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65話 カルーアの茶
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——それから、3日ほどかけて、カルーア王国の色んな土地を、観光も兼ね視察して回った。
アレスは思っていた。
10年程前に来た時と、何一つ変わらないな…
いや、むしろ進化を恐れて退化を始めているような場所もある。
これはこれで良くもあるのだろう。
しかし、他国がそうでない以上、世界から取り残されるのは必至。
その時、どうなるのか…
…そうか、だからバモント教は全世界を巻き込もうとしているのか。
そうでないと、成り立たないから。
しかし全世界に欲と悪意を捨てることを説いたところで、必ずそれに背く者はいる。
その者たちが力をつけたら、ひっくり返されこともあるだろう。
…どこまでいっても、世界中の人間をひとつの物差しに縛り付けることなどできるはずもない。
ならば、それぞれがそれなりの人間らしい悪意を持ち、節度をもって調和を築くしかないのではないか?
…難しい問題だな。
と、カルーア王国を見れば見るほど考えさせられた。
——全ての視察を終え、滞在5日目の夜、最後の宴の立食パーティーにアレスとミラは出席していた。
「今日で最後とは本当に早いものだ。急に寂しくなるな」
ニコラスがアレスに近づいてきて、声をかけた。
「こちらこそ、色々ご案内してくださって、お手間をおかけ致しました。本当に楽しい時間をありがとうございます」
アレスは美しく微笑んで礼を言った。
「いやいや、楽しんでくれたなら良かったよ。
最後に、良かったら飲んで貰いたい茶があるんだ。
カルーアでだけ採れる美味い茶でな?
冷やして飲むのが美味いんだ。
ああ、マリアンヌ!こっちだ!」
そう言って手を挙げたニコラスのところへ、汗のかいた冷たそうなグラスを2個持ったマリアンヌが近づいて来る。
このカルーアは暖かい国で、今日の立食パーティーは外で開かれていたため、
大きな傘が至る所に用意され影にはなっているが、それでも喉が渇いて、お酒を嗜む者には最適のパーティーだった。
しかし、アレスもミラも、あまりお酒は飲まないので、それを見ていたニコラスが気を利かせて、冷たいカルーア特産の茶を用意してくれたのだ。
おちゃらけてそうに見えるが、ニコラスは良く目配りの効く優秀な皇太子だった。
「お待たせ致しました。さぁ、どうぞお召し上がりください」
そう言って、マリアンヌはアレスとミラにグラスを差し出した。
「ありがとうございます」
「頂きます」
そう言って、2人は渇いた喉に茶を流し込んだ。
「…ああ、これは、本当に美味しいですね!
渋みもなくて、柔らかい味わいだ。帰る時に少し買わせて頂きたい」
「ええ、もちろん。ですが、お土産にたくさんご用意致しましたから、ぜひそちらをお持ち帰りくださいな」
と、マリアンヌはアレスに満面の微笑みを向けた。
その時
バタンッ
アレスは後ろで聞こえたその音に、はっと振り返ると、…ミラが倒れて、喉の下の方を抑えながらうずくまっていた!
アレスは思っていた。
10年程前に来た時と、何一つ変わらないな…
いや、むしろ進化を恐れて退化を始めているような場所もある。
これはこれで良くもあるのだろう。
しかし、他国がそうでない以上、世界から取り残されるのは必至。
その時、どうなるのか…
…そうか、だからバモント教は全世界を巻き込もうとしているのか。
そうでないと、成り立たないから。
しかし全世界に欲と悪意を捨てることを説いたところで、必ずそれに背く者はいる。
その者たちが力をつけたら、ひっくり返されこともあるだろう。
…どこまでいっても、世界中の人間をひとつの物差しに縛り付けることなどできるはずもない。
ならば、それぞれがそれなりの人間らしい悪意を持ち、節度をもって調和を築くしかないのではないか?
…難しい問題だな。
と、カルーア王国を見れば見るほど考えさせられた。
——全ての視察を終え、滞在5日目の夜、最後の宴の立食パーティーにアレスとミラは出席していた。
「今日で最後とは本当に早いものだ。急に寂しくなるな」
ニコラスがアレスに近づいてきて、声をかけた。
「こちらこそ、色々ご案内してくださって、お手間をおかけ致しました。本当に楽しい時間をありがとうございます」
アレスは美しく微笑んで礼を言った。
「いやいや、楽しんでくれたなら良かったよ。
最後に、良かったら飲んで貰いたい茶があるんだ。
カルーアでだけ採れる美味い茶でな?
冷やして飲むのが美味いんだ。
ああ、マリアンヌ!こっちだ!」
そう言って手を挙げたニコラスのところへ、汗のかいた冷たそうなグラスを2個持ったマリアンヌが近づいて来る。
このカルーアは暖かい国で、今日の立食パーティーは外で開かれていたため、
大きな傘が至る所に用意され影にはなっているが、それでも喉が渇いて、お酒を嗜む者には最適のパーティーだった。
しかし、アレスもミラも、あまりお酒は飲まないので、それを見ていたニコラスが気を利かせて、冷たいカルーア特産の茶を用意してくれたのだ。
おちゃらけてそうに見えるが、ニコラスは良く目配りの効く優秀な皇太子だった。
「お待たせ致しました。さぁ、どうぞお召し上がりください」
そう言って、マリアンヌはアレスとミラにグラスを差し出した。
「ありがとうございます」
「頂きます」
そう言って、2人は渇いた喉に茶を流し込んだ。
「…ああ、これは、本当に美味しいですね!
渋みもなくて、柔らかい味わいだ。帰る時に少し買わせて頂きたい」
「ええ、もちろん。ですが、お土産にたくさんご用意致しましたから、ぜひそちらをお持ち帰りくださいな」
と、マリアンヌはアレスに満面の微笑みを向けた。
その時
バタンッ
アレスは後ろで聞こえたその音に、はっと振り返ると、…ミラが倒れて、喉の下の方を抑えながらうずくまっていた!
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