断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴

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27 辺境都市リレイシル

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「アリア。可哀想じゃないのか?千年って」

 上から青いドラゴンに同情する声が降ってきた。私は煙管キセルを咥え、紫煙を吐き、歩き始める。

「白いドラゴンがいるから大丈夫。青いのは何故か私をドラゴンと同種族と見ている。それはとても危険なことだと知らなければならない。ドラゴンを敵視して死を与える人がいることも知らなければならない」

 そして、無言のまま土と岩の場所を抜けて、線引でもされたかのように茶色の世界から緑深い世界が目の前に広がっていた。
 身体強化を施し足に力を込め、地面を思いっきり蹴る。

 そのまま一気に森を駆ける。目の前に邪魔なモノがあれば排除する。ただそれだけ。しかし、私が魔術を発動する前に対象物が真っ二つに割れて倒れていった。
 えー。あの肉切り包丁って斬撃が飛ぶものだったの?私の横を並走する人物に信じられないという視線を向ける。なんで、これだけの身体能力があって青いドラゴンに負けたの?呪いの所為?



 日が傾きオレンジの光が辺りを照らし始めたころ、竜の森を抜けることができた。遠くの方には高い塀で囲まれた街が見える。
 ここからは歩いて行かなければならない。普通の人は私達が走って来たようなスピードで駆けることはできないから、それは怪しんでくれと言わんばかりの行動だ。

 隣の彼を見ると息を切らすこともなく、私に普通に付いて来た。本当になんであんな怪我をすることになったのか、不思議でならない。

「ここからは仮面つけてね。あとコレも」

 私は彼に向かって黒い手袋を差し出す。彼の左手の先まで鱗紋様が見られるので、それを隠すためのものをフェーリトゥールに作ってもらった。これにも祝福が施されているのだ。

 手袋を受け取った彼はその手にはめる。左手には相変わらず蠢く鱗があるが、右手にはそれが見られない。私が治した方の手だ。私は治した手にも呪いがそのうち浸蝕するものだと思っていたのだが、未だに綺麗なものだった。

 そして、私の目の前には黒い仮面を付けた赤い髪の怪しい人物が出来上がってしまった。私、コレの横を歩かなければならないのか。捕まらないといいなぁ。

 歩きながら煙管キセルを吹かす。外套も作ってもらえばよかったと後悔しながら。


 外門の検問は普通に通れた。·····何故か、検問を担当している門兵に凄く怯えられてしまった。私の膨大な魔力は外に出ないようにしていたはずなのにおかしいな。

 ここリレイシルは辺境都市であり、竜の森を監視するという役割を与えられた街だ。魔素が多く漂う森なので、入れる人は限られてくるのだが、豊富な資源と希少種の魔物が存在していることから、冒険者達に人気な場所の一つである。
 そうすると、その冒険者達を食い物にしようと商売する者達が集まり、国の端にも関わらず活気がある街となっている。

 人々が行き交う中、冒険者ギルドを探しながら歩いて行く。さっさと冒険者ギルドで登録を済ませて出ていかなければならない。今の時期は日が長くなっているが、日が完全に沈めば外門が閉じられ、出入りが不可能となってしまう。

 ああ、どうしても人々の視線を集めてしまう。絶対に隣で歩いている怪しい人物の所為だ。

 冒険者ギルドは思っていたより早く見つけられた。竜の森側の門の近くの広場に大きく建物を構えていた。
 入口には剣と盾のマークの看板が掲げられている。冒険者ギルドとして共通のマークだ。
 その扉を開けて入ると、今の時間帯は丁度今日の成果を報告し換金している冒険者達でごった返していた。しまったなぁ。門が閉まるまでに手続きが終わるだろうか。

 いくつかある列の一つに並んで順番を待っているけど、ここでも視線を集めてしまっている。時間があるときにフェーリトゥールに外套を作って貰おうと心に決めた。

「ど、どの様なご要件でs····しょうか」

 やっと順番が巡ってきたけど、受付けの女性に凄くビビられてしまっている。やっぱり隣の人物の所為か!

「冒険者の登録をお願いしたい」

「は、はい。こちらの用紙に記入をお…お願いしましゅっ」

 嚙みながら2枚の用紙を渡された。2枚?私と彼の分か。そう言えば、彼に登録するか聞いていなかったな。チラリと視線だけで横に向けると彼も用紙に記入をしていた。ん?今までどういう身分でここまで旅をしてきたんだ?

 いや、私には関係のないことだ。さっさと記入を終えてしまおう。名前の記入欄で“リ”と書いてしまってから気がついた。私、本名を書こうとしていなかった?危ない危ない。
 少し考えて“リゼ”と記入した。
 出身地?空欄でいいか。職業·····魔術師かな?それを書いた用紙を受け付けの女性に手渡す。女性は怯えながら受け取り『少々お待ちください』と青い顔をしなが下を向いて作業を始めた。

 うーん。ここまで怯えさせるなんて、問題だ。早急に外套を作ってもらったほうがいいのか思案していると、横から影が落ちてきた。彼がいる反対側を見てみれば、銀髪の長身の男性がキラキラした碧眼で私を見下ろしていた。
 あ、やばい。私は距離をとろうと足を動かす前に捕獲されてしまった。
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