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16話 何も言わずに

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 朝食の場所に案内されると、先にフィリップは大きなテーブルの席に着いて、エリーゼが来るのを待っていてくれたようだった。

「陛下、おはようございます。大変お待たせしてしまい、申し訳ございません」

 エリーゼは慌てて謝ると、フィリップはすっと席を立ち、そのそばへ来て、そっと椅子を引き、座るように促した。

「いや、たまたま早く来てしまっただけだ。気にするな。さぁ、座って。朝食にしよう」

 フィリップが女性に慣れていないというのは本当らしく、動きと表情はどこかぎこちないが、その気遣いと優しさは充分に伝わってきた。

「はい、ありがとうございます」

 と、エリーゼは微笑んでその上質な椅子に腰掛けた。

「それより、残念だったな、せっかく仲良くなれそうだったのに」

 自分の席に戻りながら、フィリップは何気なく雑談を始める。

 しかしエリーゼはフィリップが何のことを言っているのかわからなくて、きょとんとし、「え?」と言いながら首を傾げた。

 それを見てフィリップもなぜ伝わらなかったのだろうと不思議そうにした。

「君の従者だよ」

「え?彼がどうかしましたか?」

 エリーゼのさらに深まる不可解そうな顔に、フィリップはとぼけているのか?と思いながら詳しく話した。

「いや、昨晩遅くにバリスタへ帰ってしまっただろう?」

ガタンッと思わずエリーゼは立ち上がり小さく「えっ⁉︎」と叫んだ。

「どうした?…まさか、知らなかったのか?」

「え、ええ…でも、そうですか。…それなら…よかったです。彼は私のそばにいない方がきっと幸せになれますから…」

 エリーゼはそう言って力が抜けたようにすとん、と椅子に座った。

「ん?何か言ったか?」

 テーブルが大きくて離れた席ということもあったが、エリーゼの声があまりに小さな声だったので、フィリップは何も聞き取ることはできなかった。

「…帰りの馬車や宿の手配など、ご迷惑をお掛けしてしまったのでしょうか…?」

「そんなことは気にしなくていい。帰りたくなったらいつでも言うようにこちらが言ったのだからな」

「申し訳ございません。…ありがとうございます」

 エリーゼはそれきり黙ってしまった。
 今は何も話せる気がしなかった。
 食べ物を口に入れても、本来格別に美味しいのであろう豪華な料理の数々が、今は砂を噛んだような味しかしなかった。
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