断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴

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41 この空間が心地よい

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 日が畑に差し込み、私は日課の畑の水やりをする。やはり、魔素を多く含んだ土は育ちがいい。3日前に種を蒔いた物が芽を出していた。

 肺に満たした煙を吐き出す。心做こころなしか体が軽い気がする。やはり、昨日大量に魔力を消費したことで体にかかる負担が減ったのだろう。
 しかし、困ったものだ。いったいどれ程まで魔力が増え続けるのだろうか。本当に人がいる町で暮らせないところまで行ってしまうのではないのだろうか。

 水やりが終わったので家に入ろうと振り返れば、赤い髪の隙間から、鱗紋様が蠢いている彼が私を見下ろしていた。
 魔王様ちょっと距離が近い。

 私はそのまま足を家の方に向ける。
 今日の朝の夢は本当に何だったのだろうか?爆裂式苦無が何故か頭から離れない。あの時は確か普通に魔術で応戦したはずだった。なのに夢ではその時手に入れていなかった、爆裂式苦無を手にしようとしていた。
 空間の中に手を差し込む。今現在、爆裂式苦無は3本ある。これは使い捨ての魔物の足止めに使うために用意したものだ。

 一本取り出してみる。これを受け取った時と変わらない見た目はただの苦無クナイだ。
 何だろう。2日続けて聖騎士団にいた頃の夢を見るなんておかしい。エルグランのスタンピードに、予想しなかった魔物の出現。そして、足止めに使うための苦無を無意識下で取り出そうとしていた。

 はぁ。わからない。わからないがこれは何か対策を取っておいた方がいい。こういう意味が無いようで意味がある夢に助けられたことは幾度かあった。

「アリア、どうかしたのか?」

 斜め上から声が降ってきた。

「別に、何でもない」

 そう言って、苦無を空間に差し込んで仕舞う。が、その腕を掴まれた。

「アリア、『何でもない』じゃないだろ?」

 私は立ち止まる。亜空間収納に入れた手を掴まれるのはとても困るのだけど。

「何か気になる事があるのか?」

 咥えている煙管キセルを左手で持ち、煙を吐き出す。そして、斜め上を仰ぎ見た。

「亜空間収納に入れた手を掴まれるのはとても困る。それからただ単に夢見が悪かっただけ」

 右手は放されたけど、何故が手を繋がれてしまった。意味がわからない。

「何この手?」

「アリアが寂しくないように」

 本気で意味がわからない。私が寂しい?

「寂しくなんてないし」

 そう言って私は家に戻って行った。


 キッチンに立った私は朝食の準備をしながら、アイスを作る準備も平行して行う。 

 ンモーモーという家畜用に改良された魔獣の乳とコッコという鳥型の魔鳥の卵を取り出し、鍋にンモーモーの乳を軽く沸騰するまで弱火で火にかけ、そのンモーモーの乳を砂糖とコッコの卵を混ぜた中に入れ、混ぜる。混ぜるだけなら、泡立て器に魔力を纏わし一定の動きをさせておけばいい。

 その間に昨日倒した氷狼竜の鱗を一枚取り出す····流石に一枚は大きすぎか、取り出そうとして、途中で一枚が私の背ほどの大きさがあるのではと気がついた。
 なので5セルセンチメートル四方程の大きさに割り、密閉した魔樹の木箱に入れてみる。この大きさで足りるか足りないかわからないけど、検証の為に水を入れてみる。マイナス18℃ぐらいなら2時間ぐらいで凍るはず。
 あ、これぐらい昨日の内にしておけばよかった。

 仕方がない、アイスの素は粗熱を取るために放置しておく。朝食を食べている間に冷めるだろう。後は冷凍庫(仮)の中にいれ、様子を見ながら撹拌すれば出来上がる。長くても5時間もすれば固まるだろう。



 朝食を食べ終わって、本当なら王都へ向うべきなのだけど、やっぱり外套が必要だと思うので作ってもらうことにした。
 しかし、今ある糸では足りなさそうなので、糸を紬ぐ。

 使ってしまった黒い糸と青い糸と赤い糸を補充するために、蜘蛛たちに頑張ってもらう。

 声に魔力を乗せ歌い、糸を撚り紬ぐ。時折り、冷凍庫(仮)のアイスを撹拌することも忘れない。

 しかし、何というかこの空間が心地よいと思ってしまう自分がいることに、内心苦虫を噛み潰したような心境になっている。

 糸を紬ぐ私の前には私の書庫から本を持ってきて読んでいる彼がいる。何も話さずただ居るだけだ。しかし、この空間に心地よさを感じてしまっている。

 今までなら私がこの様な事をしていれば、蜘蛛たちを忌避して排除しようとする者か、私の行為に興味を持ち話掛けてくる者か、糸に触れようとしてくる者が大半だった。
 糸に触れるのは本当に勘弁して欲しい。糸に別の魔力が混じると脆くなってしまうのだ。

 糸を紬ぎ終わって冷凍庫(仮)を確認してみるとアイスが冷え固まっていた。途中で幾度か空気を混ぜたので、程よい硬さになっている。
 水の方は2時間では完璧に氷にはなっていなかったので、少し温度が高かったのだろう。

 スプーンで掬ってアイスを口の中に含むと、程よい感じで舌の上での溶け、ミルクの甘さと砂糖の甘さがいい感じで広がっていく。成功だ。

 それを小さな器に盛り楊枝のような匙を付けて持っていく。
 定位置の長椅子に戻って行き、右手を掲げ、金色の陣を広げる。そこからふわりと金色の髪が浮き出てきた。
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