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63 だってずるいじゃないですか
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「ハルド、いる?」
救護所の入り口から声をかける。今は治療を行っているものは少なく、本当に重症の者の治療を行っているぐらいだった。
「なんだ?」
血まみれの白衣から着替えて真っ白な白衣を着た、やる気のなさそうな男がこちらにやってきた。
「上位種と戦えるけど、まだ治療が終わっていない人はいる?」
「いや、今はいない。用はそれだけか?」
「いいえ。30分後に前線に向かうから準備をしておいて、その30分後に上位種の襲撃が予想されている。多分、あの時と同じか、それ以上の魔物襲撃が考えられる」
「あの時か。それはこちらとしても準備をしておかないとな。おい!誰か前線にいるサーシャに今のことを伝えておけ」
そう命令して、ハルドは真っ白な白衣をひるがえして奥へと戻っていった。代わりにこちらに近づいて来るものがいる。タッタッタッと軽快な足音をさせながら、駆けてくる女性だ。ポニーテールにしている金髪が左右に揺れながら私の前に駆けてきた。
「リーゼ様!お疲れ様ですぅ。お食事を用意しましたので、休憩されませんかぁ?」
私をキラキラした青い目で見てくるのはユエだ。最初は泣きながら治療をしていた少女だったのに、2年前には部下も増えて立派な衛生隊の班長を勤めていた。
「そうね。少しいただくわ」
「やったぁ!皆で食べましょう!みんなで食べると美味しさ倍増ですぅ」
ん?隣の魔王様は皆と一緒では食べれないな。斜め上を見上げて見る。
「俺はいいから、アリアの好きにするといい」
まぁ、聖女様一行を北門で待ち伏せしていたときにも、軽く食べていたので、そこまではお腹は空いてはいない。これはユエの私を休まそうとしている好意なのだから、受け取らなければならない。
「さぁさぁ、どうぞこちらですぅ」
通された建物は多分食堂にと設置されたのだろう。多くの長いテーブルと沢山の椅子があり、食事を取っている者達であふれかえっていた。それも、そこに座っている人達は顔見知りばかりだ。これはなに?思わず首を傾げてしまう。
「リーゼ様。あまり時間がありませんが、朝食にしましょう」
甲冑を着てはいるが、兜を外したレイラがいた。声は聞いていたが2年ぶりにその姿を見た。オレンジの髪を一つにまとめ、緋色の目が私を見ている。
「レイラ、これは何?」
「だってずるいじゃないですか。閣下と副長と仲良く食事をしたのですよね。私も私もリーゼ様と一緒に食事がしたかったので、ギルスを脅し······お願いして視てもらったのです」
ギルスを脅したと。奥の方に見える狐のお面の人物を見ると頭を下げられた。
「はいはい、食べましょう」
そう言いながらユエが食事をトレイに乗せて運んで来てくれた。テーブルの上にトレイを2つ置かれ、座るように促される。
「座ってくださいねぇ」
私の前にレイラが座り、斜め前にユエが座った。食べていた途中だったのだろう。半分ほど減っている食事の続きを食べ始めていた。時間が無いのは皆同じだ。
私のトレイの上には多分私専用に作られたのであろう紅茶とカットフルーツとクッキーが置かれていた。戦闘中は糖分の方がいいと言っていた私の要望だ。覚えていてくれていたのだろう。隣の彼のトレイには皆を同じ様なパンとスープと焼いた肉が乗せられていた。
私はフォークを手に取り、フルーツを刺して口にする。リンゴの食感にいちごの味のする果物だ。初めて食べた時は頭がパニックになった。時々そういう事に遭遇するのは、前世の記憶があることで起こる障害だ。
「アリア、ギルスというものに見てもらったとはどういう事だ?」
ん?先程のレイラの言葉か。
「ギルスの魔眼石は使いようによっては近い未来を見ることができる。今回、私がここに戻ってくるタイミングを視てもらって皆で待ち構えていたのじゃないのかな?」
「そのとおりですぅ。イオブライ隊長が自慢していたのを聞いたフォーデリア副隊長が、ギルスくんを脅して視てもらったのですぅ」
ユエが答えてくれた。その横でレイラはニコニコとしながら、食事を終えて紅茶を飲んでいる。
「ふふふ、後でサーシャに自慢しよう。リーゼ様と食事を一緒にしたって」
レイラはそんな事を言いながら笑っている。後で、喧嘩にならないといいけど。
「それならギルスと言うやつに、この戦いの未来を視てもらうのは駄目なのか?」
確かにギルスなら頼めば視てはくれるだろう。だけど·····
「私は個人的にそういう事は好きじゃない。未来は不確定なもの、それに頼り切るのは危険過ぎる」
それに、未来を視る者からしたら、口にするその言葉はとても重いものだ。その言葉に多くの人の命がかかっているのだ。私は今まで沢山苦しんだギルスにその様な重荷を背負わせたくはない。
「未来は不確定なものか。絶対的な未来などありはしないな」
隣の彼の声が私の耳に、心に響いた。絶対的な未来などない、か。だが、私には確定された未来は存在する。私の未来は·······
救護所の入り口から声をかける。今は治療を行っているものは少なく、本当に重症の者の治療を行っているぐらいだった。
「なんだ?」
血まみれの白衣から着替えて真っ白な白衣を着た、やる気のなさそうな男がこちらにやってきた。
「上位種と戦えるけど、まだ治療が終わっていない人はいる?」
「いや、今はいない。用はそれだけか?」
「いいえ。30分後に前線に向かうから準備をしておいて、その30分後に上位種の襲撃が予想されている。多分、あの時と同じか、それ以上の魔物襲撃が考えられる」
「あの時か。それはこちらとしても準備をしておかないとな。おい!誰か前線にいるサーシャに今のことを伝えておけ」
そう命令して、ハルドは真っ白な白衣をひるがえして奥へと戻っていった。代わりにこちらに近づいて来るものがいる。タッタッタッと軽快な足音をさせながら、駆けてくる女性だ。ポニーテールにしている金髪が左右に揺れながら私の前に駆けてきた。
「リーゼ様!お疲れ様ですぅ。お食事を用意しましたので、休憩されませんかぁ?」
私をキラキラした青い目で見てくるのはユエだ。最初は泣きながら治療をしていた少女だったのに、2年前には部下も増えて立派な衛生隊の班長を勤めていた。
「そうね。少しいただくわ」
「やったぁ!皆で食べましょう!みんなで食べると美味しさ倍増ですぅ」
ん?隣の魔王様は皆と一緒では食べれないな。斜め上を見上げて見る。
「俺はいいから、アリアの好きにするといい」
まぁ、聖女様一行を北門で待ち伏せしていたときにも、軽く食べていたので、そこまではお腹は空いてはいない。これはユエの私を休まそうとしている好意なのだから、受け取らなければならない。
「さぁさぁ、どうぞこちらですぅ」
通された建物は多分食堂にと設置されたのだろう。多くの長いテーブルと沢山の椅子があり、食事を取っている者達であふれかえっていた。それも、そこに座っている人達は顔見知りばかりだ。これはなに?思わず首を傾げてしまう。
「リーゼ様。あまり時間がありませんが、朝食にしましょう」
甲冑を着てはいるが、兜を外したレイラがいた。声は聞いていたが2年ぶりにその姿を見た。オレンジの髪を一つにまとめ、緋色の目が私を見ている。
「レイラ、これは何?」
「だってずるいじゃないですか。閣下と副長と仲良く食事をしたのですよね。私も私もリーゼ様と一緒に食事がしたかったので、ギルスを脅し······お願いして視てもらったのです」
ギルスを脅したと。奥の方に見える狐のお面の人物を見ると頭を下げられた。
「はいはい、食べましょう」
そう言いながらユエが食事をトレイに乗せて運んで来てくれた。テーブルの上にトレイを2つ置かれ、座るように促される。
「座ってくださいねぇ」
私の前にレイラが座り、斜め前にユエが座った。食べていた途中だったのだろう。半分ほど減っている食事の続きを食べ始めていた。時間が無いのは皆同じだ。
私のトレイの上には多分私専用に作られたのであろう紅茶とカットフルーツとクッキーが置かれていた。戦闘中は糖分の方がいいと言っていた私の要望だ。覚えていてくれていたのだろう。隣の彼のトレイには皆を同じ様なパンとスープと焼いた肉が乗せられていた。
私はフォークを手に取り、フルーツを刺して口にする。リンゴの食感にいちごの味のする果物だ。初めて食べた時は頭がパニックになった。時々そういう事に遭遇するのは、前世の記憶があることで起こる障害だ。
「アリア、ギルスというものに見てもらったとはどういう事だ?」
ん?先程のレイラの言葉か。
「ギルスの魔眼石は使いようによっては近い未来を見ることができる。今回、私がここに戻ってくるタイミングを視てもらって皆で待ち構えていたのじゃないのかな?」
「そのとおりですぅ。イオブライ隊長が自慢していたのを聞いたフォーデリア副隊長が、ギルスくんを脅して視てもらったのですぅ」
ユエが答えてくれた。その横でレイラはニコニコとしながら、食事を終えて紅茶を飲んでいる。
「ふふふ、後でサーシャに自慢しよう。リーゼ様と食事を一緒にしたって」
レイラはそんな事を言いながら笑っている。後で、喧嘩にならないといいけど。
「それならギルスと言うやつに、この戦いの未来を視てもらうのは駄目なのか?」
確かにギルスなら頼めば視てはくれるだろう。だけど·····
「私は個人的にそういう事は好きじゃない。未来は不確定なもの、それに頼り切るのは危険過ぎる」
それに、未来を視る者からしたら、口にするその言葉はとても重いものだ。その言葉に多くの人の命がかかっているのだ。私は今まで沢山苦しんだギルスにその様な重荷を背負わせたくはない。
「未来は不確定なものか。絶対的な未来などありはしないな」
隣の彼の声が私の耳に、心に響いた。絶対的な未来などない、か。だが、私には確定された未来は存在する。私の未来は·······
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