断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴

文字の大きさ
29 / 72

29 私は悪役じゃないよ

しおりを挟む
 受付けの女性がガタガタと震え出した。震える暇があるなら手を動かせ!

「アリア。魔力が漏れている」

 そう、指摘され溢れていた魔力を押し込める。落ち着く為に煙管キセルを取り出し火をつける。

「で、いつ終わるの?」

「も、もう少し·····です」

 私は魔力を含んだ煙を吐き出す。

「もう少しね·····」

 大した事は書いていないのに随分時間が掛かるのねっと口から出そうになったのを飲み込む。私は悪役じゃないよ。絶対に悪役じゃないから!

 ちっ。この分じゃ閉門してしまう。ここで宿を取るつもりなんてなかったのに。

「こちらです」

 受付けの女性がチェーンに2枚のプレートが付いた物を差し出してきた。

「あ、あのs····説明を「必要ない」」

 私は受付けの女性の言葉をぶった切る。

「時間が惜しいからいい」

 そう言って私はカウンターに背を向け歩き出す。思ったより時間がかかってしまった。後どれぐらいで門が閉まってしまうのだろう。
 早足で歩いている私の後ろで愚兄が『なんでお前が姫をアリアって呼んでいるんだ』と言っており、私の横で彼が『貴様には関係ないだろ』なんて言っている。どうでも良いことを一々言わなくてもいいのではないのだろうか。

 冒険者ギルドの出入り口の扉に手をかけようとしたところで、外から内側に扉が勢いよく開いた。もうちょっとで開く扉にぶつかるところだった。
 いや、横から引っ張られなければぶつかっていただろう。

 2人の冒険者らしき人たちが慌てて入ってくる。何かあったのだろうか。その後ろから両側から支えられながら怪我をしている人も入ってきた。応急手当はされているようだが、頭に巻いてある包帯からは血が滲んできていた。ここに来るよりも、何処かで休めばいいのにと思っていると、その人物の緑の目と合った。

「あ!あんたたちだ。そうだろう?」

 私と隣の彼に視線を交互に移動させ、怪我をしている男性が言った。あちらこちらに傷や火傷が生々しく体に刻み込まれ、応急手当しかされていないので、血が滲み火傷には何かしらの軟膏が塗られたままの状態で私達の側まで来ようとしていた。しかし、支えがないと立つのもままらないのか崩れ落ちてしまった。

「頼む助けてくれ」

 ん?なんのこと?なんで初対面でそんなことを言われなければならないのか。

「まだ、キマイラがいるんだ。仲間がまだ戦っているんだ。頼む。助けてくれ」

 私は首を傾げてしまう。キマイラ?いや、キマイラがどういうモノかは知っている。ライオンとヤギと蛇のMIXだ。しかし、なぜ、私に助けてと言ってくるのか?

「なぜ、助けなければならない?」

 そう、満身創痍の男性に尋ねると唖然として表情で喘ぐように言葉を漏らした。

「な、なぜって、キマイラを二体倒して俺たちを助けてくれたじゃないか」

 キマイラを倒した?いつ?記憶を探ってみるけど、全く覚えがない。隣の彼を仰ぎ見ると

「竜の森を抜ける手前で2体倒した」

 え?私は全くそのような事があったとは記憶してない。ぶっちゃけ肉が美味しくない魔物には興味がない。きっと無意識で倒したのだろう。しかし、目の前で懇願している人の仲間を助けるかと言えば否だ。私は暇ではない。というか面倒だ。

「悪いのだけど。急いでいるから、他を当たってほ······」

 欲しいと言おうとしている私の耳にドンドンドンドンと低い太鼓の音が聞こえてきた。門の閉門の合図だ。間に合わなかった。ここで宿を取る予定ではなかったのに、思い通りに事が運ばない苛立ちを表面にはなるべく出さないようにして断る。

「他を当たれ」

 少し、声が低く出てしまったような気もするけどそれは仕方がない。満身創痍の人物の横を通り過ぎようとすれば、足を掴まれてしまった。

「頼む」

 懇願する人物の掴んだ手を振り払おうとする前に、その人物が消えた。いや、建物の壁に激突していた。

「アリアに触るな」
「なに私の姫に勝手に触れているのかな」

 あ、けが人に追い打ちをするように攻撃してはいけないと思う。
 隣の彼が掴んだ手を蹴り上げ、愚兄その3が魔術で飛ばしたのだが、飛ばされた本人は傷口が開き、倒れている。まだ、意識はあるようだ。

 私は倒れた人物に近づき、側にしゃがみ込む。そして、手をかざし止血程度に治癒の魔術を施した。

「悪いのだけど、私は登録したばかりで、Fランクなの」

 そう言って、先程もらったばかりのチェーンに付けられたタグを見せる。Fランクを示す鉄色のタグだ。

「だから他を当たって?」

 それを見た目の前の男性は信じられないという目で私を見てきた。私は立ち上がり今度こそ冒険者ギルドの外に出る。
 ああ、今晩泊まるところを探さないといけないのかー。
 煙管キセルから伸びる煙を見上げながら、途方に暮れるのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。  しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。  無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。  『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。 【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

私は聖女じゃありませんから〜ただのパン屋の娘です〜

白雲八鈴
恋愛
 パン屋の娘の私が店の裏口の路地で倒れている人にパンを施したら、なつかれてしまった。  俺の聖女になってくれ?本物の聖女様に頼めばいい。それは殺されるから無理?いや、私は聖女じゃないし、ただのパン屋の娘だ。  私、何かに巻き込まれている?最悪なんだけど? *主人公の女性は口が悪いです。 *番とは呪いだと思いませんかと同じ世界観です。本編を読んでいなくても問題ありません。 *誤字脱字は程々にあります。 *小説家になろう様にも投稿させていただいております。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...