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醒めない悪夢
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六日目
<おはようございます。台風の影響で引き続き土砂崩れ等の災害の危険があります。
島民の皆様にはどうかお気をつけて行動願います。
特に山付近では雨で非常に滑りやすくなっているので一層の注意をお願いします。
海沿いでは水の被害の報告はまだ受けていませんが注意が必要です。
間もなく台風も抜け天候も回復するでしょう。不要な外出は控えてください>
以上 広報部
小さな泉から一人の少女が姿を見せた。
タオルできれいにした体を拭き近くの脱衣所に向かう。
もちろんそう勝手に名付けてるに過ぎないただの庇と塀。
周りから見られることもないのでここで安心して着替えができる。
もちろんマウントシーでは皆女の子だし管理人さんも立派な人。
覗く真似をする者はいない。ただハッピー先生に隠すようにきつく言われている。
それを皆守っているのだ。
着替えに時間を取られまた遅刻しそう…… でも大丈夫。三十分早く来たので余裕。
島のカラーでもある緑のカチューシャをつけて洋館へ。
ふあああ…… もう眠いな。寝不足気味。それは皆同じ。
台風で帰ってこなかったハッピー先生を心配しなかなか寝付けなかった。
他の子も同じだろう。とにかく心配で心配で仕方がない。
何か事件が起きたのでは? 見捨てられたのでは? そればかり考えていた。
ふいに恐怖が襲ってくる。
台風によってもたらされた地獄のような惨状。
別に館の中は安全そのもの。
しかし精神状態が不安定な子が多いものだからそれが伝染。
一人がパニックを起こすと次々狂っていく。
それを昨日肌で感じた。
皆苦悩しているのだ。それは私も同じ。
大河さん……
彼の出現によって保たれていた平和な世界が壊れていく気がする。
考え過ぎだろうか。いやそんなことはない。
彼はなんだかおかしい。危険だ。
私たちを恐怖の世界に誘うそんな気がする。
危険でワイルドな要注意人物。なるべくなら近づきたくない。
でも祭りまではどうしても一緒に過ごさなければならない。
事実彼が現れてから皆の様子がどことなく変だ。一体何を考えているのだろうか?
ここのルールを守らない者はやはり排除しなければならない。
それがここで平穏に暮らす者の使命。
それにしても彼…… 大河とはどこかで会った気がする。
どこでいつ出会ったか思い出せない。記憶を辿ろうとすると頭が酷く痛くなる。
なぜか突き飛ばされる気がする。私は彼に何かしてしまったのかもしれない。
うう…… 思い出せない。思い出せない。
思い出したくもない。思い出せもしない。
思い出したい。でもやっぱり思い出せない。
徐々に効き目が薄らぎ記憶が。記憶が。
記憶が蘇る。その瞬間悲鳴を上げる。
はあはあ…… 苦しい。誰か。誰かお願い! 助けて!
私を助けて! お願い誰か。私を……
記憶が不意に蘇った。思い出したくもない記憶。
あの頃の惨めな自分をもう思い出したくない。
洋館には四人の少女の姿がある。
四人とも苦しんでいる。
それぞれの悪夢と戦っている。
その様子を岬アリアは見守る。
昨日まではいつもの冷静で上品な大人しい少女たちだったはず。
だが今日になり様子が一変した。
私には分かる。彼女たちの苦しみが。
でもそれを取り除くことが出来るのは私じゃない。
私はただの無力な女の子。それはそれで言い過ぎだって理解してる。
この中では一番大人な私がしっかりしなくてどうするの。
怖がっていてはダメ。目を背けてはダメ。
現実を見るの。ありのままの彼女たちを見るの。
このままでは近いうちに壊れてしまう。
完全崩壊してしまうだろう。
そうなったら取り返しがつかない。
どうしたらいいの?
やはり危険だが儀式を代わりに自分の手で執り行うしかない。
早く帰って来て。ミス・マーム。管理人さん。特に医者の助けが必要。
あの人…… 大河。そう大河だ。彼さえいてくれたら何とかなる。
いいえ…… それは絶対あり得ない。
彼女たちに必要なのはミス・マームの……
ううん。冷静に冷静に。
いやあ!
私の叫び声? 違う……
だめ! 心が心が叫んでいる。
二日続けて人を殺してしまった。
ああ…… どうしてこんなことに……
もうどうすることもできない。
私は一体どうすればいいの?
姉とお友だち。
どうしよう。どうすればいい?
懺悔。
私は決して許されない行いをした。
なぜこんなことに?
祭りの準備で大人たちが出かけてる間にちょっとしたいたずらをしただけなのに。
もう物体と変わってしまった二つの遺体が苦しそうに交互に睨んでくる。
私が絞めているの? 首を絞めたのは私?
ううんそんなことない。私が悪いんじゃないよ。あっちが勝手に……
でも今はもう遅い。犯した過ちが重くのしかかってくる。辛い辛すぎる。
前を塞がないで。何で私の視界を奪うの。
見えない。見えない。何で見せてくれない?
一体何が起きたの?
物凄い音。
これが何だって言うの? 玩具じゃない。本当に下らない。
大きな大人がこんなものを振り回すなんて危ないだけじゃなくて情けないよ。
どうしてみんな倒れてるの?
いつの間にぼくが寝ていた間に何が起きたの?
倒れてる。二つの遺体がこっちを睨んでいる。
ダメ。止めてお願い。
うわあああ。そんな……
それは犯罪よ。誘拐は重罪。
どうしてもって言うなら従う。
ただし親の承諾を得てから。
なぜなの? なぜこんな仕打ちを……
仕方がない? 仕方ないってどういうこと?
風習。それがどうしたっていうの。
私には関係ない。
何これ? もう逃げれないの?
私ってかわいそう? ううう……
続く
<おはようございます。台風の影響で引き続き土砂崩れ等の災害の危険があります。
島民の皆様にはどうかお気をつけて行動願います。
特に山付近では雨で非常に滑りやすくなっているので一層の注意をお願いします。
海沿いでは水の被害の報告はまだ受けていませんが注意が必要です。
間もなく台風も抜け天候も回復するでしょう。不要な外出は控えてください>
以上 広報部
小さな泉から一人の少女が姿を見せた。
タオルできれいにした体を拭き近くの脱衣所に向かう。
もちろんそう勝手に名付けてるに過ぎないただの庇と塀。
周りから見られることもないのでここで安心して着替えができる。
もちろんマウントシーでは皆女の子だし管理人さんも立派な人。
覗く真似をする者はいない。ただハッピー先生に隠すようにきつく言われている。
それを皆守っているのだ。
着替えに時間を取られまた遅刻しそう…… でも大丈夫。三十分早く来たので余裕。
島のカラーでもある緑のカチューシャをつけて洋館へ。
ふあああ…… もう眠いな。寝不足気味。それは皆同じ。
台風で帰ってこなかったハッピー先生を心配しなかなか寝付けなかった。
他の子も同じだろう。とにかく心配で心配で仕方がない。
何か事件が起きたのでは? 見捨てられたのでは? そればかり考えていた。
ふいに恐怖が襲ってくる。
台風によってもたらされた地獄のような惨状。
別に館の中は安全そのもの。
しかし精神状態が不安定な子が多いものだからそれが伝染。
一人がパニックを起こすと次々狂っていく。
それを昨日肌で感じた。
皆苦悩しているのだ。それは私も同じ。
大河さん……
彼の出現によって保たれていた平和な世界が壊れていく気がする。
考え過ぎだろうか。いやそんなことはない。
彼はなんだかおかしい。危険だ。
私たちを恐怖の世界に誘うそんな気がする。
危険でワイルドな要注意人物。なるべくなら近づきたくない。
でも祭りまではどうしても一緒に過ごさなければならない。
事実彼が現れてから皆の様子がどことなく変だ。一体何を考えているのだろうか?
ここのルールを守らない者はやはり排除しなければならない。
それがここで平穏に暮らす者の使命。
それにしても彼…… 大河とはどこかで会った気がする。
どこでいつ出会ったか思い出せない。記憶を辿ろうとすると頭が酷く痛くなる。
なぜか突き飛ばされる気がする。私は彼に何かしてしまったのかもしれない。
うう…… 思い出せない。思い出せない。
思い出したくもない。思い出せもしない。
思い出したい。でもやっぱり思い出せない。
徐々に効き目が薄らぎ記憶が。記憶が。
記憶が蘇る。その瞬間悲鳴を上げる。
はあはあ…… 苦しい。誰か。誰かお願い! 助けて!
私を助けて! お願い誰か。私を……
記憶が不意に蘇った。思い出したくもない記憶。
あの頃の惨めな自分をもう思い出したくない。
洋館には四人の少女の姿がある。
四人とも苦しんでいる。
それぞれの悪夢と戦っている。
その様子を岬アリアは見守る。
昨日まではいつもの冷静で上品な大人しい少女たちだったはず。
だが今日になり様子が一変した。
私には分かる。彼女たちの苦しみが。
でもそれを取り除くことが出来るのは私じゃない。
私はただの無力な女の子。それはそれで言い過ぎだって理解してる。
この中では一番大人な私がしっかりしなくてどうするの。
怖がっていてはダメ。目を背けてはダメ。
現実を見るの。ありのままの彼女たちを見るの。
このままでは近いうちに壊れてしまう。
完全崩壊してしまうだろう。
そうなったら取り返しがつかない。
どうしたらいいの?
やはり危険だが儀式を代わりに自分の手で執り行うしかない。
早く帰って来て。ミス・マーム。管理人さん。特に医者の助けが必要。
あの人…… 大河。そう大河だ。彼さえいてくれたら何とかなる。
いいえ…… それは絶対あり得ない。
彼女たちに必要なのはミス・マームの……
ううん。冷静に冷静に。
いやあ!
私の叫び声? 違う……
だめ! 心が心が叫んでいる。
二日続けて人を殺してしまった。
ああ…… どうしてこんなことに……
もうどうすることもできない。
私は一体どうすればいいの?
姉とお友だち。
どうしよう。どうすればいい?
懺悔。
私は決して許されない行いをした。
なぜこんなことに?
祭りの準備で大人たちが出かけてる間にちょっとしたいたずらをしただけなのに。
もう物体と変わってしまった二つの遺体が苦しそうに交互に睨んでくる。
私が絞めているの? 首を絞めたのは私?
ううんそんなことない。私が悪いんじゃないよ。あっちが勝手に……
でも今はもう遅い。犯した過ちが重くのしかかってくる。辛い辛すぎる。
前を塞がないで。何で私の視界を奪うの。
見えない。見えない。何で見せてくれない?
一体何が起きたの?
物凄い音。
これが何だって言うの? 玩具じゃない。本当に下らない。
大きな大人がこんなものを振り回すなんて危ないだけじゃなくて情けないよ。
どうしてみんな倒れてるの?
いつの間にぼくが寝ていた間に何が起きたの?
倒れてる。二つの遺体がこっちを睨んでいる。
ダメ。止めてお願い。
うわあああ。そんな……
それは犯罪よ。誘拐は重罪。
どうしてもって言うなら従う。
ただし親の承諾を得てから。
なぜなの? なぜこんな仕打ちを……
仕方がない? 仕方ないってどういうこと?
風習。それがどうしたっていうの。
私には関係ない。
何これ? もう逃げれないの?
私ってかわいそう? ううう……
続く
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