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62話 ニコラスの悩み
しおりを挟む「これは、…すごい。ああ、すまない、司教殿。
あなたのお考えももちろん素晴らしいと思っている。しかし、ミリア様のようなお考えもあるのだなぁと、驚きました。では競争はしても良い、と?」
「…して良いか悪いか、ではなく、大なり小なり何故かしてしまう、それが人なのではないでしょうか?」
「なるほど…」
ニコラスは考えていた。
ここ最近、カルーア王国は徐々に国力が落ち、衰退の一途を辿っている気がしていた。
それはまさに今マルセイユ司教が言った、欲や悪意の湧く競争を捨てろと説かれたことに深く関わっていて、
バモント教の信者が増えるに連れて、切磋琢磨して働く人間が減り、物や金の動きが緩慢になり、良い物が生み出されることもなく、
それでも国民は焦りもせず、日々幸せな顔でぼうっとしている。
国民の幸せな顔を見れば、国をいずれ背負う者として、それも良いのかと思ったりもしたが、
生産性が落ち、国力が下がると、いつ他国に狙われてもおかしくないし、狙われた時に争う気持ちがなければ、一瞬にしてこの国は奪われるだろう。
本当にそれでいいのか?
この信仰は実は危ないのではないのか?
ニコラスは迷っていたが、今のミラの話を聞いて、自分の気持ちが固まった。
なんとかして、このバモント教を追い出す必要があるな…
ニコラスはそう思うと、マルセイユ司教に今気付かれるわけにいかないため、にこやかな表情をする。
「まぁ、世界には色々な考えがあるという事だな。マルセイユ司教殿、話を奪って申し訳ない。君から何かまだ話したいことはあるか?」
「…いえ、新しいお考えをお聞かせ頂き、大変勉強になりました。ありがとうございます。
長旅の後でお疲れでしょうから、私はこれで下がらせて頂きます。では、失礼を」
そう言って礼をすると、司教は会場を後にした。
3人に背を向け、会場の扉に向かうその表情は、にこやかなはずなのに、
目の奥はどこかぞっとするような冷え冷えと凍てついた眼差しで、真っ直ぐ前を見つめて歩いていた。
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