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20.モフらせてください
「え……?」
サラの言葉に、私は困惑してしまう。
幼い頃、私は魔力値を計測する水晶で判定を受けた。その際、水晶は極わずかな魔力しか検知しなかった。
最初は水晶が誤作動を起こしたのかと思い、何度も再計測をしてもらったのだが──結果は同じだった。
結局、自分が無能だという事実を突きつけられただけだったのである。
そのせいで、家族や周りの人間からはますます疎まれるようになったのを覚えている。
だから、私はそれ以来魔法を使うことを諦めたのだ。
「いや、今のは周囲に眠っている鉱石から力を借りただけであって、別に私自身の魔力を使ったわけでは……」
「ええと……多分、普通の人はそんなことはできないかと……」
アランが私の言葉を否定するように言った。
「でも、あの時確かに私は判定を──」
思わず反論しようとした私の言葉を遮るようにして、サラが再び口を開いた。
「先程、コーデリア様は『周囲に眠っている鉱石から力を借りた』と仰っていましたよね? それはつまり、自然界のマナを自在に操り体に取り込めるということです。そして──それができるのは、恐らくこの世界においてコーデリア様だけでしょう」
そこまで言い切った後、サラは再び私のほうへと向き直った。
その真剣な眼差しを受けて、私は思わず息を呑む。
「そ……そんなわけないじゃないですか!」
自分の声が徐々に荒くなっていくのを感じる。
だが、それでもなお、言葉を止めることはできなかった。
「もし、仮に私に魔法の才能があるなら、家族から見限られるようなこともなかったはずです。だから、今のは全然凄いことでもなんでもなくて……」
(──期待して裏切られるくらいなら、最初から希望なんて持たないほうがいい)
自分に秘められた才能があると思い込んで、後からやはり勘違いだったという現実を知った時の絶望感ほど辛いものはない。
だからこそ、私は今までずっと自身を必要以上に卑下してきたのだ。
最初から自分は無能だと思って諦めていれば、それ以上傷つくことがないからだ。
「だから……冗談でも、そんなこと言わないでください」
私が目を伏せると、その場を沈黙が支配する。
「し、承知いたしました。出過ぎたことを言ってしまい、申し訳ございません」
数秒ほどの沈黙の後、サラは深々と頭を下げた。
それを見て、私は慌てて彼女のそばに駆け寄る。
「あ……! いえ……謝らなければいけないのはこちらの方です。つい感情的になってしまいまして……本当にすみませんでした」
申し訳なさそうに縮こまる彼女を見ていると、罪悪感に押しつぶされそうになる。
(話題を変えないと……)
そう思い、私はアランとサラに質問を投げかける。
「そういえば、どうしてサラさんとアランさんはその姿に……?」
私は、動物の姿になった二人を改めて見てみる。
ジェイドは二足歩行だし、どちらかと言えば獣人寄りだ。けれど、二人はどう見ても完全な動物である。
そもそも、彼らは一体どうやって姿を変えているのか? それに関しても気になるところだ。
「実は、私たちも獣化の病を発症しておりまして……」
すぐにそう答えたのはアランだった。彼は、そのまま自分たちの症状を説明し始める。
「ただ、私たちの場合、他の患者とは症状の出方が違うんですよ。というのも、感情の変化によって姿が変わってしまうようなんです」
「感情の変化……?」
「はい。例えば──怒りや悲しみといった強い負の感情を抱いた時に、動物の姿へと変身してしまうんです。ちなみに、ジェイド様のように獣人に近い姿になる患者もいれば、完全に動物の姿になる患者もいます。つまり、私たちの場合は後者ですね」
アランの説明を聞いて、私はふとあることに気がついた。
「ということは、私がシルバーウルフに襲われたことが原因でアランさんとサラさんはそのような姿になってしまったということでしょうか……?」
恐る恐る尋ねると、アランは首を横に振って否定した。
「いえ、コーデリア様のせいではありません。それに、私たちは元々こうなる覚悟でコーデリア様にお仕えしているのですから」
「アランさんの言う通りです! ただ、コーデリア様には内緒にしておきたいという気持ちがあったものですから、こうして隠しておりました。ご心配をおかけして、大変申し訳ありません!」
アランとサラは深々と頭を下げる。その姿を見て、私は狼狽した。
「そんな……頭を上げてください!」
恐らく、私に心配をかけたくない一心で黙っていたのだろう。
そのせいか、二人の顔には深い後悔の念が滲み出ているように見えた。
「ちなみに、なんですけど……元の姿に戻る時は、どういったきっかけで戻るのですか?」
そう尋ねてみると、サラはゆっくりと顔を上げた。
「一定時間が経過すれば、自然と元の姿に戻りますよ。なので、ご心配なく」
「そうなんですね……よかった……」
私はほっと胸をなで下ろした。
同時に、自分の中である欲求が芽生えたことに気づく。
(それにしても、二人とも毛並みが良いわね。ちょっとだけ、触らせてくれないかな……)
私は、無性に目の前にいるもふもふとした生き物たちに触れたくなった。きっと、抱きしめたら温かいに違いない。
けれど、元々は人間なのだからそんなことをお願いするのは失礼に当たるのではないだろうか?
そんなことを考えていると、怪訝に思ったのかアランが声をかけてくる。
「コーデリア様。どうかなさいましたか?」
「あ、えっと……その……」
私がしどろもどろになっていると、アランは不思議そうに首を傾げた。
「あの……こんなこと言ったら失礼かもしれませんが……動物の姿になったアランさんとサラさん、すごく可愛いです!」
とうとう我慢できず、そう口走ってしまった。
ああ、言ってしまった。そう思いつつ、恐る恐る様子を窺っていると、サラがトコトコと私の前に歩いて来た。
「サラさん……?」
思わず首を傾げると、サラはおもむろに私の足に体を擦り付けてきた。
一瞬、何が起きたのかわからず私は硬直してしまう。だが、徐々にサラの柔らかな毛の感触が伝わってきて──
「ニャーン」
甘えたような鳴き声とともに、私は思わずその場で悶絶した。
「はうっ……!」
あまりの可愛さに、思考回路が停止した。
「そ、それは反則ですよ、サラさん! あ、あの……もし差し支えなければ……その、抱っこしてもよろしいですか?」
私がそう尋ねると、サラはこくりと頷く。
「ええ、お好きなだけどうぞ。コーデリア様に抱っこしてもらえるなんて、光栄でございます」
「ありがとうございます……じゃあ、遠慮なく……」
許可をもらったところで、私は恐る恐るサラを抱き上げる。
「はぁ……癒される……」
先程までの緊張はどこへやら。私は、すっかり猫姿のサラを愛でることに夢中になっていた。
その柔らかな毛に顔を埋めてみると、まるで陽だまりのような温かさを感じた。優しく頭を撫でれば、サラもゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうにしている。
その隣で、アランは呆れたようにため息をついた。
「まったく、サラさんは本当にコーデリア様のことが好きですね」
「あら? もしかして、羨ましいんですか? でも、残念ながらそれはできませんよ。だって、いくら動物の姿になったとはいえ、アランさんが同じことをしたら事案が発生してしまいますもの」
やれやれと肩をすくめるアランに向かって、サラは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「じ、事案って……相変わらず、サラさんは私に対して手厳しいですね。……早く、元の姿に戻ってしまえばいいのに」
「何か言いました?」
「いえいえ、何も。ただ、サラさんはもう少し可愛げがあっても良いのではないかと思っただけです。でないと、コーデリア様に嫌われてしまいますよ?」
「なっ!? 一体、どこが可愛げがないんですか!」
「そういうところがですよ」
顔を赤くしながら怒り出したサラを、アランは涼しい顔で受け流していた。
(喧嘩するほど仲がいい、ってことかしら……?)
などと考えつつも、私は微笑ましく二人の様子を眺めていた。
アランは何でもできる優秀な家令で、サラも仕事ぶりは真面目だし有能だ。だからこそ、互いにライバル意識のようなものを持っているのかもしれない。
「もう、アランさんはいつも余計なことばかり言って……! とにかく、私はコーデリア様に嫌われるようなことは絶対にしませんから!」
「そうですか。それなら良いのですが……」
アランはそう言うと、肩をすくめる。
私は苦笑しつつも、その場の空気を仕切り直すかのように話題を振った。
「ところで……アランさんって、犬の姿に変身するんですね。ちょっと意外でした」
そう言うと、なぜかアランは不服そうに口を尖らせた。
「一応、犬じゃなくて狼なんですけどね……」
ぼそっと呟くアランに、私は目を瞬かせる。
「ご、ごめんなさい! 今まで、あまり狼を見たことがなかったものだから、てっきり可愛いワンコかと……」
私は慌てて弁明をした。その様子がおかしかったのか、二人は顔を見合わせてくつくつと笑う。
(良かった……一先ず、仲直りできたみたい)
「ふふ、冗談ですよ。怒っていないので、安心してください。……それにしても、本当に命拾いしましたよ。コーデリア様がいなかったら、今頃どうなっていたことか」
そう言って、アランは自嘲気味に笑う。それはまるで、自分は無力だとでも言いたげな表情だった。
「いえ、そんなことはありませんよ。お二人が命をかけて守ってくださったお陰で、私は勇気を持てたんです。もし自分一人だけだったら、咄嗟に行動できなかったと思いますし……」
「コーデリア様……そう言っていただけて、大変光栄でございます。しかし、今後は二度とこのような無茶はなさらないでください。どうか、ご自分の身の安全を最優先に考えていただけると幸いです」
「ええ、わかりました」
そう答えると、アランは安心したのか笑みを浮かべて頷く。
「あ、あのー……さっきの魔物は一体どこに……?」
そんな声と共に、今までどこかに隠れていたであろうブレットがランタンを片手に近づいてきた。
「ブレットさん! ご無事だったんですね。ええと……さっきの魔物は、皆で協力して何とか倒しました!」
何となく、「自分がとどめを刺しました」と言うのは憚られたため私は咄嗟に誤魔化す。
「あ、あの魔物を……? それに、その動物たちは一体……?」
ブレットは、怪訝そうに首を傾げている。
私が事情を説明すると、彼は「なるほど、そうだったんですね」と呟く。
「まさか、従者の方たちも獣化の病に罹っていたとは……」
ブレットはアランとサラを交互に見ると、複雑そうな表情を浮かべた。
「驚かせてしまって、ごめんなさい」
サラはブレットに向かって頭を下げると、申し訳なさそうに謝る。
すると、彼はふるふると首を横に振りながら言った。
「いえ、とんでもないです! 寧ろ、助けていただいてありがとうございます!」
「──それじゃあ……魔蛍石も採取できたことですし、そろそろ帰りますか?」
少し間を置いて、アランがそう尋ねてきた。
「ええ、そうしましょう。あの……ブレットさん、色々とご協力いただき、本当にありがとうございました。お陰で、とても助かりました」
ブレットに向かってお礼を言うと、彼は「こちらこそ、お世話になりました!」と頭を下げた。
サラの言葉に、私は困惑してしまう。
幼い頃、私は魔力値を計測する水晶で判定を受けた。その際、水晶は極わずかな魔力しか検知しなかった。
最初は水晶が誤作動を起こしたのかと思い、何度も再計測をしてもらったのだが──結果は同じだった。
結局、自分が無能だという事実を突きつけられただけだったのである。
そのせいで、家族や周りの人間からはますます疎まれるようになったのを覚えている。
だから、私はそれ以来魔法を使うことを諦めたのだ。
「いや、今のは周囲に眠っている鉱石から力を借りただけであって、別に私自身の魔力を使ったわけでは……」
「ええと……多分、普通の人はそんなことはできないかと……」
アランが私の言葉を否定するように言った。
「でも、あの時確かに私は判定を──」
思わず反論しようとした私の言葉を遮るようにして、サラが再び口を開いた。
「先程、コーデリア様は『周囲に眠っている鉱石から力を借りた』と仰っていましたよね? それはつまり、自然界のマナを自在に操り体に取り込めるということです。そして──それができるのは、恐らくこの世界においてコーデリア様だけでしょう」
そこまで言い切った後、サラは再び私のほうへと向き直った。
その真剣な眼差しを受けて、私は思わず息を呑む。
「そ……そんなわけないじゃないですか!」
自分の声が徐々に荒くなっていくのを感じる。
だが、それでもなお、言葉を止めることはできなかった。
「もし、仮に私に魔法の才能があるなら、家族から見限られるようなこともなかったはずです。だから、今のは全然凄いことでもなんでもなくて……」
(──期待して裏切られるくらいなら、最初から希望なんて持たないほうがいい)
自分に秘められた才能があると思い込んで、後からやはり勘違いだったという現実を知った時の絶望感ほど辛いものはない。
だからこそ、私は今までずっと自身を必要以上に卑下してきたのだ。
最初から自分は無能だと思って諦めていれば、それ以上傷つくことがないからだ。
「だから……冗談でも、そんなこと言わないでください」
私が目を伏せると、その場を沈黙が支配する。
「し、承知いたしました。出過ぎたことを言ってしまい、申し訳ございません」
数秒ほどの沈黙の後、サラは深々と頭を下げた。
それを見て、私は慌てて彼女のそばに駆け寄る。
「あ……! いえ……謝らなければいけないのはこちらの方です。つい感情的になってしまいまして……本当にすみませんでした」
申し訳なさそうに縮こまる彼女を見ていると、罪悪感に押しつぶされそうになる。
(話題を変えないと……)
そう思い、私はアランとサラに質問を投げかける。
「そういえば、どうしてサラさんとアランさんはその姿に……?」
私は、動物の姿になった二人を改めて見てみる。
ジェイドは二足歩行だし、どちらかと言えば獣人寄りだ。けれど、二人はどう見ても完全な動物である。
そもそも、彼らは一体どうやって姿を変えているのか? それに関しても気になるところだ。
「実は、私たちも獣化の病を発症しておりまして……」
すぐにそう答えたのはアランだった。彼は、そのまま自分たちの症状を説明し始める。
「ただ、私たちの場合、他の患者とは症状の出方が違うんですよ。というのも、感情の変化によって姿が変わってしまうようなんです」
「感情の変化……?」
「はい。例えば──怒りや悲しみといった強い負の感情を抱いた時に、動物の姿へと変身してしまうんです。ちなみに、ジェイド様のように獣人に近い姿になる患者もいれば、完全に動物の姿になる患者もいます。つまり、私たちの場合は後者ですね」
アランの説明を聞いて、私はふとあることに気がついた。
「ということは、私がシルバーウルフに襲われたことが原因でアランさんとサラさんはそのような姿になってしまったということでしょうか……?」
恐る恐る尋ねると、アランは首を横に振って否定した。
「いえ、コーデリア様のせいではありません。それに、私たちは元々こうなる覚悟でコーデリア様にお仕えしているのですから」
「アランさんの言う通りです! ただ、コーデリア様には内緒にしておきたいという気持ちがあったものですから、こうして隠しておりました。ご心配をおかけして、大変申し訳ありません!」
アランとサラは深々と頭を下げる。その姿を見て、私は狼狽した。
「そんな……頭を上げてください!」
恐らく、私に心配をかけたくない一心で黙っていたのだろう。
そのせいか、二人の顔には深い後悔の念が滲み出ているように見えた。
「ちなみに、なんですけど……元の姿に戻る時は、どういったきっかけで戻るのですか?」
そう尋ねてみると、サラはゆっくりと顔を上げた。
「一定時間が経過すれば、自然と元の姿に戻りますよ。なので、ご心配なく」
「そうなんですね……よかった……」
私はほっと胸をなで下ろした。
同時に、自分の中である欲求が芽生えたことに気づく。
(それにしても、二人とも毛並みが良いわね。ちょっとだけ、触らせてくれないかな……)
私は、無性に目の前にいるもふもふとした生き物たちに触れたくなった。きっと、抱きしめたら温かいに違いない。
けれど、元々は人間なのだからそんなことをお願いするのは失礼に当たるのではないだろうか?
そんなことを考えていると、怪訝に思ったのかアランが声をかけてくる。
「コーデリア様。どうかなさいましたか?」
「あ、えっと……その……」
私がしどろもどろになっていると、アランは不思議そうに首を傾げた。
「あの……こんなこと言ったら失礼かもしれませんが……動物の姿になったアランさんとサラさん、すごく可愛いです!」
とうとう我慢できず、そう口走ってしまった。
ああ、言ってしまった。そう思いつつ、恐る恐る様子を窺っていると、サラがトコトコと私の前に歩いて来た。
「サラさん……?」
思わず首を傾げると、サラはおもむろに私の足に体を擦り付けてきた。
一瞬、何が起きたのかわからず私は硬直してしまう。だが、徐々にサラの柔らかな毛の感触が伝わってきて──
「ニャーン」
甘えたような鳴き声とともに、私は思わずその場で悶絶した。
「はうっ……!」
あまりの可愛さに、思考回路が停止した。
「そ、それは反則ですよ、サラさん! あ、あの……もし差し支えなければ……その、抱っこしてもよろしいですか?」
私がそう尋ねると、サラはこくりと頷く。
「ええ、お好きなだけどうぞ。コーデリア様に抱っこしてもらえるなんて、光栄でございます」
「ありがとうございます……じゃあ、遠慮なく……」
許可をもらったところで、私は恐る恐るサラを抱き上げる。
「はぁ……癒される……」
先程までの緊張はどこへやら。私は、すっかり猫姿のサラを愛でることに夢中になっていた。
その柔らかな毛に顔を埋めてみると、まるで陽だまりのような温かさを感じた。優しく頭を撫でれば、サラもゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうにしている。
その隣で、アランは呆れたようにため息をついた。
「まったく、サラさんは本当にコーデリア様のことが好きですね」
「あら? もしかして、羨ましいんですか? でも、残念ながらそれはできませんよ。だって、いくら動物の姿になったとはいえ、アランさんが同じことをしたら事案が発生してしまいますもの」
やれやれと肩をすくめるアランに向かって、サラは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「じ、事案って……相変わらず、サラさんは私に対して手厳しいですね。……早く、元の姿に戻ってしまえばいいのに」
「何か言いました?」
「いえいえ、何も。ただ、サラさんはもう少し可愛げがあっても良いのではないかと思っただけです。でないと、コーデリア様に嫌われてしまいますよ?」
「なっ!? 一体、どこが可愛げがないんですか!」
「そういうところがですよ」
顔を赤くしながら怒り出したサラを、アランは涼しい顔で受け流していた。
(喧嘩するほど仲がいい、ってことかしら……?)
などと考えつつも、私は微笑ましく二人の様子を眺めていた。
アランは何でもできる優秀な家令で、サラも仕事ぶりは真面目だし有能だ。だからこそ、互いにライバル意識のようなものを持っているのかもしれない。
「もう、アランさんはいつも余計なことばかり言って……! とにかく、私はコーデリア様に嫌われるようなことは絶対にしませんから!」
「そうですか。それなら良いのですが……」
アランはそう言うと、肩をすくめる。
私は苦笑しつつも、その場の空気を仕切り直すかのように話題を振った。
「ところで……アランさんって、犬の姿に変身するんですね。ちょっと意外でした」
そう言うと、なぜかアランは不服そうに口を尖らせた。
「一応、犬じゃなくて狼なんですけどね……」
ぼそっと呟くアランに、私は目を瞬かせる。
「ご、ごめんなさい! 今まで、あまり狼を見たことがなかったものだから、てっきり可愛いワンコかと……」
私は慌てて弁明をした。その様子がおかしかったのか、二人は顔を見合わせてくつくつと笑う。
(良かった……一先ず、仲直りできたみたい)
「ふふ、冗談ですよ。怒っていないので、安心してください。……それにしても、本当に命拾いしましたよ。コーデリア様がいなかったら、今頃どうなっていたことか」
そう言って、アランは自嘲気味に笑う。それはまるで、自分は無力だとでも言いたげな表情だった。
「いえ、そんなことはありませんよ。お二人が命をかけて守ってくださったお陰で、私は勇気を持てたんです。もし自分一人だけだったら、咄嗟に行動できなかったと思いますし……」
「コーデリア様……そう言っていただけて、大変光栄でございます。しかし、今後は二度とこのような無茶はなさらないでください。どうか、ご自分の身の安全を最優先に考えていただけると幸いです」
「ええ、わかりました」
そう答えると、アランは安心したのか笑みを浮かべて頷く。
「あ、あのー……さっきの魔物は一体どこに……?」
そんな声と共に、今までどこかに隠れていたであろうブレットがランタンを片手に近づいてきた。
「ブレットさん! ご無事だったんですね。ええと……さっきの魔物は、皆で協力して何とか倒しました!」
何となく、「自分がとどめを刺しました」と言うのは憚られたため私は咄嗟に誤魔化す。
「あ、あの魔物を……? それに、その動物たちは一体……?」
ブレットは、怪訝そうに首を傾げている。
私が事情を説明すると、彼は「なるほど、そうだったんですね」と呟く。
「まさか、従者の方たちも獣化の病に罹っていたとは……」
ブレットはアランとサラを交互に見ると、複雑そうな表情を浮かべた。
「驚かせてしまって、ごめんなさい」
サラはブレットに向かって頭を下げると、申し訳なさそうに謝る。
すると、彼はふるふると首を横に振りながら言った。
「いえ、とんでもないです! 寧ろ、助けていただいてありがとうございます!」
「──それじゃあ……魔蛍石も採取できたことですし、そろそろ帰りますか?」
少し間を置いて、アランがそう尋ねてきた。
「ええ、そうしましょう。あの……ブレットさん、色々とご協力いただき、本当にありがとうございました。お陰で、とても助かりました」
ブレットに向かってお礼を言うと、彼は「こちらこそ、お世話になりました!」と頭を下げた。
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復讐はしない。——ただ「嘘」を回収する。 礼儀と帳簿で宮廷の偽りを詰ませる“監査官令嬢”の華麗なる逆転劇。
王家献上宝飾の紛失事件で濡れ衣を着せられ、家族にも婚約者にも捨てられて追放された子爵家次女リリア。 数年後、彼女は王妃直属の「臨時監査官」として、再び宮廷の土を踏む。
そこで待っていたのは、「慈愛の聖女」として崇められる姉セシリアと、彼女に心酔する愚かな貴族たち。しかし、姉の栄光の裏には、横領、洗脳、そして国を揺るがす「偽造魔石」の陰謀が隠されていた。
「復讐? いいえ、これは正当な監査です」
リリアは感情に流されず、帳簿と証拠、そして真実を映す「プリズム」を武器に、姉が築き上げた嘘の城を一枚ずつ剥がしていく。 孤立無援の彼女を支えるのは、氷のように冷徹な宰相補佐レオンハルトと、豪快な近衛騎士団長カミュ。 やがてリリアは、国中を巻き込んだ姉の洗脳計画を打ち砕き、自分自身の幸せと、不器用な宰相補佐からの溺愛を手に入れる——。