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4話 優しい付き人
しおりを挟む「…エリーゼ、大丈夫か?」
泣き止んではいるが、表情の曇るエリーゼを心配して、前の席に座っているルシファーが声をかけた。
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、ルシファー。
…ずっと覚悟して生きてきたつもりだったのに、最初からこれじゃだめね。ほんとに情けないわ」
エリーゼはそう言いながら、両手で自分の頬をパンパンッと叩く。
ルシファーは自分の前でくらい強がって欲しくなかった。
エリーゼが本当はこわがりで臆病なただの女の子だということを知っているから。
でも王女としての信念と根っからの真面目さでなんとか自分を奮い立たせているエリーゼを見ていると、ルシファーはやるせなくなった。
「こんな時くらい泣けばいいさ。俺、侍女になるために化粧の仕方覚えたんだぜ?崩れても直してやるから心配すんな」
ルシファーが得意げに胸を張って言うと、エリーゼは目を丸くして驚いた。
「何それ?ルシファーがお化粧⁉︎ふふふっおかしい…ふふふっ」
「だろ?あとは女の服の着付けやら覚えるの大変だったんだぜ?」
「えっ?着付け⁉︎ルシファーがドレス着せてくれるつもりなの?」
「そりゃ侍女なんだから当然だろ?」
「や、やめてよ!そんなのダメダメ!お化粧だって恥ずかしいのに着付けなんてダメに決まってるじゃない!」
「ははは、嘘に決まってるだろ。上手く理由つけて向こうの侍女にやってもらうさ。真に受けるなよ、相変わらず生真面目なやつだなぁ」
「な、何よ!真面目のどこが悪いのよ!」
「はいはい、すいませんでしたーっと」
「全然反省してないわね…」
エリーゼはプンプン怒ったが、そうしているうちにいつの間にか気持ちは明るくなって、暗い考えが吹き飛んでいたことに気付き、ルシファーなりの気遣いを感じると心が温かくなった。
(ルシファー…あなたを連れて来てしまってごめんなさい。私から解放してあげたかったのに…出来なかった…幸せになって貰いたいのに…ルシファー、私はあなたを愛してはいけないのよ…この思いはもうとうに仕舞い込んだはずなのに、今さら何を考えてるの…)
一瞬翳った表情を見逃さなかったルシファーは、エリーゼの考えていることが大体検討が付いた。
「エリーゼ…俺を連れて来てくれてありがとう。俺はこうしていることが一番幸せなんだ。だからエリーゼは何も気にするな。俺は俺の好きにしてるだけなんだからな」
全部見透かされて、先手を打たれてしまったエリーゼは何も言えなくなってしまった。
黙っているエリーゼに、ルシファーは真面目な顔で話し出した。
「これ、憶えてるか?」
ルシファーは首から下げたペンダントの先を服の中から出して見せた。
「…それは、ルシファーの宝物、亡くなったお母様との約束で肌身離さず持ってないとダメなのよね?」
「そう」
ペンダントの先にはダイヤモンドのような透明に輝く石が付いていた。
ルシファーはバリスタ国の辺境の地で母と2人で暮らしていたそうだ。
しかし5歳くらいの時に母が病気で亡くなり、近所の人が1人でいるルシファーに気づいて、孤児院に預けられることになったらしい。
「それ、お母さんがくれた大切なものなんでしょ?あっちに行っても無くさないようにね?」
「…そうだな」
ルシファーはそのペンダントをじっと眺めたあと、ぎゅっと握りしめた。
「エリーゼ…これからもずっと一緒にいることになるだろうから、…俺の秘密、教えておくよ」
ルシファーが真剣な目で見つめてきたのでエリーゼはドキッとする。
いつも戯けてばかりのルシファーだったから、エリーゼは少したじろいだ。
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