断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴

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31 やっぱり気になるよね

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「あのクロス義兄様がそのような状態にあったということは、聖女に近づくことが大変危険なことだと推察します」

「そうだね。じゃ、キマイラを倒したら領地に戻るよ。姫も一緒に帰るでしょ?」

 ん?キマイラを倒す?

「キマイラ?」

「そうそう、今回受けた依頼は祠から5頭のキマイラが出てきて暴れているから討伐して欲しいと依頼されたんだ」

「祠?もしかして··········」

 聖女がココでも封印の要を持ち去って行った?

「ここも封印の祠があったんだよ。幾度か来たことはあったけど全く知らなかった。一体何処から情報を得ているのか」

 多分乙女ゲームのイベントだろう。私は全くもって知らないけれど。
 というか愚兄その3。依頼を受けているならサッサと討伐に行け!あの満身創痍の人すごく困っていたじゃないか。

「愚兄。その依頼を受けているのにここで呑気に食事をしているのはなぜ?」

「それは勿論。姫がいるなら姫が最優先になるよね。ああ、討伐は先にアレンが行っているから大丈夫」

 アレン·····愚兄その3の侍従だ。だけど、いつも良いように使われている可哀想な人なのだ。今回もお前一人で行って来いとか言われたのだろう。

「それ、愚兄が受けた依頼ならアレンが行くのは違うと思う。今からでも行ってくるといい。というか、早急に行け」

「えー。凄く久しぶりに会ったのに食事ぐらい一緒にしてもいいよね。それよりも·····」

 愚兄その3の視線は私の隣に向けられた。仮面を被った怪しい人物にだ。

「こいつは誰なんだ?周りにカティーしか置かなかった姫の隣にいるなんておかしいよな」

 愚兄その3、フォークで人は指してはなりませんよ。
 微妙にいい方を変えてきたなぁ。やっぱり気になるよね。

 まぁ、カティーしか側に置かなかったのは、カティーがまともだったからだ。逆に言えばカティーだけが私を私として見てくれたからだ。

 しかし、誰っと問われてもどう答えるべきか。元の身分的は天と地ほどの差があるけど、本人は抹消したと言っているから平民?
 名前をそのまま言うと面倒なことになりかねないし·····うん。そのまま言おう。

「怪我しているのを拾っただけ」

「はぁ。姫がお人好しなのはわかるけど、毎回よくわからないモノを拾っては駄目だと何度も言っているよね」

 確かにカティーからも家族からもよく言われたけど、そんなに変なモノは拾ってきてはいない。·······はず。

「よく分からない者ではないよ。血筋的には私達より高貴なのは確か。ただ訳あり」

 そう、色々訳あり。フェーリトゥールに“人か?”と言われるほどの訳あり。

「·······」

 愚兄その3は仮面の怪しい人物をジッと観察している。何処の者か記憶から照らし合わせているのだろう。けれど、見た目の情報は2メルメートルと大柄な人物で赤い髪というものしかない。
 やはり、記憶の中に該当する人物がいなかったようで、ため息と共に首を横に振っている。

「領地まで一緒に戻るからいいか」

 なんて独り言が聞こえてきたので、そこはキッパリと否定しておく。

「私は一旦王都に寄ってから領地に向かう予定なので、愚兄とは別行動です」

「え?なんで?」

 さも、私と一緒に行動するのが当然のだろうと言う雰囲気を醸し出すのはやめてほしい。愚兄たちと共に行動すると私が精神的に疲れてしまうから嫌だ。
 王都に向かうのはやはり今回の事が気になったのが一番なのだけど、2箇所の領地が人が住めなくなったというのが解せ無い。情報を得るにはやはり王都に向かうのが一番いいのだ。

「王都には気になることがあるので、確認の為にいくの。それから、私が話した聖女の事を前オヴァール辺境伯爵夫人に伝えて欲しい。今回の命令に一枚噛んでいるのでしょ?」

 すると、愚兄その3は眉を潜め私を観察するように眺める。

「なんでそんなに他人行儀なんだ?普通にお祖母様と言えばいいだろう?」

「貴族位は剥奪されていますので、そこは線引させていただきます」

「クロス叔父上は義兄と呼んでいるのに?」

「本人の行動には色々問題があるけど、カティーには幸せになって欲しいので、という意味を込めて」

 行動的には問題があるけど、今回の事は例外として、カティーの事を一番に考えてくれているのは確か。

 魅了されていたときのことは覚えているらしく、義兄クロスはとてもとても落ち込んでいた。
 カティーは義兄クロスに対してオヴァール家の四男という以外の感情は持ち合わせてないので慰めてはやらなかったけど。

 まぁ、私は嫌われているので、私が『義兄あに』と呼ぶと悪態をつこうとしているけど、カティーがいる手前そこまで邪険にはできないとうジレンマを垣間見るのが面白いのもある。

「はぁ。お祖母様には報告をしておくよ。アレンにそろそろ怒られそうだから、行って来るけど、姫。」

 愚兄その3が神妙な顔つきで呼びかけて来た。

「なに?」

「泊まるなら、中央通りの『メローラヒュッテ』なら大丈夫だと思うよ」

 中央通り、覚えておこう。きっと愚兄その3もそこに泊まる予定なのだろう。

「そう、ありがとう」

「姫に褒められた」

 愚兄その3は頬を染めながら笑った。可愛くないし、周りがキャーキャーうるさい。

「褒めてないし、さっさと行け!」

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