ヘイだろうが! 言ってみろ? 」

「ヘイ! 」

「よし俺に着いて来い! 」

「ヘイ! 」

こうして太郎が仲間に加わった。


「さあイーチャットで暴れるぞ! 皆俺の後に続け! 」

「オウ! 」

悪さばかりしていた毎日。軽いのからシャレにならないようなことまで。

何をしていたかまで細かくは覚えていながたぶん悪いこと。

新入りの太郎は何でも言うことを聞く弟分。

太郎を一人前にするのが俺の務め。そんな風に考えていた。

兄弟と言うよりも親分と子分の関係に近い。


「こらガキども! 何をしてやがる! 」

「まずい逃げろ! 」

貧しかったせいかいつでも腹が減っていた。腹が減れば満たすのみ。

罪の意識など持ち合させていなかった。

それはここの奴らも同様だ。

ただ奪う。ただそこにあるものを掴む。

単純なものだ。

そして一番多く取って来た者が次のリーダー。

実力主義だ。

そう、その日一日だけは誰よりもえらく威張っていられる。


「今日の成果はどうだ? 」

果物は取りやすいので多くても一つに数える。それ以外の食い物は多ければ多い程いい。

その頃は一人で行動するのが常だった。

リーダーになった時だけ指示をしてそれ以外では単独行動。

そのうち太郎がついてくるようになった。


「おい太郎! 何をやってるんだ? 」

「ちょっと服が汚れちゃってさ…… 」

「そんなこと後でしろ! 今は逃げるのが先だろうが」

「こらガキ! 」

足手まといの太郎のせいで捕まること数えきれず。その都度ブッ叩かれる。

すべて没収。やってられない。

それだけではない。尻叩きまでしやがるんだから嫌になる。

特に俺が女だと分かるとやたらと触ってくるクズ。

説教してくるお節介なおばちゃんもたまに。

はしたなくて見てられないそうだ。

ド・ラボーの今なら良く分かる。でも当時は何を言ってんだかどうして怒ってんだかまったく分からない。

つまんない説教。辛いお仕置きと毎日のようにされていた。

まあ他の奴も似たようなもの。問題ない。

              
                  続く
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